2025年1月12日日曜日

【書評】オードリー・タン 私はこう思考する

 新型コロナウイルスの感染拡大時、我が国では感染防止のためにマスクを求めて全国の薬局や薬店に長蛇の列ができました。一方、台湾ではデジタル担当大臣のオードリー・タンが開発した『マスクマップ』が国民に提供され、薬局でのマスク在庫をリアルタイムで確認できる画期的なツールとして大きな注目を集めました。

そんな現代のデジタル社会をリードするオードリー・タンが、自身の思考法と未来へのビジョンを語る一冊「オードリー・タン 私はこう思考する」が発刊されました。

まず、オードリー・タンはDXについて次のように語ります。


本当のDXとは、デジタルツールを生かした業務フローによって、時間や場所や想像力の制限を取り払うことを意味する。誰でも自由に、無駄な時間を使わず、低リスクで仕事ができるようになるのが理想だ。
(引用)オードリー・タン 私はこう思考する、語りオードリー・タン、出版社:株式会社かんき出版 出版年: 2024年、255


私は、このオードリーのDX導入に対する姿勢に感銘を受けました。オードリーの根底には、彼女自身が提唱する『共好(ゴンハオ)』の概念があります。競争ではなく、互いに助け合いながら成長するという考え方は、現代社会、そして彼女が手掛ける近未来、特にDXの構築において非常に重要だと感じました。DXというと、「単にデジタルツールを使っている」というふうに解釈してしまう方も多いのではないでしょうか。しかし、オードリーの根底にある「共好」という概念のもと、DXはデジタルツールを生かした業務フローによって、時間や場所や想像力の制限を取り払うことを意味しているのです。この発想は、ワークライフバランスの実践、多様なコミュニティによる政策実現など、まさに台湾政府が進めている次世代の社会を構築することを目的としているのだと感じました。


そのほか、本書では、1980年代にイタリア人のフランチェスコ・シリロによって考案された時間管理術「ポモドーロ・テクニック」やオードリーが提唱する「大まかな合意を得る」ためにカナダで開発された焦点討論法(ORID)と呼ばれる会議法、さらに眠る前の過ごし方で睡眠記憶を高める方法など、私たちの実生活にヒントを与えてくれる内容も多く紹介されています。

今や我が国においても終身雇用制が崩れつつあり、一人ひとりが多様なコミュニティに属して自己実現する時代が到来しています。オードリーは、本書の中で「未来の働き方」に触れ、「本業以外のコミュニティに20%の時間を使おう」と提案しています。そのことでオードリーは、少しずつ新たな人脈や専門的知識が得られ、最も興味のある分野への探求を深め、自分の価値を高めることができるとしています。

本書では、Society5.0の時代を迎え、新たな働き方、新たなライフスタイル、そして新たな自己実現の方法を教えてくれます。IQ180以上とも言われるオードリーの世界は、私たちに新たな視点とインスピレーションを与えてくれるもので、特に次世代を担う若者たちの教科書的存在になるものだと思いました。


オードリー・タンについて

8歳から独学でプログラミングを学び始め、19歳でシリコンバレーでソフトウェア会社を起業した天才プログラマー。彼女は24歳でトランスジェンダーであることを公表し、性別移行を開始。2016年には台湾政府のデジタル担当大臣に就任し、デジタル技術を活用した政策を推進し、2024年からは無任所大使(無給の名誉職)に任命されています(原稿執筆現在)。