SDMとは、一言で言うと「システムズエンジニアリング」と「デザイン思考」を融合した学問です。科学技術領域も、社会領域も、人間領域も、「全体統合されたシステム」という視座でとらえ、解決を図っていくのが特徴です。
(引用)慶応義塾大学 大学院 SDM伝説の講義 企業経営と生命のシステムに学ぶデザインとマネジメント、著者:吉田篤生、発行:日経BP、発売:日経マーケティング、2020年、12
この本は、税理士であり、元慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)特別招聘教授の吉田篤生氏によって著された。
まず、個人的に私が面白いと感じたのは、曼荼羅を由来とする問題解決のツールである「マンダラチャート」の紹介だ。マンダラチャートは、縦3マス、横3マスを組み合わせたチャート。中心のマスにあるキーワードを据え、その周囲に関係するキーワードを配置し、その周囲に配置したキーワードを中心にしたマスを作り、またそれに関係するキーワードを周囲に配置するということで深堀りしていく手法(同書、20)だ。このマンダラチャートを見て、私は、あの大谷翔平を思い出した。大谷翔平も高校1年生のときにマンダラチャートを用いた目標を立てたという。本書には、吉田氏が作成した「国家マンダラ」なるものが掲載されており、よく出来ていると感動した。マンダラチャートは作成してみると分かるが、全体を俯瞰して見ることができ、細部を虫の目で見ることが可能となる。また、中心に据えたキーワードと取り巻くキーワードを確認することにより、MECE(漏れなく・ダブりなく)の観点からも有効であると感じた。
本書には、ゲストスピーカーをお呼びして、講義さながらの雰囲気を味わうことができる。東京で日本酒を製造している株式会社豊島屋本店の吉村俊之社長からは「不易流行」に基づく老舗のビジネスモデルを紹介していただいている。また、西島株式会社の西村豊社長からは、定年制を廃止するなど従業員にも優しい経営を実践する方法を紹介する。この二人のお話は、近江商人の三方良しを実践するなど、まさに冒頭記した科学技術領域も、社会領域も、人間領域も、「全体統合されたシステム」という視座で捉えた経営であると感じた。その二人の話を伺い、私は、稲盛和夫氏の言葉を思い出した。「自分を犠牲にしても他の人を助けよう」とする利他の心を判断基準にし、周りの人たちのことを考え、思いやりに満ちた事業活動を進めていく。まさに、京セラを一代で築き、JALを再建させた偉大な経営者である稲盛氏もSDMの考えを実践しているのだと感じた。
そのほか、本書では、経営危機に陥った企業との闘いも紹介している。先代の社長から事業承継し、大幅な債務超過を相続した若き社長の奮闘だ。税理士でもある著者の吉田氏が若き社長とタッグを組み、借入金返済を迫る金融機関に挑みながら返済していく姿は、従業員や会社を守るという必死さに感動を覚えた。確か、世界で最も進んでいる電子政府国家と言われるエストニアでは、税理士がいなくなった国と言われる。しかし、実際は、エストニアでも税理士や会計士は存在するという。税理士である吉田氏のようなSDMを実践して課題解決を図る会計業務コンサルは、AIが進化してもなくなることはないのだと感じた。それは、SDMが人間に主軸を置き、金融機関と折衝することなどは、科学技術の進展のみで解決できない領域を含んでいるからだと思った。
本書を読み、一番心に残ったのは、複式簿記の原型を作ったルカ・パチョーリの言葉だ。パチョーリは、帳簿のバランス合計に「神の賛美と栄光のために」と記すことを勧めたという(同書、181)。
普段、私達は、目の前の仕事に追われ、周りが見えないことがある。課題に直面しても、「なぜ起こったのだろう」と、そのことばかり考えてしまっていないだろうか。物事は、宇宙や自然の摂理に則り、繰り返す歴史の流れの中で、科学技術、社会に貢献しながら周りの人たちを幸せにしていく。その解決方法が最も最適解であり、地域や事業を継続していく秘訣であると感じた。そのため、私は、その根幹となる学問がSDMであると思った。
吉田氏によれば、現在、500年に一度の大転換期が訪れ、我が国は、世界が調和し協調するという方向性に貢献できると確信していると言われる。いま、私は一人ひとりがSDMの実践を求められていると思った。
2020年7月24日金曜日
2020年7月18日土曜日
これからの公共政策学 政策と地域
委託化を推進していく際には、恐らくは現業職員から何らかの反応があると思われるが、彼らからの提案が現業職員の強みを生かして住民サービスを向上させていく新たな政策や施策への提言であるならば、柔軟に対応していくことが求められよう。
(引用) これからの公共政策学④ 政策と地域、監修者:佐野亘・山谷清志、編著者:焦従勉・藤井誠一郎、発行所:株式会社ミネルヴァ書房、2020年、162
2020年、ミネルヴァ書房による「これからの公共政策学」シリーズ(全7シリーズの予定)のうち、まず、トップバッターとして「政策と地域」が刊行された。
この「政策と地域」では、防災政策、消防行政、医療政策、多文化共生政策、町並み保存政策、現業現場の委託化政策、エネルギー政策など、「政策」が作用する現場となる「地域」という関係性を念頭に置いて、豊富な事例とともに論じられている。
防災政策では、2013年の災害対策基本法の改正によって追加された「地区防災計画制度」について、神戸市真陽区の取り組みを事例として論じている。
つい先日も「令和2年7月豪雨」が熊本県を中心に襲った。甚大な被害を受けた人吉市では、市長が防災無線で垂直避難等を呼びかけたが、むなしくも大雨の音で掻き消された。また、防災無線といえば、私は、3.11の東日本大震災を思い出す。南三陸町の防災庁舎に残り、最後まで高台避難を呼びかけた遠藤未希さん。町民を救おうと懸命に声を発したが、自分自身が巨大な津波の犠牲になられてしまった。
行政職員は、災害後の復旧、復興を見据える意味でも貴重な存在である。いかに職員が犠牲にならず、住民が迫りくる災害の危機をいち早く知り、迅速に避難行動を起こすかについては、まず、各地域における自助、そして共助の体制を整えておく必要があると改めて感じた。それは、同じ3.11のとき、日頃の津波教育から自主的に子どもたちが避難し、99.8%の小中学生が助かった「釜石の奇跡」を思い出す。そのためには、今後の南海トラフ地震の発生が懸念される神戸市真陽区の取り組みは、住民が自主的に避難しやすいような防災マップを作成しているところから、有効であると感じた。
また、本書を読み、私が面白いと感じたのは、冒頭にも記した清掃事業の委託化政策である。現在、各自治体は、行政改革の一環として、アウトソーシングをすすめる。本書においても、「ごみ収集、学校給食、学校用務事務等に従事する現業職は委託化の対象とされ(同書、143)」との記述があり、民間事業者による新たな行政サービスとコスト削減について論じている。
その中で、八王子市の清掃事業の取り組みが面白い。全国的な委託化政策が展開され、職を失う現業職員が多く出ている状況の中で、八王子市職員組合は、自ら生き残るために、現業職の仕事に「付加価値」をつけることに成功した。
具体的には、ごみの有料化と個別収集を行うことについて市民アンケートをしたり、制度変更の説明を市民に直接行ったりして、「脱・単純労務職」という方向性を見出した。
民営化への流れは、誰のせいにしても始まらない。現業職員も危機感があれば、生き残るためには「自ら変わろう」とする。いままでの仕事に付加価値がつけば、引き続き行政職員も現業職員を雇用する説明責任が果たせることになるだろう。どの自治体の現業職員も今までの実績を強みとし、行政と協力しながら付加価値を見出し、顧客である住民に対して行政サービスを向上させていかなければならないと感じた。
地域があり、その地域を持続可能とするために政策がある。本書では、地域の持続可能性とは、3つの"e"、すなわちeconomy(経済)、ecology(環境)とequity(社会的公正)を意味する(同書、2)としている。これら3つの側面が折り重なり、持続可能な社会を構築していくためには、まず、住民の力を無視してはいけないと感じた。
公務員、そして公務員を目指すかたたちへ、本書をおすすめしたい。
(引用) これからの公共政策学④ 政策と地域、監修者:佐野亘・山谷清志、編著者:焦従勉・藤井誠一郎、発行所:株式会社ミネルヴァ書房、2020年、162
2020年、ミネルヴァ書房による「これからの公共政策学」シリーズ(全7シリーズの予定)のうち、まず、トップバッターとして「政策と地域」が刊行された。
この「政策と地域」では、防災政策、消防行政、医療政策、多文化共生政策、町並み保存政策、現業現場の委託化政策、エネルギー政策など、「政策」が作用する現場となる「地域」という関係性を念頭に置いて、豊富な事例とともに論じられている。
防災政策では、2013年の災害対策基本法の改正によって追加された「地区防災計画制度」について、神戸市真陽区の取り組みを事例として論じている。
つい先日も「令和2年7月豪雨」が熊本県を中心に襲った。甚大な被害を受けた人吉市では、市長が防災無線で垂直避難等を呼びかけたが、むなしくも大雨の音で掻き消された。また、防災無線といえば、私は、3.11の東日本大震災を思い出す。南三陸町の防災庁舎に残り、最後まで高台避難を呼びかけた遠藤未希さん。町民を救おうと懸命に声を発したが、自分自身が巨大な津波の犠牲になられてしまった。
行政職員は、災害後の復旧、復興を見据える意味でも貴重な存在である。いかに職員が犠牲にならず、住民が迫りくる災害の危機をいち早く知り、迅速に避難行動を起こすかについては、まず、各地域における自助、そして共助の体制を整えておく必要があると改めて感じた。それは、同じ3.11のとき、日頃の津波教育から自主的に子どもたちが避難し、99.8%の小中学生が助かった「釜石の奇跡」を思い出す。そのためには、今後の南海トラフ地震の発生が懸念される神戸市真陽区の取り組みは、住民が自主的に避難しやすいような防災マップを作成しているところから、有効であると感じた。
また、本書を読み、私が面白いと感じたのは、冒頭にも記した清掃事業の委託化政策である。現在、各自治体は、行政改革の一環として、アウトソーシングをすすめる。本書においても、「ごみ収集、学校給食、学校用務事務等に従事する現業職は委託化の対象とされ(同書、143)」との記述があり、民間事業者による新たな行政サービスとコスト削減について論じている。
その中で、八王子市の清掃事業の取り組みが面白い。全国的な委託化政策が展開され、職を失う現業職員が多く出ている状況の中で、八王子市職員組合は、自ら生き残るために、現業職の仕事に「付加価値」をつけることに成功した。
具体的には、ごみの有料化と個別収集を行うことについて市民アンケートをしたり、制度変更の説明を市民に直接行ったりして、「脱・単純労務職」という方向性を見出した。
民営化への流れは、誰のせいにしても始まらない。現業職員も危機感があれば、生き残るためには「自ら変わろう」とする。いままでの仕事に付加価値がつけば、引き続き行政職員も現業職員を雇用する説明責任が果たせることになるだろう。どの自治体の現業職員も今までの実績を強みとし、行政と協力しながら付加価値を見出し、顧客である住民に対して行政サービスを向上させていかなければならないと感じた。
地域があり、その地域を持続可能とするために政策がある。本書では、地域の持続可能性とは、3つの"e"、すなわちeconomy(経済)、ecology(環境)とequity(社会的公正)を意味する(同書、2)としている。これら3つの側面が折り重なり、持続可能な社会を構築していくためには、まず、住民の力を無視してはいけないと感じた。
公務員、そして公務員を目指すかたたちへ、本書をおすすめしたい。
2020年7月12日日曜日
流山市のマーケティング戦略
「これは特別の取組みではありません(KSF)。大事なのは何(WHAT)を実施したかではありません。常に市民起点で、どのよう(HOW)に考え、どのよう(HOW)に計画し、どのよう(HOW)に実施し、どのよう(HOW)に市民のための成果をあげたかです」
流山市長 井崎義治
(引用)こうして流山市は人口増を実現している、著者:淡路富男、発行所:株式会社同友館、2018年、190
先日、たまたまバラエティ番組を見ていたら、女性芸人が首都圏で自分の一戸建てを建てる場所を探していた。そのとき、不動産の専門家は、「千葉県流山市がオススメ」と言っていた。首都圏から近く、自治体経営状況も良好で、子育て世代が増加していることで不動産価格も維持されやすいことが理由であった。
そのテレビを見て、私は一冊の本が頭に浮かんだ。それは、淡路富男氏によって著された「こうして流山市は人口増を実現している(同友館)」である。流山市は、井崎市長のリーダーシップにより、公的機関にマーケティング手法を取り入れ、戦略的に子育て世代の増加を実現してきた。
よくシティプロモーションという言葉を聞く。シティプロモーションとは、一般的に地方自治体が行う「宣伝・広報・営業活動」のことを指す。地域ブランドを構築するため、各自治体は、シティプロモーションに取り組む。しかし、流山市においては、人口減少時代を生き抜く4つの条件のうち、その一つに「ブランディング戦略」の推進を位置づける。本書を読み、流山市は、マーケティング手法を用い、若い世代が住みやすいというブランディングを推進するだけでなく、総合計画に具体的な施策を位置づけるなど、市が一丸となっているところに強みがあると感じた。それは、表面的なブランデイング戦略に終わらない、”未来の流山市民”を意識した施策展開であると感じたからだ。
若い夫婦層を”未来の流山市民”として、ターゲティングを絞り、共働き夫婦でも子育てしやすいまちをつくる。流山市は、豊かな自然を残し、首都圏に近いという立地にも恵まれているが、柏市、松戸市といった中核都市に隣接している。その”難敵”がひしめく中、”未来の流山市民”に住んでもらうためには、井崎市長も相当の覚悟をもって市政運営に臨んだことであろう。
マーケティングの神様、フィリップ・コトラーは、「公共機関は、その使命や問題解決、成果に対して、もっと意識的にマーケティングに取り組み、その発想を取り入れればより大きなメリットを期待できる(引用:同書、180)」と言われる。全国でいち早くマーケティング課を設置した流山市の事例は、まさに全国自治体の先駆的な取り組みと言えるだろう。
都内各駅には「母になるなら、流山市。」とのキャッチコピーによる大型ポスターが貼られているという。そのキャッチコピーを見て、流山市に移住しようとする”未来の流山市民”を裏切らない形で、流山市は、「駅前送迎保育ステーション」などの施策を展開してきた。その結果、流山市のマーケティング戦略は、人口増という目的を達成するだけではなく、副次的に不動産の魅力も高めてきた。私もリノベーションに携わっている方と話をしたことがある。そのときに「不動産のエリア価値を高めることが重要」と力説していたことを思い出した。不動産価値が高まることは、それだけ需要があり、まちの魅力が高いと言えるからだと思う。
住民にとって、何が魅力のまちであるのか。また、今後、どのようなかたに住んでもらいたいのか。牽いては、私たちのまちは、これからも魅力あるものになりつづけているのだろうか。
その解を求めるべく、私は、公共機関にもマーケティング手法を導入することは、極めて有効だと思うに至った。
流山市長 井崎義治
(引用)こうして流山市は人口増を実現している、著者:淡路富男、発行所:株式会社同友館、2018年、190
先日、たまたまバラエティ番組を見ていたら、女性芸人が首都圏で自分の一戸建てを建てる場所を探していた。そのとき、不動産の専門家は、「千葉県流山市がオススメ」と言っていた。首都圏から近く、自治体経営状況も良好で、子育て世代が増加していることで不動産価格も維持されやすいことが理由であった。
そのテレビを見て、私は一冊の本が頭に浮かんだ。それは、淡路富男氏によって著された「こうして流山市は人口増を実現している(同友館)」である。流山市は、井崎市長のリーダーシップにより、公的機関にマーケティング手法を取り入れ、戦略的に子育て世代の増加を実現してきた。
よくシティプロモーションという言葉を聞く。シティプロモーションとは、一般的に地方自治体が行う「宣伝・広報・営業活動」のことを指す。地域ブランドを構築するため、各自治体は、シティプロモーションに取り組む。しかし、流山市においては、人口減少時代を生き抜く4つの条件のうち、その一つに「ブランディング戦略」の推進を位置づける。本書を読み、流山市は、マーケティング手法を用い、若い世代が住みやすいというブランディングを推進するだけでなく、総合計画に具体的な施策を位置づけるなど、市が一丸となっているところに強みがあると感じた。それは、表面的なブランデイング戦略に終わらない、”未来の流山市民”を意識した施策展開であると感じたからだ。
若い夫婦層を”未来の流山市民”として、ターゲティングを絞り、共働き夫婦でも子育てしやすいまちをつくる。流山市は、豊かな自然を残し、首都圏に近いという立地にも恵まれているが、柏市、松戸市といった中核都市に隣接している。その”難敵”がひしめく中、”未来の流山市民”に住んでもらうためには、井崎市長も相当の覚悟をもって市政運営に臨んだことであろう。
マーケティングの神様、フィリップ・コトラーは、「公共機関は、その使命や問題解決、成果に対して、もっと意識的にマーケティングに取り組み、その発想を取り入れればより大きなメリットを期待できる(引用:同書、180)」と言われる。全国でいち早くマーケティング課を設置した流山市の事例は、まさに全国自治体の先駆的な取り組みと言えるだろう。
都内各駅には「母になるなら、流山市。」とのキャッチコピーによる大型ポスターが貼られているという。そのキャッチコピーを見て、流山市に移住しようとする”未来の流山市民”を裏切らない形で、流山市は、「駅前送迎保育ステーション」などの施策を展開してきた。その結果、流山市のマーケティング戦略は、人口増という目的を達成するだけではなく、副次的に不動産の魅力も高めてきた。私もリノベーションに携わっている方と話をしたことがある。そのときに「不動産のエリア価値を高めることが重要」と力説していたことを思い出した。不動産価値が高まることは、それだけ需要があり、まちの魅力が高いと言えるからだと思う。
住民にとって、何が魅力のまちであるのか。また、今後、どのようなかたに住んでもらいたいのか。牽いては、私たちのまちは、これからも魅力あるものになりつづけているのだろうか。
その解を求めるべく、私は、公共機関にもマーケティング手法を導入することは、極めて有効だと思うに至った。
2020年7月6日月曜日
人口減少社会のデザイン
人がどう住み、どのようなまちや地域を作り、またどのような公共政策や社会システムづくりを進めるかという、政策選択や社会構想の問題なのだ。それがまさに「人口減少社会のデザイン」というテーマである。
(引用)人口減少社会のデザイン、著者:広井良典、発行所:東洋経済新報社、2019年、31
近年、「持続可能」という言葉をよく聞く。
代表的なのは、2015年に国連で採択されたSDGsであろう。SDGsは、持続可能な開発目標の略称であり、17の目標、169のターゲット(具体目標)で構成されている。SDGsには、「貧困をなくそう」、「すべての人に健康と福祉を」、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」など、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標が掲げられている。
なぜ、今、「持続可能」なのか。
世界に目を向ければ、貧困、ジェンダー不平等、地球温暖化など、人類が解決しなければならない課題が山積している。
また、我が国で「持続可能」と言われれば、「少子化」という課題が頭によぎる。
このたびの広井氏によって著された「人口減少社会のデザイン」は、我が国の人口減少に焦点を絞り、「持続可能な福祉社会」モデルを探るものである。
広井氏は、豊富なバックデータを武器に、日本の少子化の現状、そして世界における日本の立ち位置などを解説する。
そのデータの中で気になったのは、「社会的孤立」の国際比較だ。社会的孤立とは、家族などの集団を超えたつながりや交流がどのくらいあるかに関する度合いのことだ。残念ながら、日本は先進諸国の中で、社会的孤立度がもっとも高い国ないし社会になっているとのことだ。
社会的孤立度が高いということは、様々な影響を及ぼす。
少子化という観点で言えば、まず真っ先に思い浮かぶのは、婚姻であろう。
若者の価値観が多様化する中で、我が国も未婚化、晩婚化が進む。
広井氏によれば、先進国において出生率が比較的高いのは、
①子育てや若者に関する公的支援
②伝統的な性別役割分担にとらわれない個人主義的志向
であると言われる。
これらの項目は、公的機関などが施策を立案する際、社会的背景としてなんとなく意識していたことではないだろうか。ただ、広井氏によるエビデンスで少子化の要因やその解消法が明らかになった以上、我が国や公的機関は、意図して施策を展開しなければならないと感じた。
また、少子化が進展する中で、よく話題にのぼるのがコンパクトシティである。
広井氏は、本書にてそこまで触れていないが、現北海道知事の鈴木直道氏は、財政破綻を経験した夕張市長時代にコンパクトシティを進めた。また、国においても立地適正化制度を導入し、「コンパクト・プラス・ネットワーク」の考えも示している。
一方で、都市集約とはかけ離れた岐阜県郡上市石徹白(いとしろ)地区の取り組みが面白い。本書でも紹介されているNPO法人 地域再生機構は、石徹白地区で小水力発電を軸として地域活性化を試みている。私も石徹白地区のことをホームページなどで調べてみたが、現在の小水力発電は、集落に暮らす270人を補って余りある量があるという。そのため、移住者も増え、特産品なども誕生し、自給自足、地産地消を実践する集落だ。
地域再生機構副理事長の平野彰秀さんは、「地域で自然エネルギーに取り組むということは、地域の自治やコミュニティの力を取り戻すことであると、私どもは考えております(同書、129)」と言われる。
石徹白地区の事例は、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を取り組んだら、SDGsが掲げる「経済」「環境」「社会」という3つの側面を達成した好事例であると思った。そして、冒頭、広井氏の言葉を引用をしたが、人口減少の時代において、人がどのように住み、どのようなまちを作っていくかは、その施策が「持続可能であるか」と問うところから始めなければならないと感じた。
本書は、社会保障、医療、そして超高齢化時代の死生観に至るまで、興味深い内容が続く。また、本書の巻末には、広井氏が提起してきた主要な論点を列記している。これらの論点は、今後の自分たちの地域、そして日本を「持続可能」なものにしていくために有効であると思った。
いますぐ、誰もが「持続可能」な取り組みを求められている。そのヒントとなるのが、「人口減少社会のデザイン」であろう。
これからもずっと、私たちが愛してやまない故郷や国で暮らす人々が豊かで幸福でありつづけるために。
代表的なのは、2015年に国連で採択されたSDGsであろう。SDGsは、持続可能な開発目標の略称であり、17の目標、169のターゲット(具体目標)で構成されている。SDGsには、「貧困をなくそう」、「すべての人に健康と福祉を」、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」など、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標が掲げられている。
なぜ、今、「持続可能」なのか。
世界に目を向ければ、貧困、ジェンダー不平等、地球温暖化など、人類が解決しなければならない課題が山積している。
また、我が国で「持続可能」と言われれば、「少子化」という課題が頭によぎる。
このたびの広井氏によって著された「人口減少社会のデザイン」は、我が国の人口減少に焦点を絞り、「持続可能な福祉社会」モデルを探るものである。
広井氏は、豊富なバックデータを武器に、日本の少子化の現状、そして世界における日本の立ち位置などを解説する。
そのデータの中で気になったのは、「社会的孤立」の国際比較だ。社会的孤立とは、家族などの集団を超えたつながりや交流がどのくらいあるかに関する度合いのことだ。残念ながら、日本は先進諸国の中で、社会的孤立度がもっとも高い国ないし社会になっているとのことだ。
社会的孤立度が高いということは、様々な影響を及ぼす。
少子化という観点で言えば、まず真っ先に思い浮かぶのは、婚姻であろう。
若者の価値観が多様化する中で、我が国も未婚化、晩婚化が進む。
広井氏によれば、先進国において出生率が比較的高いのは、
①子育てや若者に関する公的支援
②伝統的な性別役割分担にとらわれない個人主義的志向
であると言われる。
これらの項目は、公的機関などが施策を立案する際、社会的背景としてなんとなく意識していたことではないだろうか。ただ、広井氏によるエビデンスで少子化の要因やその解消法が明らかになった以上、我が国や公的機関は、意図して施策を展開しなければならないと感じた。
また、少子化が進展する中で、よく話題にのぼるのがコンパクトシティである。
広井氏は、本書にてそこまで触れていないが、現北海道知事の鈴木直道氏は、財政破綻を経験した夕張市長時代にコンパクトシティを進めた。また、国においても立地適正化制度を導入し、「コンパクト・プラス・ネットワーク」の考えも示している。
一方で、都市集約とはかけ離れた岐阜県郡上市石徹白(いとしろ)地区の取り組みが面白い。本書でも紹介されているNPO法人 地域再生機構は、石徹白地区で小水力発電を軸として地域活性化を試みている。私も石徹白地区のことをホームページなどで調べてみたが、現在の小水力発電は、集落に暮らす270人を補って余りある量があるという。そのため、移住者も増え、特産品なども誕生し、自給自足、地産地消を実践する集落だ。
地域再生機構副理事長の平野彰秀さんは、「地域で自然エネルギーに取り組むということは、地域の自治やコミュニティの力を取り戻すことであると、私どもは考えております(同書、129)」と言われる。
石徹白地区の事例は、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を取り組んだら、SDGsが掲げる「経済」「環境」「社会」という3つの側面を達成した好事例であると思った。そして、冒頭、広井氏の言葉を引用をしたが、人口減少の時代において、人がどのように住み、どのようなまちを作っていくかは、その施策が「持続可能であるか」と問うところから始めなければならないと感じた。
本書は、社会保障、医療、そして超高齢化時代の死生観に至るまで、興味深い内容が続く。また、本書の巻末には、広井氏が提起してきた主要な論点を列記している。これらの論点は、今後の自分たちの地域、そして日本を「持続可能」なものにしていくために有効であると思った。
いますぐ、誰もが「持続可能」な取り組みを求められている。そのヒントとなるのが、「人口減少社会のデザイン」であろう。
これからもずっと、私たちが愛してやまない故郷や国で暮らす人々が豊かで幸福でありつづけるために。
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