2023年2月23日木曜日

マッキンゼーCEOエクセレンス 一流経営者の要件

 スティーブ・バルマーは、マイクロソフトCEOの座をサティア・ナデラへ譲り渡すときに次のように告げた。「大胆かつ正しくあれ、大胆でなければ、ここにいる間ほぼ何もできないだろう。正しくなければ、ここにはいられなくなるだろう」 
(引用)マッキンゼー CEOエクセレンス 一流経営者の要件、著者:キャロリン・デュワー、スコット・ケラー、ヴィクラム・マルホトラ、監訳者:マッキンゼー・アンド・カンパニージャパン、シニアパートナー・CEOエクセレンスグループ、訳者:尼丁千津子、発行所:株式会社 早川書房、2022年、60

書店で一冊の本に出会った。その名は、「CEOエクセレンス(早川書房)」だ。少し立ち読みをすると、本書は、「上場、非上場、非営利に関わらず、どんな組織のリーダーにとっても有用な指南書になる」と書かれている。私は、CEOではないが、かねてからリーダーシップの書籍を探していた。かつて私は、上司から「自分の役職より、1つか2つ上位の立場に立って行動をするといい」と聞かされていた。であれば、会社なり、非営利組織なりのトップは、何を考え、どのように行動すべきなのかということを知ること、また、トップのリーダーシップを身につけることは、管理職である我が身においても、一流の職場スキルを獲得することができる。しかも、世界3大戦略コンサルティングファームの一角と言われる米マッキンゼー・アンド・カンパニーの社員によって著されたものであれば、なおさらだ。本書では、ベストなCEOとして、ネットフリックスのリード・ヘイスティングス、マイクロソフトのサティア・ナデラをはじめ、日本からも資生堂の魚谷雅彦氏やソニーの平井一夫氏らが登場する。マッキンゼー・アンド・カンパニーは、これら超一流のCEOからヒアリングし、どのように果たすべき役割を引き出し、リーダーシップの真髄に迫っているのか。とても興味が湧き、早速拝読させていただくことにした。

本書では、CEOが果たすべき6つの責務について、触れられている。具体的には、①方向を定める、②組織を整合させる、③リーダーを動かす、④取締役会を引き入れる、⑤ステークホルダーと連携する、⑥自身のパフォーマンスを最大化するである。

私は、①の「方向を定める」から、本書の凄さに圧倒されてしまう。方向を定めるためには、3つの要素(ビジョン、戦略、リソース配分)が必要であるが、第1章の「ビジョン構築を昇華させるための行動習慣」から、ベストなCEOによる具体的なアドバイスが満載である。
特に役立ったのは、家電量販店ベスト・バイの前CEOユベール・ジョリーによる、正しい方向の決め方についての4つのアドバイス(本書、39)である。ビジョンの重要性を理解しても、具体的に、どう構築するかに戸惑うケースが多い。ジョリー氏によるアドバイスに基づけば、理想的なビジョン構築をすることが可能となる。

私の尊敬する京セラ創業者であり、JALを再生させた故稲盛和夫氏は、フィロソフィーを大切にし、社員に徹底的に浸透させた。第4章「企業文化を高めるための行動習慣」では、稲盛氏と同様の事例が紹介されている。例えば、KBCのヨハン・タイスは、「PEARL」と呼ばれる企業文化だ。具体的には、実行力(Performance)、権限移譲(Empowerment)、説明責任(Accountability)、対応の速さ(Responsiveness)、地域定着度(Local embeddedness)の頭文字を取ったものだ(本書、110)。私も多くの経営書を拝読してきたが、つまるところ、この「PEARL」に集約されるのではないと感じている。とりわけ、このPEARLのなかでも、地域定着度を見落としまうことが多いのではないだろうか。企業文化には、稲盛氏が大切にしてきた「利他の心」にもつながる、地域に定着し、他人の利益を最優先に考えることが何より大切であると考える。ヨハン・タイスによる「PEARL」は、まさに真珠のごとく、企業文化の輝きを増すものだと感じた。

また、自身がCEOでなくとも、第8章からの「チームワークを高める習慣」からも学ぶことが多い。管理職ともなれば、部下に仕事をお願いする立場になる。その際、GMのメアリー・バーラによる「今、何を変えるのかと、なぜそうする必要があるのか」を(部下に)わかってもらうというアドバイスは、とても重要だ(本書、182)。やはり、いま私たちが「どこ」へ向かい、そのために「なに」をしなければならないのかというのは、CEOなり、組織のリーダーである管理職の責務である。その責務をしっかり把握し、実際に動いてもらう部下に仕事の意義を説明しなければ、部下のモチベーションは上がらないし、成果もでてこない。また、先ほどのヨハン・タイスのPEARLの一構成要素として、「対応の速さ」があった。スピードは何事も大切であり、ICICIのK・V・カマートによる「何かをするのであれば90日以内に行う。そうできないのであれば、やらない」という「90日ルール」も役に立つ。

実際、私にも仕事上での経験がある。経営トップ層から、ある課題解決を言われていた。これは、自身の部署だけでは、解決できないものであった。私は、課題解決のため、他部署との協議を重ねた。しかし、他部署に考えてもらうところの返事が中々こないという事例があった。もちろん、私は、他部署のせいにすることもできたのだが、トップ層から指示を受けたのは、私たちである。結果、私たちは、そのプロジェクトの進行を大幅に遅らせてしまう事案があった。この90日ルールを聞いて、私は、どんな些細な仕事でもToDoリストに書き込み、期限が内容に見えても90日間で結論を出すようにしようと誓った。

本書では、マイクロソフトのサティア・ナデラからも学ぶことが多い。どうして、優秀なCEOは、こんなにも分かりやすく、しかも確固たる信念を持っているのだろう。例えば、ナデラは、「思考、言葉、行動」の一致が信用を得るという。これは、ヒトだけではなく、企業にも当てはまるという。ナデラのアドバイスは、本書に登場するどれも私にとって珠玉の言葉であった。一流のCEOたちは、短い言葉で、人々を導き、習慣や行動までを変えうる力を持っている。そう、思わずにはいられなかった。

本書は500ページ近くある。でも、私は、1週間もあれば、普通の書籍なら読破してしまうだろう。しかし、「マッキンゼー CEOエクセレンス」は違った。ページをめくるごとに、ベストなCEOたちが登場し、世界的なリーダーシップを身につけるべく、様々なアドバイスを惜しげもなく披露してくれている。もう、リーダーシップ関連の書籍は、この一冊で十分ではないかというぐらい、本書は、投資価値のあるものだ。

冒頭、「本書は、上場、非上場、非営利にかかわらず、どんな組織のリーダーにとっても有用な指南書になりうると考えている。」と紹介した。

まさに、そのとおりだと思う。

久しぶりに、何度も読み返したいという書籍に出会えた。

「大胆かつ正しくあれ。」

これからのトップリーダーたちに、ぜひ、本書を強くオススメしたい。

2023年2月12日日曜日

最高経営責任者(CEO)の経営観

 人間は誰もが自分の人生のCEOであり、CEOの経営観は、すべての個人・組織・社会に関係がある。
(引用)最高経営責任者(CEO)の経営観 夢・理想の未来を拓く実践的技術、著者:澤 拓磨、ダイヤモンド社、2022年、6


「最高経営責任者(CEO)の経営観 夢・理想の未来を拓く実践的技術(ダイヤモンド社、2022年)」は、株式会社TS&Co創業者兼代表取締役最高経営責任者(CEO)の澤拓磨氏によって著された。

 なぜ、CEOでもない私が本書に惹かれたのか。理由は、2点ある。

1点目は、私もこの歳(50歳)になってくると、TOPが何を考え、どのように経営しているかということを知っておく必要があるということ。

2点目は、リーダーシップやマネジメントについて、改めて“学びたい”とう思いに駆られたからである。

 著者の澤氏は、異色の経歴の持ち主だ。澤氏は、サッカーJ2の練習生としてプロサッカー界で生きていこうとされていたが、ある日、「大変残念だが選手契約をしない」と言われてしまい、突如、サッカー界を去ることになった。それから、経営への道を決断し、すでに15年の実践を積んできたという。

 本書を拝読し、まず私が驚かされたことは、澤氏による15年の会社経営で、ここまでの幅広い見識が得られるのかということである。澤氏は、グロービス経営大学院大学でMBAを取得されたとのことであるが、本書に書かれていることは、教科書どおりのことではない。

 例えば、澤氏は、2020年代以降の経営として、情報化の進展をあげる。澤氏の言われるとおり、情報化のメリットとしては、インプットの質向上や想像を超えたアウトプットが可能となる。しかし、興味深いことは、デメリットによるブラックスワン(領土紛争、テロ、パンデミックなど)の影響も重大であると指摘していることだ。現在、ロシアによるウクライナ侵攻においても、ニュースなどは、武力攻撃が取り出たされているが、一方では、ハッカーなどの情報戦争とも言われている。まさに、情報に対するリスクマネジメントでは、これからの経営で、より大きな課題となるであろう。

澤氏による経営観は、単に利潤追求にとどまらず、他の偉大な経営者と同様、科学・哲学・神学の礎が重要であると指摘する。さらには、全く経営とは関係ないと思われるリベラルアーツにまで話が及ぶ。リベラルアーツとは、その名のとおり、”自由に生きる技術“であるが、澤氏による経営観は、リベラルアーツが志向する最終地点であり、自然科学→人文科学→人生観→世界観→経営観という思考プロセスを経る(本書、48)としている。それは、澤氏が言われる、CEOの醍醐味として、“未来への自由と責任を享受できること”へつながっているのだと感じた。

そして、澤氏によるリーダーシップとは、この”未来への自由と責任を享受できること“と”約束した結果に引き上げる行動“であるという。具体的にどのように行動すべきかについては、本書に譲るが、このリーダーシップの定義は、単純そうにみえて、非常に重いものだと感じた。

実は、CEOでない私が本書の購入を決めたのは、冒頭に記した2点の理由のほかに、第3章の「CEOが描く2100年までの未来像」に惹かれたかもしれない。第3章では、2100年までの各年代において、CEOが認識しておくべき7つのメガトレンドが掲載されている。

 このうちの一つ、人口動態の変化については、特に私たちが意識しなければならないメガトレンドであろう。あの中国ですら人口減少段階に入り、私たちは、我が国をはじめとした先進諸国による人口減少に目を奪われがちである。しかし、世界の重心は、どのように移動してくのか、また、そのトレンドから考えうる新たな経営機会や公共政策は、何かを考える必要がある。現実を直視すること、そして私たちの力では変えられない流れを汲んで、新たな施策を講じていくこと。当然のことであるが、CEOは、時代の流れに敏感でなければならないということを改めて感じた。

澤氏は、「すべての人間が、自分の人生のCEOである」と言われる。まさに、自分の人生は、私たち一人ひとりの価値観、意義、哲学に基づいて行動している。そして、自分の人生に約束した結果を出し続けていくことが求められると思う。

澤氏による言葉に触れ、私は、自身の人生のCEOであると認識を新たにした。そのため、いま置かれている場で”約束”を果たすことにより、自分の人生を豊かにすると同時に、私たちの住む社会をより良いものにしていかなければならないと強く思わずにいられなかった。

澤氏は、2020年代以降を牽引する、我が国の若き経営リーダーの一人であると感じた。

澤氏の益々のご活躍をお祈り申し上げます。