2023年8月20日日曜日

時代を拓(ひら)くリーダーの条件 月刊「致知」より

 私が月刊「致知」を愛読して、もう何年になるだろう。この「致知」では、私自身、学ぶことが多い。

今月の「致知」(2023年9月号)の特集は、「時代を拓(ひら)く」であった。その「致知」45年の歴史を踏まえると、次代を拓くリーダーの条件は、次の6点のことが言えるのではないかと紹介されていた。このリーダーシップの条件は、Society5.0の時代を迎えた現代においても通用するものばかりだと思う。以下、私見を交えて紹介したい。


1 時代の流れを読み、方向を示すこと。

    確かに時代の流れを読み、方向を示すことは、リーダーシップの中でも重要なスキルの一つである。これは、変化する世界や社会の状況を的確に理解し、未来の方向性を予測する能力のことを指す。

 そして、私は、時代の流れを読み、方向を示すことは、絶えず変化する環境において組織やチームをリードする上で欠かせないスキルであると感じている。的確な予測とビジョンを持ち、柔軟に適応しながら、未来を導く道を示すことこそが、リーダーシップの一環として求められる能力と言えると感じた。

2 必死で働く。会社、仕事、社員に対する愛情と熱意は誰にも負けない。

  このリーダーシップの条件に触れたとき、私は、度々「致知」にも登場した稲盛和夫氏を思い浮かべた。仕事に対して、“ほとばしるほど”の情熱注ぎ込む。稲盛氏ほど、この表現が似合う経営者を、私は知らない。

 では、情熱となんであろうか。私は、情熱とは、仕事に対する真摯な熱意と責任感を意味すると考える。稲盛和夫氏のような成功者は、ただ単に仕事をこなすだけでなく、その仕事に対して心からの情熱を注ぎ込むことで、業績を上げ、周囲を魅了した。例えば、彼が創業した京セラでは、技術と製品への深い情熱が企業の成功の基盤となった。 

 そして、稲盛和夫氏は、日々の努力を惜しまない姿勢を持ち、自身の会社や社会に対する責任感を胸に刻んでいた。この情熱によって、彼は逆境を乗り越え、ビジョンを達成するために全力を尽くした。

 さらに、この情熱は、周囲にも感染し、共感を呼び起こす。稲盛氏の情熱が共感を持つメンバーや協力者を惹きつけ、組織全体が一丸となって目標に向かって努力するエネルギーを生み出したことは、稲盛氏によるJALの経営再生でも語り継がれている。

3 自分を磨き続ける。

 このリーダーシップの条件に触れたとき、私は、リスキリング(再スキル習得)のことを思い浮かべた。

 まず、急速に変化する現代社会において、リーダーは自己磨きを通じてリスキリングに注力することが求められる。リーダーは、自己磨きを通じて最新のトレンドや技術を把握し、組織やチームを変化に適応させる力を持つ必要があると考えるからである。

  また、 リーダーがリスキリングを重視し、新たな知識やスキルを習得する姿勢を見せることで、メンバーや従業員はリーダーシップに対する信頼を高める傾向がある。 

 さらに、リスキリングは、新たな分野や視点を取り入れる機会でもある。リーダーが異なる分野のスキルを身につけることで、クリエイティブな解決策やアイディアを生み出す能力を向上させることができる。例えば、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズは、精神世界にも傾倒し、日本の「禅」に辿り着いた。彼がこの「禅」を学んでいなければ、いまのアップルの誕生はなく、スマホもこの世に存在しなかったのではと言われている。経営は、人間を相手にする。そのため、経営とは一見かけ離れたように見える精神世界や文明・文化、歴史といった分野の学びも必要ではないかと感じた。

4 集団を幸福に導く。

 「集団を幸福に導く」という原則は、リーダーシップにおいて重要な価値観であり、組織やチーム全体の幸福を追求する姿勢を示す。私は、これも稲盛和夫氏のフィロソフィーである「全従業員の物心両面の幸福を追求する」を思い浮かべた。

 まずリーダーは、単に業績や利益だけでなく、従業員の物心両面の幸福を重要視する。それは、組織の一員としての幸福感は、従業員のモチベーションやパフォーマンスに直結するからだ。

  また、 リーダーは、従業員とのコミュニケーションを大切にし、彼らの声を聴く姿勢を持つ。この“傾聴”する姿勢があれば、リーダーは、従業員が自分の意見や考えを尊重される環境となり、共感と信頼が築かれ、集団全体の幸福感が向上する。

 さらに、リーダーは、従業員同士の協力や連帯感を促進する役割を果たす。稲盛氏のフィロソフィーでは、全従業員が幸福を追求する姿勢が組織全体のチームワークを向上させたのではないだろうか。

 そのほか、リーダーは、従業員の幸福を追求するだけでなく、社会的責任を果たす姿勢も重要である。稲盛和夫氏のフィロソフィーは、企業の成功が社会全体の幸福につながるとの信念を表している。

 このように、リーダーが従業員の物心両面の幸福を追求する姿勢を示し、信頼と連帯感を築き上げることで、組織はより良い方向へ進むことができるのだと感じた。

5 犠牲的精神。自分の都合より組織のことを優先する。

 「犠牲的精神」は、リーダーシップにおいて大切な価値観の一つであり、個人の利益や快楽を優先するのではなく、組織やチーム、社会全体の利益を優先する姿勢を指す。このリーダーシップの条件に触れたとき、私は、東日本大震災における福島第一原発事故で、当時陣頭指揮を執った吉田所長のことを思い出した。吉田所長は、目に見えない放射能の恐怖に立ち向かいながら、最悪の事態にもなりかねない原発事故に対して、果敢に立ち向かった。時に自分の命を投げ出してでも、組織、そして人々の安全のために戦う。この精神は、リーダーシップの重要な条件の一つであろう。

 また、「致知」にも登場する東洋思想研究家・田口佳史氏の解説を思い出す。それは、「書経」にある「先憂後楽」という言葉だ。この言葉は、リーダーは即時の快楽や個人的な利益をもとめるのではなく、憂うることは人に先だって憂い、楽しむことは人に遅れて楽しむという意味だ。

  まず、リーダーは組織やチームの一員として、他人の利益や幸福を自身の利益よりも優先する姿勢を持つことが重要だ。他人の視点を理解し、共感することで、信頼と結束を築くことができる。

 また、リーダーは、組織やチームの使命を果たすために、自己の快楽や個人的な利益を犠牲にすることを厭わない覚悟を持つ。困難な決断や責任を負うことに尽力し、長期的な成功に貢献する。

  さらに、犠牲的精神を持つリーダーは、即時の利益だけでなく、将来の発展や繁栄を追求する視点を持つ。短期的な困難を乗り越えて、長期的な目標を達成するために努力する。

  このように、リーダーの犠牲的精神は、他のメンバーや従業員に共鳴し、チーム全体の一体感を高める要因となる。この「犠牲的精神」を持つリーダーは、個人の利益を越えて組織やチームの成功を追求し、将来の発展を見据える力を持っている。この価値観は、組織の繁栄と共に、リーダー自身の尊厳と尊敬を築く要素となる。この犠牲的精神を持つ社員が多い組織は、どんな場面が訪れようとも、強い姿勢を保てるのだと感じた。

6 宇宙の大法を信じ、畏敬(いけい)し、その大法に則(のっと)り、行動する。

 偉大な経営者、松下幸之助氏は、人間には、この宇宙の動きに順応しつつ万物を支配する力が、その本性として与えられていると考えていた。

 宇宙の大法という概念は、この松下幸之助氏の哲学や宇宙観を通じて、リーダーシップの崇高な側面を表現している。彼の宇宙観は、個人と宇宙がつながり、共鳴する一部であるという深い信念に基づいている。この宇宙の大法の考え方は、リーダーシップを単なる経済的な成功や権力の行使だけでなく、より広い視野と哲学的な次元を持つものとして理解することを示唆している 

 まず、宇宙の大法に従うと、個人の行動やリーダーシップは単なる自己満足や個人的な成功だけではなく、組織や社会全体への貢献を追求するものとなる。松下幸之助氏は、個人が組織の一部として責任を持つことで、全体の繁栄と共鳴が実現すると信じた。 

  また、宇宙の大法は、宇宙の秩序や法則に敬意を払い、それに従って行動することを意味する。リーダーシップにおいても、組織や社会のバランスや調和を尊重し、持続可能な成功を追求するために宇宙の秩序を考慮する姿勢が求められる。 

 さらに、宇宙の大法は、個人の成長と組織の繁栄が密接に結びついているとの考え方を含む。リーダーシップにおいても、従業員やメンバーの成長を支援し、それが組織全体の成功に貢献することを大切にする。

 そして、 宇宙の大法に基づくリーダーシップは、一時的な成功や欲望に囚われるのではなく、持続可能な価値と調和を重視する。松下幸之助氏は、個人の行動が経済的な成功だけでなく、社会的な価値や調和にも貢献するべきだと説いた。 このように、宇宙の大法の概念は、個人のリーダーシップが単なる物質的な目標だけでなく、より壮大な価値や調和を追求するものとして捉えることを示している。

 まさに、宇宙の構成員として、私たちがいる。松下幸之助氏は、人間は、絶えず生成発展する宇宙に君臨し、宇宙に潜む偉大なる力を開発し、万物に与えられたるそれぞれの本質を見出しながら、これを生かし活用することによって、物心一如の真の繁栄を生み出すことができると考えていた。このことこそが、私たち人間が地球上に存在する目的であろう。

 この宇宙の法則を常に意識しながらリーダーシップを発揮することは、天からの助けが得られ、ひいては自身の成功につながっていくのだと感じた。

 以上、「致知」の次代を拓くリーダーの条件に触れ、私は、このようなことを思ったので、書き綴っておく。



  


2023年8月18日金曜日

THE GOOD LIFE

 健康で幸せな生活を送るには、よい人間関係が必要だ。以上。
(引用)グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない、著者:ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ、訳者:児島修、発行所:辰巳出版株式会社、2023年、18

「グッドライフ」は、読者に84年にわたるハーバード大学の研究成果を短時間で理解できる貴重な一冊であった。その手軽さと専門的な内容が結びついた本書は、健康で幸せな人生を追求する人々にとって興味深いものであった。

 この本は、著者が厳密な研究と集中的な時間をかけて築き上げた人間関係の重要性に焦点を当てている。膨大な研究時間を費やしたハーバード大学の取り組みが、人間関係が幸福と健康に果たす役割を浮き彫りにしている。被験者たちの人生のストーリーが織り交ぜられ、読者は自分自身の人間関係と照らし合わせながら、本書の中心テーマに引き込まれていく。

本書内で紹介されるWISERモデルは、人間関係の改善を目指す際に実用的な手法を提供している。このモデルを通じて、私たちはより深いつながりを築くためのステップを学び、自己成長の道を歩むことができることになると感じた。また、著者の研究結果が示すとおり、人々は共に過ごすことで幸福感を得ることができることを改めて認識した。

「グッド・ライフ」は、84年にわたる研究を通じて明らかになった人間関係の重要性を掘り下げた書籍であった。読者は、自分自身の生活において人間関係をどのように大切にし、豊かな幸福を追求するかについて考えるきっかけを得ることができる。著者の情熱的な研究と深い洞察に触れながら、本書を通じてより意義深い人生を模索する旅にでかけることができる。そんな、一冊であった。





2023年8月6日日曜日

AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方

 テクノロジー全般に対しての無知・無理解という問題は、日本も他人事ではありません。(引用)AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方、著者;伊藤穰一、発行所:SBクリエイティブ株式会社、2023年、271

私自身、ChatGPTとの出会いは、まさに驚きと感動に満ちていた。これまでのWeb検索エンジンとは全く異なり、ChatGPTは、まるで知り合いとの会話のように自然で親しみやすく、欲しい情報を瞬時に提供してくれる。その即座な反応に、私は一瞬でChatGPTの虜になった。

ChatGPTをはじめとしたジェネレーティブAIの活用方法は、実に多様だ。例えば、「自分は〇〇である。自分にふさわしい座右の銘を示せ」と入力するだけで、ChatGPTが私にぴったりの座右の銘を提案してくれる。そして、「故事成語から案を示せ」と続けて入力すると、ChatGPTは新たな案をサクッと示してくれる。私は、これらの対話が、私の日常にさりげなく溶け込んできたことに気づいてきた。それは、今まで自分の知識や知恵のみで勝負してきた実社会から、私たちの目に見えない、膨大な知識の宝庫にアクセスできるようになったことを意味する。私は、新たな喜びに似た感覚さえ覚えた。

このたび、伊藤穰一氏によって著された『AI DRIVEN(SBクリエイティブ株式会社、2023年)』は、AI時代の到来にふさわしく、興味深い書籍であった。特に、ジェネレーティブAIの活用による様々な局面での役立ち方が詳細に述べられているところが役に立つ。

まず、伊藤氏によれば、ジェネレーティブAIの力が我々の生活にどのように寄り添い、想像力を刺激するかに触れられている。伊藤氏によれば、ジェネレーティブAIの真髄が日常的に感じてきた面倒なことを解消し、着想の源を得て、アイディアを磨きあげることを主張する。普段から私もChatGPTを活用しながら、特にアイディアを磨きあげることの凄さを実感している。そのため、私はChatGPTと対話するときに、深い理論を追求する際のプロンプトが重要であることも経験している。私は、伊藤氏と同様、AIを利用する上で、より的確な情報を得るためには、適切なアプローチが重要だと感じているからだ。

一方で、ChatGPTは「嘘」をつくことがあるため、その出力を見極めることが大切である。そのため、ジェネレーティブAIは、信頼性に対する課題もあるため、AIの出力に対しては慎重な判断が求められる。この「嘘」であるが、私は密かに、本書でも触れられているマイクロソフトのBingに一筋の光を見出している。私は、今までChatGPTのアプリを活用していたが、2023年2月、マイクロソフトは検索エンジン「Bing」とウェブブラウザ「Edge」のニューモデルを発表した。そこには、最新版のChatGPT-4が搭載されており、誰でも無料で利用可能だということを本書で知った。早速、今までChatGPT-3.5を利用してきた私は、マイクロソフトのBingを活用してみた。このBingでは、会話スタイルを「独創性」「バランス」そして「厳密」で選べることが可能となっている。私は、より正確な回答がほしいため、「厳密」を選択してみる。そして、私の専門性のある仕事の質問をしてみると、Webで関連情報を検索し、見事、的確な回答を示してくれた。まだ、精度には、若干の不安があるものの、ChatGPT-3.5より精度の向上が見て取れた。そして、Bingでは、引用したWebサイトまでを示してくれた。また、AIがより精度の高い画像生成に取り組むことで、デザインやアートの領域での可能性が無限に広がっていくことも期待できる。これは、素質がなくとも、誰もが芸術家やデザイナーになれる可能性を秘めていることを意味しており、AIの力によって、私たちの創造性が加速されることに期待が膨らんだ。

一方で、本書で指摘されているとおり、AI生成時代の教育やリーダーシップに対する新たな要請が指摘されていることも重要な課題である。AIの普及により、人間とAIの共存をうまく進めるために、教育や指導者に対する適切なサポートが必要とされている。特に教育については、本ブログの冒頭に、伊藤氏による我が国のテクノロジーの進展が遅いことを懸念した文を引用した。かつて、哲学の父とも呼ばれるソクラテスは、自分に知識がないことを自覚するという概念で「無知の知」という考え方を示した。自分がいかに「無知であることを知っていること」つまり、「知らないこと」よりも「知らないことを知らないこと」のほうが罪深いとした。まずは、我が国も「これまで無知であった」ことを自覚し、未知の可能性に向けて好奇心を持ち続けなければならない。だからこそ、次代を担う子どもたちへの教育のあり方についても、AIとともに成長し、共存していく社会に対応していくものでなければならないのだと感じた。

『AI DRIVEN』は、ジェネレーティブAIの活用による未来の展望と課題について専門的な知見を示した、興味深い書籍であった。私は、AIの時代の道標となる本書を拝読し、AIの進化に対して、一層の興味と希望を抱くことができた。そして、今後もAI技術の進化を見守りながら、私たち自身や社会の成長とともに、新たなテクノロジーの進展によって、我が国の未来が輝きを増していくことを願った。