2022年9月7日水曜日

「生き方」 ~稲盛和夫氏を偲んで

 ですから、「この世へ何をしにきたのか」と問われたら、私は迷いもてらいもなく、生まれたときより少しでもましな人間になる、すなわちわずかなりとも美しく崇高な魂をもって死んでいくためだと答えます。
(引用)生き方、著者:稲盛和夫、発行所:株式会社サンマーク出版、2004年、15-16

2022年(令和4年)8月24日、また一人、偉大な経営者が天国へと旅立たれた。「経営の神様」と呼ばれ、京セラ・第二電電(現・KDDI)を創業された稲盛和夫氏である。

30年ほど前、私は大学でマーケティングや経営学を学んだ。当時、経営者(創始者)といえば現パナソニックホールディングスの松下幸之助や本田技研工業の本田宗一郎であった。

私が稲盛氏を知るようになったのは就職してからのことであり、2004年当時、書店の店頭で「生き方(株式会社サンマーク出版)を見つけたからだと思う。すぐに私は、ベストセラーになっていた「生き方」を購入し、貪るように何度も読みふけった記憶がある。

なぜ、私は、稲盛氏の世界に惹き込まれていったのか。
それは、今までの経営書とは、明らかに一線を画すものであったからだ。

では、何が違ったのか。
稲盛流の経営とは、利益を追求することを主眼に置くのではなく、「人間として一番大切なこと」を説いてあったからだ。

つねに前向きで建設的であること。感謝の心を持つこと。善意に満ち、思いやりがあること。努力を惜しまないこと。
学校の道徳の授業を受けているかのような稲盛流の経営学は、「これが上手くいく経営の本質であったか」といったものであった。

その偉大な「経営の神様」の訃報に接し、私は、稲盛和夫氏の「生き方」を改めて拝読させていただくことにした。当時、私は何度も拝読させていただいたので、内容はほとんど頭に入っている。しかし、改めて読ませていただくと、新たな発見が多いことに気付かされた。

稲盛氏と同じく、私は日本の実業家・思想家の中村天風氏の書籍も多く拝読している。その稲盛氏も中村天風氏を尊敬しており、例えば稲盛氏は「有意注意」の大切さを説く。「有意注意」とは、目的を持って真剣に意識や神経を対象に集中させることである。稲盛氏といえば、「一日、一日を『ど真剣』に生きなくてはならない」という言葉があまりにも有名だが、恐らく、その言葉は、中村天風氏の影響を受けていたのではないだろうか。

その中村天風氏も、「有意注意の人生でなければ意味がない」と言われている(本書、75)。このことは、後に稲盛氏が著した「京セラフィロソフィ(サンマーク出版、2014年、218)」にも触れられている。このことから、稲盛氏が「有意注意」について、いかにリーダーとして大切にしてきたかを窺い知ることができる。

それとあわせて、稲盛氏は、自分に起こるすべてのことは、自分の心が作り出しているという根本の原理を大切にされてきた。利他の心、愛の心を持ち、一日一日をど真剣に生きていければ、宇宙の流れに乗って、すばらしい人生を送ることができるとも言われている。そのために、稲盛氏は、「よい思い」をすさまじく思うことの大切さを説く。「生き方」の中では、「ひたむきに、強く一筋に思うこと。(本書43)」というフレーズが登場する。このフレーズからも、稲盛氏が中村天風氏の影響を受けていることが理解できる。

「新しい計画の成就はただ不屈不撓(ふとう)の一心にあり。さらばひたむきにただ想え、気高く、強く、一筋に(中村天風)」

中村天風、そしてその遺志を引き継いだかのように稲盛氏は、生涯を通じて、利他の精神を持って、事業家としての生涯を貫き通した。そして、この二人の生き様は、経営の本質、そして人間にとっての哲学を証明してみせた。

その証明の一つとして、日本航空(JAL)の再建がある。2010年1月、日本航空は、2兆3,000億円という事業会社としては戦後最大の負債を抱えた。日本航空を再生させるべく、稲盛氏は日本航空の会長職に就任する。高齢であった稲盛氏がこの大役を引き受けたのは、日本航空が破綻すると日本経済への影響が大きいこと、残された社員が路頭に迷うのを防ぐためだと言われている。そして、ここでも稲盛氏の哲学を日本航空の社員に叩き込み、見事、2012年9月、日本航空は再上場を果たし、復活を遂げた。

なぜ、日本航空は短期間で再上場を果たすことができたのか。それは、京セラ、そして日本航空の経営理念から読み解くことができる。

(京セラの経営理念)
全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類社会の進歩発展に貢献する

(日本航空の経営理念)
JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、
一、お客さまに最高のサービスを提供します。
一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。

これらは、どの事業所にも共通する経営理念ではないだろうか。まず、その企業で働く従業員の幸福を追求する。そして、社会の進歩発展に寄与する。そこに、企業として一番大切な「利益を追求する」という言葉はない。人間として、正しい行動をしていれば、利益は後からついてくる。まさに、稲盛氏の経営に対する考え方、そして人間としての生き方が、さらには哲学が、この短い経営理念に集約されている。

稲盛氏は、本書の中で、人間としての生き方が死生観についても触れられている。稲盛氏は65歳を迎え、真の信仰を得るべく、得度をして仏門にも入られている。稲盛氏は、死について、「現世での死とはあくまでも、魂の新しい始まり(本書228)」と言われている。
本ブログの冒頭でも『死』についての言葉を引用したが、稲盛氏は、自分の魂を来世につなぐべく、利他の心を持ちながら、「いま」を真剣に生きてこられた。

2004年に刊行された「生き方」は、稲盛氏の遺書であり、今を生きる私たちへのメッセージでもある。今後の人生において、今度は私たちが稲盛氏の哲学を実践し、よりよい社会を築いていなかければならないと感じた。

私の尊敬する稲盛和夫氏のご冥福を、心よりお祈りいたします。

2022年9月3日土曜日

何もない空間が価値を生む

 『道徳経』には、「粘土をこねて器を作る。そこに空洞があるから、器としての役目を果たす」とあります。
(引用)何もない空間が価値を生む AI時代の哲学、語り:オードリー・タン、著:アイリス・チュウ、文藝春秋、2022年、10

私は、新型コロナウイルス対策で一躍有名になった、台湾のIT相であるオードリー・タン関連の書籍について、今までに何冊か拝読させていただいた。しかし、今回刊行されたオードリー・タンの語りによる「何もない空間が価値を生む(文藝春秋、2022年)」は、その中でもベストといえる一冊であった。

それは、オードリー・タンが幼少の頃から培ってきた哲学を知ることができるからだ。オードリー・タンは、5歳のときに読んだ老子の「道徳経」に影響を受けている。通常、生まれてから6歳までとされる人間形成期において、オードリー・タンが老子の書籍を読みふけっていたというのも驚きである。しかし、それ以上にオードリー・タンが「道徳経」から得られた「知識」を持ち続け、現在の自身の仕事に生かしていることは、さらなる驚きであった。

この「知識」については、オードリー・タン氏も本書の中で触れている。「知識は必ず自分の創造の道のりを通して生まれたものである(本書、69)」と。知識は蓄積されるものでもなく、新しい状況に直面したときに「作られる」ものである。この一文に触れたとき、かの松下幸之助氏の言葉を思い出す。

「失敗することを恐れるよりも真剣でないことを恐れたい。」

失敗するということは、その新しい状況に対して挑戦したということだ。その挑戦によって、得られる知識は膨大であり、いつかは自分が創造した成功にたどり着く。

この書籍の良いところは、オードリー・タンの哲学と仕事の実践法がリンクしているところにある。本ブログの冒頭、私は、器の空洞について触れた。オードリー・タンによれば、「道徳経」を著した老子は、この器の空洞は一見無駄に見える。しかし、その一見無駄に思える空間感こそが価値を生み出すのであり、有用なものが生まれる(本書、10)としている。その教えをもとに、オードリー・タンは、20歳の頃、オンライン・コミュニティで一つの空間を作るなどしている。

また、本書で紹介されているオードリー・タンの読書術は、勉強になる。その読書術とは、自分に興味を持ったキーワードを絶えず理解、収集、点検を繰り返す。そして、効率化を図りながらも知識を増やし、それを実践していく。実際、自分も読書をしていて感じるのだが、読書をする際、自分に関心のある「キーワード」や心に残った文章が自分の知識になる。その効率的ともいうべき、オードリー・タンの読書術は、理にかなったものだと感じた。

さらに、本書では、会議の議長のあり方も参考になる。ビジネスの場では、会議の議長を務めることが多い。また、議長を意識して、会議の組み立てを考えることは、会議自体を意義あるものにすることができる。本書では、オードリー・タンがORID(オリッド)討論法を教えてくれる。このORIDは、会議のプロセスの頭文字をとったものだ。このORIDに従って会議を進めれば、参加者のコンセンサスが得られやすいのだろうと感じた。ぜひ、今後、自分の仕事に生かしていきたい。

そして、本書の真骨頂は、第5章「AI時代の哲学」であろう。オードリー・タンが「道徳経」の翻訳として、一番よく引用するアメリカの作家ル・グウィン氏のものを紹介している。
このル・グウィン氏の手にかかれば、老子の「道徳経」は、詩的で叙情的なものになる。読み手は、すっかり「道徳経」の世界に魅せられ、その奥深さ、謙虚さ、自分を律することの大切さ、優しさ、そして女性の強さを感じることができた。まさにトランスジェンダーとして生きるオードリー・タンに影響を与えた「道徳経」は、性別や人種を超えた、AI時代を生きる全てのビジネスマンにも通用する哲学であった。

そのほか、本書では、台湾の聖巌法師による12文字の箴言(しんげん)も紹介されている。物事を進める道理を説いた箴言は、逃げずに、困難を認め、行動したら最後に手放すといった、宇宙の力に任せるような表現で終わっている。確か、中国の「書経」には、天に代わって人間が政治を司るという言葉がある。人間は、全てやりきったあと、宇宙(天)の力に任せるように手放して委ねる。私は、オードリー・タンの哲学を通じ、壮大な宇宙に潜む無限の力、そして人間と宇宙の関係を感じざるを得なかった。

本書は、改めて、天才オードリー・タンの人間性に迫れるとともに、多くの知恵を授かる一冊であった。



2022年8月20日土曜日

ストレス脳

 彼らのライフスタイルの何が、うつから守ってくれているのか。(中略)。その「何か」とは、私は何よりも「運動」と「仲間と一緒に過ごすこと」だと思う。
(引用)ストレス脳、著者:アンデシュ・ハンセン、新潮新書、2022年、213

大ベストセラー「スマホ脳」の著者であり、精神科医のアンデシュ・ハンセンによる最新刊、「ストレス脳」が刊行された。ハンセンによると、私たちの4人に1人が人生において、うつや不安といった精神的な不調を経験しているという。この25%という数字は、我が国にも当てはまり、今もなお、多くのかたが苦しんでいる。

どうして、豊かになった我が国においても、うつなどを抱えるかたがみえるのか。それは、よく指摘される資本主義や競争社会における貧富の格差がもたらしているものなのだろうか。それとも、スマートフォンやタブレット端末の普及に伴う現代病ともいうべき現象なのであろうか。その要因はともかく、それよりもまず、私たちの身近となった精神的不安にどう立ち向かうべきなのか。いろいろなことが頭をよぎり、ハンセン氏による最新刊を拝読させていただくことにした。

ハンセン氏による話は、ヒトの起源に遡る。ヒトが狩猟採集民であった時代から、ヒトは「適者生存」を求めてきた。つまり、野獣に襲われることを防いだり、感染症から見を守ったりするということで、ヒトは強い警戒心を持っていると言える。そして、この警戒心によって、私たちの祖先は、生き延び、今を生きる私たちに生命を繋いだ。ハンセン氏によれば、高度文明社会を迎えた現在においても、ヒトは様々な脅威(ストレスなど)から身を守ろうとして精神的不安に陥ってしまうということだ。それは、脳が今でもまだサバンナにいるとの思い込みから、ストレスを感じると、感染リスクが高まったと解釈してしまうことに起因する。なぜなら、脳が最優先するのは、「健康で幸せ」に生きるためではなく、「生き延びること」が使命だからだ。その弊害によって、現代人も精神的不安にかられるのだと理解できた。

では、精神不安やうつになったとき、また予防するために、私たちはどのように行動すればよいのか。ハンセン氏は、その対処法についても、医学知識が全くない私たちに対して、わかりやすく解説してくれている。
その解は、一言で言えば、冒頭に記したとおり、「運動」することと、「孤独にならない」ことだ。そして、ハンセン氏による指摘で興味深かったのは、“スマホなどの使いすぎ”による警告ではなく、スマホの使用によってヒトとヒトとのコミュニケーションが不足することに対して警告を発している。いま、私たちの職場は、新型コロナウイルスによって、リモートワークが進む。しかし、リモートワークの欠点は、リモートワーク中でしかコミュニケーションが図られないということではなかろうか。フェイス・トゥ・フェイスが当たり前の時代、会議の前後には雑談をしたり、同僚に相談に乗ってもらったりした。しかし、リモートワークは、そうしたコミュニケーションの時間が“ムダ”とも捉えられているかのように排除され、上辺だけの人間関係の上に成り立ったものであるように思える。

以前、ある脳科学者の本を読んでいたとき、「うつ病は、本人がそう思いこんでいるから長引く」みたいな記述があった。確かにハンセン氏の書籍にも同様の記述があり、「診断内容に自分自身を見出し、『私は精神状態の悪い人』と自覚するようになる(本書229)」と指摘している。しかし、ハンセン氏は、そんな患者には必ず、「不安障害やうつは脳が正常に機能している証拠でもある」とフォローすることも忘れていない。こうした精神状態の悪いときに限らず、負のスパイラルに陥る時がある。そのとき、健全であれば、「うつ病は、あなたが思いこんでいるだけだよ」と、言いっぱなしのドクターの話でも納得できるときがあるだろう。しかし、負のスパイラルの最中にドクターからも冷たく言い放たれたとき、聞き手はどう思うのだろう。ハンセン氏によれば、精神状態が不安定なとき、睡眠と休養を優先すること、そしてリラックスして、いろいろな「やらなければならないこと」を最低限に抑えるようにするという指摘を忘れていない。一時期、ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」のように、積極的思考を進める書籍が書店を賑わせたことがある。確かに、健全な心身状態であれば、ナポレオン・ヒルなどの書籍に書かれていることを実行すればよいのかもしれない。しかし、時に人はネガティブになるときもある。そのようなときは、精神論ではなく、休むことも必要ではなかろうか。そして、人間は、潜在的な回復できる力を持ち合わせている。そのために、睡眠や休養も必要であると、ハンセン氏に教えていただいた。

資本主義の進展による格差社会の歪は、「幸せでなければ人間ではない」という観念を人々に植え付けてきたように思う。競争社会にもまれ、人々は疲弊し、精神的不安を抱える人が一向に減らない。人々の意見に耳を傾けすぎたり、学校では成績アップだけを目標にしたりして、人生の意義に気づかない人が精神的な病に倒れていくようにも思える。

しかし、いちばん大切なことは、ハンセン氏も指摘するように「長期的に人生に意義を感じていられるかどうか」であると思う。幸福でなければならないという固定観念に縛られず、他人とも比較せず、自分の人生の意義を感じるように努めていくこと。そのほうが、結果的に幸せな人生につながっていくと思われる。

一人ひとりの人生は、他人のものでも、固定観念に縛られるものでもない。自分のペースで自分らしく、自分の人生に意義を感じるように生きる。そうすることで、豊かな時代においても人間らしく過ごしていくファクターであると感じた。

心が健全であれば、人生が充実する。そのための予防法を含めた処方箋が、ハンセン氏によるこの書籍、「ストレス脳」に書かれている。多くの現代人におすすめしたい一冊であった。

2022年8月7日日曜日

付加価値の法則

 本来なら国のリーダーは、「私はこれが正解だと思うからこれを実行する。その代わり、間違えたら責任をとる」と国民に宣言するべきなのです。
(引用)社長がブランディングを知れば、会社が変わる! 付加価値の法則、著者:関野吉記、発行所:株式会社プレジデント社、2021年、59

新型コロナ感染症の最初の患者が中国の武漢で原因不明の肺炎を発症した2019年12月から、早2年半という月日が経過した。未だ終息が見えない新型コロナウイルス感染拡大は、世界を一変させた。新型コロナウイルスの蔓延とともに、50歳を過ぎた私は、自分の新人時代と比較し、働き方やトップの考え方、そして企業のあり方を変えていかないと肌で感じている。つまり、リモートワークを導入する企業が増加しているが、社内のコミュニケーションが不足する中、これからの働き方とはどのようなものか。また、新たな環境下において、どのようにイノベーションを起こし、企業を創造していくのか。その解を模索すべく、株式会社イマジナの代表取締役社長であり、最近では地方自治体や伝統工芸にまで活躍の場を広げるブランドコンサルティングの第一人者、関野吉記氏の「付加価値の法則(株式会社プレジデント社、2021年)を拝読させていただくことにした。

著者の関野氏は、コロナ禍における世界の変容に対して、「ブランディング」という切り口で新たな時代の企業戦略を提案する。大学時代、私はマーケティングを学んできたが、「ブランディング」とは、言うまでもなく、その企業の商品やサービス、そして企業自体に対する消費者のイメージを高め、他社と差別化を図る戦略のことである。トヨタは、従来のブランドから脱して、新たに高級・革新的なレクサスブランドを立ち上げた。では、なぜ、いま「ブランディング」なのだろうか。

一気に読み終えた感想として、本書は、社長向けに書かれた書籍であるが、企業や自治体の管理職が読んでも大いに役に立つ内容だと感じた。そして、この書籍は、単なるブランド戦略のものではないと気付かされる。なぜかというと、ブランドには社内に向けた「インナーブランディング」と、社外に向けて行う「アウターブランディング」がある。インナーブランディングといえば、本書でも稲盛和夫氏のエピソードなどが登場するが、稲盛流に言えばフィロソフィー(哲学)、つまり企業の「ビジョン」「ミッション」「バリュー」を構築し、社内に浸透させることが重要であると感じた。と同時に、全員が創業の原点に立ち返ったうえで、時代と社会に沿っていることが大切であると関野氏は指摘していたことは、同感であった。

時代に即したというのは、コロナ禍において、従来のように、会議室に集まり、「声の大きい」社員の意見が通る時代は、終焉を迎えつつある。かつて私は、小学校の授業参観に訪れた際、ある先生から次のようなことを伺った。「今までは、手を挙げる子の意見で授業が進んでいました。しかし、一人1台のタブレット端末が導入されたことにより、瞬時にクラス全員の児童の意見が端末上に出てきます。これにより、手を挙げられなかった子たちの意見も把握することができて、より子どもたちの理解力を知ることができるようになりました」。リモートワークも学校と同様であり、ただ「声の大きい」社員ではなく、「自ら価値を生まない」社員は、要らなくなる。

冒頭、リーダーのあるべき姿を引用した。失敗を恐れ、支持率が下がることばかり考えていれば、政権はもたない。コミュニケーションが取りづらく、大きな転換期を迎えた現代においては、トップの内外に向けた説明責任が重要になってくるのではないだろうか。そのためには、「ブランディング」を用い、「付加価値」作りを目指しながら、企業や自治体を進化させていく。本書の後半には、具体的なビジョンマップの作成手順も紹介されている。私は、本書にも登場する大前研一氏が指摘するように、「自分が社長であれば、この先どのように事業展開するか」といったことを踏まえながらビジョンを構築していきたいと思う。関野氏の書籍を拝読し、これからの時代は、「ブランディング」、そして「付加価値」づくりを意識した経営が求められるのだということを理解した。そして私は、日々の仕事でおざなりになりがちなブランディングについて、企業や自治体の“未来への投資”だと意識することから実践していこうと感じた。

2022年7月23日土曜日

国防/感染症/災害 リスク大国 日本

 日ごろからの防災・減災の取り組みが必要となる。加えて知災・備災も含めた「4つの災」(防災・減災・知災・備災)が、生命を守るうえでは必要となってくるだろう。

(引用)国防 感染症 災害 リスク大国日本、著者:濱口和久、発行所:株式会社グッドブックス、2022年、36

2022年の梅雨は、全国的に早く明けたが、その後の“戻り梅雨”は、全国で大気が非常に不安定になり、各地で浸水被害が多発している。この時期(7月上旬)の雨は、地球温暖化の影響からか、昨年の熱海市伊豆山土石流災害のとおり、各地で甚大な被害をもたらすようになってきた。
また、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、我が国においても対岸の火事ではなくなってきた。
さらに新型コロナウイルスについては、新規感染者が全国で5ヵ月ぶりに10万人を超すなど(2022.7.16)、第7波ともいうべき状況になっている。

これらの脅威をどのように理解し、私たちは行動すべきか。私たちの身に迫りくる3つの大きな危機(国防、感染症、災害)をどのように乗り越えていくべきなのか。そう考えていたときに、書店で拓殖大学大学院教授の濱口和久氏による「国防 感染症 災害 リスク大国日本(グッドブックス、2022年)」というタイトルの書籍に出会った。

私も仕事で防災に携わっている一人であるが、濱口氏による書籍の「はじめに」から感銘を受けた。「戦後、日本国内では戦争による日本人の犠牲者は1人も出していないが、自然災害による犠牲者は5万人を超えている(本書、2)」。

なるほど。

冒頭から説得力のある言葉であり、書籍では我が国のおかれた災害リスクとともに暮らしていかなければならないということが実感できる。
特に、戊辰戦争の敗北だけで徳川幕府が終焉したわけではなく、幕末期に日本を襲った地震や風水害、感染症の流行などのくだり(本書、26)は参考になる。我が国の歴史においても、国家を脅かす危機が一度に襲い、幕府の財政が逼迫してしまったことは、私たちも過去の歴史から学ぶべきことであろう。事実、本書では、平成30年に土木学会が公表した「首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きた後の長期的な経済被害の推計」の数字を紹介している。その経済被害は、最悪の場合1410兆円にものぼるという衝撃的な数字であった。

本書では、災害対策の分野に限っても、我が国のおかれた現状、災害の歴史から学ぶ行動原理、ハザードマップは万全か、消防団や自衛隊、そして政府・自治体の危機管理の現状など、多岐にわたる角度から学ぶことができる。この内容は、とてもベーシックなものであり、国民であれば最低限知っていなければならない内容であろう。

また、書籍は、自治体防災担当者にも役に立つものである。例えば、本書には、「日本の避難所環境は世界最低レベル」という項目が登場する。国では、平成25年8月に「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」を公表している。しかし、近年の災害による避難所の実態は、どうであろうか。相変わらず、学校の体育館や公民館が圧倒的に多い。また、昨今の新型コロナウイルス感染拡大により、避難所における3密を避けなければならない(自治体によっては、新型コロナウイルス陽性者専用の避難所を設けているところもある)。この避難所の項目では、イタリアの事例とともに、国際基準の「スフィア基準」が紹介されている。この基準では、1人あたりの居住スペースは3.5平方メートル以上、天井の高さは2メートル以上などが示されている。

国家や自治体は、防災対策に予算を費やすことが少ない。しかし、これだけの災害大国日本において、避難所は、国による指針のみならず、ベッドやトイレを充実させたものにしていくべきではないだろうか。特に近年、災害が甚大化し、避難生活も中・長期化する傾向にある。たしかに、中・長期的には仮設住宅を建設すれば済む話かもしれないが、それよりも頻度の高い、短期の災害にも備えた、真の良好な避難所のあり方を国や自治体は真剣に考えていくべき時期が来たのだと感じた。

また、本書では、サブタイトルにあるように、自然災害のほか、国防、感染症についても話が及ぶ。特に国防については、中国の国防動員法の危うさが勉強になった。果たして、我が国は、国防を強化する近隣諸国に対して、守ることができるのだろうかと不安になった。

本書では、1854年の安政南海地震のとき、今の和歌山県で村の高台に住む濱口梧陵(はまぐちごりょう)は、海の遠方に見える津波の来襲に気づく。そして、村人たちに危険を知らせるため、自分の田にある刈り取ったばかりの稲の束(稲むら)に松明(たいまつ)で火を付けた。火事と見て、消火のために高台に集まった村人たちの眼下で、津波は猛威を振るう。この実話は、「稲むらの火」として有名である。本書の著者である濱口和久氏は、最終章においても濱口梧陵について触れており、その功績をたたえている。

濱口梧陵は、「稲村の火」にまつわるエピソードのみならず、ヤマサ醤油7代目当主ということもあってか、私財をなげうって堤防建設を行ったり、村の存亡をかけた救済策(人口流出対策、緊急雇用対策など)をしたりしている。そして、オールハザード型(自然現象や感染症、自己、紛争などすべてを含む概念)防災の先駆者として活躍された。

本書では、濱口梧陵が著した「支那経営論」についても紹介されている、平常時には、得意の地理学を活かし、あらゆるリスクに備え、そして先見性のある分析をして、その後の日本の行く末を分析していた。

いま、国や各自治体を始め、自主防災組織などの地域においても、濱口梧陵のような共助の精神を持ち、あらゆるリスクを予見し、我が国の進むべき道を示し、行動し続けた、オールハザード型のリーダーが求められていると感じた。

冒頭では、防災の4つの「災」。つまり、著者の濱口氏による防災・減災・知災(災害を知る)・備災(災害に備える)の言葉を引用した。この4つの「災」は、リスク大国日本に住む私たちに必要な「災」である。私たちヒトは、自然の脅威や感染症の発生を抑えることができない。しかし、これらのリスクに日頃から知って備えることで、リスクを減らすことができる。本書を読み終え、このリスクを減らすことは、私たち日本人の使命なのかもしれないということに、思い至った。






2022年7月10日日曜日

ディストピア禍の新・幸福論

 心はないー。心はすべて、幻想である。

(引用)ディストピア禍の新・幸福論、著者:前野隆司、発行所:株式会社プレジデント社、2022年、48

まず、本のタイトルに惹かれた。

「ディストピア禍」。そうか、今の時代は、ディストピアなんだということに、改めて気付かされた。ディストピアは、ユートピアの反対語であり、暗黒世界という意味がある。資本主義による格差拡大、新型コロナウイルス感染拡大、紛争、そして失敗が許されない(セーフティネットが用意されていない)社会の構築は、まさにディストピアともいうべきであろうか。「幸福論」といえば、私は真っ先にアランの「幸福論」を思い浮かべる。一見、不運に思えることも積極的に考えるといったアランの世界とは異なり、慶應義塾大学SDM教授の前野隆司氏が描くディストピア禍の新幸福論とは、どのような世界なのであろうか。早速、拝読させていただくことにした。

本書は、一気に読み終えることができる。そして、読んだ感想としては、「50歳を過ぎた私にとって、知りたかったことが書かれていた」ということだ。

まず、本書では、人間が避けて通れない「死」についても多くのページを割いて紹介されている。著者による深い死生観から得られるものは、死の不安を「生」のエネルギーへと反転させる手がかりを探るためである。そして、冒頭に記した著者の「心は全て幻想」ということから、過去も未来も全て「幻想」というこが理解できる。そのため、著者は言われる。「いまを幸せに生きると決めれば、幸せに生きることができる」と。その一言が、死を意識して今を生きる私たちに最適な言葉だと感じた。

著者、幸福学を提唱し、個人と人類の幸せを追求していると言う。その著者が発見した幸せの4因子は、実に興味深い。具体的に4因子とは、

第1因子「やってみよう!」自己実現と成長の因子、

第2因子「ありがとう!」つながりと感謝の因子、

第3因子「ありのままに!」独立と自分らしさの因子、

第4因子「なんとかなる!」前向きと楽観の因子

である。

人と自分を比べない、自己決定できる、楽観的である、なにかを成し遂げるなど、この4つの因子に全てが詰まっている。

幸福かどうかは、往々にして私たちを取り巻く人間関係で決まる。興味深かったのは、著者と著者の息子のエピソードである。これは、人間関係において必要となる手法、つまり相手を信じて「対話」するときに役立つ「アコモデーション」が紹介されている。ゲームばかりしている著者の息子に対して、著者は息子に対して「健康には悪いと思うが、それも自分の責任だ」と話し、息子に伝えていた。そして、息子の価値観を認めながら信頼関係を築き、人間関係を構築していく。このエピソードは、スティーブン・コヴィーによる名著「7つの習慣」でも似たようなことが論じられており、説得性のあるエピソードであった。

イギリスのシューマッハ・カレッジには、「Deep time walk」というワークがあるという。それは、地球が生まれてから46億年の歴史を4.6キロメートに例えて歩く活動だという。そうすると、私たちが100年生きたとしても、たった0.1ミリに過ぎないという。

壮大な宇宙の歴史の中で、私たち人間がそれぞれ一瞬しか存在しない。その儚き時間の中で、私たちは、いがみ合うのではなく、個人や世界が協調し、幸せを追求すべきではないだろうか。

本書の最終章には、Ikigai(生きがい)ペン図なるものが登場する。この円の中心に存在する「Ikigai」を全ての地球人が広げる活動をすれば、まさに世界で勃発する紛争などのリスクもなく、幸せな世界が築けることだろう。

奇しくも、このブログを書いているとき、安倍晋三元首相が選挙の応援演説中に銃弾で命を奪われたという報道に接した。安倍氏は生前、2007年に長崎市長が暴力団組員に拳銃で撃たれてなくなった際、「これは民主主義に対する挑戦であり、断じて許すわけにはいかない」と語った。まさに、我が国においても、本書で言う「すべての人を愛すること」はできていない。この本では、最後に最も述べたいこととして、「世界人類を愛そう」ということである。その前野氏の理想郷は、いつになったら到達できるのだろうか。

今を生きる私たちにとって、生きがいとはなにか。そして幸福とはなにか。ディストピア禍とも言える現代において、私たちがどのように幸福を追求して生きるべきかを教えてくれる一冊であった。今後は、この教えてに従い、私たちが生きがいを持って、真の幸福を掴む実践をしていかなければならないと感じた。

2022年6月16日木曜日

賢者の目は頭の中にあり

 『自助論』は「賢者の目は頭の中にあり」と言います。

(引用) ビジネスの名著を読む「リーダーシップ編」、著者:高野研一、編者:日本経済新聞社、発行:株式会社日経BP,日本経済新聞出版、発売:日経BPマーケティング、2022年、92

働き方改革、Z世代の採用、非正規雇用の増加…。私は、働き始めて30年が経過しようとしているが、その間、職場環境が激変したと思う。それに加え、新型コロナウイルスの感染症拡大による影響により、テレワーク、郊外への移住などにより、社会環境も激変した。

そのような不透明な時代だからこそ、新たなリーダーシップを謳った書籍が店頭に並んでいる。しかしながら、いつの時代においても、リーダーシップの考え方の根底にあるものは、古来より、不変ではないだろうか。その根底にあるものは何か。それが知りたくて、本屋に出向いたら、一冊の本に出会った。その書籍は、「ビジネスの名著を読む リーダーシップ編(株式会社日経BP、日本経済新聞出版、2022年)である。この本を数ページめくってみると、単なるビジネスの名著を紹介しただけではなさそうだ。本の「まえがき」には、「本書の中では、こうしたカリスマ経営者ならではのモノの見方や、そのカリスマ性が発揮された経営判断の場面を題材として取り上げ、エクササイズに仕立てています」とある。これは面白いと思い、早速、拝読させていただくことにした。

まず、目次を見ると、本書には、20冊のビジネス書が紹介されている。その中身は、デール・カーネギーの「人を動かす」や、サミュエル・スマイルズの「自助論」、スティーブン・コヴィーの「7つの習慣」や稲盛和夫の「アメーバ経営」、松下幸之助の「道をひらく」に至るまで、贅沢とも言える名著がずらりと並ぶ。そういえば、私の大好きなトム・ピーターズも登場する。かつて、私は、この20冊のうち9冊を読んだことがある。

本書に登場するデール・カーネギー著の「人を動かす」は、PwC Japan 執行役常務の森下幸典氏が紹介している。本書では、「人を動かす3原則」から始まり、デール・カーネギーによる人を動かすための極意が森下氏の視点を踏まえて紹介されている。そしてケーススタディとして、「もし、上司が誤った発言をしたら」との質問が用意されていた。皆さんなら、この質問にどう回答されるのだろう。この回答は、「人を動かす」を何度も読んで見えたかたなら、すんなりとできるようになっている。このように本書では、ずらりと並ぶ名著の理解を深めるためにケーススタディが用意されているのみならず、20冊の名著を紹介する一流の経営者らがどのように読み、どのように理解し、どのように感じたのかといったことが理解できる。名著を紹介するカリスマ経営者の視点は、自分と異なっていたところもあり、さらに名著の奥深さを知ることになる。

冒頭の引用文は、英国の作家、サミュエル・スマイルズが著した「自助論」からである。「自助論」といえば、「天は自ら助くる者を助く」という序文があまりにも有名である。この序文の印象があまりにも強く、精神論的な意味合いが強い書籍だと思いがちである。しかしながら、本書で「自助論」を紹介しているベイン・アンド・カンパニー・ジャパンの日本法人会長である奥野慎太郎氏は、「自助論」をビジネスへの活用事例を組み合わせ、分かりやすく解説してくれる。その中で、私が印象に残った言葉は、冒頭に引用した言葉だ。奥野氏によれば、「賢者の目は頭の中にあり」とは、「思慮の浅い人間には何も見えなくても、聡明な洞察力を持つ人、独力で活路を開こうと努力を続ける人は、目の前の事物に深く立ち入り、その奥に横たわる真理にまで達し、好機を手にできる(本書、92)」と言われます。

私は、困難に出会ったとき、諦めるのではなく、しっかりと現実を見て、受け入れ、その出来事が起こった真理まで達したとき、解決策が見つかるといったことを過去に経験したことがある。奥野氏によって、自分の経験とスマイルズとの言葉を重ねたとき、私は「自助論」の理解がさらに深まったことを認識した。

不安定でありながら、世の中のスピードが加速していく現代社会。しかし、私も改めて読み直したが、過去の名著には、不変とも言うべきリーダーシップの原則が根底にある。いつの時代においても変わらない一流の教えは、現代を生きる私にも有益なものであった。私は、これからの時代を生き抜く、新しいリーダーたちにこそ、本書をおすすめしたいと思った。