2023年2月12日日曜日

最高経営責任者(CEO)の経営観

 人間は誰もが自分の人生のCEOであり、CEOの経営観は、すべての個人・組織・社会に関係がある。
(引用)最高経営責任者(CEO)の経営観 夢・理想の未来を拓く実践的技術、著者:澤 拓磨、ダイヤモンド社、2022年、6


「最高経営責任者(CEO)の経営観 夢・理想の未来を拓く実践的技術(ダイヤモンド社、2022年)」は、株式会社TS&Co創業者兼代表取締役最高経営責任者(CEO)の澤拓磨氏によって著された。

 なぜ、CEOでもない私が本書に惹かれたのか。理由は、2点ある。

1点目は、私もこの歳(50歳)になってくると、TOPが何を考え、どのように経営しているかということを知っておく必要があるということ。

2点目は、リーダーシップやマネジメントについて、改めて“学びたい”とう思いに駆られたからである。

 著者の澤氏は、異色の経歴の持ち主だ。澤氏は、サッカーJ2の練習生としてプロサッカー界で生きていこうとされていたが、ある日、「大変残念だが選手契約をしない」と言われてしまい、突如、サッカー界を去ることになった。それから、経営への道を決断し、すでに15年の実践を積んできたという。

 本書を拝読し、まず私が驚かされたことは、澤氏による15年の会社経営で、ここまでの幅広い見識が得られるのかということである。澤氏は、グロービス経営大学院大学でMBAを取得されたとのことであるが、本書に書かれていることは、教科書どおりのことではない。

 例えば、澤氏は、2020年代以降の経営として、情報化の進展をあげる。澤氏の言われるとおり、情報化のメリットとしては、インプットの質向上や想像を超えたアウトプットが可能となる。しかし、興味深いことは、デメリットによるブラックスワン(領土紛争、テロ、パンデミックなど)の影響も重大であると指摘していることだ。現在、ロシアによるウクライナ侵攻においても、ニュースなどは、武力攻撃が取り出たされているが、一方では、ハッカーなどの情報戦争とも言われている。まさに、情報に対するリスクマネジメントでは、これからの経営で、より大きな課題となるであろう。

澤氏による経営観は、単に利潤追求にとどまらず、他の偉大な経営者と同様、科学・哲学・神学の礎が重要であると指摘する。さらには、全く経営とは関係ないと思われるリベラルアーツにまで話が及ぶ。リベラルアーツとは、その名のとおり、”自由に生きる技術“であるが、澤氏による経営観は、リベラルアーツが志向する最終地点であり、自然科学→人文科学→人生観→世界観→経営観という思考プロセスを経る(本書、48)としている。それは、澤氏が言われる、CEOの醍醐味として、“未来への自由と責任を享受できること”へつながっているのだと感じた。

そして、澤氏によるリーダーシップとは、この”未来への自由と責任を享受できること“と”約束した結果に引き上げる行動“であるという。具体的にどのように行動すべきかについては、本書に譲るが、このリーダーシップの定義は、単純そうにみえて、非常に重いものだと感じた。

実は、CEOでない私が本書の購入を決めたのは、冒頭に記した2点の理由のほかに、第3章の「CEOが描く2100年までの未来像」に惹かれたかもしれない。第3章では、2100年までの各年代において、CEOが認識しておくべき7つのメガトレンドが掲載されている。

 このうちの一つ、人口動態の変化については、特に私たちが意識しなければならないメガトレンドであろう。あの中国ですら人口減少段階に入り、私たちは、我が国をはじめとした先進諸国による人口減少に目を奪われがちである。しかし、世界の重心は、どのように移動してくのか、また、そのトレンドから考えうる新たな経営機会や公共政策は、何かを考える必要がある。現実を直視すること、そして私たちの力では変えられない流れを汲んで、新たな施策を講じていくこと。当然のことであるが、CEOは、時代の流れに敏感でなければならないということを改めて感じた。

澤氏は、「すべての人間が、自分の人生のCEOである」と言われる。まさに、自分の人生は、私たち一人ひとりの価値観、意義、哲学に基づいて行動している。そして、自分の人生に約束した結果を出し続けていくことが求められると思う。

澤氏による言葉に触れ、私は、自身の人生のCEOであると認識を新たにした。そのため、いま置かれている場で”約束”を果たすことにより、自分の人生を豊かにすると同時に、私たちの住む社会をより良いものにしていかなければならないと強く思わずにいられなかった。

澤氏は、2020年代以降を牽引する、我が国の若き経営リーダーの一人であると感じた。

澤氏の益々のご活躍をお祈り申し上げます。

2023年1月14日土曜日

PURPOSE MODEL(パーパスモデル)

 私はパーパスでつながる人の連帯を「パーパスフッド」と呼んでいる。英語で書くと「PURPOSEHOOD」であり、ここでの「HOOD」はつながりや連帯のことを指す。
(引用)パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた、著者:吉備友理恵・近藤哲朗、発行所:株式会社学芸出版社、2022年、202

最近、よく「パーパス」という言葉を耳にする。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューにおいても、「PURPOSEパーパス 会社は何のために存在するのか あなたはなぜそこで働くのか(2021/10/6)」や、「パーパス経営(2022年6月号)」など、「パーパス」という言葉は、マーケティングの世界において、注目を浴びている。

このたび、利益の最大化を求めるビジネスモデルから、経済性と社会性を両立する目的でつながり、新しい価値を「共創」するという、「パーパスモデル(株式会社学芸出版社、2022年)」なる書籍が発刊された。

昨今、私の仕事も、企業や行政、大学などの研究機関や専門家、そして市民らと関わる仕事の度合いが増してきた。このパーパスモデルとは、パーパス(より良い社会を実現するための行動原理)を中心とした共創プロジェクトの設計図であるという。その設計図であるパーパスモデルは、鮮やかな4色から成り立っており、まるで吸い込まれるかのように見入ってしまう魅力もある。

では、なぜ共創プロジェクトの設計図が必要なのであろうか。

その本題に入る前に、パーパスモデルの作り方は、極めてシンプルだ。主として、基本、円形で成り立っており、図の中心にプロジェクトのパーパスである「共通目的」、周囲にその共通目的の下に集う「ステークホルダー」を書く。そのステークホルダーを属性に4色に塗り分けながら、個々のステークホルダーの「役割」と「目的」を描いていく。

次に、本書には、具体的なパーパスモデルも多数紹介されている。個人的には、世界遺産を舞台に海洋保全と発信に取り組む「宗像国際環境会議」の例が参考になった。
この会議は、行政、大学、企業、漁協・観光協会、宗像大社など、17のステークホルダーたちが年に1回集い、海の環境会議を議論する。そして、海の環境を守るため、議論だけでは終わらず、それぞれのステークホルダーたちが共創して海岸清掃や竹漁礁(たけぎょしょう)づくり、さらには世界遺産の観光と環境保護の活用を同時に実践するネットワークまで誕生したという。
その共創の主体であるステークホルダー、そしてそれぞれの役割と目的を明確にし、一つにまとめたのがパーパスモデルであると言えるだろう。そして、パーパスモデルを俯瞰すると、そこから新しい価値を生み出す可能性が無限に広がっているような宇宙的な感覚を覚えた。

しかしながら、本書の真骨頂は、本書の後半ではなかろうか。そこには、より良い共創を実現するためのポイントが列記してある。
いま、私は、ある共創モデルを立ち上げようとしている。そのため、本書の前半部分だけを読んでパーパスモデルを試作してみた。しかし、パーパスモデルの鮮やかなイメージばかりが先行してしまって、どうも違った。そこで、本書の後半部分に触れられているポイントを踏まえ、再度、パーパスモデルを作り直した。やはり、パーパスモデルは、あくまでも共創するための手段であって、目的ではないと思う。パーパスモデルの作成過程において、しっかりと手順を踏み、思考を深めていくこと。そしてなぜ、多様なステークホルダーたちが、一つの大きな目標(社会的課題の解決)に向かって共創し、新たな価値を生み出すことを視野に入れて進めていくことが肝要であると感じた。そこに、パーパスモデルが誕生した存在意義があると思うに至った。

本書を拝読し、今後、新たなパーパスモデルが次々と誕生してくのではないかと感じている。
理由として、私たちが解決しなければならない社会的課題は、今後益々多様化・複雑化していくと考えられるからだ。これからのビジネススキルの一つとして、「パーパスモデル」は有効であると感じている。今後、私の仕事を進めていく上で、欠かせない一冊となった。

2022年12月17日土曜日

悪魔の傾聴

 しゃべれなければ、聞けばいいーそれだけで、本当にあらゆることが好転するのです。 
                                   中村淳彦

(引用)悪魔の傾聴 会話も人間関係も思いのままに操る、著者:中村淳彦、発行所:株式会社飛島新社、2022年、260

よく、一流の人は、「話す」より「聴く」ことが大切だと言われる。確かに、私も実生活や職場においての経験からも「傾聴」することの重要性は、理解できる。
しかし、それでも「傾聴」を実践することは難しい。妻からも、「よく、相手が話していても、自分の話題にすり替えているよね」と注意されてしまう。自分では無意識?、もしくは自分のことを話して会話を盛り上げていこうという意識?が働くのか、妻からは傾聴することに対して(他の部分もあると思うが)、及第点をいただけていない。しかし、傾聴することは、家庭生活を送るにしても、ビジネスの世界でも有効であることは間違いなさそうだ。

では、傾聴することは、単なる人の話を真剣に聴くだけで達成できるのか?それとも、傾聴することに関してのスキルが存在するのか?そんなことを思いながら書店に立ち寄ったら、一冊の書籍に出会えた。タイトルは、「悪魔の傾聴」とある。しかも、サブタイトルでは、「会話も人間関係も思いのままに操る」とある。これは、もう読むしかないと思った。

「悪魔の傾聴」を読み、最初から私は、打ちのめされてしまう。本書で言う、「HHJ」の三大悪、つまり「否定する」、「比較をする」、「自分の話をする」の頭文字を取った「HHJ」は、傾聴の三大悪であるという。この三大悪を無意識のうちに実践してきた私は、奇跡的に家庭や職場生活が送れていることに感謝した。
いままで私は、傾聴することについて、相手の話を聞きながら、自分のありのままの姿を見せていくことだと信じ切っていた。しかし、真っ向から否定されたことに、本書の著者である中村氏から、さらに傾聴のスキルを学ばなければならないと感じた。

本書の著者である中村淳彦氏は、「職業としてのAV女優(幻冬舎新書)」や「新型コロナと貧困女子(宝島社新書)」など、現代社会が抱えているであろう課題に対して、果敢に取材されているイメージがある。本書でも、実際に取材されたときの実例も紹介されている。中には、自殺未遂をされた女性に対して、どう自殺を思い留まらせたかという、まさに傾聴の上級テクニックまで披露されている。その中で、自分から相手に初めて話しかける行為(ナンパも然りか)については、特にビジネスの世界でも参考になる。初対面の方に話しかけるとき、中村氏は、「こちらから相手を選べるメリットがあるので、こちらに主導権がある」とする。そして、どのように自分の好印象を与え、一言、二言会話を交わしただけで、話が続いていくのかというテクニックは、とても役に立った。

また、中村氏の仕事もそうだが、ビジネスの世界でも、相手の本音を聞きづらい場面に遭遇する。中には、相手が沈黙さえしてしまうこともある。そのような場合でも、どのように対処し、傾聴を続けていくかということは、とても参考になった。

本書を読み、ヒト(人)は、誰しも欲望があることを再認識させられた。それは、聴き手である私たちにとっては、邪悪なものになるという。いくら、自分の心がフラットな状態で傾聴をしているつもりでも、「相手に信頼されたい」という欲望が潜んでいるという。この欲望を完全に捨てなければ、ビジネスでも家庭でも、傾聴を実践することは不可能だということに気づかされた。改めて、私は、傾聴の奥深さを知ることになった。

本書を最後まで拝読し、傾聴とは、単なる人の話を聴くだけではないということを思い知らされた。そして、今までの自分の傾聴のスキルが全然違っていたことも認識した。傾聴を実践することは、相手との関係が深まり、本音を引き出せ、信頼関係が生まれる。まさに、サブタイトルの「会話も人間関係も思いのままに操る」レベルに達するものだと感じた。

本書を読んで、早速自分も中村氏から教えていただいた傾聴のスキルを実生活で実践しはじめた。その結果、この傾聴のスキルという武器を手にした私は、自分の周りの人たちも変わりはじめたような気がしてきた。

2022年12月11日日曜日

限りある時間の使い方

 「人生のすべては借り物の時間」なのだとしたらー何かを選択できるということ自体が、すでに奇跡的だと感じられないだろうか。
(引用)限りある時間の使い方、著者:オリバー・バークマン、訳者:高橋璃子、発行所:株式会社かんき出版、2022年、86

定年延長を考えなければ、私も仕事ができる時間が10年を切った。この歳になれば、どのような時間の使い方、そして生き方が良いのかを考える。例えば、私の尊敬する稲盛和夫氏によれば、”仕事に打ち込んで、世の中に役立ち、自分自身も幸せだった“(致知12月号、令和4年11月1日発行、発行所:発売所:致知出版社、11)という生き方は、とても共感できる。

一方、時間の使い方の改善によって、生産性の向上を図るため、「タイムマネジメント」という言葉をよく聞く。つい、ダラダラと過ごしてしまうと、すぐに時は過ぎ去り、あとで人生の中で無駄な時間を過ごしてしまったと反省することも多い。

しかし、私は、このタイムマネジメントという言葉が好きになれない。ヒト(人)は、自然を支配できないように、果たして時の流れも支配すべきなのであろうか。

私たちが地球上に生まれ、過ごせる時間は、仮に80歳まで生きたとして、4,000週間ほどしかない。この極めて短い、限られた時間をどう過ごすかは、至極当然であるが、各個人に委ねられている。そんなとき、一冊の書籍に出会った。タイトルは、「限りある時間の使い方(株式会社かんき出版、2022年)」である。

この本は、いままでのタイムマネジメント関連の書籍と一線を画す。一言で言えば、決して抗うことのできない時の流れに対して、肩の力を入れず、人間らしく生きなさいという感じである。つまり、時間は有限であるということを認識しながら、効率化を目指すのではなく、問題が発生してもその状態を楽しむ。それによって、一人ひとりの人生が完成するということだと理解した。本書を拝読し、このブログの冒頭の記した「人生のすべては借り物の時間」と考え、私の人生は、時間の経過と比例するように、人生の瞬間、瞬間に“奇跡”がもたらされているという考えで、生きていくことが望ましいのではないかと思うに至った。

本書の中では、スウェーデンの哲学者、マーティン・ヘグルンドの次の言葉が登場する。「もしも、人生が永遠に続くと考えるなら、自分の命が貴重だとは思わないだろう(本書、78)」。

多くの日本人が好きな桜の花は、一年のうちに咲くのは一瞬だ。また、夏の風物詩とも言える打ち上げ花火も、藍や黒色のキャンパスともいえる夜空に、鮮やかで美しい大輪の花を一瞬だけ咲かせてみせる。長い地球上の歴史において、ヒト(人)の一生も一瞬だ。その儚さ故の尊さに、命を、そして時間を愛おしく、貴重だと感じるのであろう。そう考えていけば、時間の使い方は、目先の効率性を優先するのではなく、自然の時の流れの中で、もっと大局的に見て、それぞれの人生を完成させていくことが必要ではないかと感じた。

ただ、本書は、何も哲学的な、時間の使い方の概念だけでは終わらない。具体的な”時間の使い方“にも言及している。例えば、タスクを上手に減らす3つの原則の一つに、『優先度の「中」を捨てる』がある。これは、かの有名な投資家、ウォーレン・バフェットの話だとされているそうだが、「人生のやりたいことのトップ25をリストアップする。そして、重要なものから並べる。そして、上位5つのものに時間を使う」というものだ。タイムマネジメントのような効率化の罠にハマり、時としてヒト(人)は、時間を操り、何でもこなせそうな気になってしまう。しかし、本書の別の箇所で指摘しているように、「どんな仕事であれ、つねに時間は予想以上にかかる」ものである。限られた時間を有効に使うため、真に重要なタスクを確実に実行していく(これは仕事に限ったことではない)必要があると痛感した。

また、本書には、忍耐を身につける3つのルールや、本書の巻末には有限性を受け入れるための10のツールも紹介されている。その10のツールのうち、「ありふれたものに新しさを見いだす」がある。歳を重ねてきた私にとって、このツールは、妙に納得してしまった。もっと、この瞬間に与えられている人生のギフトに深く潜り込み、日常の内側に新しさを見つけていきたいと思った。

私たちを宇宙レベルで考えると、本書では、「あながた限られた時間をどう使おうと、宇宙はまったく、これっぽっちも気にしていない(本書、240)」とされる。

いままで、自分の人生は、そして人生の成功とはこうあるべきというものに囚われ過ぎた感がある。また、“限りある時間を効率的に使いなさい”と、周りから潜在的に植え込まれてきた気がする。

そんな考えを払拭し、肩の力を抜いて、自分の人生を選択して、人間らしく生きて、充実したものにさせよう。

そんな人生の意義を思わせてくれる一冊であった。

2022年12月3日土曜日

ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる 

 「マネジャーが、組織の成功のカギである。」これが、この本の一貫した主張です。
                               訳者:古屋博子

(引用)ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる、著者:ジム・クリフトン、ジム・ハーター、訳者:古屋博子、発行:株式会社日経BP、日本経済新聞出版、発売:株式会社日経BPマーケティング、2022年、383

 私は、ドラッカーが企業の目的を端的に表した次の言葉が好きだ。「有効な定義はただひとつ、顧客を創造することである」。例えば、Apple社製のIpadなどは、顧客の要求を取り入れたのではなく、顧客を作り出す(創造する)という発想から設計されているとも言われる。しかし、このたび発刊された「ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる(株式会社日経BP、日本経済新聞出版、2022年)では、新しい企業の目的、そして「これからの働き方」には、この「顧客の創造」というドラッカーの定義に加え、人間の潜在能力を最大限に発揮させることが含まれなければならない(本書、15)という。
では、ドラッカーの時代から何が変化し、これからの新しい企業の目的として何が求められるのか。私自身、大変興味が湧き、本書(ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる)を拝読させていただくことにした。

まず、ドラッカーの時代と比較し、現代はどのように職場文化が変化したのだろう。本書の訳者である古屋氏が本書の「訳者あとがき」で指摘するとおり、著者のジム・クリフトン、ジム・ハーターは、ポストコロナを見据えている。本書は、新型コロナ前に書かれたというのにも関わらず。既に、今では働き方の主流となりつつあるリモートワークをはじめ、フレックスタイム制、ギガワーカー(伝統的な雇用主と従業員の関係ない人たち)、働く女性が直面する課題、そして定年を迎えてもなお働かれる再雇用社員に至るまで、本書は、新たな組織文化が求められている社会的背景を予見し、広くカバーしている。

本書では、現代の、そしてこれからの社会的背景をもとに、どのように新たに組織文化を変えていくかが試みられている。本書を読み、私が憂慮すべき点としては、日本人の94%が仕事に「エンゲージ(組織と従業員のつながり、「愛着心」の強さ)していない」または「まったくエンゲージしていない」という結果が出ている(本書、21)ということだ。これからは、従業員のエンゲージメントを高めるべく、我が国の企業文化や組織にも適合する、新たな時代に即したマネジャーが求められているのだと感じた。

本書は、CEO(最高経営責任者)、CHRO(最高人事責任者)、マネジャーに向けた参考書だ(本書、9)という。しかし、本書は、先ほどのエンゲージメントを高めるべく、我が国の管理職に広くオススメしたい内容であった。なぜなら、例えば本書では、「ボスからコーチへ」という章が登場する。その章のなかで、特に「コーチング 5つの会話」の中に登場する「クイックコネクト」は、重要ではないかと思った。このクイックコネクトは、メールや電話、廊下の立ち話でもいいのだが、マネジャーが様々な手段で短時間(1~10分)のやりとりを少なくとも週1回行うものだ。日本人の管理職は、部下などに対して、このような頻繁に「声がけ」することを苦手としているのではないだろうか。本書も触れているが、従業員は「自分が無視されている」と感じさせないためにも、クイックコネクトは有効であると感じた。ただ、私の尊敬する稲盛和夫氏は、部下から立ち話で報告を受け、その報告がおざなりになってしまった経験を活かし、それ以降、立ち話では、絶対報告を受けないようにしていたと言われる。クイックコネクトの手段については、真剣に部下と向き合うため、それぞれのマネジャーが自分のスタイルで、時間を確保していく必要があると感じた。

そして、部下との意思疎通については、マネジャーによる意思決定する際にもつながる。本書では、意思決定を下す場合の3つのポイントに触れられているが、私は、「自分の限界を知る」というポイントが好きだ。どうしても、自分の強み、弱みがある。そのなかで、部下なり、周りから意見を求めながら判断を下すのは、至極当然のことであろう。その際、部下とのコミュニケーション、そしてエンゲージメントが高い部下が周りにいなければ、的確な判断が下せず、マネジャーは裸の王様になってしまう。かつて私は、平成30年7月豪雨の際、総社市長として災害対応の最前線に立って指揮した片岡市長の講演を拝聴したことがある。そのなかで、片岡市長は、「決断は1分以内にすること」と言われていた。つまり、リーダーが迷って判断が遅れれば市民の命は失われると心に決めていたと言われる。その際の判断基準としては、「いま、自分の決断が市民のためになるかどうか」であった。危機管理においても、エンゲージメントの高い部下を周りに集め、そして意見を求め、最終的にリーダーは、自分の指針をもとに迅速に決断を下す。総社市がここまで災害対応で注目されたのは、片岡市長が企業で言うところのCEO的な役割を果たしたからであろう。

本書では、意思決定、コーチング、マネジャーの特性などが学べる。さらに本書では、自分や周囲の人たちの強みを活かすべく、能力開発の起点となる「クリフトン・ストレングス」が紹介されている。本書には、34の資質について概略が紹介されており、この資質は「実行力」「影響力」「人間関係構築力」そして「戦略的思考力」がわかるという。これを眺めているだけで、自分の強みや弱みが理解できる。

そして、優れたマネジメントを実現するため、チームを成功に導く12の質問が本書の途中と巻末に登場する。特に巻末では、12の質問の意図と、この質問を受けて最高のマネジャーは何をしているのかが詳細に解説してある。私は、12の質問中のQ4「この1週間の間に、良い仕事をしていると褒められたり、認められたりした」という問いが気に入った。我が国において、管理職は、部下を口に出して褒めたり、認めたりすることが苦手ではないだろうか。しかし,この行為は、冒頭の従業員のエンゲージメントを高めるためには有効であると感じる。あのディズニーでは、リコグニッション活動といって、キャストがお互いの良いところを認め、称えるメッセージをおくりあう活動があると聞く。また、キャストが自身を向上させる努力をしているときや、優れたパフォーマンスを発揮したとき、マネジメントの方が「Good Jobカード」を手渡しすると言う。このような習慣は、従業員のエンゲージメントを高めるために、とても有効な活動であると感じた。

本書の訳者の古屋氏は、『組織として本気で「マネジャーの成功」を後押しできているかが私たちに問われている』(本書、383)と言われる。それができなければ、ポストコロナにおける、新しい時代の組織文化は構築できず、マネジャーの役割も果たせなくなる。

ポストコロナも然りだが、我が職場においてもミレニアル世代(1980~1996年生まれ)やZ世代(1997~生まれ)が増えてきた。彼らの価値観を理解し、どのように潜在能力を発揮してもらい、人の力を最大化する組織をつくっていくのか。そのための解は、本書に書かれていた。現在の、そしてこれからのマネジャーに、是非本書をオススメしたい。特に、日本では、冒頭に記したとおり従業員のエンゲージメントが低く、新たなマネジャーの果たす役割が大きいと感じているから。

2022年11月23日水曜日

考える人のメモの技術

 「どうすれば自分らしく考えられるようになるのか?」
これが、この本で考えていきたいテーマです。
(引用)考える人のメモの技術 ―手を動かして答えを出す「万能の問題解決術」、著者:下地寛也、発行所:ダイヤモンド社、2022年、2

最近、私は自分なりの知的生産術にハマっている。その知的生産術を試行錯誤する中で、どうやって日常に溢れるニュースや記事などを収集し、分析し、アウトプットするのか。そして、私はアウトプットする際、そのニュースや記事などから、どのように自分は考え、行動に移せるのかを探究していた。
そんなことを思っていた矢先、最寄りの図書館で「考える人のメモの技術(ダイヤモンド社、2022年)」に出会った。著者は、Campusのノートで有名なコクヨの社員であるという。私は、文房具を知り尽くした社員さんによる知的生産術とはどのようなものか、大変興味が湧いたので、図書館で借りることにした。

さすが文房具メーカーの社員さんだけあって、メモの技術は、大変役に立つものばかりであった。まず、なぜメモを取るのかといった基準から始まり、どう書くべきか、そしてどう使うのかといった話に及ぶ。そして、インプットメモとアウトプットメモの2種類を使い分け、単にインプットに終わらない技術が紹介されている。

まず、インプットメモで感心させられたのは、「気づきを加えると、自分ごとになる」ということである。本ブログの冒頭にも記したが、日ごろ私は、あるニュースや記事に接して、それを自分らしく考え、実行に移すことが大切であると感じている。これは、確か、大阪府知事や大阪市長を歴任された橋下徹さんも同様のことを言われていたと思う。また、私もよく携帯のアプリ「News Picks」を利用しているのだが、「News Picks」では、それぞれのニュースや記事に対して、専門家や著名人による解説や意見が寄せられてくる。その解説や意見によって、私たちは、そのニュースや記事の持つ意味や背景を理解することができ、世論を見据え、自分がどのように行動すべきかが見えてくるのではないだろうか。

また、アウトプットメモについては、「コピー用紙の裏側でもいい」と著者の下地さんは言われる。このようにアウトプットについては、メモの体裁にとらわれないが、下地さんが提唱する「ノート3分割法」は、とても役に立つ方法であると感じた。早速、自分自身の仕事にも活用していきたいと思った。

ここで、問題になるのが、手書きをする場合、紙によるメモか、Ipadかということである。私の大学生になる子どもは、Ipad派であり、Good Notesを駆使している。その息子の姿を傍から見ていると、自分も専用のIpadが欲しくなり、ノートやメモとして使いたくなる。

しかし、Ipadにもデメリットはある。下地さんも触れているが、私はIpadをノートとして活用することにより、一覧性(スクロールをしないと全体が見られないような場合がある)といったことやブルーライトの影響が心配だ。ただ、Ipadを使うメリットもある(携帯性や検索性)ため、引き続き、Ipadの活用も考えていきたいと思った。

とにかく、下地さんの本を拝読すると、すぐに実行したくなる。早速、私は、本書で紹介されていたCampusのメモパッド(A4横サイズ)を購入して活用してみた。今まで存在すら知らなかったメモパッドだが、思いのほか、使い勝手がよかった(余計にIpadの購入が遠ざかりそうな気もするが)。

また、下地さんの短期的・中期的なメモ基準を参考にして、自分なりの基準も考えてみた。この基準により、自分がこれから収集し、自分なりに活用していくためのテーマやカテゴリーが明確になってくる。これにより、今後は、プライベートのテニス技術習得のこともメモされていきそうだ。

たかがメモ、されどメモ。知的生産には欠かせない、メモの奥深さを知る一冊であった。

2022年11月12日土曜日

日本の消費者がどう変わったか

 実際コロナ禍において、規模はまだ小さいながらも生産者が消費者にダイレクトに新鮮な食材を提供するD2C(Direct to Consumer)ビジネスが伸びてきている。
(引用)日本の消費者はどう変わったか 生活者1万人アンケートでわかる最新の消費動向、著者:野村総合研究所 松下東子、林裕之、発行所:東洋経済新報社、2022年、              177

消費者トレンドは、どの企業、どの事業者にとっても必要不可欠なものであろう。また、国や行政においても、消費トレンドを知ることは、施策を考えていく上で有用なものとなる。野村総合研究所(NRI)の生活者研究・マーケティングコンサルティングチームが実施するNRI「生活者1万人アンケート調査」は、1997年を初回とし、以降3年ごとに実施してきた。このたび、最新の調査となる2021年調査では、コロナ禍ということもあり、日本の消費者の価値観や意識・行動について、これまでにない変化が生まれたという。

確かに、新型コロナウイルスを契機として、外出自粛、テレワークの推進など、今までにない大きな変容が私たちの暮らしを襲った。それに伴い、各家庭の消費傾向も大きく変わったと思う。いま、日本の消費者のトレンドは、どのように変わってきたのか。それを知ることは、今後の私たちのライフスタイルの主流を知ることにつながる。

「日本の消費者はどう変わったか(東洋経済新報社、2022年)」を拝読すると、「やはり」と思うことが多い結果になっていることに気づかされた。まず、テレワワークである。2020年は、テレワーク元年と言われている。総務省やNRIの推計によると、日本のテレワーク実施者は1500万人以上、年間120日以上の本格テレワークは340万人にも上るという。コロナ禍において、私もテレワークを実施したことがあるが、メリットとしては、やはり通勤時間が不要であるということだろう。このたびのNRIの調査においても、テレワーク導入による通勤時間の削減が、約8割の就業者に新たな自由時間を生み出したという。そして、コロナ禍においてテレワークの業務を実施した人は、余剰時間を活用した資格取得、副業への意向が高く、会社への貢献意識も高くなることがわかった。そして、就業への満足度はより高い結果が得られることにつながった。私は、就業への満足度が高い結果が得られたことに、驚きを隠せなかった。なぜなら、私のテレワークのメリットは、先ほどの通勤時間の短縮であったが、それ以上にデメリットも強く感じていたからだ。それは、まず同じ職場の仲間とのコミュニケーション不足がある。近くに上司や同僚がいれば、相談も容易にできる。しかし、テレワークとなると、基本、パソコンを介してのコミュニケーションとなる。日ごろ私は、文字によるコミュニケーションの難しさを感じている。それは、例えば微妙なニュアンスの報告書が文字のみで上がってきた場合、確認する術も文字で質問するしかないからだ。会話をすると、「これって、こういう意味だよね」と言い方を変えて、自分が納得して確認できるが、テレワークでは、それが叶わないことが多い。また、職場の人間関係自体も希薄化する気がしている。私のような古い人間には、テレワークの良さに気づけないということであろう。私は、多様な働き方が大規模な会社から受け入れられているという事実を受け入れていく必要があると感じた。

ただ、人間関係の希薄化でいえば、若者たちも感じていることがわかる。2018年から2021年にかけての動きの年代を見ると全体的に生活満足度・幸福度が高まる中、10代の若者だけは下がっているという。これは、学生生活を送る上で、友との語らいが減少し、旅行やテーマパークへ行けなくなったことが要因として考えられる。コロナ禍において、家族へ帰属する意識が高まる中、貴重な10代の楽しみが奪われている。その溝を埋めるためのツールなり、新しい楽しみなりが必要であると感じた。

新型コロナを契機として、「アウトドア・キャンプ」や「ドライブ」の余暇活動が伸びているという。「ソロキャンパー」という言葉にも象徴されるように、密を避け、一人、自然の中に入り込んでいく。このコロナを契機として自分を取り戻す、もしくは自分を見つめ直すというかたが増えてきたということであろう。実際、アウトドア用品は、ホームセンター等に出向いても増えてきた。また、都心では、キャンプ用品のメーカーが自社のチェアを使ったり、テントを店内に設置したりして、喫茶店を営業している。より身近にアウトドアを体験できる機会が着実に増えている。

50歳を過ぎた私が心配するのは、今後の日本の家族のあり方である。結果を見ると、結婚はしなければならないものと考える若者が減少していること、男性の収入減少が結婚を控えるといった相関関係が明らかになっていること、子供は持ったほうが良いという意識が近年急激に弱まわっていることに危惧を抱いた。

イーロン・マスクは、「当たり前のことを言うが、出生率が死亡率より高くなるような何らかの変化をもたらさない限り、日本は消滅するだろう」とTwitterに投稿した。これは、日本の人口が2021年、過去最高の64万4000人減少したという記事のデータに対するコメントになるが、私もイーロン・マスクの意見に賛成だ。どうしたら、若者たちが未来に希望が持てるのか。それは、私たち大人が環境を整えて行く必要があると強く感じた。

冒頭には、コロナによって、どのように消費者トレンドが変わったのかという一例を引用した。今まで、「動く」ことによって得られたものがインターネットによって繋がり、流通そして消費者の距離が生産者とより一層近くなった。

本書には、コロナ禍収束後に戻るもの/戻らないものについて予想も掲載されている。これは、今後の消費トレンドを知る上で、とても参考になる。一例を申し上げると、コロナ禍で「増えた」けど収束後に「戻る」ものは、デジタルでの映画・音楽鑑賞、収束後でも「戻らない」ものはオンラインショッピングであった。一方、コロナ禍で「減った」けど収束後に「戻る」のは外食やグルメ・旅行、収束後でも「戻らない」ものは人付き合いや“飲みニケーション”であった。

確かに、2022年4月19日、米動画配信大手ネットフリックスは、会員数が10年以上ぶりに減少に転じたと発表した。しかし、その後ネットフリックス第3四半期に241万人増加し、上半期のかつてない規模の減少から一転し、予想を上回る力強い回復を見せはじめた。NRIが予想したトレンドがどのように推移していくのか。今後のネットフリックスの会員数が気になるところだ。

NRIによる「生活者1万人アンケート」は、新型コロナウイルスを契機として、最新の消費者傾向は、大きく変化した。今回触れなかったが、スマートフォン保有が半数以上となっている70代でもデジタル活用が進んでいない。そのため、我が国でデジタル推進をしてくためには、より一層の高齢者のデジタル活用が求められる。渋谷区では、65歳以上のスマートフォン保有していない区民に対して、2年間無料で貸出をしているという。

小型パソコンといわれるスマートフォンを所有することは、ネットショッピングに代表されるように買い物難民対策にも、またコミュニケーションツールとしても、さらには災害発生時における情報入手手段としても、あらゆる面で私たちの暮らしを守り、豊かなものにしてくれる。

いま、新型コロナウイルス、デジタル化の波が押し寄せている。それらの社会的背景をもとに、私たちの暮らしは、大きく変貌している。しかし、その根底には、私たち日本人の価値観も変わりつつあることが理解できる。本書を拝読し、新しいステージにおける、新たな生き方が消費者トレンドとして表れてきているのだと感じた。