2021年8月29日日曜日

部活動の社会学

 「生徒が楽しんでいれば、大会・コンクール等の成績にこだわる必要はない」と認識している教員は60%程度存在している。その一方で、およそ75%の教員が「顧問をしている部の競技成績・活動成績を向上させたい」と認識している。
(引用)部活動の社会学―学校の文化・教師の働き方、編者:内田良、発行所:株式会社岩波書店、2021年、143

「部活動の社会学―学校の文化・教師の働き方」の編者である内田氏が言われるとおり、部活動に関する研究は驚くほど少ない。それは、部活動が「教育課程外」、すなわち「やってもやらなくてもいい活動であるから」である(本書、「はじめに」より)。
その部活動が、いま教育現場で問われている。教師の働き方改革のもと、学校から地域へ、そして縮小へという傾向にある。しかし、教師の中には、「自分は部活動にも関わりたい」と考える人達もいる。いま、教師は、部活動を排除し、働き方改革の流れに満足しているのか、また地域移行する際に課題はないのか。そんな疑問から、「部活動の社会学」を拝読させていただくことにした。

まず、本書の執筆に関わられたかたたちは、2017年11月から、全国22都道府県の計284校の中学校に勤務する全教職員8112名を対象に「部活動」に関しての調査を実施している。私が知る限り、2013年、文部科学省は「運動部活動の在り方に関する調査研究協力者会議」が「運動部活動の在り方に関する調査研究報告書~一人一人の生徒が輝く運動部活動を目指して~」を纏めている。しかし、この調査は、部活動時における教師の体罰を中心としたものである。現在の「教師の働き方改革」に伴う調査は、恐らく、本書の調査が初めてだろうと思われる。やはり、「はじめに」に記されていたとおり、貴重な調査結果と言えるだろう。

本書の調査結果を分析すると、大方、予想どおりであった。それは、まず、比較的若い男性教員が部活動立会時間について長時間化する傾向があげられる。次に、男性・女性の性差による部活動への参加日数・時間の違い、特に女性教員は、結婚の有無・年齢・共働きかどうかが部活動への参加意欲につながっていることなどが調査結果から浮かび上がる。そのほか、「保護者期待」の要因についても、教員を疲弊させている一要因であることがわかる。

その「保護者期待」につながるのであろうか。冒頭に引用した引用文は、教師のジレンマを感じた。つまり、働き方改革の一環で、「生徒が楽しんで部活をすれば良い」と考える教師が多いのではないだろうか。その一方で、保護者は、子供の大会に顔を出し、応援をする。その期待に応えるべく、教師は、「競技成績を向上させたい」と考える人が多いのではないだろうか。もちろん、子どもたちに「勝利する喜び」を体験させたい、また進学に有利にさせてあげたいと考える教師も多いことだろう。私の実体験からも「保護者期待」というプレッシャーは、教師を襲っているではないかと感じた。

中学生のころ、私の時代では、朝練習、土日の練習が当たり前であった。それが至極当然であったし、少しでも強くなりたいと思って中学時代を過ごした。おかげで、今でもテニスを楽しむことができる。いま、中学生になる自分の子供たちのテニスの試合を見ると、明らかに「打ち慣れていない」ことがわかる。一方、テニスの強い子達の保護者と話をしてみると、学校以外のクラブチームに属しているとのことだった。いまの学校の部活動時間だけでは足りない。本書の最後では、地域移行に関して、教師、生徒、安全性の観点から課題を投げかけている。いま、教師の長時間労働などのイメージから、教師のなり手が不足している。教師の働き方改革を進めることは、教員確保につながる。ただ、部活動の本質ともいうべき、生徒の健全な発育、チームプレーを通じた友情を育む大切さを忘れてはならない。本書の結果をもとに、各市町村の教育委員会では、最適で持続可能な部活動のあり方を模索していくことになる。


2021年8月21日土曜日

希望の未来への招待状

長いあいだ、人類はとても豊かな地球に少数で暮らしていましたが、今日、人類はますます多く、地球はますます乏しくなっています。人類が自身の破滅をまねきたくないのであれば、このたったひとつの星で、〈密な世界〉の限られた資源でやりくりしていくことを学ばねばなりません。これが〈新たな現実〉なのです。
(引用)希望の未来への招待状ー持続可能で公正な経済へ、著者:マーヤ・ゲーペル、訳者:三崎和志・大倉茂・府川純一郎・守博紀、発行者:中川進、発行所:株式会社大月書店、2021年、38

本書、「希望の未来への招待状」の冒頭は、枝廣淳子氏による「日本の読者への招待状」から始まっている。枝廣氏と言えば、「好循環のまちづくり!(岩波書店、2021年)」を著されたかたである。枝廣氏は、以前、私のブロクにも記させていただいたが、島根県海士(あま)町をはじめ、北海道下川町、熊本県南小国(みなみおぐに)町、徳島県上勝(かみかつ)町などのまちづくりに関わり、地域を活性化させてきた実績を持つ。まず、その枝廣氏がオススメする本とあって、私も本書に興味を惹かれた。

枝廣氏と「希望の未来への招待状」著者であるマーヤ・ゲーぺル氏との接点は、サステナビリティやシステム思考の研究者と実践家のブローバルなネットワークである「バラトン・グループ」のメンバーということだ(本書、003)。
私たちの住む地球が悲鳴をあげている。世界人口が急増し、環境と社会をめぐる世界規模の様々な危機が発生している。ここ数十年の間に、私たちが住む地球は、「持続可能な」取り組みが最優先課題となってしまった。
なぜ、急激にこのような事態が生じてしまったのか。また、私たちの住む地球の未来について、再び、「持続可能」という希望を見出すことができるのか。そのようなことを頭に思い浮かべながら、「希望の未来への招待状」を拝読させていただくことにした。

まず、本書の始まりから、マーヤ氏は、地球が危機に至った経緯について分かりやすく解説してくれる。アポロ8号が月へと旅立ったときは、地球上に36億の人間しかいなかった。しかし、2019年末、地球には77億以上の人間が住み、この50年の間に人口は2倍位以上に膨らんだと説明してくれる。そして、人々は経済的成功を収め、郊外にも進出し、より豊かな暮らしを求めるようになっていった。つまり、地球環境が急速に悪化した要因の一つとして、地球に住む人口の急増と経済的な豊かさが挙げられる。

社会学者で、政治経済学を専門とされるマーヤ氏は、市場原理主義の成長モデルについても切り込む。それは、国が経済成長をすれば、トリクルダウンを起こせるかと検証していることだ。トリクルダウンとは、富が富裕層から低所得層に徐々に滴り落ちるとする理論のことである。つまり、経済成長をし、富裕層がさらに豊かになれば、低所得者も恩恵にあずかるといったことだ。しかし、マーヤ氏は、統計的データを根拠に、国が経済成長すればトリクルダウンを起こせるということについて、真っ向から否定する。いや、反対に、世界人口が増加する中で、さらに貧困層が拡大しているとマーヤ氏は指摘する。これは、中国を例として、エビデンスに基づいた説明が本書でなされており、大いに納得させられた。振り返ると、我が国も経済成長を追い求める政治的傾向が見受けられる。これからの時代は、「経済成長」は、格差を広げ、地球環境にも大きな課題をもたらす(これは、科学技術のみでは解決できない)ということを認識しなければならないと感じた。

もう一つ、1987年、ノルウェーのグロー・ハーレム・ブルントラント元首相が発表した「ブルントラント報告書」についての記述については、感心させられた。この報告書では、その後のすべての環境に関する協定の基礎となった定義が記載されている。重要なのは、その補足項目である。貧しい人びとのニーズが優先されるべきである、という点と、社会や技術の発展 (開発) は、自然の再生サイクルを破壊しないよう、注意が払われるべきである、という点をマーヤ氏は紹介している(本書、49)。普段なら、補足項目は、飛ばして読みがちなのだが、私は、この報告書の定義である「持続可能な開発とは、将来世代が自分たちのニーズを満たせなくなるというリスクを冒さずに、現在のニーズを満たす開発」とする補足こそ、重要な意味を含んでいると感じた。持続可能性の社会を構築するためには、最大限に配慮すべき点であると思う。

冒頭に記した〈密な世界〉とは、現在のコロナ禍において、どうしても嫌なイメージが付きまとう。事実、私たちの住む地球も、人口増加によって、またより豊かな暮らしを求めて、密な世界へと誘われた。しかし、経済成長が無限に可能だとする、また経済成長こそがすべての解決策とする〈古い現実〉と訣別すべきときがきた。人々は、〈新しい現実〉を認知し、地球上の限られた資源を有効に活用し、持続可能なものにしていかなければならない。

マーヤ氏からの「希望の招待状」とは、私は、「公正」であることと理解した。公共財の確保、不平等是正のため、「公正」であるということが国家レベルで求められる。本書を読み、持続可能な社会を構築するためには、「公正」であることを鍵とし、地球規模で脱成長を図っていくことがマーヤ氏からの招待状だと認識するに至った。


2021年7月24日土曜日

理系なテニス

 予測>判断>動き>打ち方

(引用)新装版 勝てる!理系なテニス 物理で証明する9割のプレイヤーが間違えている“その常識”!、著者;田中信弥、松尾衛、発行所:株式会社日本文芸社、2021年、28

いま、私もテニススクールに通っている。そのスクールでは、コーチから「サービスは、下から上に向かって打つんだよ」という言葉をよく言われている。ただ、自分自身、なぜ、下から上に向かって打つのかが理解できなかった。中学校時代、私は、ソフトテニス部であった。そのとき、顧問の先生から「サービスは、高いところから下に向かって打つんだ」と言われて育ってきた。事実、スクールに通うまでは、そのように思っていて、硬式テニスにもチャンレンジしてきた。しかし、最近になって、スクールでも、テニス関連の書籍でも「サービスやストロークは、下から上に」というフレーズに頻繁に出会う。
そんな折、元オリンピック&日本代表コーチの田中信弥さんと、理論物理学者の松尾衛さんの共著による「新装版 勝てる!理系なテニス」が発刊された。テニスを理論的に知りたいと思っていた矢先であったので、迷わず、拝読させていただくことにした。

本書は、のっけから、「なぜサービスは『下から上に打つ』のか?」から始まった。この問いに対して、理論物理学者の松尾さんによる解説に納得させられた。松尾さんは、コートの広さなどをもとに、「打点の高さが約3メートルないと、上から下に打ち下ろしてサービスをボックスに入れることができないことがわかる(本書、18)」と言われます。その後、スクールでコーチのサーブを見た時、たしかに下から上に軌道を描いていた。本書の後半では、下から上に打つサービス練習の手法も掲載されていたので、実践しようと思った。

一方、冒頭に掲載させていただいた引用文は、私も衝撃を受けた。テニスは、不等式でできているという。この不等式によれば、まずは予測、次に判断、そして動き、最後に打ち方となっている。まずは、予測することが大切なんだということを改めて認識させられた。この予測は、自分のガットにボールが当たる感触、ここから予測が始まる(本書、33)と田中さんは言われる。ややもすると、自分は、いいショットを打つことだけに集中していたのではないだろうか。私は、コーチからも「打ったらすぐに構えて」と言われ続けている。今では、コートに立つと、自分で「予測、予測」と言い聞かしてプレーしている。

本書では、理論的にテニスを分析し、ウィークエンドプレイヤーでも楽しめるヒントが多くあった。欲を言えば、確実に入るスライスサーブの方法などについて、もうすこしページを割いてほしかったなという気がした。
しかしながら、本書は、どっぷり文系の私でも理解しやすい内容であった。そして、今後のテニスプレーに活かせそうなものばかりであった。ぜひ、私のようなウィークエンドプレイヤーにおすすめしたい一冊だ。


2021年7月17日土曜日

ビジネスの未来

人間であるということは、まさに責任を持つことだ。 おのれにかかわりないと思われていたある悲惨さをまえにして、恥を知るということだ。仲間がもたらした勝利を誇らしく思うことだ。 おのれの石を据えながら、世界の建設に奉仕していると感じることだ。
アントワーヌ·ド·サン = テグジュペリ「人間の大地」(引用)ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す、著者:山口周、発行所:プレジデント社、2020年、121-122

最近、「脱成長」社会を謳う書籍が多い。戦後日本の経済復興と高度成長は、人々の物質的不足の解消をもたらし、幸福感ももたらした(我が国では、低い満足度を感じる人を大きく減らすことには失敗したが)。
一方、経済復興と高度成長は、大量消費・大量廃棄を是とし、持続可能な世界を否定する。また、高度成長期にみられた会社が従業員の面倒を見るといった「終身雇用」や「年功序列」は崩壊しつつある。さらに、昨今の新型コロナウイルス感染拡大が拍車をかけ、「経済成長」というゲームが終わろうとしている。

山口氏は、経済成長が終焉した新たな時代について、「高原への軟着陸」のフェーズに入ったと表現する。「高原」という言葉を聞いて、私は、かつて訪れた宮崎県にある高原の風景が脳裏に浮かんだ。高原とは、標高が高く、連続した広い平坦面を持つ地形である。そこでは、緑が広がり、心地よい風が吹き、自然と一体になれる。「高原」では、人間として最も価値のあることを実現する。それは、人と人がふれあい、喜びや美しいものをみたときの感動を共感し合うような社会であると想像する。

いままさに時代転換のときを迎えている。それは、一層、新型コロナウイルス感染拡大で拍車がかかったように思う。東京一極集中していた“職場”は、テレワークの普及とともに、人が地方に流れている。また、政府による度重なる緊急事態宣言の発令により、多くの業種が疲弊している。人口減少社会や非正規雇用の増大などの社会環境の変化により、経済成長を追いかけるには無理がある。いまこそ、まず、自分の心に豊かさをもたらす「高原」へと誘われる時がきたのだと感じた。

本書の中では、様々な引用文が登場する。その中で、冒頭に紹介した言葉は、私の心の琴線に触れた。このテグジュペリの言葉は、「高原」辿り着いた世界を上手く表現しているように思える。人々が自分の行動に責任を持ち、助け合い、分かち合い、持続可能な世界を構築していく。この助け合い、分かち合いの精神は、山口氏が提案するユニバーサル・ベーシックへとつながる。そこには、衝動に根ざしたコンサマトリーな経済活動を促進するために、誰もが安心して「夢中になれる仕事」を探し、取り組むための補償となるものである。


これからの時代、なにを求めるのか。それは、人間性を最重要視した新たなエコノミーの幕開けということが実感できた。そして、本書を読み、これからは、心地よい環境で、人間らしく生きたいと思った。


2021年7月10日土曜日

WE HAVE A DREAM

 「命は贈り物。だから決してあきらめてはいけないよ。」
昔、父にそう言われたとき、私にはその意味が理解できませんでした。(引用)WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGs,編:WORLD DREAM PROJECT、Director:市川太一、Co-Director:平原依文、発行所:いろは出版、2021年、492


地球は、「命の惑星」である。
改めて、そう感じさせられる1冊に出会った。
その本の名前は、「WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGs」である。本書では、人種、言語、文化が異なる世界201カ国、202人の若者たちが夢を語っている。

“WE HAVE A DREAM”と聞いて、私は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの演説を思い出した。1963年8月28日、職と自由を求めた「ワシントン大行進」の一環として25万人近い人々がワシントンDCに集結し、デモ行進をした。この日最後の演説者であったキングの行った「私には夢がある」(I Have a Dream)の演説は、独立宣言にも盛り込まれている「すべての人間は平等に作られている」という理念を網羅するものだった。あらゆる民族、あらゆる出身 のすべての人々に自由と民主主義を求めるキングのメッセージは、米国公民権運動の中で記念碑的な言葉として記憶されることとなった。1)

未だ、人種平等と差別の終焉を訴えたキングの夢は実現していない。それどころか、気候変動により、海水温が上昇し、住むところが海に沈むかもしれないと脅かされている島国。貧困などの原因で、適切な教育の場が子どもたちに与えられていない国々。そして、内戦やデモによって平和が維持できていない国々など、私たちの住む「命の惑星」が危機に瀕している。2015年、国連サミットにおいて、持続可能な開発目標が採択された。この17のゴールを定めたSDGsは、参加国が史上最大の規模となり、全世界共通の目標となった。いま、世界は、SDGsに対して、どのように考え、行動しているのだろうか。

朧気ながら、そう考えていたときに、WE HAVE A DREAMの本を手にとった。この本では、若者たちが、持続可能な世界を構築すべく、将来の国に、そして世界に対して夢を語っている。多くの若者たちが真剣に自分の国や世界を考え、行動している。読み進めていくうちに、胸が熱くなるのを覚えた。

ウルグアイ代表のソル・スカビノ・ソラーリ(29)さんは、「あらゆる命が共感の上に成り立っている世界について学び、その実現を夢見ている」(本書、307)と語っている。私は、さりげない若者の一言であるが、とても意義深い言葉だと思った。彼女は、社会学者として、飢餓撲滅の取り組みなどもしてきた。彼女は、共感することにより、人々とつながり、憎しみと恐れを思いやりに変えるのを助けると考えている。そのことにより、世界は、心身ともに苦しむ人々が減少していくと主張する。まさに、そのとおりだと感じた。私は、経済成長を目指し、人々は競争社会に揉まれながらも、物質的な豊かさを求めるが故に、代償としてかけがえのないものを失ってきた気がしている。彼女の主張を聞いて、いま、人間のエゴを捨て、共感しながら、思いやり、配慮に基づいた行動をするときがきているのだと感じた。

冒頭に記したのは、北朝鮮代表のヨンミ・パク(27)さんの言葉だ。北朝鮮で生まれ育った過酷な環境を赤裸々に述べている。いま、彼女は、母になり、お父さんから言われた「命の大切さ」の意味が理解できるようになったと言う。彼女は、遠く離れた異国の地から、いまでも母国のことを思い、夢を語っている。一人の女性の夢に触れ、ここまで人間は、強くなれるのかと思った。

若者たちの夢を、単なる夢として終わらせてはいけない。キング牧師の演説では"I"であったが、この本は"WE"となった。彼ら、彼女らの夢は、一言で言えば、この地球上が持続可能なものであり、そこに住む人達が共感しあうものにすることではないだろうか。
国境を超えた若者たちの夢が共感しあうことで、再び、『命の惑星』の輝きを取り戻さなければならないと感じた。

1)Website:AMERICAN CENTER JAPAN 


2021年7月3日土曜日

SXの時代

先入観にとらわれず、最前線の生の情報を知り、先々を見通すために、経営トップは社員とどんどん対話すべきだ。(中略)対話によって世界中の社員とサスティナビリティ経営に関する情報と危機意識を共有し、変化を先取りしていかないと変化の激しい時代に生き残ることはできない。サステナビリティこそ経営戦略そのものだ。
           新浪 剛史氏 (サントリーホールディングス 代表取締役社長)
(引用)SXの時代 究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営、著者:坂野俊哉、磯貝友紀(PwC Japanグループ)、発行者:村上広樹、発行:日経BP、発売:日経BPマーケティング、2021年、328

私は、「SX」という言葉に初めて出会った。
SXとは、サステナビリティ・トランスフォーメーションのことだ。今、世界で急速に広がっているという。サステナビリティの先進企業は、次々とCO2(二酸化炭素)排出ゼロ(ゼロ・エミッション宣言)を目標に打ち出している。それは、取引先を含めたサプライチェーン全体で、事業ポートフォリオやビジネスモデルを根本から見直し、事業自体を再創造しようとしているという(本書、4)。
SDGsの動きなどもあり(「SXの時代」の筆者らは、SDGsが示唆する迫りくるリスクとその背後にある大きな機会を真剣に考えてみることが重要と説く)、サステナビリティ経営が注目されている。
では、なぜ事業者は、サステナビリティ経営を目指さなければならないのか。
また、サスティナビリティ経営を導入するだけのメリットが得られるのか、といった疑問が湧いてくる。
坂野氏と磯貝氏が所属するPwC Japanグループによる「SXの時代(日経BP,2021)」を読んでみることとした。

まず、そのとおりだなと感じたことは、本書の冒頭に紹介されている親亀、子亀、孫亀の話である。
親亀は、環境価値。
子亀は、社会価値。
孫亀は、経済価値を表す。
親亀の上に子亀が乗り、さらにその上に孫亀が乗る。必然的に、親亀(環境)がコケたら、みんながコケてしまう。特に孫亀だけを可愛がる企業は、親亀と子亀の過剰な負担を軽視しているため、長寿命化を図ることができないと感じた。

そのなかで、Appleを取り上げた事例は、非常に共感した。私も最近、iPhoneを買い替えたのだが、初めてiPhoneをネットで買うこととした。その際、Appleは、今まで使用していたiPhoneの下取りにも積極的であることに気づかされた(Apple社のサイトは、購入のみならず下取りの案内も親切であった)。事実、Appleは、「100%(完全循環型)リサイクルの実現」と「サプライチェーン全体でCO2排出量ゼロとすること」を宣言している。そのため、Appleは、将来的にすべての製品とパッケージを100%リサイクルされた素材と再生可能な素材を使ってつくる開発を進めている。それは、Appleが限りある資源を用いて製造している以上、サスティナビリティを無視して事業継続を行った場合、最後は自分で自分の首を絞めることを知っているからだ。少しなら環境に悪いことをしてもいいという考え方で事業を行った場合、最後は、ブーメランのように自分に返ってくる。サスティナビリティ経営をしていく上では、少しぐらいなら許されるだろうという気持ちを排除し、徹底的に地球に優しい経営をしていく心構えから始めなければならないと感じた。

また、サステナビリティ経営には、4つの型がある。その中で、本書で勧めているのが「ミッション・ドリブン型」と言われるものだ。これは、その企業が掲げるミッション・ビジョンそのものが「環境・社会に関わる課題の解決」であり、企業トップが「このような社会の課題を解決したい」という強い信念を持ち、トップのリーダーシップを原動力に、事業を推進している型のことだ(本書、148-149)。
しかし、目の前には、企業の”利益追求”という永遠の課題が突きつける。A(環境)を実現しようとするとB(利益)が犠牲になるという、いわゆる「トレードオフ」に囚われていては、前に進めない。本書では、トレードオンを阻む5つの壁も紹介されているが、例えばライトグリーン層を狙うなど、トレードオンに方向を変えていかなければならない。そのため、トレードオンに方向を変えるためには、事業者の発想の転換が求められる。目先の利益ばかり追求していれば、中・長期的な利益を損失することになると感じた。

そのために、本書では、事業者らが、自分自身の長期到達点である北極星を見つけることを提案する。もはや、環境や社会の問題は、地球に住む誰もが避けて通れない最重要課題に位置づけられる。事業者は、ビジネスの変革やイノベーション創出を成し遂げ、親亀と子亀と共存しながら利益を生み出す北極星へと向かう。それと同時に、消費者も、例えば、商品購入時に環境に優しい製品の選択をする。つまり、一人ひとりが「グリーンコンシューマー」であるという意識を持たなければならないのだと感じた。

本書では、各国の豊富な事例とともに、経営者らも登場する。冒頭に紹介したサントリーホールディングスの新浪代表取締役社長もその一人だ。新浪社長は、近年の世界各国による異常気象や自然災害の激甚化を危惧されている。そして、かつて在籍されていたローソンでは、気温の変化に連動して商品を販売することが難しくなったことから、「これは地球からのメッセージだと感じた(本書、322)」と言われる。これからの時期(2021年7月に本ブログを執筆)、梅雨も本格化し、出水期と言われる時期に突入した。毎年、各地で豪雨災害のニュースが流れる。すでに異常気象が当たり前という意識では、未来に地球を残せない。

そんな中、スズキをトップとして40年以上率いてきた鈴木修会長が2021年6月25日の定時株主総会後に相談役に退かれるというニュースが流れた。かつて、鈴木修会長も次のように言われていた。
「地球温暖化の問題は、差し迫った危機だ。スズキとしても脱炭素に向けて協力しなければならない。できるかどうか分からないが挑戦する。」1)
その後、鈴木会長は、限りある任期の中、脱炭素への対応を盛り込んだ中期経営計画づくりを急ピッチで推し進めた。
地球上で、なにか事業を行うには、地球に優しくしなければならない。また、地球からの恵みも無駄にしないことも必要だ。そうしなければ、サステナビリティな経営は不可能である。当たり前の答えだが、本書を読み終えて、そう、感じた。

最後に、かのレイチェル・カーソン女史の「沈黙の春」に登場するシュヴァイツァーの言葉を思い出す。

「未来を見る目を失い、現実に先んずるすべを忘れた人間。そのゆきつく先は、自然の破壊だ。」
このような警告を噛み締めながら、今を生きる私たちは、サステナビリティ経営を実践していく義務があるのだと思うに至った。

1)2021年6月25日付 日本経済新聞朝刊(取材は2021年2月)、中部経済 39面

「伝える力」

本書は、「伝える力」を世界で一番簡単に習得できることを目指しています。
(引用)1分で話せ、著者:伊藤羊一、発行所:SBクリエイティブ株式会社、2018年、9

職場では、常に「伝える」ことが求められる。
これは、職階が上がるにつれ、「伝えること」が減るかと言われたら、大間違いだ。逆に、歳を重ねるごとに、上層部に伝えなかればならない機会が増えてくる。
しかも、上層部は忙しい。短時間で、しかも的確に、論理的に伝えることが求められる。
中間管理職であれば、部下からの伝え方を参考に、自分は、上層部にこのように伝えようと学習する。しかし、それには、限界があることに気付かされた。そんなとき、一冊の本に出会った。ヤフー株式会社 Yahoo!アカデミア学長である伊藤羊一氏による「1分で話せ(SBクリエイティブ株式会社、2018年)だ。

まず、本書を読み終えて感じたことは、「読みやすい」ということだ。冒頭にも引用したが、伊藤氏は、本書で「伝える力」を世界で一番簡単に習得できることを目指していると言われる。読み始めたら、時間も経つのも忘れ、2時間もあれば全て読み終えてしまった。

そんなに早く読み終えてしまったならば、内容的にどうであろうか。
一言で言えば、「参考になった」ということだ。
世には、ロジカルシンキングの本も数多く出版されている。しかし、伊藤氏は、ピラミッドストラクチャーを用い、短時間で、しかも的確に、論理的に伝えることを提案する。簡単かつ実用的なこのピラミッドストラクチャーは、自分自身も”使える”と感じた。常にピラミッドストラクチャーを自分のフォーマットとして、頭に入れておこうと思った。

これだけではない。
ピラミッドストラクチャーは、さらに応用が効く。
よく、相手からの「予期せぬ質問」によって、頭が真っ白になることがある。
そのときにも、ピラミッドストラクチャーは、有効であると感じた。
この「予期せぬ質問」は、職階が上位になればなるほど、遭遇する機会が増える。
常に、自分の”武器”として、ピラミッドストラクチャーを活用していこうと感じた。

一方、伊藤氏は、プレゼンの仕方などの解説もしてくれる。
パワーポイントの作り込みの仕方などもわかりやすい。
また、実際にプレゼンするときの態度なども参考になる。
伊藤氏は、ほかにもプレゼン関連の書籍を出版されているようである。
後日、拝読させていただきたいと思った。

「1分で話せ」というのは、まさに的を得ている。
伊藤氏も「人は、相手の話の80%は聞いていない(本書、17)」と言われる。
私も経験上、部下は「上層部に話しておきました」と言っても、上層部からは「聞いていない」と言われることも多々ある。
短時間で、しかも的確に、論理的に。
本書を読み、伊藤氏から、その答えを得ることができた。