2023年4月22日土曜日

誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命

 鬼のようなリーダーシップを発揮するには、”覚悟“と”能力“の両面において、周囲よりも突出した強さを持つことが前提になります。
(引用)誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命 著者:森岡毅、日経BP、2020年、182

森岡毅氏といえば、USJの再建で有名だ。その手法は、コストを掛けずに、ジェットコースターを後ろ向きに走らせるなど、アイデアを連発したものであった。また、森岡氏は、グリーンピア三木と呼ばれた年金福祉事業団施設(現在はネスタリゾート神戸)を再建したことでも有名だ。その森岡氏によるリーダーシップの書籍を偶然、書店で見つけた。タイトルは、「誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命(2020年、日経BP)」である。

リーダーシップに関する書籍は、ハーバード・ビジネス・レビューを始め、数多く存在する。しかし、森岡氏自身が「実務者が、本当に本人の言葉で書き綴った書籍は極めて稀(まれ)」と言われるように、数々の難題を解決してきた森岡氏ならではのリーダーシップとは、どんなものであるのか。私は、森岡氏のリーダーシップの真髄に迫るべく、本書「誰もが人を動かせる!」を拝読させていただくことにした。

まず、森岡氏によるリーダーシップを身につけることによって得られる絶大な3つのメリットが面白い。当然、森岡氏が言われるとおり、リーダーシップを身につけることは、「一人ではできないことでも実現できるようになる」こと、「劇的に経済的に豊かになっていく」ことは理解できる。3つめは、「自分の人生を生きる幸福感を激増させる」ことが可能になるという。さらに森岡氏は、「この宇宙は、本当に自分を中心に回っていたんだ」と思えるようになると言われる。本文中、この表現に出会い、私は正直、虚を衝かれた。故稲盛和夫氏は、「謙虚」、「利他の心」を重んじる。それは、天の代わりに、地上にいる私たちが選ばれ、リーダーシップを発揮するという中国の経書にもつながる考え方だと思う。しかし、森岡氏は、自分を中心として天が回っているといった考え方は、例えばイーロン・マスク氏のような西洋的なリーダーシップの考え方に近い気がしたと同時に、新しいリーダーシップの考え方だと感じたからである。

森岡氏のなかで共感したことは、3WANTSモデルである。これは、リーダーシップを発揮したいとき、「どうしても実現したいと本気で思える目的が明確であること」が大切であると森岡氏は説く。そして、これこそが「人を動かす根源」でもあると言い切っている。そのためには、3つの条件を同時に満たすことが必要で、3WANTSモデルの登場となる。この3条件とは、「巻き込みたい人々にとっても魅力的である」こと、「集団としての能力を必要としている」こと、そして「あなた自身が本気になれる」こととしている。この3WANTSモデルを聞いて、なるほどと感じた。仕事柄、私は、大学やコンサルトが連携する仕事も多い。しかし、私たちは、自分たちが困っていることの課題解決を提案しても採用されるケースが少ないことも実践知で知っている。それは至極当然で、相手方にとっても魅力的であると同時に、集団で能力を必要としているかどうかを満たしていなければ、相手は動かない。

森岡氏による書籍においては、「リーダーはやみくもに褒めることを主眼に置くべきではない」という視点も興味深い。本書でも触れられているが、「デール・カーネギー」による「人を動かす」では、「人を褒めること」が最も大切であると説いている。私は、自分の子供達も甘く育てている。つまり、「褒めて育てる」である。昨今、部下に対して叱ることも少なくなってきた。これは、叱るとパワハラと呼ばれ、叱られた部下も精神的に弱いのではと感じてしまうからである。それは、学校教育現場も同じで、部活動においても先生から叱られることはない。では、「褒める」ことにより、人は動き、伸びるのだろうか。

出口治明氏は、「座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」 (角川新書) 新書 (2019年)」の中で、心理学者マーシャル・ロサダによる「ロサダの法則(3:1の法則)を用い、「1回叱ったら3回以上褒めることが必要で、それ以上叱ってしまうと、人は自信を失ってしまう(108)」と言われる。いずれにせよ、「褒めるだけ」、「叱るだけ」という育て方は、自分の子供にも、部下にも共通することなのかもしれない。そのロサダ比が適切であるかどうかは、自身の実践知によって導き出すことが必要なのだろう。ただ、偏りはよくないということを森岡氏から学んだ。

森岡氏は、新型コロナウイルスのことも振り返り、危機時のリーダーシップにも触れている。人間は、恐怖によって、支配されてしまう。つまり、森岡氏は、「どこまで世間の非難に耐えられるのか」といった「社会的恐怖」に立ち向かうことの大切さについて解く。このことは、大規模災害時においても言える。近年、地球温暖化の影響等により、全国の風水害被害も甚大化している。その際、基礎自治体である市町村は、災害対策基本法に基づき、避難指示や緊急安全確保などの避難情報を発令する。その際、リーダーである首長は、寄せられた気象情報や被害状況をもとに決断を迫られる。そのとき恐らく首長らが考えることは、避難情報を発令しないことのリスク、つまり住民やマスコミからの非難を避けることを主眼において考えてはならない。あくまでも情報を取捨選択し、現在の状況と今後の見通しを総合的に判断し、本当に必要な発令をしなければ、住民は、乱発される避難情報について、“オオカミ少年”になってしまう。備えと同時に、どこまでのリスクに耐えられるのか。私は、森岡氏が責任回避だけのリーダーシップは必要ないと解いていると理解した。

私は、本ブログの冒頭に、森岡氏によるリーダーシップに必要な要素、つまり”覚悟”と”能力“について引用した。実践知によって得られた森岡氏のリーダーシップ論は、「自分が動くこと」ではなく、「人を動かすこと」についてのノウハウであった。そのために、リーダーは、リーダーシップを発揮し、人に動いてもらい、一人ではなし得なかった域に到達する。森岡氏によるリーダーシップは、数々の事業再生の経験から得られた貴重なものばかりだった。

リーダーは、”覚悟“と”能力“を持つべし。

私も肝に銘じておきたい。


2023年4月8日土曜日

社会の変え方 

 困っている市民に 手を差し伸べるのが 行政の使命・役割
(引用)社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ、著者:泉 房穂、株式会社ライツ社、2023年、268

明石市は、全国の地方公共団体にとって、“未来への希望”なのかもしれない。

2014年、日本創生会議(座長:元総務大臣増田寛也)が提出したいわゆる「増田レポート」は、地方公共団体関係者のみならず、日本全体に大きな衝撃を与えた。この「増田レポート」では、896の市町村が「消滅可能性都市」であるとした。つまり、市町村全体の49.8%,つまり半数近くの市町村が「消滅」と名指しされたことになる。

少子高齢化は、もはや我が国の最重要課題だ。その状況下において、明石市は、10年連続人口増(中核市中人口増加率は全国1位)、市民満足度91.2%と驚異の数字を叩き出している。その結果、明石市では、子ども施策から始めることで若い世代にも安心が得られ、人口が増加し、にぎわいが創出され、結果的に財源が増加(明石市は税収8年連続増、地価7年連続上昇)するという好循環が創出されている。

その好循環を生み出すべく、奮闘されてきたのが明石市長の泉房穂氏だ。「強行」というイメージが強い泉氏でもあるが、なぜ明石市において好循環を生み出すことができたのだろうか。その秘密を探るべく、泉氏による最新刊「社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ(株式会社ライツ社、2023年)」を拝読させていただくことにした。

本書は、序章から惹き込まれていく。泉氏の明石市における政策の根底にあるもの。それは、「一生起立不能」と言われた泉氏の弟さんの存在が大きいことが分かる。つまり、泉氏は、幼少期から弟さんの成長を支えることで経験した、社会に対する様々な”違和感“を排除すべく、明石市において様々な政策打ち出してきた。また、その弟さんの成長を見守ってきた泉氏は、ある日、次のことに気づく。それは、泉氏が「弟のため」と言いながら、弟を支えている自分自身が周りから笑われたくないがために、弟の行動を制限してしまいそうなことがあったことだ。ただ、当の本人は、自分の意志で、健常者と同じように行動したいこともある。そのことに気づいた泉氏は、「本人の幸せを決めるのは、他の誰でもなく、本人」と言われる(本書、29)。そのことを理解することにより、真の「寄り添う」ことができるようになる。市民一人ひとりに「寄り添う」ことを理解して、政策に結びつけることは、当然ながら、市民の満足度向上にもつながる重要な視点だ。では、泉氏は、明石市でどのように、市民に「寄り添う」政策を実行してきたのだろうか。

まず、明石市は、18歳までの医療費無料化を始め、第2子以降の保育料など、5つの無料化を実施してきた。中核市規模の地方公共団体において、ここまで子ども施策に力を入れているケースは、正直、珍しいと思う。しかし、泉氏は、「(これらの施策の実施が)遅すぎてごめんなさい」と言われる。その理由として、ほとんどの日本以外の他の国では、これらの施策が当たり前のように実施されているからだとしている。では、子育て支援は、国の施策であるべきなのだろうか。事実、泉氏も「ベーシックな子育て施策ぐらいは、国が全国一律で実施すべき(本書、66)」と主張されている。

我が国の少子化問題では、20代の人口が2025年ごろから急減すると言われている。政府も異次元の少子化対策を実施すると言われ、児童手当の拡充や学費軽減などが期待される。これは、雇用の不安定化や賃金が伸びないなどの理由があると考えられる。最近では、民間企業においても少子化対策の動きがある。トヨタ自動車は2023年3月15日、2023年度の年春闘で賃上げや一時金の要求に満額回答し、妥結したと発表した。また、伊藤忠は、朝型勤務の導入などにより、「1.97(日本全体では1.30)」という数値を公表(2021年度)した。国のみならず、働き方改革や賃金向上などにより、出生率を上げていこうとする企業が増加してきている。そのとき、国や地方公共団体は、民間の動きとあわせ、一体的な施策も考えていかなければならないと思う。

泉氏は、弁護士のみならず、社会福祉士の資格も取得されている。また、各々の施策も、ただ、無償化すれば良いという考えではない。明石市では、「おむつ定期便」という子育て経験のある配達員が、0歳の子どもがいる家庭を月1回訪問して、おむつ(ミルクや離乳食も選択可能)を届ける行政サービスを実施している。これは、単なるバラマキではない。実は、児童虐待で亡くなる子どもの半数は、0才児であるという。その「おむつ」を配布することは、あくまでも「きっかけ」であって、訪問先で子どもが生まれたばかりの親を「孤立させない」ことが目的であるとする。また、泉氏は、どの無料化施策にも「所得制限なし」にこだわる。国においても2023年3月31日、少子化対策の「たたき台」として、児童手当の所得制限撤廃を公表した。先行していた明石市の政策に、国が追いついてきた形だ。

本ブログの冒頭には、国が新型コロナによる緊急事態宣言発出時(2020年4月16日)に、明石市独自の支援策を発表した際、その報道発表資料の最後に添えられていた泉氏による文章を紹介した。このとき、明石市は、市の独自支援策として、個人商店にすぐに100万円、ひとり親家庭にさらに5万円など、3つの緊急支援策を実施した。まさに、危機対応時においても、泉氏は、市民に寄り添っている。

本書では、泉氏が率いてきた明石市の数々の施策から、その行政の果たすべき使命と役割について、学ぶことができた。特に明石市では、市民に寄り添い、行政と市民の距離を縮め、特に困ってみえる市民に対して、手を差し伸べる姿勢が随所に見受けられた。本書では、まちに好循環を生み出すだすヒントだけではなく、泉氏からは、行政の本質を教わることができた。

地方自治法の第一条の二には、「 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として」とある。私は、少子高齢化の今だからこそ、地方公共団体が地方自治の原点に立ち返るときが到来しているのだと感じた。泉氏による著書には、地方自治の“原点”が詰まっている。本書は、そう思わせる、一冊であった。


2023年3月21日火曜日

シン・危機管理

 自然災害の発生を正確に予測することは難しい。そこを認めた上で、迫りくる災害や刻一刻と変わっていく状況を把握し、短期的なシミュレーションを随時アップデートしていくことで、人々の生命と安全を守る、「リアルタイム防災」という考え方にシフトしていくべきではないでしょうか。
(引用)シン・危機管理 企業が“想定外”の時代を生き抜くには?、著者:根来諭、発行:みらいパブリッシング、2023年、190

近年、リスクに対する考え方は、どの民間事業所、どの行政機関においても高まっている。まず、発生が懸念される南海トラフ地震については、関東から九州にかけての「太平洋ベルト地帯」に位置することから、経済損失額は、被害額が最大で220兆3千億円に上る(2013年内閣府専門家作業部会)とされている。また、風水害についても、地球温暖化の影響からか、毎年のように、各地で深刻な被害が発生している。さらに、新型コロナウイルスの影響により、私たちの暮らしは、3密(密閉、密集、密接)を避けた行動様式が推奨され、働き方も含めて一変した。そのほか、地政学リスクも際立っていることから、私たちは、日々、不安に怯えながらも、暮らしているというのが実情であろう。

一方、これまでの防災対策は、国や行政が主体で動き、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)からは、自助・共助の重要性も叫ばれるようになってきた。ただ、それ以降においても、防災分野に関しては、民間事業者の参入が乏しかったという印象がある。理由として、防災という分野は、“官”の領域が強く、マーケットとして成り立ちにくかったのではないだろうか。しかしながら、近年は、災害時におけるドローンの活用をはじめ、様々な企業が防災分野に参入しつつある。

Specteeという会社もその一つだろう。防災に携わっている方なら分かるが、Specteeといえば、SNSによる情報集約システムが有名だ。端的に説明すれば、住民がSNSに投稿した情報を地図上に表示させるということだろうか。具体的には、SpecteeのCOO根来氏が著された「シン・危機管理(みらいパブリッシング、2023年)」に記載がある。例えば、2021年6月18日に発生した札幌の住宅街でのクマ出没時には、住宅地ということもあり、住民らがスマートフォンでクマを捉えてSNSに投稿する人が多くいた。そこで、Specteeの利用客は、リアルタイムでクマの出没位置を把握することができた(本書、168)という。当然、大雨のときは、どこが冠水し、どこで土砂災害が発生しているかといった情報を、市民がアップしたSNSにより、速やかに自治体の防災担当者やマスコミ、そして住民らは災害情報を得ることが可能となる。根来氏によれば、SNSの情報を危機管理に活かす特性として、次の2点を掲げる。1点目は、「カバーの網羅性」ということだ。スマホが進化した現在、住民らは現場で写真を撮影し、SNSで情報発信している。つまりは、各個人が“監視カメラ”を持ち歩いているような感じだということであろう。2点目は、「事象の網羅性」ということだ。テレビやインターネットでニュースになりにくい事象についても、小規模な事象を捉えることが可能になる。

本書「シン・危機管理」は、危機管理について、分かりやすく解説されている。特に本書の大半は、BCP(業務継続計画)から構成されている。以前、私もBCPを作成した経験があるが、本書では、完全なBCP作成まで到達しないのかもしれない。しかしながら、本書では、BCPの意義から始まり、BCPの策定については、多くの紙面を割いている。そのため、初めてBCPを作成される方でも、BCPのイメージを掴みやすい工夫がなされている印象を受けた。また、以前のBCPの主流は、東日本大震災の影響を受け、主として地震対策に絞って策定されているケースも多かったのではないだろうか。根来氏は、オールハザード型(どのようなリスクにも対応できるもの)のBCP策定を訴えかけており、既にBCPを策定されている事業所においても有用となることが書かれていた。さらに近年、PDCAから、危機に対処するため「OODA(ウーダ)ループ」が注目されつつある。その記載も興味深かった。

本書の後半部分は、これからの防災対策についてである。サイバーフィジカルシステム、デジタルツイン、そしてSociety5.0との言葉が並ぶ。そこには、Specteeが考える新しい防災システムの紹介も掲載されていた。本書でも紹介されているが、私も国土交通省が公開している3D都市モデル「Project PLATEAU」に注目している。3D都市モデルによる浸水シミュレーションについては、私も大いに期待するところだ。ただ、私は、「シン・危機管理」については、3つの観点が必要だと考える。

1つ目は、各自治体の防災担当者が避難指示等を発令する際、「いかに今までの勘に頼らないか」といった点。

2つ目は、防災担当者の災害従事業務が合理化できるかといった点。

3つ目は、国の指摘する「避難しない人をどう避難させるか」という点である。

1点目については、例えば風水害時、一般的に河川が氾濫しそうなところを注視し、上流の今後の雨量を気にしながら避難指示等を発令すると思う。その際、各自治体では、あの場所で時間50㎜の雨量が観測されたから、河川のここの個所が危ないだろうといった「勘」に頼るケースが多いのではないだろうか。この「勘」が雨量計などのデータにより、確実な予測に繋がってくれることが必要だと考える。

2点目については、各自治体において、避難指示を発令するエリアを特定し、その世帯数(人口数)を算出し、記者発表資料を整えると同時に、避難所の開設準備にと多忙を極めると思う。その際、防災DXの推進により、少しでも災害対策本部の業務が合理化され、従事者の負担が減ることを望む。

3点目については、「自分は助かる」と勝手に思ってしまう正常性バイアスによる要因が大きいと考える。そのため、私は、本当に河川上流に位置するここの場所で、これだけの降雨が観測されたから、今自分たちの近くを流れている河川が氾濫するかもしれないといった情報に根拠を持つことが必要だと考える。迫りくる災害を「わが身のこと」として捉えられるようになれば、住民による自発的避難が促進されるのではないだろうか。

つまり、私は、住民、民間事業者、そして行政がともに”Win”の関係にならなければ、防災DXを駆使した「シン・危機管理」は、成り立たたなくなると考える。

冒頭、Specteeの根来氏の言葉、「リアルタイム防災」の個所を引用した。リスクが多様化、複合化、そして激甚化する時代に突入したからこそ、従来のリスクマネジメントでは、通用しない。新たな時代に即したツールを駆使することにより、従来存在しなかった新たな危機管理が誕生する。それにより、例えば、線状降水帯などによる局地的な豪雨については、刻々と状況が変化する。その際においても、自治体職員の負担が軽減されつつ、冷静に避難情報の発令がなされると同時に、住民も災害情報を見ながら自主的に避難行動を開始することが可能となる。そして、シン・危機管理に備えた民間事業者は、業務を継続することにより、被害を最小限に抑えることができる。私は、本書を拝読し、シン・危機管理の意義について、そう考えるに至った。

民間事業者や住民にとっても、国や行政にとっても、有益となる「シン・危機管理」。本書は、その幕開けを宣言するものだと感じた。


2023年3月11日土曜日

未来をつくる パーパス都市経営

 ウェルビーイングが高いまちとは「人々が助け合い、暮らしやすく、社会インフラや経済も維持でき、ずっと幸せが続くための好循環があるまち」です。
(引用)未来をつくるパーパス都市経営 健康、交通、観光、防災…新たなビジネスを生み、ウェルビーイングを高める方法、著者:西岡満代、発行:株式会社日経BP、2023年、74

最近、私は「幸福学」という言葉をよく耳にする。幸福学の第一人者、前野隆司氏(慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)らが昨年、「ウェルビーイング(日経文庫、2022年)」を出版されたのは、存じていた。世界で一番幸せな国・ブータンは、世界で始めて、国の発展を図る指針として、GNP(国民総生産)ではなくGNH(国民総幸福量)を取り入れたことで有名だ。我が国は、人口減少、インフラの老朽化、地域公共交通の撤退や縮小など、人口減少による悪循環に陥ろうとしている。その我が国で、果たして「幸せが続くまち」の実現可能性はあるのだろうか。その解に挑戦すべく、一冊の書籍が発刊された。その書籍のタイトルは、「未来をつくるパーパス都市経営(日経BP、2023年)」である。本書には、前述の前野隆司氏も登場しているという。また、「パーパス」は、直訳すると「目的」だが、最近注目されている「パーパス経営」とは、社会における企業の「存在意義」や「あるべき姿」を活動の指針に据え、この指針に基づいて経営戦略や事業戦略を立て、各種の事業活動を推進するというもの(本書、92)である。
では、「ウェルビーイングが高いまち」を目指すためには、なぜ「パーパス都市経営」を目指すべきなのだろうか。その解を紐解いていくことにした。

この書籍は、主として、著者の国際社会経済研究所の西岡満代氏を始め、前述の幸福学の第一人者の前野隆司氏、そして前富山市長の森雅志氏という三人がタッグを組んで展開されていく。まず、西岡氏が全体を監修し、前野氏とのコラボによってウェルビーイング都市とは、どのようなものかを定義づけていく。そして、パーパス都市経営が目指すウェルビーイング都市とは、少子高齢化を迎えても、「いつもさりげなく心身の健康を見守ってもられるまち」や、「ロボットやドローンが身の回りや社会インフラを支えてくれるまち」、さらには「地域の人たちとつながり、必要なときに助け合えるまち」ということが明らかになっていく。

そこで、前野氏の登場である。前野氏は、端的に幸せの4因子を次のように提唱される。この4因子とは、「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」そして「ありのままに」である。さらに、2020年にデジタル庁らが公表した地域生活のウェルビーイングを探るために開発したLWC指標に話が及んでいく。この指標では、「異地域生活のウェルビーイング指標」における8個の「幸せ要因」と2個の「不幸せ要因」な要因から成り立つ。ブータンのGNHにも似通う新たな指標の誕生によって、成熟した我が国においては、経済成長ではなく、新たな国民生活の質の追求を目論んだ新たな都市基準の指標が誕生したことになる。

そして、本書では、ウェルビーイングの高い都市経営を目指すべく、課題を解決する手段として、スマートシティを提唱する。スマートシティは、デジタル技術を活用した新しい街の姿のことを指す。パーパス都市経営とは、「まちの運営に経営の概念を持ち込み」、「その経営には自治体だけではなく、住民や企業も参画し」、「データを活用して課題の解決を図る」というものだ(本書、80)。

いま、私は、ソーシャル・インパクト・ボンド(以下SIB:Social Impact Bond)という手法に注目している。これは、2010年に初めてイギリスで始まった官民連携による社会課題解決のための投資スキームであり、官民連携のための仕組みの一つである。前述のとおり、各地方公共団体は、少子高齢化やインフラの老朽化と言った課題を抱える一方、税収の増加が望めないという悪循環に陥りつつある。そのため、SIBのようなスキームは、これから主流になっていくのだろうと考える。しかしながら、このスキームには、本書で言うパーパス都市経営にも言えることなのだが、「民間企業にとってもWinが必要」である。行政の資金繰りが苦しいから、民間企業に資金提供を頼るといった「一方的な行政側だけのWin」では、公民連携は、頓挫することになるだろう。いかに、民間資金も活用した「投資」や「回収」といった概念を公共セクターに持ち込むのかが鍵になると感じた。

本書では、西岡氏、前野氏に続き、前富山市長の森氏も登場する。森氏は、富山市において「コンパクトシティ」を掲げ、特徴的なまちづくりを推進したことで知られ、地方自治の世界では著名なかただ。森氏は、「データを活用すればまちを変えられる」としているが、その背景には、データに基づき政策を立案・検証する「EBPM(証拠にもとづく政策立案)」という考えがあると気づかされた。一見重要でないデータも収集し、データをどう使っていくかを考える。そして、そのデータ活用について、できる限り客観的に測定可能なアウトカム指標を設定し、実際の効果を検証することが感じた。私は、森氏の紹介する富山市の事例において、今後の私の仕事の参考になるものがあった。データは、このように使うべきなのだと、改めて感じさせられた場面であった。

私は、縁あって、昨年、宮城県山元町を訪れた。その際、地元のかたから「ミガキイチゴ」の話を伺った。このイチゴは、2012年1月に設立した農業ベンチャーであるGRAによるブランドイチゴだ。山元町のかたのお話だと、「一番高いランク『プラチナ』は高級店で1粒1,000円にもなる」とのことであった。現地でこの話をお伺いし、2011年の東日本大震災の爪痕が残る東北の地で、私は、このまちで一筋の光を見た気がした。本書においても、パーパス都市経営の先端事例として、この「ミガキイチゴ」も紹介されている。そのほか、まちの経営事例としては、せとうちDMOや柏の葉スマートシティコンソーシアム(千葉県柏市)なども紹介されている。さらには、書籍「Smart City 5.0 地方創生を加速する都市 OS(インプレス、2019年)でも詳述されている会津地域スマートシティ推進協議会の事例も紹介されるなど、先進的な事例が数多く紹介されている。

全てが好循環になってウェルビーイングを目指すパーパス都市経営について、私は先進事例なども目の当たりにし、その必要性を認識せざるを得なかった。人口減少や老朽インフラ問題など、地方都市の未来は、よく暗いと言われている。しかし、本書は、このようなネガティブな状況にさらされている地方都市に、新たな”希望”を見出していた。今後、本書は地方における、新たなまちづくりの経営教科書的な役割を果たしていくことになるだろうと感じた。

これからも、我が国に住むすべての人たちが、幸福感を味わいながら暮らしていくために。


2023年2月23日木曜日

マッキンゼーCEOエクセレンス 一流経営者の要件

 スティーブ・バルマーは、マイクロソフトCEOの座をサティア・ナデラへ譲り渡すときに次のように告げた。「大胆かつ正しくあれ、大胆でなければ、ここにいる間ほぼ何もできないだろう。正しくなければ、ここにはいられなくなるだろう」 
(引用)マッキンゼー CEOエクセレンス 一流経営者の要件、著者:キャロリン・デュワー、スコット・ケラー、ヴィクラム・マルホトラ、監訳者:マッキンゼー・アンド・カンパニージャパン、シニアパートナー・CEOエクセレンスグループ、訳者:尼丁千津子、発行所:株式会社 早川書房、2022年、60

書店で一冊の本に出会った。その名は、「CEOエクセレンス(早川書房)」だ。少し立ち読みをすると、本書は、「上場、非上場、非営利に関わらず、どんな組織のリーダーにとっても有用な指南書になる」と書かれている。私は、CEOではないが、かねてからリーダーシップの書籍を探していた。かつて私は、上司から「自分の役職より、1つか2つ上位の立場に立って行動をするといい」と聞かされていた。であれば、会社なり、非営利組織なりのトップは、何を考え、どのように行動すべきなのかということを知ること、また、トップのリーダーシップを身につけることは、管理職である我が身においても、一流の職場スキルを獲得することができる。しかも、世界3大戦略コンサルティングファームの一角と言われる米マッキンゼー・アンド・カンパニーの社員によって著されたものであれば、なおさらだ。本書では、ベストなCEOとして、ネットフリックスのリード・ヘイスティングス、マイクロソフトのサティア・ナデラをはじめ、日本からも資生堂の魚谷雅彦氏やソニーの平井一夫氏らが登場する。マッキンゼー・アンド・カンパニーは、これら超一流のCEOからヒアリングし、どのように果たすべき役割を引き出し、リーダーシップの真髄に迫っているのか。とても興味が湧き、早速拝読させていただくことにした。

本書では、CEOが果たすべき6つの責務について、触れられている。具体的には、①方向を定める、②組織を整合させる、③リーダーを動かす、④取締役会を引き入れる、⑤ステークホルダーと連携する、⑥自身のパフォーマンスを最大化するである。

私は、①の「方向を定める」から、本書の凄さに圧倒されてしまう。方向を定めるためには、3つの要素(ビジョン、戦略、リソース配分)が必要であるが、第1章の「ビジョン構築を昇華させるための行動習慣」から、ベストなCEOによる具体的なアドバイスが満載である。
特に役立ったのは、家電量販店ベスト・バイの前CEOユベール・ジョリーによる、正しい方向の決め方についての4つのアドバイス(本書、39)である。ビジョンの重要性を理解しても、具体的に、どう構築するかに戸惑うケースが多い。ジョリー氏によるアドバイスに基づけば、理想的なビジョン構築をすることが可能となる。

私の尊敬する京セラ創業者であり、JALを再生させた故稲盛和夫氏は、フィロソフィーを大切にし、社員に徹底的に浸透させた。第4章「企業文化を高めるための行動習慣」では、稲盛氏と同様の事例が紹介されている。例えば、KBCのヨハン・タイスは、「PEARL」と呼ばれる企業文化だ。具体的には、実行力(Performance)、権限移譲(Empowerment)、説明責任(Accountability)、対応の速さ(Responsiveness)、地域定着度(Local embeddedness)の頭文字を取ったものだ(本書、110)。私も多くの経営書を拝読してきたが、つまるところ、この「PEARL」に集約されるのではないと感じている。とりわけ、このPEARLのなかでも、地域定着度を見落としまうことが多いのではないだろうか。企業文化には、稲盛氏が大切にしてきた「利他の心」にもつながる、地域に定着し、他人の利益を最優先に考えることが何より大切であると考える。ヨハン・タイスによる「PEARL」は、まさに真珠のごとく、企業文化の輝きを増すものだと感じた。

また、自身がCEOでなくとも、第8章からの「チームワークを高める習慣」からも学ぶことが多い。管理職ともなれば、部下に仕事をお願いする立場になる。その際、GMのメアリー・バーラによる「今、何を変えるのかと、なぜそうする必要があるのか」を(部下に)わかってもらうというアドバイスは、とても重要だ(本書、182)。やはり、いま私たちが「どこ」へ向かい、そのために「なに」をしなければならないのかというのは、CEOなり、組織のリーダーである管理職の責務である。その責務をしっかり把握し、実際に動いてもらう部下に仕事の意義を説明しなければ、部下のモチベーションは上がらないし、成果もでてこない。また、先ほどのヨハン・タイスのPEARLの一構成要素として、「対応の速さ」があった。スピードは何事も大切であり、ICICIのK・V・カマートによる「何かをするのであれば90日以内に行う。そうできないのであれば、やらない」という「90日ルール」も役に立つ。

実際、私にも仕事上での経験がある。経営トップ層から、ある課題解決を言われていた。これは、自身の部署だけでは、解決できないものであった。私は、課題解決のため、他部署との協議を重ねた。しかし、他部署に考えてもらうところの返事が中々こないという事例があった。もちろん、私は、他部署のせいにすることもできたのだが、トップ層から指示を受けたのは、私たちである。結果、私たちは、そのプロジェクトの進行を大幅に遅らせてしまう事案があった。この90日ルールを聞いて、私は、どんな些細な仕事でもToDoリストに書き込み、期限が内容に見えても90日間で結論を出すようにしようと誓った。

本書では、マイクロソフトのサティア・ナデラからも学ぶことが多い。どうして、優秀なCEOは、こんなにも分かりやすく、しかも確固たる信念を持っているのだろう。例えば、ナデラは、「思考、言葉、行動」の一致が信用を得るという。これは、ヒトだけではなく、企業にも当てはまるという。ナデラのアドバイスは、本書に登場するどれも私にとって珠玉の言葉であった。一流のCEOたちは、短い言葉で、人々を導き、習慣や行動までを変えうる力を持っている。そう、思わずにはいられなかった。

本書は500ページ近くある。でも、私は、1週間もあれば、普通の書籍なら読破してしまうだろう。しかし、「マッキンゼー CEOエクセレンス」は違った。ページをめくるごとに、ベストなCEOたちが登場し、世界的なリーダーシップを身につけるべく、様々なアドバイスを惜しげもなく披露してくれている。もう、リーダーシップ関連の書籍は、この一冊で十分ではないかというぐらい、本書は、投資価値のあるものだ。

冒頭、「本書は、上場、非上場、非営利にかかわらず、どんな組織のリーダーにとっても有用な指南書になりうると考えている。」と紹介した。

まさに、そのとおりだと思う。

久しぶりに、何度も読み返したいという書籍に出会えた。

「大胆かつ正しくあれ。」

これからのトップリーダーたちに、ぜひ、本書を強くオススメしたい。

2023年2月12日日曜日

最高経営責任者(CEO)の経営観

 人間は誰もが自分の人生のCEOであり、CEOの経営観は、すべての個人・組織・社会に関係がある。
(引用)最高経営責任者(CEO)の経営観 夢・理想の未来を拓く実践的技術、著者:澤 拓磨、ダイヤモンド社、2022年、6


「最高経営責任者(CEO)の経営観 夢・理想の未来を拓く実践的技術(ダイヤモンド社、2022年)」は、株式会社TS&Co創業者兼代表取締役最高経営責任者(CEO)の澤拓磨氏によって著された。

 なぜ、CEOでもない私が本書に惹かれたのか。理由は、2点ある。

1点目は、私もこの歳(50歳)になってくると、TOPが何を考え、どのように経営しているかということを知っておく必要があるということ。

2点目は、リーダーシップやマネジメントについて、改めて“学びたい”とう思いに駆られたからである。

 著者の澤氏は、異色の経歴の持ち主だ。澤氏は、サッカーJ2の練習生としてプロサッカー界で生きていこうとされていたが、ある日、「大変残念だが選手契約をしない」と言われてしまい、突如、サッカー界を去ることになった。それから、経営への道を決断し、すでに15年の実践を積んできたという。

 本書を拝読し、まず私が驚かされたことは、澤氏による15年の会社経営で、ここまでの幅広い見識が得られるのかということである。澤氏は、グロービス経営大学院大学でMBAを取得されたとのことであるが、本書に書かれていることは、教科書どおりのことではない。

 例えば、澤氏は、2020年代以降の経営として、情報化の進展をあげる。澤氏の言われるとおり、情報化のメリットとしては、インプットの質向上や想像を超えたアウトプットが可能となる。しかし、興味深いことは、デメリットによるブラックスワン(領土紛争、テロ、パンデミックなど)の影響も重大であると指摘していることだ。現在、ロシアによるウクライナ侵攻においても、ニュースなどは、武力攻撃が取り出たされているが、一方では、ハッカーなどの情報戦争とも言われている。まさに、情報に対するリスクマネジメントでは、これからの経営で、より大きな課題となるであろう。

澤氏による経営観は、単に利潤追求にとどまらず、他の偉大な経営者と同様、科学・哲学・神学の礎が重要であると指摘する。さらには、全く経営とは関係ないと思われるリベラルアーツにまで話が及ぶ。リベラルアーツとは、その名のとおり、”自由に生きる技術“であるが、澤氏による経営観は、リベラルアーツが志向する最終地点であり、自然科学→人文科学→人生観→世界観→経営観という思考プロセスを経る(本書、48)としている。それは、澤氏が言われる、CEOの醍醐味として、“未来への自由と責任を享受できること”へつながっているのだと感じた。

そして、澤氏によるリーダーシップとは、この”未来への自由と責任を享受できること“と”約束した結果に引き上げる行動“であるという。具体的にどのように行動すべきかについては、本書に譲るが、このリーダーシップの定義は、単純そうにみえて、非常に重いものだと感じた。

実は、CEOでない私が本書の購入を決めたのは、冒頭に記した2点の理由のほかに、第3章の「CEOが描く2100年までの未来像」に惹かれたかもしれない。第3章では、2100年までの各年代において、CEOが認識しておくべき7つのメガトレンドが掲載されている。

 このうちの一つ、人口動態の変化については、特に私たちが意識しなければならないメガトレンドであろう。あの中国ですら人口減少段階に入り、私たちは、我が国をはじめとした先進諸国による人口減少に目を奪われがちである。しかし、世界の重心は、どのように移動してくのか、また、そのトレンドから考えうる新たな経営機会や公共政策は、何かを考える必要がある。現実を直視すること、そして私たちの力では変えられない流れを汲んで、新たな施策を講じていくこと。当然のことであるが、CEOは、時代の流れに敏感でなければならないということを改めて感じた。

澤氏は、「すべての人間が、自分の人生のCEOである」と言われる。まさに、自分の人生は、私たち一人ひとりの価値観、意義、哲学に基づいて行動している。そして、自分の人生に約束した結果を出し続けていくことが求められると思う。

澤氏による言葉に触れ、私は、自身の人生のCEOであると認識を新たにした。そのため、いま置かれている場で”約束”を果たすことにより、自分の人生を豊かにすると同時に、私たちの住む社会をより良いものにしていかなければならないと強く思わずにいられなかった。

澤氏は、2020年代以降を牽引する、我が国の若き経営リーダーの一人であると感じた。

澤氏の益々のご活躍をお祈り申し上げます。

2023年1月14日土曜日

PURPOSE MODEL(パーパスモデル)

 私はパーパスでつながる人の連帯を「パーパスフッド」と呼んでいる。英語で書くと「PURPOSEHOOD」であり、ここでの「HOOD」はつながりや連帯のことを指す。
(引用)パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた、著者:吉備友理恵・近藤哲朗、発行所:株式会社学芸出版社、2022年、202

最近、よく「パーパス」という言葉を耳にする。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューにおいても、「PURPOSEパーパス 会社は何のために存在するのか あなたはなぜそこで働くのか(2021/10/6)」や、「パーパス経営(2022年6月号)」など、「パーパス」という言葉は、マーケティングの世界において、注目を浴びている。

このたび、利益の最大化を求めるビジネスモデルから、経済性と社会性を両立する目的でつながり、新しい価値を「共創」するという、「パーパスモデル(株式会社学芸出版社、2022年)」なる書籍が発刊された。

昨今、私の仕事も、企業や行政、大学などの研究機関や専門家、そして市民らと関わる仕事の度合いが増してきた。このパーパスモデルとは、パーパス(より良い社会を実現するための行動原理)を中心とした共創プロジェクトの設計図であるという。その設計図であるパーパスモデルは、鮮やかな4色から成り立っており、まるで吸い込まれるかのように見入ってしまう魅力もある。

では、なぜ共創プロジェクトの設計図が必要なのであろうか。

その本題に入る前に、パーパスモデルの作り方は、極めてシンプルだ。主として、基本、円形で成り立っており、図の中心にプロジェクトのパーパスである「共通目的」、周囲にその共通目的の下に集う「ステークホルダー」を書く。そのステークホルダーを属性に4色に塗り分けながら、個々のステークホルダーの「役割」と「目的」を描いていく。

次に、本書には、具体的なパーパスモデルも多数紹介されている。個人的には、世界遺産を舞台に海洋保全と発信に取り組む「宗像国際環境会議」の例が参考になった。
この会議は、行政、大学、企業、漁協・観光協会、宗像大社など、17のステークホルダーたちが年に1回集い、海の環境会議を議論する。そして、海の環境を守るため、議論だけでは終わらず、それぞれのステークホルダーたちが共創して海岸清掃や竹漁礁(たけぎょしょう)づくり、さらには世界遺産の観光と環境保護の活用を同時に実践するネットワークまで誕生したという。
その共創の主体であるステークホルダー、そしてそれぞれの役割と目的を明確にし、一つにまとめたのがパーパスモデルであると言えるだろう。そして、パーパスモデルを俯瞰すると、そこから新しい価値を生み出す可能性が無限に広がっているような宇宙的な感覚を覚えた。

しかしながら、本書の真骨頂は、本書の後半ではなかろうか。そこには、より良い共創を実現するためのポイントが列記してある。
いま、私は、ある共創モデルを立ち上げようとしている。そのため、本書の前半部分だけを読んでパーパスモデルを試作してみた。しかし、パーパスモデルの鮮やかなイメージばかりが先行してしまって、どうも違った。そこで、本書の後半部分に触れられているポイントを踏まえ、再度、パーパスモデルを作り直した。やはり、パーパスモデルは、あくまでも共創するための手段であって、目的ではないと思う。パーパスモデルの作成過程において、しっかりと手順を踏み、思考を深めていくこと。そしてなぜ、多様なステークホルダーたちが、一つの大きな目標(社会的課題の解決)に向かって共創し、新たな価値を生み出すことを視野に入れて進めていくことが肝要であると感じた。そこに、パーパスモデルが誕生した存在意義があると思うに至った。

本書を拝読し、今後、新たなパーパスモデルが次々と誕生してくのではないかと感じている。
理由として、私たちが解決しなければならない社会的課題は、今後益々多様化・複雑化していくと考えられるからだ。これからのビジネススキルの一つとして、「パーパスモデル」は有効であると感じている。今後、私の仕事を進めていく上で、欠かせない一冊となった。