2024年5月25日土曜日

憬れをやめる。

 「栗山ノート2」は、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で侍JAPANを率いて見事に世界一を成し遂げた名監督、栗山英樹氏による著書である。この本は、栗山氏の深い洞察と感動的なエピソードが詰まった一冊だ。 私は以前、「栗山ノート」を読んだことがあり、その中で栗山氏が古典の言葉をいかに日々の指導に活かしているかを知ることができた。その思索と行動の源泉を探ることは非常に興味深かった。そして、今回の「栗山ノート2」では、彼がWBCという大舞台でどのようにチームを導いたのか、その具体的な過程がさらに深く描かれている。 

まず、栗山氏の見識の広さには改めて驚かされる。孔子の論語や易経といった中国古典、渋沢栄一の「論語と算盤」、森信三先生の教え、さらには吉田松陰まで、広範囲にわたる古典の知恵が本書に散りばめられている。特に「呻吟語(しんぎんご)」の「深沈厚重(しんちんこうじゅう)なるは、是れ第一等の資質なり。」という言葉は、WBCの記者会見に臨む際に栗山氏が胸に刻んでいたものだ。これは「物事を深く考えて、重厚な振る舞いをすること」を意味し、現代においてもその価値は色褪せない。栗山氏は、頭の回転や弁舌の才よりも、深沈厚重の姿勢を重視することが、リーダーとしての本質だと考えている。

 また、厳しい決断を迫られる監督業の中で、栗山氏は常に選手の将来を見据えた判断を下している。その一例として、鈴木誠也が左脇腹の違和感からWBC出場を辞退する場面が挙げられる。選手の悔しさと栗山監督の心の葛藤が描かれており、監督が下した決断は、安岡正篤氏の高弟といわれた伊藤肇(はじめ)氏の教え「この瞬間を乗り越えてきた人だけが本当の男である」に基づいている。

 さらに、韓国戦で右手の小指を骨折した源田壮亮選手に対する栗山監督の対応も心に残るエピソードだ。森信三先生の「野心と志を区別せよ」という言葉に導かれ、源田選手の「志」に基づいた行動が描かれている。ここでは、「野心」が自己顕示欲に根ざしたものである一方で、「志」は他者や社会に貢献する信念を指すと解釈されている。この違いを理解し、選手と監督が共有することで、チームは一丸となって新たな可能性を見出していった。

 WBC決勝の舞台で、大谷翔平がロッカールームで発した「憧れるのをやめましょう。憧れてしまっては越えられないので、僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。」という言葉は、対戦相手に対する畏敬の念を捨て、勝利に向けて全力を尽くす決意を示していた。そして、栗山監督は稲盛和夫氏の「現実になる姿がカラーで見えているか」という言葉を実践し、チームは見事に世界一になった。 

この本を通して、栗山氏の哲学とその実践が深く理解できた。彼が古典の知恵を現代に活かし、侍JAPANを世界一へと導いた姿に、深い感動と学びを得ることができた。「栗山ノート2」は、単なるスポーツ書にとどまらず、人間としての在り方を教えてくれる一冊である。




2024年3月23日土曜日

お金は君を見ている

 新宿の大きな書店でふと目に留まった「お金は君を見ている(サンマーク出版、2024年)」。そのタイトルに心惹かれ、手に取る。帯には「驚異の4年連続ベストセラー」と謳われていた。初めは、お金に人格が宿るというアイデアに、スピリチュアルな何かを感じたが、読み進めるうちに、私はこれが真剣に向き合うべきお金の教科書であると理解した。

著者のキム・スンホ氏は、韓国人として初のアメリカでのグローバル外食企業成功者であり、最近5年で3000人もの実業家を育て上げた人物。私はかつて、お金が感情を持つとは思ってもみなかった。しかし、この本を通じて、読み手は、お金との向き合い方、そしてそれを品よく使う術を学ぶことができる。キム氏が語るお金の人格には、彼の豊かな実績や経験からくる深い説得力があった。

本書は、お金の人格を軸に、定期収入の力、お金のさまざまな特性、お金の重力、他人のお金に対する接し方という5つの属性を解き明かし、経済的豊かさを求める者に必要な4つの能力を教えてくれる。まるで隣にキム氏がいて、読み手である私たちに優しく語りかけてくれるような錯覚に陥るほど、本書は読むほどに心が動かされ、実践に移す勇気が湧いてくる。

富を築くためには「投資期間」が最も重要だとキム氏は強調する。そのため、キム氏は、早期投資の大切さ、具体的な投資法、財務諸表の学び方まで、初心者でも理解できるように丁寧に説明している。私の息子たちもこれから社会に出るが、キム氏の教えを実践して、彼らの未来を豊かにしてほしいと思った。

本書では、お金を守る術も紹介されている。私はポイント制度に惑わされて、カードを作成してしまった経験がある。しかし、キム氏によると、「ポイントは消費を促すためのもの」とのこと。この知識があれば、無駄なカード作成を避けられたかもしれない。

チャプター40では、良いお金を引き寄せる7つの秘訣が、チャプター41では、普通の会社員から億万長者への道が紹介されている。これらの章は、サラリーマンでも億万長者になるのを諦めないことを教えてくれる。たとえ、今自分がどのような環境に置かれていようとも、キム氏による本書は、人としての成長と富の獲得を結びつける、心に響くメッセージで満ちていた。

キム氏からの言葉で心に残るのは、「歴史とは、弱者が勝者になった後、その過程を記録したもの」というもの。いま、自分が弱者であっても構わない。最後に笑って勝てば、自分の人生は、歴史となる。

キム氏の書籍では、お金はただの道具ではなく、人生を豊かにするためのパートナーとなるということを教えられた。それを忘れずに、一歩一歩、確実に前進していこう。そう、思わせる一冊であった。


2024年2月25日日曜日

徳望を磨くリーダーの実践訓

 數土文夫氏といえば、東洋古典に造詣が深いことで知られるが、『致知』の読者であれば既にご存知のことだろう。このたび、致知出版社から発刊された「徳望を磨くリーダーの実践訓(2023年)」は、JFEホールディングス名誉顧問であり、財界きっての読書家としても知られる數土氏が、東洋古典三大名著と呼ぶ『管子』『論語』『孫子』から、現代のリーダーに必要な徳望を磨く方法を説く一冊である。内容としては、數土氏自身が経営者対象の連続講義で話した内容をもとに、古典の教えを現代の事例や自身の経験と結びつけて解説している。

本書では、なぜ數土氏が『管子』を東洋古典の筆頭に挙げるのか、その理由と魅力を説明している。それは、『論語』も『孫子』も『管子』から多大な影響を受けていたからである。『管子』の作者である管仲は、貴族や士族ではなく、庶民の幸せと富を国の富と考え、民に与えることで国を豊かにしたという。この考え方は、松下幸之助や稲盛和夫などの偉大な実業家の思想とも通じるものがあると感じた。また、管仲が君主に教えた持続可能な社会を築くための五つの国家観(経済力、人材力、民の活力、統率力、道徳心)は、現代の都市計画や環境問題にも参考になると思った。また、少子高齢化が進展する我が国においては、どう持続的な社会を築いていくのか。その解は、「管子」に書かれている五つの国家観の教えを実践することであると感じた。

『論語』では、孔子が説いた道徳心や義の重要性について解説している。孔子は、利に動かされる小人ではなく、義に従う君子を目指すことを教えた。この教えは、私が尊敬する稲盛和夫氏が創業した京セラの経営理念にも通じるものがあると感じた。また、孔子は、利は義の総和であるという考え方も示した。これは、私利私欲を捨てて義を実践することが、最終的には自分にも利益をもたらすということである。この考え方は、多くの偉大なリーダーたちが実践してきたことと一致すると思った。

『孫子』の中で孫子が説いた戦略や戦術について解説している。孫武が書いたとされる『孫子』では、戦争の勝敗を決めるのは、彼(敵)と己を知ることや、天と地の利を活用することであると教えた。この教えは、ビジネスや人生においても、自分の強みや弱み、競合の状況や動向、環境や条件などを把握することが重要であることを示している。これは、本書の中においても、數土氏のオリジナルとして、「四象限のマトリックス」が紹介されている。このマトリックスを用いることにより、私たち読者は、彼と己の強みや弱みを「見える化」することが可能となる。

また、本書では、孫子の兵法に登場する有名なエピソードを、現代の経営者や企業の事例と比較して解説している。例えば、孫武が呉王に軍事教練を行ったときに、王の妃たちを武将に任命し、命令に従わなかった者を処刑したという話は、リーダーシップの重要性や決断力の必要性を教えてくれる。

さらに本書では、孫子の兵法の教えを自分のビジネスや人生にも活かす方法が示されている。例えば、孫子の兵法の中で重要なポイントとされる「五事七計」を表にまとめたものが本書に掲載されており、數土氏は、これを自分の机に貼って日々の反省に活用していると言われる。五事は、道・天・地・将・法という組織づくりの要諦であり、七計は、有道・有能・天地・法令・強・練・賞罰という五事をさらに細分化し、具体的に計っていくものである。この「五事七計」は、孫子の兵法の肝中の肝であり、組織づくりや戦略立案といった現代のリーダーにも役立つ知恵であると感じた。

私は、本書を読んで、東洋古典の教えの奥深さに感動した。『管子』『論語』『孫子』のそれぞれの教えは、単なる古典の知識ではなく、現代のリーダーシップや経営にも通じる智慧の書であると思った。その理由は、本書で紹介されている教えが、現代の事例や自身の経験と結びつけて解説されており、説得力があり、読みやすいからである。

本書は、數土氏の豊富な知識と経験に裏打ちされた解説で、古典の教えを現代にも活かす方法を示してくれる貴重な一冊である。

2024年1月7日日曜日

経営 稲盛和夫、原点を語る

 大義名分があり、それが汚れのない純粋なものであれば、必ずと言っていいくらい宇宙の力が借りられる。純粋でひたむきに一生懸命努力している人の行為に対しては、宇宙が支援してくれるはずである。
(引用) 経営 ―稲盛和夫 原点を語る、編集:稲盛ライブラリー+ダイヤモンド社「稲盛和夫経営講演選集」共同チーム、ダイヤモンド社、2023年、678


 ドイツの鉄血宰相ビスマルクは、「愚者は経験に学び, 賢者は歴史に学ぶ」 と語ったとされている。

一代で京セラとKDDIを創業し、経営破綻したJALを再建させた、私の尊敬する一人の稲盛和夫氏が天国へと旅立たれ、早一年が過ぎ去った。経営学を学ぶ者たちにとって、稲盛氏の名前を知らない人はいない。

稀代の名経営者は、何を考え、どう行動したのか?

短い一生の中で、これほどの成果が私たちの住む地球上で遺せたことは、よほど考えが卓越したものに違いない。その稲盛経営の集大成となる書籍がダイヤモンド社から刊行された。その書籍のタイトルは、シンプルに「経営」。700ページ近い本書は、生前の稲盛氏の講演録から成る。
「賢者は、歴史から学ぶ」。この稲盛氏の人生なり、経営観を学ぶことは、今を生きる私たちにとって、貴重な歴史資料となるに違いない。そんなことを思い、私は、気がついたら書店のレジに並んでいた。

稲盛氏は経営について、「まさにその人が持っている心、つまり哲学で決まるもの(本書、107)」と言われる。そして、稲盛氏は、経営の判断基準を「人間として何が正しいのか」ということに置き、その原理原則をひたすらに貫き通してきた。

学生時代に経営学やマーケティングを学んできた私は、20世紀初頭にテイラーが提唱した科学的管理法などに触れた。この手法は、標準作業時間の測定や出来高による賃金の差別支払制度などにより、労働者を管理・分析し、生産性を向上させた。しかし、この手法は、作業する労働者を機械のように捉えていたことから、人権侵害や労使関係の悪化を生んだ。

その後、私は大学を卒業してから改めて経営について考えさせられる本に出会った。それは、稲盛氏によって著された「生き方(2004年、サンマーク出版)」である。まるで、道徳の授業を受けているかのような「生き方」は、私が学んできた経営の本質である利益追求と明らかに一線を画すものであったからだ。私は、稲盛氏の書籍に出会ってから、経営に対する考え方や人生観を180度変えさせられた。まさに、経営とは、「人間本位」のものでなければならない。それは、顧客のためだけではなく、家族のために働く従業員も幸福でなければならないということを意味する。そして、経営を行うものは、まず、利他の心を持たなければならない。その理由について、稲盛氏は、本書を通じて教えてくれている。

本書「経営」は、経営者のみのものでない。企業等の管理職のかたには、稲盛氏のリーダーシップの考え方も参考になる。本書では、講演の中で稲盛氏が引用している中国の古典から安岡正篤、西郷隆盛に至るまで、歴史上の人物による故事成語がとても役に立つ。

とりわけ、私は、稲盛氏が第二電電のPHS事業会社社長候補9人に与えた社長心得8カ条に心が震えた。この社長として心得るべき8つの事柄は、1ページに纏まったものであるが、稲盛氏によるフィロソフィが詰まっている。この8カ条は、職種を問わず、どのリーダーにも自分に置き換えて活用できるものである。まさに、この8カ条は、稲盛氏が愛した西郷南洲の言葉、「敬天愛人」。つまり、天を敬い、人を愛するという慈愛に満ちたものであった。


稲盛氏といえば、「人生・仕事の結果=考え方✕熱意✕能力」という方程式があまりにも有名である。これは、稲盛氏の仕事観を一つの方程式に表したものである。昔から、私もこの方程式を知っていたが、正直申し上げれば、私はこの方程式を自分の生活に取り入れてこなかった。これは、私が方程式の意味が正しく理解できていかなったかもしれない。しかし、本書「経営」では、稲盛氏が優しい語り口調で方程式の意味を教えてくれる。さらに本書では、1999年にアメリカの大学教授夫人が当時の稲盛氏の講演を聴き、感銘を受けたことから、この夫人が即興で作られた詩が紹介されている。方程式「FORMULA」との題で始まるこの詩は、稲盛氏の方程式にさらなる意味を与え、愛が注がれ、力強いものになっていた。


冒頭、稲盛氏の言葉を引用した。

本書にも登場する中村天風は、「わが生命は、大宇宙の生命と通じている」とした。そして、稲盛氏が本書で語られている人間の魂は、「真・善・美」でできていると説く。この「真・善・美」は、稲盛氏が中村天風の影響を多大に受けていることを理解できる。

私は、この悟りともいえる境地が経営哲学として、必要なのだろうと感じた。人の魂から生み出されたものは、宇宙の応援を受けながら、人類や社会の発展に寄与する。このことが経営の哲学ではないかと思うに至った。

それは、稲盛氏が新規事業を始める際、「動機善なりや、私心なかりしか」と自問を繰り返したものであるからこそ、稲盛氏が創業した京セラ、KDDI、そしてJALの再建は、全て成功した。そして、稲盛氏にかかったこれらの事業は、今を生きる私たちの暮らしに欠かせないものになっている。


本書は、私達が迷ったとき、稲盛氏がときに厳しく、ときに優しく目の前で語りかけてくれる。

そう、稲盛氏が生涯をかけて築き上げた経営哲学は、新たな歴史となり、これからも多くの経営者やリーダーたちが学び続け、よりよい社会を築き上げていくことになるだろう。

長い時を経て積み重なってきた経営学のページに、稲盛和夫という新たな歴史が加わった。

そう、思わせる一冊であった。





2023年9月24日日曜日

修身教授録入門

 すなわち真面目ということの真の意味は、自分の「真の面目」を発揮するということなんです。
(引用)修身教授録入門、著者:森信三、発行所:致知出版社、2023年、138

いま、自分は、国民教育の師父と称された森信三先生に注目している。なぜ、注目しているのかといえば、度々、森先生のことが月刊「致知」に掲載され、その教育から哲学に至るまで、私自身、納得させられることが多かったからだ。

森先生は、大正12年に京都帝国大学(現:京都大学)文学部哲学科に入学し、西田幾太郎氏に教えを受けている。その森氏は、大阪天王寺師範(現:大阪教育大学)専攻科で倫理・哲学を教えていたとき、「修身」という科目を受け持つことになった。その授業では、検定教科書を一切使わず、森先生が自ら選んだテーマで行われたという。以前から、森先生による授業の口述、そして生徒に筆録させられた「修身教授録」が書籍として既刊されているが、このたび、致知出版社から「修身教授録」の入門編なるものが出版された。どうしても敷居が高いと思われがちな森信三先生の入門編として、私も森先生による「修身教授録入門」を拝読させていただくことにした。

「修身教授録入門」は、森信三先生が実際に教室に入られてくるところから描写されており、昭和10年代に大阪天王寺師範で、森先生から実際に授業を受けているかのような錯覚に陥る。まず、録音・録画の技術が発達していない時代に、よくここまで森先生の授業の内容が記録されていたものだと感心させられた。それだけ、森先生による「修身」という授業がいかに生徒に貴重なものであったのかを改めて感じさせられた。

この書籍では、森先生の授業が15講、収められている。第3講では、「読書」がテーマだ。読書を「心の食物」と言われる森先生は、師範学校の生徒に「一日読まざれば一日衰える」と言われる。最近、仕事の忙しさにかまけて、読書の時間が減少している私にとっては、耳の痛い言葉であった。この読書についての講義では、「真の確信なくしては、現実の処断を明確に断行することができない。真に明確な断案というのは、道理に通達することによって初めて得られる」と森先生は、言われる。そのため、森先生は、「偉大な実践家は、大なる読書家である」ということを生徒に訴えかける。

私は、この「現実の処断を明確に断行」するという一文に釘付けになった。私たちは、実社会において、「現実の処断を明確に断行する」場面に多く遭遇する。その際の「処断」するための判断基準は何であろうか。それは、今まで培ってきた私たちの知識によるところが大きい。そこに経験などが積み重なり、知恵となる。この知恵があれば、処断を明確に断行できる。「現実の処断を明確に断行」するために、私たちは、もっと読書をしなければならない。50歳を過ぎた私にも、肝に命じなければならないことだと感じた。

私は、本書の中で、第10講の「最善観」が一番感銘を受けた。最善観を唱えた哲学者ライプニッツによれば、神はその考え得るあらゆる世界のうちで、最上のプランによって作られたのがこの世界とのことであった。そのため、この世では、いろいろとトラブルなども発生するが、これも神の全知の眼から見れば、それぞれ人生に訪れるトラブルなどにも意味があるということになるという。そして、森先生は、この大宇宙をその内容とするその根本的な統一力であり、宇宙に内在している根本的な生命力であるが神であると説く。そして、私は、自分に与えられた全運命を感謝して受け取り、不幸な出来事があっても恨んだり人を咎めたりせず、楽天知命、すなわち天命を信ずるが故に、天命を楽しむという境涯に達しなければならないということが理解できた。

このように森先生の「修身」の授業は、若者に勉強の大切さを伝えるに留まらず、壮大な宇宙観に至るまで講義が及ぶ。それは、人がなぜこの世で人身を与えられたのか。その人身を与えられたことに感謝し、人生に起こる様々な出来事に意味があると理解し、この世における天命を楽しむ。これからは、我が人生に何が訪れようとも、動じない。そう、思うだけで、私は、これからの人生を強く歩んでいく決意が生まれた。

冒頭、「真面目」について触れた。これは、本書の第12講に登場している。森先生によれば、「常に自己の力のありったけを出して、もうひと伸(の)しと努力を積み上げていく。その努力において、真面目とは、常に「120点主義」に立つということである。そして、その態度を確立したならば、人生の面目はすっかり変わってくる」と言われる。「真面目」という言葉の真髄に触れ、私は、なんて奥深く、力強い言葉なんだろうと感じた。「人生に二度なし」、「それぞれ人生の使命を果たせ」。そのためには、力の全充実によって、真面目に生きることが求められるのだと、改めて思い知らされた。

この終身教授録は、当時の若者に行った授業の内容であるが、老若男女問わず、自分の人生をいかに生きるべきかを教えていただくものであった。

この本を開くたび、森先生は、今を生きる私たちに「修身」の授業をしてくださる。この授業の内容は、実際に森先生が授業されてから90年経とうとしているが、現代においても全く色褪せることのない、そして尊いものであった。

Society5.0に突入したと言われる現代であるが、いくらテクノロジーが進化しても、人間として変わることのない。そして、人間として求められる数々の教えが「修身教授録」に記されていた。

2023年8月20日日曜日

時代を拓(ひら)くリーダーの条件 月刊「致知」より

 私が月刊「致知」を愛読して、もう何年になるだろう。この「致知」では、私自身、学ぶことが多い。

今月の「致知」(2023年9月号)の特集は、「時代を拓(ひら)く」であった。その「致知」45年の歴史を踏まえると、次代を拓くリーダーの条件は、次の6点のことが言えるのではないかと紹介されていた。このリーダーシップの条件は、Society5.0の時代を迎えた現代においても通用するものばかりだと思う。以下、私見を交えて紹介したい。


1 時代の流れを読み、方向を示すこと。

    確かに時代の流れを読み、方向を示すことは、リーダーシップの中でも重要なスキルの一つである。これは、変化する世界や社会の状況を的確に理解し、未来の方向性を予測する能力のことを指す。

 そして、私は、時代の流れを読み、方向を示すことは、絶えず変化する環境において組織やチームをリードする上で欠かせないスキルであると感じている。的確な予測とビジョンを持ち、柔軟に適応しながら、未来を導く道を示すことこそが、リーダーシップの一環として求められる能力と言えると感じた。

2 必死で働く。会社、仕事、社員に対する愛情と熱意は誰にも負けない。

  このリーダーシップの条件に触れたとき、私は、度々「致知」にも登場した稲盛和夫氏を思い浮かべた。仕事に対して、“ほとばしるほど”の情熱注ぎ込む。稲盛氏ほど、この表現が似合う経営者を、私は知らない。

 では、情熱となんであろうか。私は、情熱とは、仕事に対する真摯な熱意と責任感を意味すると考える。稲盛和夫氏のような成功者は、ただ単に仕事をこなすだけでなく、その仕事に対して心からの情熱を注ぎ込むことで、業績を上げ、周囲を魅了した。例えば、彼が創業した京セラでは、技術と製品への深い情熱が企業の成功の基盤となった。 

 そして、稲盛和夫氏は、日々の努力を惜しまない姿勢を持ち、自身の会社や社会に対する責任感を胸に刻んでいた。この情熱によって、彼は逆境を乗り越え、ビジョンを達成するために全力を尽くした。

 さらに、この情熱は、周囲にも感染し、共感を呼び起こす。稲盛氏の情熱が共感を持つメンバーや協力者を惹きつけ、組織全体が一丸となって目標に向かって努力するエネルギーを生み出したことは、稲盛氏によるJALの経営再生でも語り継がれている。

3 自分を磨き続ける。

 このリーダーシップの条件に触れたとき、私は、リスキリング(再スキル習得)のことを思い浮かべた。

 まず、急速に変化する現代社会において、リーダーは自己磨きを通じてリスキリングに注力することが求められる。リーダーは、自己磨きを通じて最新のトレンドや技術を把握し、組織やチームを変化に適応させる力を持つ必要があると考えるからである。

  また、 リーダーがリスキリングを重視し、新たな知識やスキルを習得する姿勢を見せることで、メンバーや従業員はリーダーシップに対する信頼を高める傾向がある。 

 さらに、リスキリングは、新たな分野や視点を取り入れる機会でもある。リーダーが異なる分野のスキルを身につけることで、クリエイティブな解決策やアイディアを生み出す能力を向上させることができる。例えば、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズは、精神世界にも傾倒し、日本の「禅」に辿り着いた。彼がこの「禅」を学んでいなければ、いまのアップルの誕生はなく、スマホもこの世に存在しなかったのではと言われている。経営は、人間を相手にする。そのため、経営とは一見かけ離れたように見える精神世界や文明・文化、歴史といった分野の学びも必要ではないかと感じた。

4 集団を幸福に導く。

 「集団を幸福に導く」という原則は、リーダーシップにおいて重要な価値観であり、組織やチーム全体の幸福を追求する姿勢を示す。私は、これも稲盛和夫氏のフィロソフィーである「全従業員の物心両面の幸福を追求する」を思い浮かべた。

 まずリーダーは、単に業績や利益だけでなく、従業員の物心両面の幸福を重要視する。それは、組織の一員としての幸福感は、従業員のモチベーションやパフォーマンスに直結するからだ。

  また、 リーダーは、従業員とのコミュニケーションを大切にし、彼らの声を聴く姿勢を持つ。この“傾聴”する姿勢があれば、リーダーは、従業員が自分の意見や考えを尊重される環境となり、共感と信頼が築かれ、集団全体の幸福感が向上する。

 さらに、リーダーは、従業員同士の協力や連帯感を促進する役割を果たす。稲盛氏のフィロソフィーでは、全従業員が幸福を追求する姿勢が組織全体のチームワークを向上させたのではないだろうか。

 そのほか、リーダーは、従業員の幸福を追求するだけでなく、社会的責任を果たす姿勢も重要である。稲盛和夫氏のフィロソフィーは、企業の成功が社会全体の幸福につながるとの信念を表している。

 このように、リーダーが従業員の物心両面の幸福を追求する姿勢を示し、信頼と連帯感を築き上げることで、組織はより良い方向へ進むことができるのだと感じた。

5 犠牲的精神。自分の都合より組織のことを優先する。

 「犠牲的精神」は、リーダーシップにおいて大切な価値観の一つであり、個人の利益や快楽を優先するのではなく、組織やチーム、社会全体の利益を優先する姿勢を指す。このリーダーシップの条件に触れたとき、私は、東日本大震災における福島第一原発事故で、当時陣頭指揮を執った吉田所長のことを思い出した。吉田所長は、目に見えない放射能の恐怖に立ち向かいながら、最悪の事態にもなりかねない原発事故に対して、果敢に立ち向かった。時に自分の命を投げ出してでも、組織、そして人々の安全のために戦う。この精神は、リーダーシップの重要な条件の一つであろう。

 また、「致知」にも登場する東洋思想研究家・田口佳史氏の解説を思い出す。それは、「書経」にある「先憂後楽」という言葉だ。この言葉は、リーダーは即時の快楽や個人的な利益をもとめるのではなく、憂うることは人に先だって憂い、楽しむことは人に遅れて楽しむという意味だ。

  まず、リーダーは組織やチームの一員として、他人の利益や幸福を自身の利益よりも優先する姿勢を持つことが重要だ。他人の視点を理解し、共感することで、信頼と結束を築くことができる。

 また、リーダーは、組織やチームの使命を果たすために、自己の快楽や個人的な利益を犠牲にすることを厭わない覚悟を持つ。困難な決断や責任を負うことに尽力し、長期的な成功に貢献する。

  さらに、犠牲的精神を持つリーダーは、即時の利益だけでなく、将来の発展や繁栄を追求する視点を持つ。短期的な困難を乗り越えて、長期的な目標を達成するために努力する。

  このように、リーダーの犠牲的精神は、他のメンバーや従業員に共鳴し、チーム全体の一体感を高める要因となる。この「犠牲的精神」を持つリーダーは、個人の利益を越えて組織やチームの成功を追求し、将来の発展を見据える力を持っている。この価値観は、組織の繁栄と共に、リーダー自身の尊厳と尊敬を築く要素となる。この犠牲的精神を持つ社員が多い組織は、どんな場面が訪れようとも、強い姿勢を保てるのだと感じた。

6 宇宙の大法を信じ、畏敬(いけい)し、その大法に則(のっと)り、行動する。

 偉大な経営者、松下幸之助氏は、人間には、この宇宙の動きに順応しつつ万物を支配する力が、その本性として与えられていると考えていた。

 宇宙の大法という概念は、この松下幸之助氏の哲学や宇宙観を通じて、リーダーシップの崇高な側面を表現している。彼の宇宙観は、個人と宇宙がつながり、共鳴する一部であるという深い信念に基づいている。この宇宙の大法の考え方は、リーダーシップを単なる経済的な成功や権力の行使だけでなく、より広い視野と哲学的な次元を持つものとして理解することを示唆している 

 まず、宇宙の大法に従うと、個人の行動やリーダーシップは単なる自己満足や個人的な成功だけではなく、組織や社会全体への貢献を追求するものとなる。松下幸之助氏は、個人が組織の一部として責任を持つことで、全体の繁栄と共鳴が実現すると信じた。 

  また、宇宙の大法は、宇宙の秩序や法則に敬意を払い、それに従って行動することを意味する。リーダーシップにおいても、組織や社会のバランスや調和を尊重し、持続可能な成功を追求するために宇宙の秩序を考慮する姿勢が求められる。 

 さらに、宇宙の大法は、個人の成長と組織の繁栄が密接に結びついているとの考え方を含む。リーダーシップにおいても、従業員やメンバーの成長を支援し、それが組織全体の成功に貢献することを大切にする。

 そして、 宇宙の大法に基づくリーダーシップは、一時的な成功や欲望に囚われるのではなく、持続可能な価値と調和を重視する。松下幸之助氏は、個人の行動が経済的な成功だけでなく、社会的な価値や調和にも貢献するべきだと説いた。 このように、宇宙の大法の概念は、個人のリーダーシップが単なる物質的な目標だけでなく、より壮大な価値や調和を追求するものとして捉えることを示している。

 まさに、宇宙の構成員として、私たちがいる。松下幸之助氏は、人間は、絶えず生成発展する宇宙に君臨し、宇宙に潜む偉大なる力を開発し、万物に与えられたるそれぞれの本質を見出しながら、これを生かし活用することによって、物心一如の真の繁栄を生み出すことができると考えていた。このことこそが、私たち人間が地球上に存在する目的であろう。

 この宇宙の法則を常に意識しながらリーダーシップを発揮することは、天からの助けが得られ、ひいては自身の成功につながっていくのだと感じた。

 以上、「致知」の次代を拓くリーダーの条件に触れ、私は、このようなことを思ったので、書き綴っておく。



  


2023年8月18日金曜日

THE GOOD LIFE

 健康で幸せな生活を送るには、よい人間関係が必要だ。以上。
(引用)グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない、著者:ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ、訳者:児島修、発行所:辰巳出版株式会社、2023年、18

「グッドライフ」は、読者に84年にわたるハーバード大学の研究成果を短時間で理解できる貴重な一冊であった。その手軽さと専門的な内容が結びついた本書は、健康で幸せな人生を追求する人々にとって興味深いものであった。

 この本は、著者が厳密な研究と集中的な時間をかけて築き上げた人間関係の重要性に焦点を当てている。膨大な研究時間を費やしたハーバード大学の取り組みが、人間関係が幸福と健康に果たす役割を浮き彫りにしている。被験者たちの人生のストーリーが織り交ぜられ、読者は自分自身の人間関係と照らし合わせながら、本書の中心テーマに引き込まれていく。

本書内で紹介されるWISERモデルは、人間関係の改善を目指す際に実用的な手法を提供している。このモデルを通じて、私たちはより深いつながりを築くためのステップを学び、自己成長の道を歩むことができることになると感じた。また、著者の研究結果が示すとおり、人々は共に過ごすことで幸福感を得ることができることを改めて認識した。

「グッド・ライフ」は、84年にわたる研究を通じて明らかになった人間関係の重要性を掘り下げた書籍であった。読者は、自分自身の生活において人間関係をどのように大切にし、豊かな幸福を追求するかについて考えるきっかけを得ることができる。著者の情熱的な研究と深い洞察に触れながら、本書を通じてより意義深い人生を模索する旅にでかけることができる。そんな、一冊であった。