2019年12月28日土曜日

マネジメント・バイブル


新しい戦略や、新しいプロセスを開発するとき、またシステムを改善するとき、このことだけは憶えていてほしい。「製品を知り、部下を知り、顧客を知る」こと。これを心にとめておけば、道をはずすことはないはずだ。

マネジメント・バイブル、ヘルムート・マウハー著、岸伸久訳、株式会社ファーストプレス、2009年、200

「マネジメント・バイブル」と題する本書は、まさに現代経営学の父でありマネジメントの祖と言われるピーター・F・ドラッカーのマネジメントを進化させ、マネジメントに関する「バイブル」と名を付すにふさわしいものであった。
ネスレ名誉会長であるマウハーは、企業戦略から経営者が果たすべき役割、人事政策、財務やイノベーション、そして広報やコミュニケーションの分野に至るまで、自身の経験から、経営者のあるべき姿を教えてくれる。

この本は、経営者のために書かれた本ではあるが、あらゆる分野で活躍するリーダーに向けられたものとも言える。その一例として、本書では、1000年も昔に聖ベネディクトが修道士や継承者に「価値創造経営」への取り組みに関して書き残した文書を紹介している。
「選ばれし者は心に留めなければならない。」で始まる聖ベネディクトの言葉は、現代の選ばれし者(リーダー)にも通用する原理原則が散りばめられており、大いに役立つ。
私も手帳にこの聖ベネディクトの言葉を書き記しておいた。普段の仕事において、常に心に留めておきたいと思って。

冒頭の引用は、マウハーが引退する際に、幹部全員に伝えたメッセージとされる。このメッセージは、非営利組織にも当てはまる。例えば都庁であれば、「都庁サービスを知り、部下を知り、都民を知る」ことになる。この3者をいつも念頭に置きながら、新しい戦略やプロセスを開発し、システムを改善していかなければならない。

マウハーは、事業の成功のカギは、未来に投資することと言っている。未来に投資とは、これからを生きる若い世代への投資でもある。これもまた、事業経営に限ったことではない。
次代を担う若い世代への投資こそが、マネジメントの基本であり、持続可能な事業経営、そして社会、ひいては世界を築いていくのだと感じた。



2019年12月9日月曜日

小さな英雄

「有名にならなくても小さな英雄はたくさんいる。そういう人になって。」

                           医師 中村 哲
(引用)2019.12.6 日本経済新聞朝刊記事

外務省のホームページによれば、持続可能な開発目標(SDGs)とは、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標である。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っている。

例えば水。国土交通省によれば、日本を含めて9カ国しか水道の水をそのまま飲める国はないという。SDGsの目標6のターゲットの一つに、「2030年までに、すべての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ平等なアクセスを達成する。」とある。
命に直結する安全で良質な水は、我が国では、蛇口をひねれば当たり前のように供給されている。しかし、全世界を見渡すと、まだまだ未整備な国が多いという事実がある。


先日、アフガニスタンで突然の凶弾に倒れた中村哲医師。彼は、30年近く、医師でありながら、現地スタッフらと井戸1,600本を掘り当て、農業向けの灌漑用水路は13本整備するなど、アフガン復興に多大な功績を遺した。
「100の診療所より1本の水路」。中村さんは、不衛生な水によって乳幼児の死亡率が高いことから、医師という職種を超え、現地で水と食料を確保する活動をしてきた。


冒頭の言葉は、中村さんの母校、福岡高校で生徒たちにエールを送ったものだ。
SDGsのゴールを目指すのは、地球で暮らす人類にとって大切なことだ。しかし、そのゴールの達成を目指し、実際に未開発の地で取り組んでいくということは、誰もができることではない。中村医師にも、ここに至るまで、計り知れないご苦労があったと思う。

中村さんの遺志を引き継ぎ、SDGsの基本理念である「誰も置き去りにしない(No one will be left behind)」世界をつくっていくのは、今を生きる私たちの使命だと思う。

身近な地域のため、そしてこの地球に住むすべての人たちのため、今すぐ、私たちの出来ることから始めなければならない。
一人ひとりが「小さな英雄」になって、中村医師が目指した「真に平和な世界」、そして「みんなで生きる世界」の実現に向けて。


誰よりも、また、何よりも強い信念のもと、アフガンの地で人道支援を行ってきた中村 哲さんのご冥福を、心よりお祈りします。


2019年12月8日日曜日

つながる街

私は、いつも「知ることで、優しさが生まれる」と感じます。本人の事情を知った住民ボランティアは、ゴミ屋敷で言えば、「出ていってほしい!」といった、地域から排除しようとする人々の側には、まず立たなくなります。ひきこもりについても、簡単に「甘えている」とは思えなくなります。
                                                豊中市社会福祉協議会福祉推進室長  勝部 麗子

(引用)孤立する都市、つながる街、保井美樹編著、全労済協会「つながり暮らし研究会」編、日本経済新聞社、2019、91

 近年、都市は、多様な課題を抱えている。
例えば、ひきこもり、支援なき子育て、そして、孤独な高齢者、空き家の増加など。
現代社会における都市の課題とは、社会構造の変化や人間関係の希薄化によってもたらされていることが多い。今こそ、一人ひとりが地域に出て、暮らしを良くするための課題を見つけ、実践しなければならないと感じた。そうすることで、「つながり」が生まれ、街となる。

そのためには、自治体も変わらなければならない。
神戸市では、2019年に「つなぐ課」ができた。
前述の様々な社会的課題から、最新のテクノロージに至るまで、「つなぐ課」は、市役所の組織をオープンでフラットなものとし、そこに住む人たちを「つなぐ」ことで街づくりを行うということであろう。
また、一方では、塩尻市において、MICHIKARA地方創生協働プログラムが進んでいる。市役所の縦割りの組織を打破すると同時に、官民連携ということもキーワードになってきている。

 豊中市では、福祉を中心とした豊中型地域共生社会への挑戦が始まっている。冒頭の言葉は、豊中市の福祉協議会室長の言葉だ。
中高年のひきこもりなど、支援制度のはざまに埋もれ、救いの手を待ち続けているかたたちがいる。

現代は、Society5.0の時代と言われているが、人間とのふれあいによる「優しさ」は、これからも必要になってくると感じ、街づくりの根幹であると感じた。
 大規模災害のときには、「自助」、「共助」、そして「公助」の順で人は助かるという。
インフラや交通が麻痺し、助けを求める人達で溢れかえったとき、公助はどこまで期待できるのだろうか。事実、阪神淡路大震災のとき、神戸市の調査によれば、公助で助けられたかたは2%に満たず、近所の人達に助けられたという「共助」は、3割近かったという。

 「孤立する都市、つながる街」を読んで、普段の生活、そして、いざというときのため、再び、そこに住む人たちが「つながった」街づくりが求められていることを痛感した。