新しい戦略や、新しいプロセスを開発するとき、またシステムを改善するとき、このことだけは憶えていてほしい。「製品を知り、部下を知り、顧客を知る」こと。これを心にとめておけば、道をはずすことはないはずだ。
マネジメント・バイブル、ヘルムート・マウハー著、岸伸久訳、株式会社ファーストプレス、2009年、200
「マネジメント・バイブル」と題する本書は、まさに現代経営学の父でありマネジメントの祖と言われるピーター・F・ドラッカーのマネジメントを進化させ、マネジメントに関する「バイブル」と名を付すにふさわしいものであった。
ネスレ名誉会長であるマウハーは、企業戦略から経営者が果たすべき役割、人事政策、財務やイノベーション、そして広報やコミュニケーションの分野に至るまで、自身の経験から、経営者のあるべき姿を教えてくれる。
この本は、経営者のために書かれた本ではあるが、あらゆる分野で活躍するリーダーに向けられたものとも言える。その一例として、本書では、1000年も昔に聖ベネディクトが修道士や継承者に「価値創造経営」への取り組みに関して書き残した文書を紹介している。
「選ばれし者は心に留めなければならない。」で始まる聖ベネディクトの言葉は、現代の選ばれし者(リーダー)にも通用する原理原則が散りばめられており、大いに役立つ。
私も手帳にこの聖ベネディクトの言葉を書き記しておいた。普段の仕事において、常に心に留めておきたいと思って。
冒頭の引用は、マウハーが引退する際に、幹部全員に伝えたメッセージとされる。このメッセージは、非営利組織にも当てはまる。例えば都庁であれば、「都庁サービスを知り、部下を知り、都民を知る」ことになる。この3者をいつも念頭に置きながら、新しい戦略やプロセスを開発し、システムを改善していかなければならない。
マウハーは、事業の成功のカギは、未来に投資することと言っている。未来に投資とは、これからを生きる若い世代への投資でもある。これもまた、事業経営に限ったことではない。
次代を担う若い世代への投資こそが、マネジメントの基本であり、持続可能な事業経営、そして社会、ひいては世界を築いていくのだと感じた。