2020年3月28日土曜日

交渉力

相手を動かすためには、
1 利益を与える(譲歩する)
2 合法的に脅す
3 お願いする
この3つの手法しかない。

(引用)
交渉力 結果が変わる伝え方・考え方、著者:橋下徹、発行所:株式会社PHP研究所、2020年、20

橋下氏には及ばないが、私の仕事も「交渉」の連続であったと思うし、今も仕事上、「交渉」は続いている。
私自身の経験として、ときに、「交渉」が難航し、頓挫したこともあった。その都度、私は、どの点が「交渉」としていけなかったのかを反省したものだが、橋下氏の本を拝読し、自分の経験で培った交渉ノウハウと大きく重なっていた。

相手を動かすためには、まず、「利益を与える」ことだ。あのスティーブン・R・コヴィーの世界的大ベストセラー「7つの習慣」の中で、第4の習慣として「Win-Win」を考える」とある。私も交渉が難航していたとき、その「Win-Win」という言葉がふと、頭に浮かんだ。そして、相手の”利”を考えて交渉し、結果的に上手く行ったことを思い出した。近江商人にも”三方良し”がある。つまり、”三方良し”とは、”売り手よし”、”買い手よし”、そして”世間よし”ということであるが、この”三方よし”も近江商人が売り買いの「交渉」を通じて得た”交渉力”の知恵から生まれたものではないだろうかと思った。

また、「合法的に脅す」ことも共感できる。私も頑なに動かない相手に対して、「揺さぶる」攻撃を仕掛けることがある。まず、大きく”かまして”みて、相手が反撃に出てきたとき、自分の譲れない部分の駆け引きをしながら粘り強く交渉する。その際には、橋下氏が言われているとおり「この交渉を決裂させたら大変なことになる」と相手に思わせることが大切だ。私も「相手の何を突っつけば、相手は私の交渉に耳を傾けてくれるのか」ということを模索する作業を行う。この作業は、私自身、交渉前に欠かせないものである。

最後の「お願い」することも共感できる。私の場合は、「Win-Win」の関係が築けない(相手に利がない)とき、お願いを繰り返す。しかし、ただ、お願いすればいいというものでもない。「少しでも相手の欲求に応えられるものがないか」を模索しながらお願いをする。そして、私の場合、少しでも糸口が見つかれば、Win-Winの交渉にもっていく。

橋下氏は、「交渉は始まる前に9割決まる」と言う。前述のとおり、私自身の経験を振り返っても、そのとおりだと思う。大阪府知事、大阪市長を歴任した橋下氏の経験をふんだんに踏まえた「交渉力」の本は、若い人たちにはノウハウが役に立つだろうし、ベテランの粋に達したかたたちには自身の交渉を振り返る良い機会になる。

広くおすすめしたい一冊である。



2020年3月23日月曜日

Beyond MaaS

MaaS時代においては、公共交通機関の関係性は「競争」から「共創」へ変化していく。これまでは同一地域の競争関係の中で切磋琢磨しながら、互いのサービスを向上させてきた。いわゆる競争関係である。今後は、良い意味での緊張感のある状況で、共創関係をどのように構築するか、エコシステムをどのように構築するかがポイントになる。それは同一地域においても、遠く離れた地域でも同じような課題を抱えている事業者間や、同じシステムを活用できる場合には積極的に連携メリットを模索していけるといい。
(引用)Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命 ー移動と都市の未来ー、著者:日高洋祐・牧村和彦・井上岳一・井上佳三、日経BP、2020年、211-212

本書を読み終えるまで、私は、MaaSについて、単にアプリを用いたナビゲーション(地図、経路検索)や予約・決済機能のことだと思っていた。しかし、その考えは、根底から覆させられた。MaaSは、交通分野のサービス深化となるDeep MaaSの世界、そして異業種連携で新たな価値を創出するBeyond MaaSの世界へと続く。Beyond MaaSの世界では、少子高齢化に伴う社会問題(買物難民等)を解決し、近未来的な、新たな都市構築の可能性を秘めている。つまり、より快適で、スマートな生活スタイルが実現可能になる。

本書には、GOJEKのシンガポール ゼネラルマネジャーのLien Choong Luen氏も登場する。GOJEKでは、既に生活に密着したスーパーアプリを開発し、東南アジアの人々の暮らしに欠かせないものになっているという。私は、本書を読み進め、車による配車サービスから買い物代行サービス、リラクゼーション関連の出張サービスに至るまで、「人々が移動する」という負担を極力排除し、ライフスタイルを豊かにする取り組みであると感じた。

冒頭に記したとおり、MaaSは、異業種とのコラボも可能だ。本書では、様々なビジネスモデルが紹介されており、例えば、電力✕MaaS、住宅・不動産✕MaaS、保険✕MaaSなどがある。また、観光✕MaaSや災害・防災✕MaaSなど、産業界のみならず、自治体とのコラボにも十分な可能性を秘めている。
ただ、私は、Society5.0の時代が到来し、各都市が「スマートシティを目指す」と言い放っても、そこに住む人々の暮らしが快適で真にスマートでなければならないと思う。その答えは、海外の先進事例を参考に、「どの点が真に人々の生活に役立ったのか」、そして「なぜ人々に支持され続けているのか」という視点で本書を読み進めれば、きっと探し出せる。なぜなら、この一冊で、MaaSの世界、そしてそこから発展する近未来の都市像が浮かびあがってくるからだ。

私も、今の仕事がBeyond MaaS世界構築の一助となればと思う。そして、いつの日か、自分の街にBeyond MaaSの世界が訪れることを心待ちにしたい。

2020年3月17日火曜日

シン・ニホン

もうそろそろ、人に未来を聞くのはやめよう。
そしてどんな社会を僕らが作り、残すのか、考えて仕掛けていこう。

未来は目指し、創るものだ。

(引用)シン・ニホン AI✕データ時代における日本の再生と人材育成、安宅和人著、株式会社ニュースピックス、2020年、6

安宅さんと言えば、問題解決のバイブル、「イシューからはじめよ(英知出版、2010年)」の著者だ。「適切な問い、解くべき課題、つまりイシューを見出し、整理することが知的生産の核心の一つ」だと安宅さんは言う。その安宅さんが、現在日本の抱えるイシューを見出し、新しい日本への進む道を示す。

我が国では、急速に進展する人口減少問題が課題と言われている。しかし、安宅氏は、豊富なデータを示しながら、その解決策を導いていく。

その解決策に欠かせないのは、本書のサブタイトルになっている「データ✕AI」、そして新たな社会の到来において求められる力を身につける「人材育成力」だ。その人材育成力とは、知覚する力、生命力、そして人間力だ。いくらテクノロジーが進展しようと、人間力は、これからの未来にも通用するのだと感じた。

安宅氏は、Society5.0、そしてSDGsの交点こそ目指すべき領域だと指摘する。しかし、その目指すべき領域においても、主役はあくまでもテクノロジーではなく人間である。これからの時代を生き抜くため、そして我が国を再生するため、多くの方たちに本書をおすすめしたい。