文化は社訓や社是のようなものではない。一度つくれば終わりというものではないのだ。「基準以下の行いを放置しておくと、それが新しい基準になる」と軍隊では言われる。
企業文化も同じだ。
(引用)WHO YOU ARE 君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる、日本語序文:辻庸介、著者:ベン・ホロウィッツ、訳者:浅枝大志・関美和、発行:日経BP、発売:日経BPマーケティング、2020年、21
「HARD THINGS(日経BP社)」の著者、ベン・ホロウィッツ氏の第2弾は、企業文化に焦点を当てたものとなった。その企業文化のモデルとなった人たちは、ハイチ革命を指揮したトゥーサン・ルーベルチュール、モンゴル帝国を築いたチンギス・ハン、またアメリカの元囚人、さらには、武士道を重んじた日本の侍と幅が広い。
特に、1600年代には世界人口の半分以上は奴隷として使われていたというが、その奴隷制度の廃止、西半球で起こったアフリカ人奴隷の反乱の中で最も成功したと言われるハイチ革命を指揮したルーベルチュールの話は面白い。よく企業文化、戦略というと、兵法から学ぶことも多いが、ホロウィッツ氏もその一人だろう。
長らく絶望的な立場に置かれた奴隷たちがいかに戦争に必要なスキルを身に着け、一つに纏まり、行動することができたのか。それを率いたルーベルチュールは、どのように振る舞い、奴隷たちのモチベーションを維持させ、行動したのか。ルーベルチュールから学ぶことは、企業文化を構築する上で必要不可欠なものだと知った。
一方、ホロウィッツ氏は、偉大な文化があっても偉大なチームは作れないし、プロダクトがだめなら企業は失敗するとの指摘も忘れない。
しかし、数々の困難を乗り越えていくには、やはり企業文化による、気風、気質にかかってくる。根底にあり、土台となり、つつみ込むもの。私は、それが、企業文化ではないかと思った。
これらの本で紹介されている4つの事例は、いってみれば、バラバラだ。ルーベルチュールや世界最大の帝国を1000年前に築き上げたチンギス・ハンからはじまり、殺人の罪で刑務所に入りギャングたちを統率したシャカ・サンゴールまで至る。
ただ、ホロウィッツが取り上げた4つの事例は、それぞれの分野で”何かを変えていった”人たちであることから、共通する要素も多い。
企業文化を構築するのは、あくまでも人間である。私は、そこに属する人たちの人間らしさ、信頼、目的を共有した一体感が大事であると再認識させられた。
本書では、日本の武士道の代表的な著「葉隠」の一文も紹介されている。
「剛臆と言う物は平生当たりて見ては当らす。別段に有物也」
(勇気があるか臆病かは平時にはわからない。何かが起きたときにすべてが明らかになる)(引用) 同書、119
本書でこの一文に触れたとき、いまの新型コロナウイルスの感染拡大のことを思った。
我が日本人は、武士道を重んじ、固有の文化を築き上げてきた。
国民一人ひとりが勇気を持って、新型コロナウイルスを終息させる。
いま、その目標に向かい、臆病者でない日本人、そしてしなやかで強い日本文化を再認識して、行動する必要があると思った。
今、まさに、日本人全員が、”WHO YOU ARE”と問われているのだと。
改めて、偉大なるベン・ホロウィッツ氏に敬意を表したい。