2021年1月9日土曜日

ネゴシエーション3.0

問題の内側からは問題を解決できない、ということである。アイデンティティの戦いに”勝つこと”から、人間関係を再構築することへと目標を変えなければならない。
(引用)決定版 ネゴシエーション3.0 ー解決不能な対立を心理学的アプローチで乗り越える、著者:ダニエル・L・シャピロ、監訳者:田村次朗/隅田浩司、訳者:金井真弓、発行所:ダイヤモンド社、2020年、242

コンフリクト(対立)は、どの世界にも存在する。家族や友人をはじめ、ビジネスや政治、そして国際的な紛争に至るまで、コンフリクトに悩まされている人は多い。事実、私も仕事上でコンフリクトを抱えている。本書では、なぜコンフリクトが起こるのかという根本的なアプローチから始まる。これは、人間がアイデンティティ的な存在であり、そのアイデンティティを構成する5つの柱のうち、どれかが危険にさらされるとコンフリクトが激化すること明らかにしている。多くの書店の棚には”問題解決法”なるものが多く並ぶ。それだけコンフリクトによる問題解決の解を求める人たちは多い。しかし、本書のようにコンフリクトの発生要因まで迫ったものは少なく、テクニカル的なものに走っているものが多いように思う。なぜコンフリクトが起こるのかというところまで辿り着けるのは、シャピロ博士が心理学博士ということもあり、人間の潜在的なところからのアプローチを試みているからだと思った。

著者であるシャピロ博士は、ハーバード大学准教授であり、ダボス会議のGlobal Agenda Councilにおける「交渉と紛争解決委員会」の委員長を務められていた。そのため、国際的な難題をも解決に導く最高峰の「コンフリクト・マネジメント」が本書で学べることは、大変ありがたく思う。ややもすると、シャピロ博士が提唱される「コンフリクト・マネジメント」は、国際的な紛争解決などに通じるもので、私たちの身近なコンフリクトに役立たないと思われるかたもみえるかもしれない。事実、私もそう思いながら、自身の抱えるコンフリクトを思い浮かべ、今後どのように解決に導いていくかを考えながら、本書を読み進めていった。

本書で一番面白かったのは、第14章「人間関係を再構築する(本書、241ページ~)である。ここでは、読者自身がニューヨーク市長から電話をもらい、「パーク51の論争(ワールド・トレード・センター跡地の近くにイスラム教のモスクを建設する可否についての論争)を解決する方法を見つけてほしい」と依頼されたと仮定したところから始まる。9.11(イスラム過激派がワールドトレードセンターのビルに2機の飛行機を衝突させた)を知っている人なら、自分自身がニューヨーク市長からそのようなオーダーをいただいたと想像してみると、あまりにもコンフリクトの壁が高く、尻込みしてしまいそうだ。しかし、このような難題もシャピロ博士は、”解決できる”とする。実際、シャピロ博士は「SASシステム」というフレームワークを用いながら、この難題を乗り越えていくことを提案する。この「SASシステム」は、私たちの日常にも活用できるものだ。特に、企業におけるマーケティング・リサーチや、行政機関における市民ワークショップなどにも活用できるフレームワークだと感じた。

私も仕事や私生活で、多くの交渉をしてきた。そして、コンフリクトを乗り越えてきた。シャピロ博士の本を読了し、大部分間違っていなかったように思う。それは、例えば「もし、相手が対話を拒んだら」といった際、「コンフリクトのみ焦点を当てない」ことや、「対話に加わるように働きかけてくれる共通する協力者を探す」ことなどは、大変共感できた。実際に今、私も部署間を超えて、共通する協力者にコンフリクトの仲介役をお願いしている。

自分の最も根本的な価値観が危機にさらせているとき、見解の相違にどうやって折り合いをつけるか。その解は、シャピロ博士によって明らかにされている。
これからも、私は仕事上で抱えているコンフリクトに立ち向かおうと思う。このシャピロ博士の教えは、実践しなければ意味がないからだ。そして、この本を通じて、コンフリクトに立ち向かう私たちの背中を、シャピロ博士が押してくれるような感覚に陥ったからだ。
個々の人間、そしてトライブ(部族)によってもたらされるコンフリクトは、常に私たちの身近に存在する。しかし、シャピロ博士からいただいた”武器”を手にし、私たちのコンフリクトへの”挑戦”は続けていけると確信に至った。
シャピロ博士自身が室内実験を行い、何千もの調査記事に目を通し、何百人もの専門家にインタビューするなどして到達した「ネゴシエーション3.0」をビジネスパーソンに限らず、多くのかたにオススメさせていただきたい。