「戦略コンサルティングに3カ月もかけているが、そのうちの8割は、お客様の経営者にお会いして40分で浮かんでいた。」
(引用)戦略質問 短時間だからこそ優れた打ち手がひらめく、著者:金巻龍一、発行所:東洋経済新報社、2021年、1
私たちは、戦略を練るとき、コンサルの力を借りることも多いのではないだろうか。しかし、本来ならコンサルの力を借りず、自分たちの手で戦略を練っていきたいものだ。どのようにしたら、戦略やビジネスモデルを発想するためのスタートにおいて「ひらめき」を得ることができるのだろうか。また、コンサルは、どのようにして戦略を顧客に提案していくのだろう。そんなことを思い描いていたら、一冊の本に出会った。その書籍は、「戦略質問 短時間だからこそ優れた打ち手がひらめく」である。著者の金巻氏は、アクセンチュア、PwCコンサルティング、IBM戦略コンサルティンググループなど、20年超にわたり、戦略コンサルティングに従事されてきた。とても興味が湧いたので、拝読させていただくことにした。
本書では、巻末にも纏められているが10のセントラルクエスチョンが登場する。書籍のタイトルにもなっている「質問」、つまりコンサルから顧客への問いかけが戦略を練り上げることにつながっていく。冒頭、戦略などには、「ひらめき」を得ることが大切だと書いた。本書には、金巻氏が「あなたの会社のあるべき姿はなんですか?」とポピュラーな質問をするのではなく、「(経営トップである)あなたの個人的な野心はなんでしょうか?」と言う問いかけをすることがあるという(本書、30)。私は、この「野心(アンビション)」と言う単語が気に入った。本書では、金巻氏自身の経験により、PwCコンサルティングが突如、IBMから買収を受けたときのエピソードを紹介している。その際、私は、日本のPwCコンサルティング代表だった倉重英樹氏が「この統合の野心を語ろう」と言われたことに感銘を受けた。その結果、IBM対PwCが「IBM+PwC」対「競合」という図式になったのかなと金巻氏は語っている。この「野心」という単語には、敵対すると思われる相手に対しても、ともに共通の思いを駆り立てるということに有効であると感じた。
冒頭に紹介したのは、金巻氏が事業会社の経営者からコンサルティング会社の代表に転身されたかたがふと口にされた言葉であるという。金巻氏も、かなりの衝撃を受け、心のどこかに同じような感覚を覚えたと言われる。
そこから本書はスタートしているのだが、本当にコンサルがそのように思っていたとしたら、クライアントからすれば高いフィーをコンサルに支払い、時間も無駄にしていることになる。このたび、金巻氏が本書では、惜しげもなく、コンサルの質問について披露してくれている。それぞれ、10のセントラルクエッションは、なぜこの質問をするのかと言った背景まで説明してくれている。本書で紹介されている質問にそって解を見つけていけば、戦略のコアにたどり着く。自社が競争優位に立つべきには、どのような発想、ひらめきが必要なのだろうかという戦略のコアに向かって。
さらに本書では、ビジョンと戦略は結びつかなければならないのか、また経営戦略と経営計画の違いなど、ベーシックな部分にも触れられている。また、当然ながら、それを実現させるためのミッシングパーツ(不足する機能や能力)を洗い出す質問も忘れていない。
本書の最後では、金巻氏が尊敬するという経営者から教えていただいた静止画と動画の話が登場する。これは、会社の野心とその道筋をシンプルに語る上で有効だと感じた。
金巻氏によれば、誰にでも「戦略策定の機会がある」と言われる。
本書は、立案された戦略が、本当に戦略になっているのか、また「選択と集中」が行われているかを問うことができる。そして、何かと膨張しやすい戦略は、少人数、短期決戦で戦略を立案するときに集中して討議していくことが重要だと理解した。
時に「戦略」という言葉が独り歩きし、なんのために「戦略」を立てているのか、また有効に機能しているのか分からなくなるときもある。しかしながら、ここに紹介された「戦略質問」によって、読者は、優れた打ち手がひらめき、真の戦略を手に入れることができると実感した。
今後、私も実際の仕事において、戦略質問を活用していきたいと思うに至った。