2022年11月12日土曜日

日本の消費者がどう変わったか

 実際コロナ禍において、規模はまだ小さいながらも生産者が消費者にダイレクトに新鮮な食材を提供するD2C(Direct to Consumer)ビジネスが伸びてきている。
(引用)日本の消費者はどう変わったか 生活者1万人アンケートでわかる最新の消費動向、著者:野村総合研究所 松下東子、林裕之、発行所:東洋経済新報社、2022年、              177

消費者トレンドは、どの企業、どの事業者にとっても必要不可欠なものであろう。また、国や行政においても、消費トレンドを知ることは、施策を考えていく上で有用なものとなる。野村総合研究所(NRI)の生活者研究・マーケティングコンサルティングチームが実施するNRI「生活者1万人アンケート調査」は、1997年を初回とし、以降3年ごとに実施してきた。このたび、最新の調査となる2021年調査では、コロナ禍ということもあり、日本の消費者の価値観や意識・行動について、これまでにない変化が生まれたという。

確かに、新型コロナウイルスを契機として、外出自粛、テレワークの推進など、今までにない大きな変容が私たちの暮らしを襲った。それに伴い、各家庭の消費傾向も大きく変わったと思う。いま、日本の消費者のトレンドは、どのように変わってきたのか。それを知ることは、今後の私たちのライフスタイルの主流を知ることにつながる。

「日本の消費者はどう変わったか(東洋経済新報社、2022年)」を拝読すると、「やはり」と思うことが多い結果になっていることに気づかされた。まず、テレワワークである。2020年は、テレワーク元年と言われている。総務省やNRIの推計によると、日本のテレワーク実施者は1500万人以上、年間120日以上の本格テレワークは340万人にも上るという。コロナ禍において、私もテレワークを実施したことがあるが、メリットとしては、やはり通勤時間が不要であるということだろう。このたびのNRIの調査においても、テレワーク導入による通勤時間の削減が、約8割の就業者に新たな自由時間を生み出したという。そして、コロナ禍においてテレワークの業務を実施した人は、余剰時間を活用した資格取得、副業への意向が高く、会社への貢献意識も高くなることがわかった。そして、就業への満足度はより高い結果が得られることにつながった。私は、就業への満足度が高い結果が得られたことに、驚きを隠せなかった。なぜなら、私のテレワークのメリットは、先ほどの通勤時間の短縮であったが、それ以上にデメリットも強く感じていたからだ。それは、まず同じ職場の仲間とのコミュニケーション不足がある。近くに上司や同僚がいれば、相談も容易にできる。しかし、テレワークとなると、基本、パソコンを介してのコミュニケーションとなる。日ごろ私は、文字によるコミュニケーションの難しさを感じている。それは、例えば微妙なニュアンスの報告書が文字のみで上がってきた場合、確認する術も文字で質問するしかないからだ。会話をすると、「これって、こういう意味だよね」と言い方を変えて、自分が納得して確認できるが、テレワークでは、それが叶わないことが多い。また、職場の人間関係自体も希薄化する気がしている。私のような古い人間には、テレワークの良さに気づけないということであろう。私は、多様な働き方が大規模な会社から受け入れられているという事実を受け入れていく必要があると感じた。

ただ、人間関係の希薄化でいえば、若者たちも感じていることがわかる。2018年から2021年にかけての動きの年代を見ると全体的に生活満足度・幸福度が高まる中、10代の若者だけは下がっているという。これは、学生生活を送る上で、友との語らいが減少し、旅行やテーマパークへ行けなくなったことが要因として考えられる。コロナ禍において、家族へ帰属する意識が高まる中、貴重な10代の楽しみが奪われている。その溝を埋めるためのツールなり、新しい楽しみなりが必要であると感じた。

新型コロナを契機として、「アウトドア・キャンプ」や「ドライブ」の余暇活動が伸びているという。「ソロキャンパー」という言葉にも象徴されるように、密を避け、一人、自然の中に入り込んでいく。このコロナを契機として自分を取り戻す、もしくは自分を見つめ直すというかたが増えてきたということであろう。実際、アウトドア用品は、ホームセンター等に出向いても増えてきた。また、都心では、キャンプ用品のメーカーが自社のチェアを使ったり、テントを店内に設置したりして、喫茶店を営業している。より身近にアウトドアを体験できる機会が着実に増えている。

50歳を過ぎた私が心配するのは、今後の日本の家族のあり方である。結果を見ると、結婚はしなければならないものと考える若者が減少していること、男性の収入減少が結婚を控えるといった相関関係が明らかになっていること、子供は持ったほうが良いという意識が近年急激に弱まわっていることに危惧を抱いた。

イーロン・マスクは、「当たり前のことを言うが、出生率が死亡率より高くなるような何らかの変化をもたらさない限り、日本は消滅するだろう」とTwitterに投稿した。これは、日本の人口が2021年、過去最高の64万4000人減少したという記事のデータに対するコメントになるが、私もイーロン・マスクの意見に賛成だ。どうしたら、若者たちが未来に希望が持てるのか。それは、私たち大人が環境を整えて行く必要があると強く感じた。

冒頭には、コロナによって、どのように消費者トレンドが変わったのかという一例を引用した。今まで、「動く」ことによって得られたものがインターネットによって繋がり、流通そして消費者の距離が生産者とより一層近くなった。

本書には、コロナ禍収束後に戻るもの/戻らないものについて予想も掲載されている。これは、今後の消費トレンドを知る上で、とても参考になる。一例を申し上げると、コロナ禍で「増えた」けど収束後に「戻る」ものは、デジタルでの映画・音楽鑑賞、収束後でも「戻らない」ものはオンラインショッピングであった。一方、コロナ禍で「減った」けど収束後に「戻る」のは外食やグルメ・旅行、収束後でも「戻らない」ものは人付き合いや“飲みニケーション”であった。

確かに、2022年4月19日、米動画配信大手ネットフリックスは、会員数が10年以上ぶりに減少に転じたと発表した。しかし、その後ネットフリックス第3四半期に241万人増加し、上半期のかつてない規模の減少から一転し、予想を上回る力強い回復を見せはじめた。NRIが予想したトレンドがどのように推移していくのか。今後のネットフリックスの会員数が気になるところだ。

NRIによる「生活者1万人アンケート」は、新型コロナウイルスを契機として、最新の消費者傾向は、大きく変化した。今回触れなかったが、スマートフォン保有が半数以上となっている70代でもデジタル活用が進んでいない。そのため、我が国でデジタル推進をしてくためには、より一層の高齢者のデジタル活用が求められる。渋谷区では、65歳以上のスマートフォン保有していない区民に対して、2年間無料で貸出をしているという。

小型パソコンといわれるスマートフォンを所有することは、ネットショッピングに代表されるように買い物難民対策にも、またコミュニケーションツールとしても、さらには災害発生時における情報入手手段としても、あらゆる面で私たちの暮らしを守り、豊かなものにしてくれる。

いま、新型コロナウイルス、デジタル化の波が押し寄せている。それらの社会的背景をもとに、私たちの暮らしは、大きく変貌している。しかし、その根底には、私たち日本人の価値観も変わりつつあることが理解できる。本書を拝読し、新しいステージにおける、新たな生き方が消費者トレンドとして表れてきているのだと感じた。