2022年12月17日土曜日

悪魔の傾聴

 しゃべれなければ、聞けばいいーそれだけで、本当にあらゆることが好転するのです。 
                                   中村淳彦

(引用)悪魔の傾聴 会話も人間関係も思いのままに操る、著者:中村淳彦、発行所:株式会社飛島新社、2022年、260

よく、一流の人は、「話す」より「聴く」ことが大切だと言われる。確かに、私も実生活や職場においての経験からも「傾聴」することの重要性は、理解できる。
しかし、それでも「傾聴」を実践することは難しい。妻からも、「よく、相手が話していても、自分の話題にすり替えているよね」と注意されてしまう。自分では無意識?、もしくは自分のことを話して会話を盛り上げていこうという意識?が働くのか、妻からは傾聴することに対して(他の部分もあると思うが)、及第点をいただけていない。しかし、傾聴することは、家庭生活を送るにしても、ビジネスの世界でも有効であることは間違いなさそうだ。

では、傾聴することは、単なる人の話を真剣に聴くだけで達成できるのか?それとも、傾聴することに関してのスキルが存在するのか?そんなことを思いながら書店に立ち寄ったら、一冊の書籍に出会えた。タイトルは、「悪魔の傾聴」とある。しかも、サブタイトルでは、「会話も人間関係も思いのままに操る」とある。これは、もう読むしかないと思った。

「悪魔の傾聴」を読み、最初から私は、打ちのめされてしまう。本書で言う、「HHJ」の三大悪、つまり「否定する」、「比較をする」、「自分の話をする」の頭文字を取った「HHJ」は、傾聴の三大悪であるという。この三大悪を無意識のうちに実践してきた私は、奇跡的に家庭や職場生活が送れていることに感謝した。
いままで私は、傾聴することについて、相手の話を聞きながら、自分のありのままの姿を見せていくことだと信じ切っていた。しかし、真っ向から否定されたことに、本書の著者である中村氏から、さらに傾聴のスキルを学ばなければならないと感じた。

本書の著者である中村淳彦氏は、「職業としてのAV女優(幻冬舎新書)」や「新型コロナと貧困女子(宝島社新書)」など、現代社会が抱えているであろう課題に対して、果敢に取材されているイメージがある。本書でも、実際に取材されたときの実例も紹介されている。中には、自殺未遂をされた女性に対して、どう自殺を思い留まらせたかという、まさに傾聴の上級テクニックまで披露されている。その中で、自分から相手に初めて話しかける行為(ナンパも然りか)については、特にビジネスの世界でも参考になる。初対面の方に話しかけるとき、中村氏は、「こちらから相手を選べるメリットがあるので、こちらに主導権がある」とする。そして、どのように自分の好印象を与え、一言、二言会話を交わしただけで、話が続いていくのかというテクニックは、とても役に立った。

また、中村氏の仕事もそうだが、ビジネスの世界でも、相手の本音を聞きづらい場面に遭遇する。中には、相手が沈黙さえしてしまうこともある。そのような場合でも、どのように対処し、傾聴を続けていくかということは、とても参考になった。

本書を読み、ヒト(人)は、誰しも欲望があることを再認識させられた。それは、聴き手である私たちにとっては、邪悪なものになるという。いくら、自分の心がフラットな状態で傾聴をしているつもりでも、「相手に信頼されたい」という欲望が潜んでいるという。この欲望を完全に捨てなければ、ビジネスでも家庭でも、傾聴を実践することは不可能だということに気づかされた。改めて、私は、傾聴の奥深さを知ることになった。

本書を最後まで拝読し、傾聴とは、単なる人の話を聴くだけではないということを思い知らされた。そして、今までの自分の傾聴のスキルが全然違っていたことも認識した。傾聴を実践することは、相手との関係が深まり、本音を引き出せ、信頼関係が生まれる。まさに、サブタイトルの「会話も人間関係も思いのままに操る」レベルに達するものだと感じた。

本書を読んで、早速自分も中村氏から教えていただいた傾聴のスキルを実生活で実践しはじめた。その結果、この傾聴のスキルという武器を手にした私は、自分の周りの人たちも変わりはじめたような気がしてきた。

2022年12月11日日曜日

限りある時間の使い方

 「人生のすべては借り物の時間」なのだとしたらー何かを選択できるということ自体が、すでに奇跡的だと感じられないだろうか。
(引用)限りある時間の使い方、著者:オリバー・バークマン、訳者:高橋璃子、発行所:株式会社かんき出版、2022年、86

定年延長を考えなければ、私も仕事ができる時間が10年を切った。この歳になれば、どのような時間の使い方、そして生き方が良いのかを考える。例えば、私の尊敬する稲盛和夫氏によれば、”仕事に打ち込んで、世の中に役立ち、自分自身も幸せだった“(致知12月号、令和4年11月1日発行、発行所:発売所:致知出版社、11)という生き方は、とても共感できる。

一方、時間の使い方の改善によって、生産性の向上を図るため、「タイムマネジメント」という言葉をよく聞く。つい、ダラダラと過ごしてしまうと、すぐに時は過ぎ去り、あとで人生の中で無駄な時間を過ごしてしまったと反省することも多い。

しかし、私は、このタイムマネジメントという言葉が好きになれない。ヒト(人)は、自然を支配できないように、果たして時の流れも支配すべきなのであろうか。

私たちが地球上に生まれ、過ごせる時間は、仮に80歳まで生きたとして、4,000週間ほどしかない。この極めて短い、限られた時間をどう過ごすかは、至極当然であるが、各個人に委ねられている。そんなとき、一冊の書籍に出会った。タイトルは、「限りある時間の使い方(株式会社かんき出版、2022年)」である。

この本は、いままでのタイムマネジメント関連の書籍と一線を画す。一言で言えば、決して抗うことのできない時の流れに対して、肩の力を入れず、人間らしく生きなさいという感じである。つまり、時間は有限であるということを認識しながら、効率化を目指すのではなく、問題が発生してもその状態を楽しむ。それによって、一人ひとりの人生が完成するということだと理解した。本書を拝読し、このブログの冒頭の記した「人生のすべては借り物の時間」と考え、私の人生は、時間の経過と比例するように、人生の瞬間、瞬間に“奇跡”がもたらされているという考えで、生きていくことが望ましいのではないかと思うに至った。

本書の中では、スウェーデンの哲学者、マーティン・ヘグルンドの次の言葉が登場する。「もしも、人生が永遠に続くと考えるなら、自分の命が貴重だとは思わないだろう(本書、78)」。

多くの日本人が好きな桜の花は、一年のうちに咲くのは一瞬だ。また、夏の風物詩とも言える打ち上げ花火も、藍や黒色のキャンパスともいえる夜空に、鮮やかで美しい大輪の花を一瞬だけ咲かせてみせる。長い地球上の歴史において、ヒト(人)の一生も一瞬だ。その儚さ故の尊さに、命を、そして時間を愛おしく、貴重だと感じるのであろう。そう考えていけば、時間の使い方は、目先の効率性を優先するのではなく、自然の時の流れの中で、もっと大局的に見て、それぞれの人生を完成させていくことが必要ではないかと感じた。

ただ、本書は、何も哲学的な、時間の使い方の概念だけでは終わらない。具体的な”時間の使い方“にも言及している。例えば、タスクを上手に減らす3つの原則の一つに、『優先度の「中」を捨てる』がある。これは、かの有名な投資家、ウォーレン・バフェットの話だとされているそうだが、「人生のやりたいことのトップ25をリストアップする。そして、重要なものから並べる。そして、上位5つのものに時間を使う」というものだ。タイムマネジメントのような効率化の罠にハマり、時としてヒト(人)は、時間を操り、何でもこなせそうな気になってしまう。しかし、本書の別の箇所で指摘しているように、「どんな仕事であれ、つねに時間は予想以上にかかる」ものである。限られた時間を有効に使うため、真に重要なタスクを確実に実行していく(これは仕事に限ったことではない)必要があると痛感した。

また、本書には、忍耐を身につける3つのルールや、本書の巻末には有限性を受け入れるための10のツールも紹介されている。その10のツールのうち、「ありふれたものに新しさを見いだす」がある。歳を重ねてきた私にとって、このツールは、妙に納得してしまった。もっと、この瞬間に与えられている人生のギフトに深く潜り込み、日常の内側に新しさを見つけていきたいと思った。

私たちを宇宙レベルで考えると、本書では、「あながた限られた時間をどう使おうと、宇宙はまったく、これっぽっちも気にしていない(本書、240)」とされる。

いままで、自分の人生は、そして人生の成功とはこうあるべきというものに囚われ過ぎた感がある。また、“限りある時間を効率的に使いなさい”と、周りから潜在的に植え込まれてきた気がする。

そんな考えを払拭し、肩の力を抜いて、自分の人生を選択して、人間らしく生きて、充実したものにさせよう。

そんな人生の意義を思わせてくれる一冊であった。

2022年12月3日土曜日

ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる 

 「マネジャーが、組織の成功のカギである。」これが、この本の一貫した主張です。
                               訳者:古屋博子

(引用)ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる、著者:ジム・クリフトン、ジム・ハーター、訳者:古屋博子、発行:株式会社日経BP、日本経済新聞出版、発売:株式会社日経BPマーケティング、2022年、383

 私は、ドラッカーが企業の目的を端的に表した次の言葉が好きだ。「有効な定義はただひとつ、顧客を創造することである」。例えば、Apple社製のIpadなどは、顧客の要求を取り入れたのではなく、顧客を作り出す(創造する)という発想から設計されているとも言われる。しかし、このたび発刊された「ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる(株式会社日経BP、日本経済新聞出版、2022年)では、新しい企業の目的、そして「これからの働き方」には、この「顧客の創造」というドラッカーの定義に加え、人間の潜在能力を最大限に発揮させることが含まれなければならない(本書、15)という。
では、ドラッカーの時代から何が変化し、これからの新しい企業の目的として何が求められるのか。私自身、大変興味が湧き、本書(ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる)を拝読させていただくことにした。

まず、ドラッカーの時代と比較し、現代はどのように職場文化が変化したのだろう。本書の訳者である古屋氏が本書の「訳者あとがき」で指摘するとおり、著者のジム・クリフトン、ジム・ハーターは、ポストコロナを見据えている。本書は、新型コロナ前に書かれたというのにも関わらず。既に、今では働き方の主流となりつつあるリモートワークをはじめ、フレックスタイム制、ギガワーカー(伝統的な雇用主と従業員の関係ない人たち)、働く女性が直面する課題、そして定年を迎えてもなお働かれる再雇用社員に至るまで、本書は、新たな組織文化が求められている社会的背景を予見し、広くカバーしている。

本書では、現代の、そしてこれからの社会的背景をもとに、どのように新たに組織文化を変えていくかが試みられている。本書を読み、私が憂慮すべき点としては、日本人の94%が仕事に「エンゲージ(組織と従業員のつながり、「愛着心」の強さ)していない」または「まったくエンゲージしていない」という結果が出ている(本書、21)ということだ。これからは、従業員のエンゲージメントを高めるべく、我が国の企業文化や組織にも適合する、新たな時代に即したマネジャーが求められているのだと感じた。

本書は、CEO(最高経営責任者)、CHRO(最高人事責任者)、マネジャーに向けた参考書だ(本書、9)という。しかし、本書は、先ほどのエンゲージメントを高めるべく、我が国の管理職に広くオススメしたい内容であった。なぜなら、例えば本書では、「ボスからコーチへ」という章が登場する。その章のなかで、特に「コーチング 5つの会話」の中に登場する「クイックコネクト」は、重要ではないかと思った。このクイックコネクトは、メールや電話、廊下の立ち話でもいいのだが、マネジャーが様々な手段で短時間(1~10分)のやりとりを少なくとも週1回行うものだ。日本人の管理職は、部下などに対して、このような頻繁に「声がけ」することを苦手としているのではないだろうか。本書も触れているが、従業員は「自分が無視されている」と感じさせないためにも、クイックコネクトは有効であると感じた。ただ、私の尊敬する稲盛和夫氏は、部下から立ち話で報告を受け、その報告がおざなりになってしまった経験を活かし、それ以降、立ち話では、絶対報告を受けないようにしていたと言われる。クイックコネクトの手段については、真剣に部下と向き合うため、それぞれのマネジャーが自分のスタイルで、時間を確保していく必要があると感じた。

そして、部下との意思疎通については、マネジャーによる意思決定する際にもつながる。本書では、意思決定を下す場合の3つのポイントに触れられているが、私は、「自分の限界を知る」というポイントが好きだ。どうしても、自分の強み、弱みがある。そのなかで、部下なり、周りから意見を求めながら判断を下すのは、至極当然のことであろう。その際、部下とのコミュニケーション、そしてエンゲージメントが高い部下が周りにいなければ、的確な判断が下せず、マネジャーは裸の王様になってしまう。かつて私は、平成30年7月豪雨の際、総社市長として災害対応の最前線に立って指揮した片岡市長の講演を拝聴したことがある。そのなかで、片岡市長は、「決断は1分以内にすること」と言われていた。つまり、リーダーが迷って判断が遅れれば市民の命は失われると心に決めていたと言われる。その際の判断基準としては、「いま、自分の決断が市民のためになるかどうか」であった。危機管理においても、エンゲージメントの高い部下を周りに集め、そして意見を求め、最終的にリーダーは、自分の指針をもとに迅速に決断を下す。総社市がここまで災害対応で注目されたのは、片岡市長が企業で言うところのCEO的な役割を果たしたからであろう。

本書では、意思決定、コーチング、マネジャーの特性などが学べる。さらに本書では、自分や周囲の人たちの強みを活かすべく、能力開発の起点となる「クリフトン・ストレングス」が紹介されている。本書には、34の資質について概略が紹介されており、この資質は「実行力」「影響力」「人間関係構築力」そして「戦略的思考力」がわかるという。これを眺めているだけで、自分の強みや弱みが理解できる。

そして、優れたマネジメントを実現するため、チームを成功に導く12の質問が本書の途中と巻末に登場する。特に巻末では、12の質問の意図と、この質問を受けて最高のマネジャーは何をしているのかが詳細に解説してある。私は、12の質問中のQ4「この1週間の間に、良い仕事をしていると褒められたり、認められたりした」という問いが気に入った。我が国において、管理職は、部下を口に出して褒めたり、認めたりすることが苦手ではないだろうか。しかし,この行為は、冒頭の従業員のエンゲージメントを高めるためには有効であると感じる。あのディズニーでは、リコグニッション活動といって、キャストがお互いの良いところを認め、称えるメッセージをおくりあう活動があると聞く。また、キャストが自身を向上させる努力をしているときや、優れたパフォーマンスを発揮したとき、マネジメントの方が「Good Jobカード」を手渡しすると言う。このような習慣は、従業員のエンゲージメントを高めるために、とても有効な活動であると感じた。

本書の訳者の古屋氏は、『組織として本気で「マネジャーの成功」を後押しできているかが私たちに問われている』(本書、383)と言われる。それができなければ、ポストコロナにおける、新しい時代の組織文化は構築できず、マネジャーの役割も果たせなくなる。

ポストコロナも然りだが、我が職場においてもミレニアル世代(1980~1996年生まれ)やZ世代(1997~生まれ)が増えてきた。彼らの価値観を理解し、どのように潜在能力を発揮してもらい、人の力を最大化する組織をつくっていくのか。そのための解は、本書に書かれていた。現在の、そしてこれからのマネジャーに、是非本書をオススメしたい。特に、日本では、冒頭に記したとおり従業員のエンゲージメントが低く、新たなマネジャーの果たす役割が大きいと感じているから。