「栗山ノート2」は、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で侍JAPANを率いて見事に世界一を成し遂げた名監督、栗山英樹氏による著書である。この本は、栗山氏の深い洞察と感動的なエピソードが詰まった一冊だ。 私は以前、「栗山ノート」を読んだことがあり、その中で栗山氏が古典の言葉をいかに日々の指導に活かしているかを知ることができた。その思索と行動の源泉を探ることは非常に興味深かった。そして、今回の「栗山ノート2」では、彼がWBCという大舞台でどのようにチームを導いたのか、その具体的な過程がさらに深く描かれている。
まず、栗山氏の見識の広さには改めて驚かされる。孔子の論語や易経といった中国古典、渋沢栄一の「論語と算盤」、森信三先生の教え、さらには吉田松陰まで、広範囲にわたる古典の知恵が本書に散りばめられている。特に「呻吟語(しんぎんご)」の「深沈厚重(しんちんこうじゅう)なるは、是れ第一等の資質なり。」という言葉は、WBCの記者会見に臨む際に栗山氏が胸に刻んでいたものだ。これは「物事を深く考えて、重厚な振る舞いをすること」を意味し、現代においてもその価値は色褪せない。栗山氏は、頭の回転や弁舌の才よりも、深沈厚重の姿勢を重視することが、リーダーとしての本質だと考えている。
また、厳しい決断を迫られる監督業の中で、栗山氏は常に選手の将来を見据えた判断を下している。その一例として、鈴木誠也が左脇腹の違和感からWBC出場を辞退する場面が挙げられる。選手の悔しさと栗山監督の心の葛藤が描かれており、監督が下した決断は、安岡正篤氏の高弟といわれた伊藤肇(はじめ)氏の教え「この瞬間を乗り越えてきた人だけが本当の男である」に基づいている。
さらに、韓国戦で右手の小指を骨折した源田壮亮選手に対する栗山監督の対応も心に残るエピソードだ。森信三先生の「野心と志を区別せよ」という言葉に導かれ、源田選手の「志」に基づいた行動が描かれている。ここでは、「野心」が自己顕示欲に根ざしたものである一方で、「志」は他者や社会に貢献する信念を指すと解釈されている。この違いを理解し、選手と監督が共有することで、チームは一丸となって新たな可能性を見出していった。
WBC決勝の舞台で、大谷翔平がロッカールームで発した「憧れるのをやめましょう。憧れてしまっては越えられないので、僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。」という言葉は、対戦相手に対する畏敬の念を捨て、勝利に向けて全力を尽くす決意を示していた。そして、栗山監督は稲盛和夫氏の「現実になる姿がカラーで見えているか」という言葉を実践し、チームは見事に世界一になった。
この本を通して、栗山氏の哲学とその実践が深く理解できた。彼が古典の知恵を現代に活かし、侍JAPANを世界一へと導いた姿に、深い感動と学びを得ることができた。「栗山ノート2」は、単なるスポーツ書にとどまらず、人間としての在り方を教えてくれる一冊である。