2020年2月26日水曜日

新エクセレント・カンパニー

人がいちばん大事。いますぐに試してみよう。積極的に人の話を聴こう。ワオか、さむなくば失墜を。いつもエクセレントであれ。
(引用)新エクセレント・カンパニー AIに勝てる組織の条件、トム・ピーターズ著、久保美代子訳、株式会社早川書房、2020年、90

いま、私の目の前に2冊の本がある。1冊は、1983年に発行された「エクセレント・カンパニー 超優良企業の条件(株式会社講談社:大前研一訳)」。そして、もう1冊は、先日、私が書店で「ワオ!」と言って新刊コーナーで見つけてしまった2020年発行の「新エクセレント・カンパニー AIに勝てる組織の条件」だ。著者は、言わずとしれたトム・ピーターズ。まさか、37年の時を経て、私は、伝説の名著「エクセレント・カンパニー」の続編に”再会”できるとは思わなかった。

トム・ピーターズの考えの根底には、いつも「人」がいる。このたび、トムは、カオス状態のテクノロジーの世界でいま現在起きていることを知るべく、100冊を超える本を読んだという。そして、これからの時代に即した組織文化、行動、エクセレントなリーダーになるためのエッセンスを続編に盛り込んだ。特に248ページに記載のある「リーダー就任の宣誓 管理者であり奉仕者であることを誓う」は、私も自身の手帳に書き記しておいた。この宣誓は、トムがAIMで行った副産物だそうだが、これからどんなにテクノロジーが進化しようとも、またどんな職業に就いていようとも、不変的であり、人間重視の原則に則ったあるべきリーダー像のことだ(詳細は本書で)。

1983年発行の「エクセレント・カンパニー」は、私が学生時代に読み漁った一冊だが、当時、少し読みづらいところもあった。しかし、今回の続編は、トムが1998年に発行した「トム・ピーターズの起死回生(TBSブリタニカ:仁平和夫訳)」のように読みやすい。この「起死回生」は、世界23カ国、約400回の経営セミナーの集大成として纏められたものだが、まるで、トムのセミナーを受けているかのような感覚で、読者の心にスーッと入ってくる。このたびの続編も同じようなタッチで書かれており、570ページにも及ぶが、読者を飽きさせることがない。

この続編では、ソーシャルビジネスやIoTにも話が及ぶ。しかし、本書で指摘していることは、いつの時代でも「人間」を第一に考えたトム流のマネジメントだ。例えば、些細なことに気配りをする、リーダーは熱意を持つ、人の話をよく聴く、目の前の仕事にいますぐとりかかるといったトムの指摘は、自分自身の仕事を振り返る良い機会にもなる。

この新エクセレント・カンパニーでは、もうすぐ80歳になろうとするトムだけがたどり着いた「エクセレント」へと、道案内してくれる。さあ、読後は、自分たちの仕事で実践しよう。なぜなら、本書に登場する珠玉の言葉たちは、私たちをエクセレント・リーダー、エクセレント・カンパニーへと導いてくれるからだ。
私の青春時代からずっと寄り添ってくれているトム・ピーターズに改めて敬意を表したい。





2020年2月15日土曜日

次世代ガバメント

次世代行政府の役割は、おそらく次の三つに集約されるのではないかと思います。まず、「社会インフラの提供」。そして、「サービスの提供」。最後に「コミュニティの再構築」があるのだろうと思います。
(引用)次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方、責任編集:若林恵、発行:株式会社黒鳥社、発売:日本経済新聞出版社、2019年、146

いま、私たちがよく耳にする言葉は、「大きい政府」を目指すべきか、それとも「小さな政府」を目指すべきか。「大きい政府」を目指せば万人のニーズに応えられるものの財源不足に陥る。一方、「小さな政府」を目指せば不平等が発生する。
この本は、今後の「公共」を支えていくため、デジタルテクノロジーという視点を取り入れ、議論している。なぜ、デジタルテクノロジーが必要なのか。それは、私達の身近に、当たり前のように存在している行政府は、生産人口の減少によって財源不足が進み、行政府職員が今までどおりの仕事をこなすだけでは、多様化する市民ニーズに応えられなくなるからだ。そのため、行政府は、積極的にデジタルテクノロジーを取り入れることで、仕事の効率化を図り、市民ニーズを汲み取り、市民らとコミュニケーションを図って信頼関係を構築することで、職員しかできない本来の仕事をしなければならないと感じた。

本書では、豊富なバックデータに基づき、これからの行政府のあり方を模索している。その中で、デンマークデザインセンターCEOのクリスチャン・ベイソン氏の指摘が鋭い。ベイソン氏は、「これからの行政府は、市民の一人ひとりの人生や社会がどう変わったのかを指標としてサービスが評価されなくてはならない」と指摘する。
今後より一層、行政府では、予算の使われ方、つまり費用対効果が問われる。事業予算で、どのように市民の人生までを変えていくのか。また、実際に、その事業評価はどうであったのか。さらに、老朽化する多くのインフラ整備は、どのようにプライオリティをつけていくのかなど。
行政府は、既に事務事業評価制度を取り入れてはいるが、その評価制度の指標を組み替えるなどして、より市民や社会によい効果をもたらしたかを的確に評価し、予算に対する説明責任を果たさなければならないと感じた。

かのピーター・ドラッカーも、公的機関が成果を上げるための規律として、「自らの事業を定義する」、「活動の優先順位をつける」、「成果の尺度を明らかにする」などをあげている。それに加え、本書では、デジタル公共財の整備や、そこに住む人達や同じ目的を持った人たちの「共感」をベースにしたコミュニティの必要性を説く。先日、私も会津若松市のスマートシティに関する本を読んだが、本書の中でも、そのスマートシティの必要性を認めつつ、課題も提起しているところが興味深い。

先進国の中で、特に少子高齢化の進展が顕著な我が国においては、行政府に残された時間が少ないのかもしれない。本書を読んで、厳しい環境の中、さらにグローバルに、そして多様化する市民ニーズに応えるべく、これからの行政府は、長期的な視野をもって、「ガバナンス・イノベーション」をおこしていかないと強く感じた。
そのために、私は、まず、2050年時点における行政府のあるべき姿をイメージするところから始めてみようと思う。

本書は、地方公共団体職員を始め、新たな「公共」を支える全ての人(社会の構成員)におすすめしたい。









2020年2月13日木曜日

敵は我に在り

勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。
                 野村克也
(引用)日本経済新聞 2020.2.12朝刊、「春秋」欄

プロ野球チームの「ヤクルト」を率い、3度の日本一を導いた名監督、野村克也さんが2月11日に亡くなった。
野村さん自身も戦後初の三冠王となるなど、その球界に残した偉業は、どれも華々しい。
しかし、その裏には、歴代最多の1563の負けを喫したことはあまり知られていない。

よく、私はテニスの試合をするのだが、運が運を呼び、なぜか勝ててしまうことがある。「なぜ、この試合に勝ったのかわからない」という不思議な感覚。でも、その勝ち試合の後は、「結果オーライ」ということで余韻に浸るだけで、その試合を省みることがない。

一方、負けるときは、散々だ。「あそこが上手くいかなかった」というのは、言われなくても、自分自身が一番良く知っている。
そこで、次に生かせるかどうか。それが、次の勝利につながっていくのだろう。

ビジネスの世界でも同じことが言える。よく、「多く失敗せよ」と言われる。最近、思うのだが、多くの若い世代の人たちは、失敗を恐れるのか、チャレンジすらしない。
しかし、目の前にある仕事に果敢に挑み、失敗し、反省し、次に活かす。スポーツもビジネスも、このサイクルがなければ、偉大な成果にはたどり着けない。

私の親戚の家には、名監督「ノム」さんの色紙が飾ってある。色紙のサインの横には、ノムさんの力強い字で「敵は我に在り」と言葉が添えられている。
生前、野村克也さんが書かれた本のタイトルにもなっているこの言葉も感慨深い。

目の前の仕事に果敢にチャレンジするのか、それともしないのかは自分自身。
自分を信頼して突き進むのか、それとも怖気づいて立ち止まるのかは自分自身。
さらなる高みを目指すのか、それとも現状維持でいくのかは、自分自身。
「自分はこの程度」とか、「少しでも楽をしよう」と思った時点で、すべての成長が止まる。私は、ノムさんの言葉を、このように解釈した。

まさに、敵は我に在り。
その信条のもと、自身の人生を歩みきった野村克也さんに、改めて敬意を表したい。

偉大な野球選手や名監督であった、そして、今もなお、多くのスポーツ選手やビジネスマンたちに影響を与え続ける野村克也さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
令和2年2月13日 宮本佳久  
                         





2020年2月10日月曜日

異端のすすめ

僕の人生経験からいえば、通常は、まずは量をこなして自分のウリを磨いて仕事の質を上げ、商品価値が高まることで量に追われることがなくなるというプロセスをたどるものです。
(引用)異端のすすめ 強みを武器にする生き方、橋下徹、SBクリエイティブ株式会社、2020年、72

この橋下氏の言葉を聞いて、私は、ピーター・F・ドラッカーの「自分の強みを活かす」ということを思い出した。その他大勢から抜け出すには、まず、自分のウリ(強み)は何であろうと認識することから始まる。自分は何者で、何が得意で、何が他人より秀でているのか。それは、一つの要素に限らない。橋下氏によれば、その強みを掛けあわせた総体が自分の価値になるという。
全く同感だ。
さらに、私は、その強みが自分の仕事に活かされなければ意味がないと考える。ただ、どんな仕事にも幅がある。その幅の中に、自分という強みを持った個性を置くことで、光り輝かせる。そんなことが必要であろうと感じた。

そして、橋下氏は、量をこなすことによって、質が向上すると言う。
これも同感だ。
多くの人は、失敗を恐れる。しかし、失敗から学ぶことが多い。私は、チャレンジを繰り返して、失敗し、それを次に活かすことにより、質が向上するのだろうと思う。
これも、私の経験だが、チャレンジすることにより、チャンスを得たこともあった。私は、他人が尻込みする仕事の中に、自分を大きく飛躍させてくれる希望の種が隠れていると思う。イソ弁(居候の弁護士)から、大阪市長、大阪府知事までのぼりつめた橋下氏も、大きなチャレンジをすべきと説く。大きなチャレンジは、失うものより、得るもののほうが大きいからだ。

商品価値が高まれば、質の仕事に移行すると橋下氏は言う。また、ある出来事に対して、自分の見解(持論)をもてとも言う。
これも共感することだ。
私も持論を展開するときには、そのバックデータとなるエビデンスを求める。氾濫する情報から自分の目的にあった情報をピックアップし、分析し、自分の主張の根拠として情報を活用する。それによって、自分の考え方(持論)は、説得力という大きな武器を得る。

私も橋下氏と同じ、50代になりつつある。この本は、歳を重ね、多くの経験をして、得てきたものがあるからこそわかる人生の指南書的存在のものだ。
自分の人生を後悔しないため、特に若い世代のかたたちに、橋下氏の著書をおすすめしたい。




孤高の箴言

逡巡する者は後れを取る。
躊躇する者は追い抜かれる。
そんな者達を尻目に、勇敢な前進者は前へ突き進む。

(引用)孤高の箴言、菊池翔著、幻冬舎メディアコンサルティング、株式会社幻冬舎、2019年、「092 勇敢な前進者であれ。」から一部引用

私は、まるで吸い込まれるように、本屋で「孤高の箴言」という本を手にとった。この本は、エクシアの菊池翔氏が著したものである。この本は、一般のビジネス書にありがちな、菊池氏の生い立ちや会社の概要などの記述は全て省かれ、無駄な文章が一切ない。まるで詩集のように、ただ、菊池氏が自身の生きる指針を纏めたかのようである。

言葉は、どれもストイックで、厳しい競争に生き抜くためのものが並ぶ。
この本は、さらっと読み流すだけでは、何も得られない。
ゆっくりと噛み締めながら読み進めてみて、自分の仕事に対する姿勢と照らし合わせる。
そうすることで、新たな発見をすることも多々あった。

この本に出てくる言葉は、男性的で、しかも厳しいものが並ぶ。
しかし、一方で「休息を躊躇うな。」という文章も登場する。
「マインドフルネス」も話題になっているが、ストレスフルな現代社会において、時には、思考を停止し、体を休ませ、次のステージに移行することも必要なのだろうと感じる。

一番、菊池氏と共感した部分が、どの世界にも、他者に依存し、自分で答えが出せない人が多いということだ。
勇者は、自分で考え、前へ進む。
傀儡の生涯を望まなければ、それしかない。
傀儡の生涯を望むか。それとも否か。それを決めて行動するのは、自分自身であると、改めて菊池氏は教えてくれた。

2020年2月8日土曜日

OODA LOOP

旧日本陸軍の大本営参謀を務め、戦後は第二次臨時行政調査会の委員などを務めた瀬島龍三氏は危機管理の極意をこう表現した。
「悲観的に準備し、楽観的に対処せよ」

(引用)OODA危機管理と効率・達成を叶えるマネジメント、小林宏之著、株式会社徳間書店、2020年、124

ビジネスの世界では、PDCAサイクルがよく知られている。しかし、OODA LOOP(ウーダー ループ)は、まだあまり我が国には浸透していない。以前、私もチェット リチャーズ著の「OODA LOOP」(東洋経済新報社、2019年)で初めてその存在を知った。
このOODA LOOPは、アメリカ空軍パイロットのジョン・ボイド大佐が考案したもので、
・観察(Observe)
・状況判断(Orient)
・意思決定(Decide)
・行動(Act)
の4つのフェーズを回していくものだ。
空軍兵士が考えたこともあり、当初は危機管理ツールという意味合いが強かったかもしれないが、次第にスピード重視のビジネスの世界にもOODA LOOPの考えが広まりつつある。

このたびの小林宏之氏による著書は、OODAループを「危機管理」中心に書かれてはいるものの、OODA LOOPの入門書としても十分活用でき、即断即決が求められるビジネス界にも応用が効くものとなっている。
先程の4つのフェーズごとで、それぞれ「何をすべきか」ということが最新の事例によって語られており、危機管理の出発点とされる「何を大切にするのか」といった視点をもとに、小林氏は、OODA LOOPを回していくことを分かりやすく教えてくれる。

最近では、湖北省武漢市が発生源とされる新型肺炎コロナウィルスの感染が広がりつつあり、中国を始めとした経済活動にも大きな打撃を与えている。このコロナウィルスは、もはや対岸の火事ではない。我が国も感染拡大防止のため、関係機関と協力し奔走している。なにも、コロナウイルスは、国に全てお任せではなく、県や市町村が危機の未然防止をし、危機発生時の最悪の事態を防ぐ被害極限対応できる体制を整えることにより、国民、県民、市民からコロナウイルスの感染拡大を少しでも防ぎ、発生した場合は速やかに適切に対処していくことが求められる。

OODA LOOPは、観察から始まる。そして、状況判断をして、意思決定をする。いま、「自分たちの置かれている状況はなにか」、そして、そこから「私達を守るには何をすべきか(危機管理の出発点である「何を大切にするのか」)」を考え、悲観的に(最悪のシナリオを想定して)準備していけばよい。そうすれば、もし、身近でコロナウイルスの疑わしき事例が発生したら、シナリオにそって(シナリオ通りにいかないケースもあるが)、落ち着いて行動を起こすことが肝要だ。

しかし、悲観的と言われれば、そこで終わらないのかもしれない。今後、県内で多数の新型肺炎に罹患した患者が発生した場合、最悪のケースといえば、武漢で見られるように交通機能封鎖の措置がとられ、生活必需品が手に入らなくなることなども想定される。また、学校や会社も機能停止し、病院には、患者があふれかえる。まさに、今、中国でおこっていることが、私達の身近で発生するかもしれない。そのため、私達ができることは、いまの状況をしっかり観察し、あらゆる悲観的なシナリオを想定して、準備し、意思決定をし、行動を起こすことだ。

私もかつて危機管理部署に所属したことがある。そのとき、東日本大震災が発生した。被災地に出向き、津波によって何もかも洗い流されてしまった跡を見て、人間の無力さを感じた。しかし、そんな状況でも、明るいニュースもあった。そのニュースは、いわゆる「釜石の奇跡」と言われ、当時、釜石市内の小中学校の児童・生徒たちは、地震発生時に自主避難して、学校管理下にあった児童・生徒らは全員助かった(生存率99.8%)。なぜ、津波を知らない子どもたちが悲観的な事態を想定して、命を守ることができたのか。それは、群馬大の教授だった片田敏孝先生が、津波からの避難訓練を8年にわたり続けてきたからだ。

その子達は、「率先避難者」として、まず子どもたちが避難することで、大人たちもそれに引きづられる形で避難を始めることもできたという。まさに、観察(大地震発生)、状況判断(津波が来るかもしれない)、意思決定(高台に避難しよう)、行動(周りの人を呼びかけて避難)といった、即時即決を強みとするOODA LOOPがうまく機能した事例だと思った。行動を起こす際、すでに準備ができているから、落ち着いて(楽観的に)対処できる好事例だ。これが、従来のPDCAサイクル、つまり、PLAN「計画」から始めていては、子どもたちは助からなかった。

危機管理は、なにもこのような大きな事例ばかりではない。私達の身近にも、危機管理事案は多く存在する。そのとき、OODA LOOPは最強のツールとなる。
もう一つ、大切なことは、「悲観的に準備」することは、無駄が多いことだ。それは、小林氏も著書の中で指摘する。準備しすぎて、結局、何も起こらなかったということだ。私も、かつて危機管理部署の先輩から「空振りは大いに結構」と言われてきた。つまり、準備しすぎて、何も起こらなかったこと(空振り)は、危機管理の最優先される「人々の命と安全を守る」ためなら、歓迎すべきことだと言われ続けてきた。

クドいようだが、私達が「何を大切に」し、それを守るため、常日頃から悲観的に準備し、いざというときには楽観的に対処できるようにしておくためにできることは、日常の仕事の中でも意識しておくことが必要だろう。

小林氏によるOODA LOOPの本は、私も共感することが多々あった。多くの人におすすめしたい。



2020年2月2日日曜日

1兆ドルコーチ


人に求めるべき最も重要な資質は、知性と心だ。
つまり、すばやく学習する能力と厳しい仕事を厭わない姿勢、誠実さ、グリット、共感力、そしてチーム・ファーストの姿勢である。
(引用)1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社、2019年、187

この本は、ジョブズの師であり、アマゾンのベゾスを救い、グーグル創業者たちの伝説のコーチ、ビル・キャンベルの教えをまとめたものだ。
ビルのコーチングの哲学は、何も特異なものではない。ビルの教えは、人間として、当たり前の接し方を心がけるようにというものだ。そして最強のチームを築く。ビルによれ ば、人に求める最も重要な資質は、知性と心と説いている。

その中で、気に入ったフレーズは、「グリット」だ。これは、一般的に「やり抜く力」と言われる。普段、私たちの仕事では、打ちのめされても立ち上がり、再びトライする情熱と根気強さが求められる。昨年、私も自身の仕事で経験した。自分せいで発生した事案ではないのに、課題解決の必要に迫られた。愚痴の一つでも言いたくなったが、家族にも親友にも話せず、それを一切やめて、ただ動いた。その結果、無事、課題が解決した爽快感は何事にも代えがたかった。

ビルの教えを読み進め、武田信玄と共通の思想があると感じた。武田信玄の名言とされる「為せば成る、為さねば成らぬ、成る業を成らぬと捨つる人の儚き」。まさに、ビルの教えの「グリット」につながる。
そして、人を大切にする言葉。武田信玄は、生涯、城を持たなかった。これも信玄の名言とされる「人は城、人は垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」。武田信玄、そしてビルは、その組織に属する人たちの潜在能力を引き上げ、最高のチームを創り上げた。

1兆ドルコーチ」の本では、各エピソードのあと、その都度、簡単なまとめが記載してある。そのまとめを、私は、職場でも読み返せるように、自身の手帳に書き記しておいた。これらの珠玉の教えは、まるで、ビルがいつも自分に寄り添って、優しくコーチしてくれるような気がしたから。