2020年2月15日土曜日

次世代ガバメント

次世代行政府の役割は、おそらく次の三つに集約されるのではないかと思います。まず、「社会インフラの提供」。そして、「サービスの提供」。最後に「コミュニティの再構築」があるのだろうと思います。
(引用)次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方、責任編集:若林恵、発行:株式会社黒鳥社、発売:日本経済新聞出版社、2019年、146

いま、私たちがよく耳にする言葉は、「大きい政府」を目指すべきか、それとも「小さな政府」を目指すべきか。「大きい政府」を目指せば万人のニーズに応えられるものの財源不足に陥る。一方、「小さな政府」を目指せば不平等が発生する。
この本は、今後の「公共」を支えていくため、デジタルテクノロジーという視点を取り入れ、議論している。なぜ、デジタルテクノロジーが必要なのか。それは、私達の身近に、当たり前のように存在している行政府は、生産人口の減少によって財源不足が進み、行政府職員が今までどおりの仕事をこなすだけでは、多様化する市民ニーズに応えられなくなるからだ。そのため、行政府は、積極的にデジタルテクノロジーを取り入れることで、仕事の効率化を図り、市民ニーズを汲み取り、市民らとコミュニケーションを図って信頼関係を構築することで、職員しかできない本来の仕事をしなければならないと感じた。

本書では、豊富なバックデータに基づき、これからの行政府のあり方を模索している。その中で、デンマークデザインセンターCEOのクリスチャン・ベイソン氏の指摘が鋭い。ベイソン氏は、「これからの行政府は、市民の一人ひとりの人生や社会がどう変わったのかを指標としてサービスが評価されなくてはならない」と指摘する。
今後より一層、行政府では、予算の使われ方、つまり費用対効果が問われる。事業予算で、どのように市民の人生までを変えていくのか。また、実際に、その事業評価はどうであったのか。さらに、老朽化する多くのインフラ整備は、どのようにプライオリティをつけていくのかなど。
行政府は、既に事務事業評価制度を取り入れてはいるが、その評価制度の指標を組み替えるなどして、より市民や社会によい効果をもたらしたかを的確に評価し、予算に対する説明責任を果たさなければならないと感じた。

かのピーター・ドラッカーも、公的機関が成果を上げるための規律として、「自らの事業を定義する」、「活動の優先順位をつける」、「成果の尺度を明らかにする」などをあげている。それに加え、本書では、デジタル公共財の整備や、そこに住む人達や同じ目的を持った人たちの「共感」をベースにしたコミュニティの必要性を説く。先日、私も会津若松市のスマートシティに関する本を読んだが、本書の中でも、そのスマートシティの必要性を認めつつ、課題も提起しているところが興味深い。

先進国の中で、特に少子高齢化の進展が顕著な我が国においては、行政府に残された時間が少ないのかもしれない。本書を読んで、厳しい環境の中、さらにグローバルに、そして多様化する市民ニーズに応えるべく、これからの行政府は、長期的な視野をもって、「ガバナンス・イノベーション」をおこしていかないと強く感じた。
そのために、私は、まず、2050年時点における行政府のあるべき姿をイメージするところから始めてみようと思う。

本書は、地方公共団体職員を始め、新たな「公共」を支える全ての人(社会の構成員)におすすめしたい。