老化は1個の病気である。私はそう確信している。その病気は治療可能であり、私たちが生きているあいだに治せるようになると信じている。そうなれば、人間の健康に対する私たちの見方は根底からくつがえるだろう。
(引用)LIFESPAN 老いなき世界、著者:デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント、訳者:梶山あゆみ、発行者:駒橋憲一、発行所:東洋経済新報社、2020年、160
「LIFESPAN 老いなき世界」を読み終えて、私は、秦の始皇帝のことを思い浮かべた。中国全土を統一し、すべてを手中に収めた始皇帝は、唯一手に入れていない”不老不死”を求めるようになる。そのため、始皇帝は、秦の方士である徐福に命じ、不老不死の薬を探させる。しかし、始皇帝は、その甲斐もなく49歳で亡くなってしまう。いま、始皇帝がご存命なら、迷わず私は、この「LIFESPAN」の本を勧めたことだろう。最先端科学とテクノロジーが老化のメカニズムを解明し、老化防止で「今できること」が書かれているからだ。
本書は2部構成になっている。第1部では、老化を「病気」として捉え、それを積極的に治療することが簡単にできるだけではなく、そうすべきであることも示している。また、第2部では、老化に終止符を打つために、すぐにできる対処法や、現在開発中の新しい医学療法を紹介している。何よりもまず、老化を防止されたいかたは、第2部から購読して実践されても良いかと思う。私は、第1部から拝読させていただいたが、ハーバード大学ポール・F・グレン老化生物学研究センターの共同所長であるデビッド・A・シンクレア氏が分かりやすく老化のメカニズムを解説してくれる。本書には、「ゲノム」や「エピゲノム」を始め多くの専門用語が頻出してくる。これらの難解な専門用語についてシンクレア氏は、ゲノムをピアノに、エピゲノムをピアニストに例えて説明されているなど、誰もが理解しやすいように解説してくれる。まるで、高校の生物の授業を受けているかのように、世界最先端の老化のメカニズムがすんなりと頭に入ってきた。
第2部では、いよいよ老化を防止させるための実践編が登場する。なぜ、運動が良いのか、またなぜ少食がいいのかなど、こちらも科学的根拠(エビデンス)をもとに分かりやすく解説してくれる。さらに本書の474ページからは、シンクレア氏が日常行っている老化防止の実践例が紹介されている。これらは、今すぐに私達の生活にも取り入れられるものばかりだ。
ややもすると、私達の多くは、「老化すること」について、”諦め”や”恐れ”でしかなかったのかもしれない。しかし、この「LIFESPAN」を拝読すると、老化を防止し、この先も元気に生きようとする”希望”が記されている。1989年と比べて2019年の我が国の平均寿命は、女性5.68歳、男性5.5歳延び、女性87.45歳、男性81.41歳と過去最高になったという。1)
いよいよ「人生100年時代」も視野に入ってきた。多くの方が「LIFESPAN」に書かれていることを実践し、さらにシンクレア氏を筆頭とした老化医学も進化すれば、さしあたって「人生120年時代」も夢ではないだろう。本書を拝読し、これからも、私は、好きなテニスなどを楽しんで、人生を謳歌していきたいと思った。
(資料)
1)nippon.com 2020.08.04 配信