2020年11月23日月曜日

自治体のSDGs

「どうやって直すのかわからないものを、壊し続けるのはもうやめてください」
                                                               セヴァン・スズキ(当時12歳)  
  環境と開発のための国連会議(地球サミット)にて(リオ・デ・ジャネイロ,1992年)
(引用)まちの未来を描く! 自治体のSDGs、著者:高木超、発行所:学陽書房、2020年、45

2015年9月にニューヨーク国連本部で採択された持続可能な開発目標(SDGs)は、「誰一人取り残さない」ことを目的とし、17のゴール、169のターゲット、232の指標で構成されている。この17のゴールを眺めてみると、例えば「貧困をなくそう」や「飢餓をゼロに」といった、一見、我が国に関係のないような目標も含まれているかと思う。しかし、昨今、SDGsを意識した各自治体の取り組みが多いと聞く。なぜ、いまSDGsなのか。SDGsの視点を踏まえた自治体政策のあり方について学ぶべく、高木氏の著書「まちの未来を描く! 自治体のSDGs」を読ませていただいた。

本書の冒頭からSDGsの17のゴール、例えば「貧困をなくそう(ゴール1)」から順に、ゴールごとに「SDGs(世界レベル)」と「自治体レベル」と区分されて解説がなされている。この解説では、発展途上国しか関係なさそうであったSDGsのゴールが、私達の身近な問題として(自治体レベルで)捉えることができるようになる。まず、「貧困をなくそう」では、自治体レベルの課題として「見えづらい子どもたちの貧困問題」が取り上げられている。我が国においても、2015年時点で13.9%の子どもたちが貧困状態に置かれているという(本書、3)。国による就学援助制度も存在するが、その制度のみで子どもの貧困対策になるのだろうか。学びたくても学べない子どもたちが、まだまだ我が国にもいる。高校、大学へ進学したくても行けない子どもたちがいる。特にいま、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう。独立行政法人日本学生支援機構では、「新型コロナウイルス感染症に係る影響を受けて家計が急変した方への支援」を実施していると聞く。SDGsの最初のゴールである「貧困をなくそう」から、各自治体でも身近な取り組みとして捉えていかなければならないと感じた。

本書では、「インターリンケージ」というSDGsのキーワードが出てくる。インターリンケージとは、複数のモノ・コト・が相互につながっていることを表している(本書、52)。このインターリンケージというキーワードは、今後、各自治体の縦割り組織を打破し、多様化する諸課題を解決に導くものではないかと感じた。本書でもSDGsのもう一つのキーワードで、「経済」「社会」「環境」の三側面があるとしている。なにかモノを作り、環境に配慮(例えばリサイクルしやすいように)し、新たな雇用を生み出し、そこに住む人達のためになる。このインターリンケージという言葉は、我が国においても近江商人が経営哲学として重んじてきた「三方良し(売り手良し、買い手良し、社会良し)」と通づるところがあると思った。各自治体は、SDGsのゴールを見つめ直し、「経済」「社会」そして「環境」という側面を意識し、横串を通した連携を図り、どうインターリンケージできるかを考えてみることも必要であろうと感じた。それが牽いては、持続可能な社会を創造することに繋がる。このことは、本書の後半で紹介されている各自治体の事例においても確認することができる。

SDGsの目標は、なにも発展途上国のものだけではない。高木氏の本を拝読し、我が国、そして我が地域に置き換えて見ることで、真に必要な課題が浮かび上がってくる。その課題は、何も特別なものではなく、しかしながら非常に整理されていて、「持続可能な社会」を創造していくのに必要なものばかりだ。グローバルでマクロなSDGsの観点から、ミクロ的視点を用いて各自治体の課題を洗い出し、どうつなげて政策を展開していくのかという手法は、大いに有効なものであると感じるに至った。

冒頭、セヴァン・スズキさんの言葉を引用した。WWF(世界自然保護基金)の報告では、世界中の人達が同じ生活を続けていくと、今後、地球1.7個分の資源が必要になる(本書、61)という。20世紀型の大量生産・大量消費という時代は終焉した。これからは、各自治体からもっと視野を広げ、世界的な視点で見つめ直し、それぞれが持続可能な社会、持続可能な世界を構築しなければならないと感じた。そして、これからを生きるセヴァンさんのような若い方たちに、地球を、そして私たちのまちや暮らしを引き継いでいかなければならないと感じた。

本書の後半では、各自治体のSDGsの取組事例が掲載されている。埼玉県北本市では、シティプロモーションの「mGAP」という指標も紹介されている。この「mGAP」に触れ、私は「シティプロモーション2.0」を著された河井孝仁氏の教えを実践されているのだなと感じた。そして、シティプロモーションの取り組みのなかでも、SDGsを意識することが大切なんだと思い、大変興味深く読まさせていただいた。また、北本市のホームページから、本書でも紹介されていたシティプロモーション雑誌「&green(アンドグリーン)」も見させていただいた。アンドグリーンでは、森や緑、自然そして安全安心に至るまで、SDGsを意識した内容になっていた。

このたび、高木氏の本を拝読させていただき、自治体職員はそれぞれがSDGsを意識し、普段行っている仕事にSDGsの視点を取り入れていくことから始めていくべきだと思うに至った。

         

2020年11月15日日曜日

共鳴する未来

データ駆動型社会のポイントは二つあります。一つは、貨幣以外の多元的な価値を可視化できることであり、もう一つは、個別的なサービスや対応ができるようになったことです。

(引用)共鳴する未来 データ革命で生み出すこれからの世界、著者:宮田裕章、発行者:小野寺優、発行所:株式会社河出書房新社、2020年、170

本書を読んで、私は我が国におけるデータの適切な活用について考えさせられた。本書では、「データは誰のものか」、「多元的な価値を可視化する仕組みは根付くのか」といったことをテーマにしている。まず、「データは誰のものか」といった議論は、山本龍彦氏と宮田氏との対談で理解を深めることができる。折角収集したデータの活用が怖いから、予めデータの提供者から「同意」を得る。こうした、いわゆる「同意疲れ」の課題は、誰でも経験していることだろう。その中で、山本氏が言われるとおり、「『同意』の取得機会を増やすことではなく、誰とデータを共有するかに関する自己決定権の行使をどういうふうに実行的なものしていくのか(本書、106)」といった指摘は大変共感できた。

また、著者である宮田氏は、これからの時代、労働が富の源泉であるという労働価値説からデータが価値の源泉となるデータ駆動型社会を提唱している。なぜ、データ駆動型社会なのか。本書でも少し触れているが、私は、会津若松市のスマートシティの取り組みを思い出した。会津若松市では、ICT(情報通信技術)や環境技術など、健康や福祉、教育、防災、さらにはエネルギー、交通、環境といった生活を取り巻く様々な分野を活用してる。その会津若松市では、人口減少下においても、「魅力的な仕事のあるまち」や「生活の利便性が高いまち」を目指していくという。このスマートシティでは、宮田氏が言われるデータを共有材としてみなし、個々人の生き方を支援することに寄与するプラットフォームの設計思想が根付いているのではないだろうか。宮田氏は、「スマートシティだけでなく、スマートヴィレッジ、あるいはもう少し小さい単位としてスマートコミュニティがあってもいい(同書、194)」と指摘する。まさに地域に根ざした単位から始めるというところにも共感した。

さらに、宮田氏は、本書の冒頭で、「誰も取り残すことなく、一人ひとりが豊かな生き方を考え実現することを、支えるものであること(本書、3)」と言われる。その言葉は、データ駆動型社会の礎になっているのだと感じた。本書でも触れているが、その「誰も取り残すことなく」というのは、SDGsの理念と合致する。私も教育現場に携わっているが、国の進めるGIGAスクール構想により、小中学生の児童・生徒に1人1台端末を配備することが急速に進められている。実は、そのタブレット端末を使った授業では、「誰も取り残さないこと」が期待されている。先日、教育現場を視察したが、授業では、子どもたちがタブレット端末に各々の意見を書き込み、教室のディスプレイに瞬時に一覧として表示される。これにより、今まで、限られた授業時間で一部の意見しか拾えなかったものが、すべての子ども達の意見が出揃う。そこから私は、個々の多様性が生まれると同時に、学び合うことにより、子どもたちの理解が深まっていくと感じた。

本書を拝読し、個々のデータが共有財産として響き合い、多様性を持った新たな社会を創造していく。その新たな社会で人々は、貨幣で決して得られない、新たな「幸福感」を得られるのだと感じた。

2020年11月7日土曜日

ワイズカンパニー

 われわれの研究では、形式知と暗黙知を用いるだけでは不十分であることが示されている。リーダーはもう一つ別の知識も使わなくてはいけない。それはしばしば忘れられがちな実践知である。実践知とは、経験によって培われる暗黙知であり、賢明な判断を下すことや、価値観とモラルに従って、実情に即した行動を取ることを可能にする知識である。
(引用)ワイズカンパニー 知識創造から知識実践への新しいモデル、著者:野中郁次郎、竹内弘高、訳者:黒輪篤嗣、発行者:駒橋憲一、発行所:東洋経済新報社、2020年、39

野中氏によって著された「知識創造企業」からおよそ四半世紀、ついに待望の「ワイズカンパニー(東洋経済新報社、2020年)が刊行された。サブタイトルは、「知識創造から知識実践への新しいモデル」とある。本書では、知識創造の世界から実践を繰り返し、知恵にまで高めることの重要性を示している。

野中氏が提唱し、もはや知識創造・実践モデルとして世界でも受け入れられている「SECI(セキ)モデル」。本書では、新しいSECIモデルが示されている。そこには、個人から始まり、チーム、組織、そして環境という要素を加え、存在論的な次元で生じる相互作用を加えた。そして、いまや伝説となっている京セラの創業者である稲盛和夫氏によるJALの再建を事例として、本書ではSECIモデルをやさしく説明してくれる。当時、私は、稲盛氏が難なくJALを経営再建していく姿を目の当たりにし、まさに、稲盛氏の「実践知」の凄さに感銘を受けた。と同時に、本書を読み、稲盛氏によって、JALの再建がSECIモデルに沿って実行されたこと、またSECIモデルの有効性が実証されたのだと感じた。

SECIモデルでは、共同化、表出化、連結化そして内面化のスパイラルを発生させることにより、拡大していく。最近、私は、シティプロモーション関連の本を読んだが、そこにもSECIモデルが紹介されていた。なにもSECIモデルは、企業だけのものではない。私は、まちづくりやNPO、行政など、様々な組織で活用ができると感じた。

本書の前半で「知識実践の起源」が紹介されていることも興味深い。時代は、アリストテレスの時代まで遡る。そのアリストテレスが唱えた「フロネシス(実践的な知恵(実践知)(本書、59)」は、2400年の時を経ても色褪せることがない。普段、私も仕事をしていて感じることは、「何事も実践してみること」だと思う。ときには、失敗を繰り返すこともある。しかし、実践を繰り返さなければ、「実践知」を得ることはできない。本書には、YKKの創業者、吉田忠雄氏の語録も紹介されている。

「何しろ、私は理屈抜きにして働かない人を好きじゃないですね。どれだけ頭がよくてもね(本書、172)」

この言葉に、私は強く共感する。いま、私が自分の仕事を通じて感じることは、「働きたくても働けない人」がいるということだ。それは、吉田氏が言われる「頭のよさ」に関係しない。私が言う「働けない人」というのは、今までの自身の仕事で、実践を繰り返さず、実践知が足りないということだ。ときには、「綱渡り的な仕事」も存在する。この仕事が失敗すれば、自分の地位を失うと感じ、チャレンジを諦める人たちがいる。私から言わせれば、「もったいない」の一言だ。新型コロナウイルス感染拡大時において、北海道や大阪府の知事が脚光を浴びた。これは、その危機から逃げず、前面に立ち、道民や府民を守るというリーダーの姿を見せたからであろう。私は、「ピンチはチャンス」だと思う。その危機的な状況においては、さらに貴重な「実践知」が得られると私は思う。そして、リーダーとしての自信にもつながるのではないかと思う。

少し脱線したが、本書では、私の敬愛するピーター・F・ドラッカー氏や稲盛和夫氏をはじめ、ホンダの創業者の本田宗一郎氏、ユニクロの柳井正氏、トヨタの豊田章男氏などが登場する。本書を読み進めると、「どこかで聞いたエピソードだな」と思うところが随所に出てくる。そのため、この1冊で、ビジネススキルの要点が網羅されているような感じも受けた。それらのエピソードは、ワイズ(Wise)リーダーになるための心得にもつながる。

今後、SECIモデルを用いて自身の事業や公共的な施策などを拡大していきたいかた、また一流のリーダーシップを学ばれたいかたに、本書をオススメしたい。