これから世界を開くカギになるのは「AI」「5G」「クラウド」「ビッグデータ」などの技術ではありません。すべては「持続可能性」を実現するために何が必要なのかという視点から見ていくべきでしょう。
(引用)オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る、著者:オードリー・タン、発行所:株式会社プレジデント社、2020年、183
2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担ったオードリー・タン氏による世界初の自著ということで、「オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る」を興味深く読まさせていただいた。現在、オードリー・タン氏は、台湾のデジタル担当政務委員(閣僚)である。IQ180以上とも言われるオードリー・タン氏は、コロナ禍においてどのように国民を守るのか、そしてテクノロジーを活用した近未来をどう描いているのか。この一冊で、一人の若き天才が台湾の人々を新たな時代へ誘う姿を知ることができる。
新型コロナウイルス対策におけるオードリー・タン氏の功績といえば、まず頭に浮かぶのは、マスク在庫管理システムを構築し、台湾の感染拡大防止に大きな貢献を果たしたことだ。しかし、本書を読むと、台湾の新型コロナウイルス対策は、至ってシンプルだということに気づかされる。オードリー・タン氏によれば、ウイルスを防ぐ最良の方法は、石鹸を使って手を洗うこと、アルコール消毒をすること、ソーシャルディスタンスを確保すること、マスク着用することである。新型コロナという目に見えぬ小さな強敵と対峙するなかで、デジタル技術という武器は埋もれているようにみえる。なぜなら、オードリー・タン氏が指摘することは、普段からの私達の知識で、新型コロナウイルスを封じ込めできるということだ。この簡単な感染防止を国民にスムーズに促すため、台湾は上手にデジタル技術を駆使した。そこには、高齢者などに対してのデジタルデバイドは存在しない。Fast(早く)、Fair(公平に)、Fun(楽しく)といった台湾における新型コロナウイルス対策である「3つのF」を実践するなど、防疫対策では、高齢者にも使いやすく設計をするところにオードリー・タン氏の凄さがある。
オードリー・タン氏の施策には、いつも「人」がいる。オードリー・タン氏のような天才なら、全て一人で政治決断をしているのかと思ったら、違った。オードリー・タン氏は多くの人たちから話を聞き、共通の価値観や解決策を導き出す。これを「傾聴の民主主義」と呼ぶ。あと、感心させられたのは、子どもたちの勉強に対する考え方だ。オードリー・タン氏は、子どもたちが「何に関心を持っているか」に注目する。そして、その「子どもたちの関心ごとを破壊してはならない」と言われる。確かに、私も父親として、経験がある。私の長男は、小学校4年生のとき、漢字に興味を持った。そのとき、私は、子どもに小学校の漢字辞典を買い与えた。息子は、貪るように漢字辞典を読破した。次第に息子は、自分が知っている漢字を、早く学校で学びたいと思うようになっていった。そして、息子は、国語が好きになった。
それと同じように、デジタル技術やAIが進歩しても、そこに「人」がいなければ使い勝手の悪いものになる。そして、「人」中心に考えなければ、開発者の自己満足に終わる。人々の意見を聞き入れ、政策に生かす。そして、「傾聴の民主主義」は、台湾に新型コロナウイルスを封じ込めることに成功した。また、「傾聴の民主主義は」、オードリー・タン氏によって、テクノロジーを活用した近未来への創造にも生かされていく。
冒頭、私は、オードリー・タン氏の言葉を引用した。現在、私達の暮らしの中で「5G」「AI」などの言葉が踊る中で、オードリー・タン氏は、「持続可能性」を強調する。そして、誰も取り残さない姿勢やイノベーションも重視する。あくまでもデジタル技術は、多くの人々が一緒に社会や政治のことを考えるツールであり、誰でも使えることが重要であるということだろう。本文中、近未来のAIと人間との関係性の中で、ドラえもんとのび太の関係に似ていると指摘があった。あくまでもデジタル技術はツールであり、今後も「人」が主役でありつづけること。そのことが健全な民主主義を育み、より人々の生活を豊かにすると同時に様々な脅威から守り、持続可能な社会を創造していくのだと感じた。
いま、テクノロジーの進展は凄まじいものがある。それは、人間にとって”脅威”ではなく”希望”だ。これからも、時代の世界を担う若きリーダー、オードリー・タン氏の活躍に注目していきたい。