2021年2月11日木曜日

2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ

 これからの10年が劇的なブレークスルーと世界を一変させるようなサプライズに満ちたものになるのはまちがいない。(中略)私たちの想像を超えて加速する未来、かつてないほどの勢いで空想が現実化する世界が到来する。

(引用)2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ、著者:ピーター・ディアマンディス&スティーブン・コトラー、訳者:土方奈美、発行所:株式会社ニューズピックス、2020年、18-19

この本を読み終えて、私は、台湾デジタル担当政務委員のオードリー・タンの言葉を思い出した。「『社会におけるAIの普及』について想像するのであれば、ドラえもんがいい例だと思います。ドラえもんはAIの一つであると言えます。1)」そして、オードリー・タン氏は、のび太君(人間)とドラえもん(AI)との関係を説明し、これからの私たちの生活におけるAIの役割というのを考える場合、一つの好例であるとしている。例えば、「空飛ぶ車」が現実になったり、「老化」が克服されたりする。また、「買い物」や「教育」のスタイルが劇的な変化を遂げる。まさにドラえもんの世界で起きていたことが現実になりつつある。あのイーロン・マスクの盟友、ピーター・ディアマンディスらが描く10年後の世界(2030年)は、私が子供のころに憧れていたドラえもんの世界が現実になるのだと感じた。ディアマンディス氏らは、進化するテクノロジー(たとえば人工知能、AI)が、同じく進化する別のテクノロジーと合わさったとき、ビジネス、産業、ライフスタイルに大きな変化が起こるといわれる。まさに、シュンペーターが唱えた「創造的破壊」だ。現在、このコンバージェンス(融合)が加速度的に起きている。そして、今後10年以内に、かつてないほどの勢いで空想が現実化する世界が到来する。

著者のディアマンディス氏らが示す2030年の世界は、空想だけで終わらない。本書ではそれぞれ広告やエンターテイメント、教育、食料などの”近未来”について述べている。この”近未来”については、私の想像していたものより遥かに先を行くものだった。ディアマンディス氏らは、”最先端のテクノロジー”をもとに”近未来”を予測している。そのため、本書は単なる絵空事ではなく、10年後の世界の到来を正確に示してくれる。

例えば、ウーバーの目標として、「2023年にはダラスとロサンゼルスで空のライドシェアを完全に事業化すること(本書25)」としている。空であれば、交通事故も減少し、渋滞に悩まされることもない。既に中国では、ドローンを駆使して、喫茶デリバリーや医療現場(郊外の診療所)で検体を採取して都心の検査機関に運んでいる。現在、日本では、ドローンについて200グラム未満の小型機なら航空法の申請が不要である。しかし、ドローンを飛行させる場合、航空法に基づき、人口集中地区は規制対象になる。また同様に、高さ150メートル以上についても規制対象となり、特別な許可が必要となる。さらに私有地であれば、その上空にも所有権が発生する。そのため、他人の敷地にドローンを飛ばすときは、その土地所有者の許可が必要となる。我が国では、物流など”空の道”を作る際、個々に土地所有者から空中権の許可を取得し、”空の道”としてつないでいかなければならない。一方、先ほどの中国においては、人口密集地域においてもドローンの操縦が可能である。また、中国において不動産は所有者に権利があるが、空中の権利は国が管理している。そのため、ドローンを飛ばす際、国に許可を申請するだけで良いとされている2)。以上により、テクノロジーの融合によって、”空の道”が実現に向かいつつあるが、我が国では、その整備に伴う規制緩和が必要であると感じた。

特に私が興味をもった”近未来”は、「食の未来」である。本書では、近未来の各家庭のキッチンの姿を紹介されている。それは、食材をアマゾンのドローンが運んできて、ロボシェフが調理をするといったものだ。ディアマンディスらは、「2020年の時点で、ここに登場する技術要素はすべて実現している(本書299)」としている。総務省による「平成28年社会生活基本調査」では、6歳未満の子供を持つ夫・妻の家事関連時間として、夫は1時間23分、妻は7時間34分(いずれも週全体)としており、女性の家事関連時間は20年前とほぼ変わっていない(20年前の平成8年は7時間38分)。ちなみに家事関連とは、家事、介護・看護、育児、買い物から構成されている。また、内閣府による「平成30年版男女共同参画白書」によれば、平成9年以降は、共働き世帯数が男女雇用者と無業の妻からなる世帯数を上回っているとしている。家事関連時間を減少させることは、女性の社会進出につながり、労働生産人口を確保するための有効な手段になる。その意味で、食の未来、そして家事負担軽減は、未来の私達の暮らしに希望が持てるものだと感じた。

本書のタイトルとなっている2030年といえば、2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限である。本書においても地球温暖化などのテーマにも踏み込んでいる。そのSDGsの達成期限である2030年まで、あと10年を切った。また、今後10年は、テクノロジーの融合によって、さらに世界の進化が加速していく。ディアマンディスは、少々荒っぽいドライブであったが、本書を通じて10年後の新たな世界へと誘ってくれた。そして、たどり着いた新たな世界は、ドラえもんとのび太との関係のとおり、私たち人間の暮らしを豊かにしてくれるのと同時に、持続可能な世界を築いていくものであった。

1)オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る、著者:オードリー・タン、発行所:株式会社プレジデント社、2020年、58
2)テレビ東京系 2021年1月26日放映 「ガイアの夜明け」