2021年5月22日土曜日
離島発 生き残るための10の戦略
2021年5月15日土曜日
取材・執筆・推敲 書く人の教科書
2021年5月5日水曜日
好循環のまちづくり
特に目的がなくても、人々が集まったり、ただたむろしたりできる場所を作ること。そして、いろいろな人たちが「自分にも出番がある」と感じられるような場づくりをすること。これらはこれからのまちづくりにとって大きなポイントになると思っています。
(引用)好循環のまちづくり!(岩波新書)、著者:枝廣淳子、発行所:株式会社 岩波書店、2021年、95
枝廣さんによる最新刊は、「好循環のまちづくり!(岩波新書)」だ。枝廣さんは、島根県海士(あま)町をはじめ、北海道下川町、熊本県南小国(みなみおぐに)町、徳島県上勝(かみかつ)町などのまちづくりに関わり、地域を活性化させてきた。その一つ、海士町は島根県の北に浮かぶ隠岐諸島の一つである中ノ島にある。例に漏れず、海士町も人口が激減し、財政破綻寸前まで陥った。そこから「島まるごとブランド化」「高校魅力化」などの取り組みを展開し、いまでは”地方創生のモデル”として全国に名を轟かす。広く知られる「海士町」というブランド化、地域の魅力づくりはもとより、なぜ海士町民が幸せに暮らし、島外からも人を呼び込むことができるのか。まさに本書のタイトルである”好循環”を生み出す秘訣を探るべく、枝廣さんの本を読み進めた。
枝廣さんによれば、まちづくりは、3ステップ(ホップ、ステップ、ジャンプ)であると言われる。この3ステップは、まちづくりのビジョンを定め、現状の構造を理解し、好循環を強めるプロジェクトを立案・実行する。具体的には、まず町全体で危機感を共有し、財政破綻を回避するべく、まちのあるべき姿(ビジョン)を策定する。次に、好循環を強めるプロジェクトを展開し、それが牽いては、そこに住む人の幸福度が増加する。結果的には、定住や関係人口の増加をもたらし、まち全体がブランド化し、活性されていく。何よりも枝廣さんの見事なまちづくりのステップに共感するとともに、行政の独りよがりなまちづくりにならないことに、成功の秘訣が隠されているのだと感じた。
枝廣さんによる一連のまちづくりのプロセスの中で、大きな役割を果たすのが、ステップに登場するループ図の作成ではなかろうか。例えば、人口が増加し、消費力が増える。そして地域経済の規模が拡大し、雇用が生まれる。そして、さらなる人口増加に繋がる。この相関関係を矢印で示し、ループ状に図式化する。ループ図を作成することは、正のスパイラルはもちろん、そのまま放置しておけば負のスパイラルに陥るところも見える化できるところにメリットがある。このループ図を住民とともに仕上げ、まちの課題を共有する。そして、正のスパイラルを生み出すべく、官民一体となって、ビジョンを現実のものにすべく政策を講じる。一般的に行政規模が大きくなればなるほど、地元の意見を踏まえたビジョンが政策に反映されづらいという課題があるといわれている。枝廣さんによるまちづくりの手法は、理想と現実とのギャップを埋めるべく、そこに住む人達と行政が一丸となって取り組み、きちんと政策に反映されていることに強さを感じた。
本書では、まちづくりに役立つ5つの基本形も掲載されている。その2つ目の基本形に「居場所と出番」がある。これは、冒頭に紹介したものである。私も地元のまつりや小中学校のPTAなどに積極的に参加している。これは、私も地元に愛着を持っているからであろう。地元に愛着を持つと、それが外に伝わる。そして交流が生まれ、その地域が活性化する。そのことを枝廣さんは、様々なまちづくりをお手伝いされ、目の当たりにしてきたのではないだろうか。私の住む街は、八幡宮を中心にまつりが盛んである。また、小売店や金融・医療機関などが存在し、とても住みやすいところである。そこに人と人との縁が生まれれば、他の人も自分のまちに住みたいと思うようになってくれる。事実、私も数人の友達から、そのような相談を受けたことがある。枝廣さんの本を拝読し、「そのとおりだ」と納得すると同時に、自分たちのまちについて、さらなる正のスパイラルを考えていきたいと思うに至った。
急速に進む少子高齢化は、どの地域にとっても喫緊の大きな課題である。その課題に真っ向から枝廣さんとともに挑んできたまちは、見事に持続可能な社会モデルを作り上げてきた。ただ、「人口を増やそう」というだけでは、政策とは言い難い。枝廣さんによる「好循環のまちづくり」は、いま多くの地域が求めている一つの解であると感じた。
2021年5月1日土曜日
2040年の未来予測
生き残るためには、幸せになるためには環境に適応しなければならい。生き残るのは優秀な人ではなく、環境に適応した人であることは歴史が証明している。
(引用)2040年の未来予測、著者:成毛眞、発行:日経BP、発売:日経BPマーケティング、2021年、270
確か、レオス・キャピタルワークス社長の藤野氏が「『2040年の未来予測(著者:成毛眞、日経BP、2021)』を読めば、今後の投資のヒントになる。」みたいなことを仰っていた。
なるほど。
当たり前の話だが、未来を予測することは、成長する産業分野などを知ることにも繋がる。日本マイクロソフト社長まで上り詰めた成毛氏が描く未来予想図は、投資のカリスマ藤野氏にどう映ったのか。それが知りたくて、私も本書を手に取ってみた。
以前、私はイーロン・マスクの盟友であるピーター・ディアマンディス&スティーブン・コトラーによる「2030年 すべてが『加速』する世界に備えよ(株式会社ニューズピックス、2020年)」を読んだ。この本のお陰で、これから10年先、20年先に私達の暮らしが激変することに対して免疫がついたのか、成毛氏による未来予測もすんなりと受け入れることができた。子供の頃憧れていた「ドラえもんの世界」が、近い将来、現実のものとなる。本書に登場した自動運転技術を始め、空を飛ぶ自動車、ドローンによる物流革命などが、今後5G、いや6G時代の到来にあわせ、私達の暮らしを根底から変えてしまう。それは、私達の暮らしに単なる”豊かさ”をもたらすだけでない。
ピーター・ディアマンディスと成毛氏による書籍は同じ類だが、決定的に違う点もある。それは、成毛氏が日本人であるということだ。我が国は、他国より少子高齢化が進展し、国の債務残高もワースト1になり、災害大国でもある。事実、成毛氏による本書でも、我が国の状態を悲観している記述が並ぶ。しかし、成毛氏は、その解決策の一つとして、テクノロジーの進化を掲げる。医療や介護には、ロボットやAIによる画像診断、また無人店舗ではアマゾン・ゴーの事例なども紹介しながら、成毛氏は生産年齢人口が減少する中、多くのものをインターネットで繋ぎ、テクノロジーを駆使することが必要であると説く。
我が国は、65歳以上を支える現役世代は1950年には12.1人に対し、2040年には1.5人になるという(本書、127)。この人口減少を打破すべく、移民政策を訴える論者もいるが、我が国では、なかなか進展が見られない。であれば、これからの社会は、成毛氏が言われるとおり、よりテクノロジーと共存することで、私達の暮らしを持続可能なものにしていく必要があると感じた。
やはり、私が一番気になるテーマは、脱炭素化と電力の安定供給の両立である。2021年4月28日、福井県の杉本達治知事は、運転開始から40年を超す県内の原子力発電所3基を巡り、再稼働への同意を表明した。それに先行する形で同月、国は、温暖化ガスの削減目標を2013年度比26%減から46%減へと引き上げた。しかし、原子力発電所を巡っては、日本人なら忘れてはならない出来事がある。2011年3月11日発生した東日本大震災だ。それから6年後の2017年3月、福島県浪江町では、一部地域の避難指示が解除され、一部地域での居住ができるようになった。しかしながら、現在も多くの町民が福島県内外での避難生活を余儀なくされているという(浪江町ホームページより)。
数年前、私も浪江町を訪れた。放射線量を測定しながら、浪江町の中心街をバスで走る。その車窓からは、自分の家だというのに立ち入れないよう、どこの家も頑丈な柵で塞がれていた。そのとき、私は改めて原発事故の恐ろしさ知るとともに、やるせない気持ちになった。いま、我が国では、脱炭素、電力の安定供給、そして原子力発電との向き合い方が問われている。このような状況において、成毛氏は、ネクストエネルギーとして核融合に着目する。具体的な説明は本書に譲るとして、核融合は、燃料が枯渇する恐れはほとんどないし二酸化炭素も排出しない。また、原発で懸念される高レベル放射性廃棄物も発生しないし、発電量も天候に左右されないとしている(本書、107)。持続可能な社会づくりは、地球環境に優しいだけでは成り立たない。やはり、自動運転技術などにも言えることだが、安全・安心ということが第一義的に存在しないといけないのではと感じている。成毛氏による核融合は、まだ実現するには時間を要すると思う。しかし、未来に向けて一筋の光を見た気がした。
冒頭の引用文は、成毛氏による言葉だが、進化論を唱えたダーウィンの言葉だと思われる。環境に適応するためには、いち早く未来を知らなければならない。そこにビジネスチャンス、持続可能な社会づくり、そして次代を担う子どもたちがどのように未来を創造していくかというヒントが埋もれているからだ。
もう10年前に米デューク大学のキャシー・デビッドソン氏は、このように語ったと言われる。
「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」。
「いま」を起点として今後10年は、過去の10年よりテクノロジーが飛躍的に進展する。このたび、ビジネス界で第一線を走ってきた成毛氏だからこそ描けた近未来の姿を知ることは、いち早く、新たな環境に適応することが可能となる。そして、子どもたちは、「いま」の暮らしに存在しない、未知のテクノロジー領域に興味を持ち始める。
いつの日か、私達は現役を退き、子どもたちにバトンを渡す日がやってくる。本書を読み、未来を生きる子どもたちには、少子高齢化などの社会的課題に立ち向かいながらも、新たな環境に適応してほしい。そして、希望を持ち続けながら、持続可能な社会を築き上げてほしいと思うに至った。