2021年5月22日土曜日

離島発 生き残るための10の戦略

いくら周りを動かそうと頑張っても、人の心を打たなければ動いてはもらえません。幸い、私たちの試みは、彼らに何かを伝えることができたのだろうと思います。
(引用)離島発 生き残るための10の戦略、著者:山内道雄、発行所:NHK出版、2007年、167

最近、私は、遠く離れた島々に思いを馳せている。

その島々とは、隠岐諸島。本土からの所要時間は、高速船で約2時間、カーフェリーだと3時間弱から5時間弱かかるという。
隠岐諸島は、島根半島の沖合60キロほどの日本海に浮かぶ島々である。その一つに中ノ島があり、海士(あま)町がある。
海士町は、地方創生のフロントランナーとして、全国に名が通る。
失礼ながら、交通アクセスが良いとは言えない海士町において、なぜ、「地方創生のトップランナー」とまで言われるようになったのか。
また、先日拝読させていただいた枝廣淳子氏による「好循環のまちづくり(岩波新書,2021年)」においても、海士町は地方創生のモデルとして紹介されている。
なぜ、人口減少が進む離島において、これほどまでに新たな産業を創出することに成功し、関係人口が増加し、好循環のまちづくりができたのか。
その秘密に迫るべく、電電公社からNTTに変革したときの経験を活かし、大胆な行政改革と産業創出の政策を実施した前町長の山内道雄氏の「離島発 生き残るための10の戦略(NHK出版,2007年)を拝読させていただくことにした。

本を読みすすめるうち、私は、すっかり、町の存亡の危機と戦った山内前町長の力強くも優しい言葉の数々に触れ、海士町の虜(とりこ)になってしまった。

私は、海士町の成功要因について、次の3点のことを思った。

1点目は、危機感を持って新たな環境に適応しようとしたことである。
まず私は、海士町の当時の現状に触れ、進化論を唱えたダーウィンの言葉とされる「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである。」を思い出さすにはいられなかった。
人口減少が進み、さらに離島ならではの課題を抱えていた海士町は、最初に町民と危機感を共有した。それは、従来の公共事業の繰り返しによる雇用創出に見切りをつけ、新たな産業を創出することであった。
いま、「変わらなければ、海士町が消滅しかねない。」という住民の危機感が高まり、民間出身の山内道雄氏に白羽の矢が立った。
新たな時代の環境に適応しようとして、山内氏を町長に導いた町民の意識共有が原点であろうと感じた。

2点目は、限りある資源を有効活用し、強みを活かしたことである。
限られた予算や人員などの資源配分、そして島民が真に必要としている政策の展開。私は、海士町の政策には、見事にマネジメントとイノベーションが組み合わさっていると感じた。
役場は、従来の管理的な役割から変化し、新たに産業振興を担う”産業3課”による取り組み  に予算や人員などを重点配分するようになった。
また、海士町には、海の恩恵により、豊富な海産物がある。この強みを活かし、海士町は、新たにCASフリージング・チルド・システムを導入し、イカやイワガキ、メバル、ヒラメなどを新鮮なまま本土に輸送できることを可能とした。そして、島内の恵まれた資源を強みに変え、”外貨”を稼ぐ。また、”島をまるごとブランド化”という政策は、新たな雇用創出などを展開していくこととなった。
一方、海士町は、人口減少を食い止める政策も展開する。「海士町すこやか子育て支援に関する条例」を制定し、結婚や出産祝金、離島ならではの妊娠・出産にかかる交通費助成などは、すっかり私も感心させられた。

3点目は、人づくりである。
商品開発研修生として全国の若者を募ったことである。給料は月額15万円。これでマクロ的な視点で新たな島の魅力を発掘することに成功した。
普段、島民が当たり前だと思っていることが、外の人が見ると魅力的に映る。そして、魅力が外に広がり、ひいては関係人口の創出にも繋がる。
本書の後半では、大学生や外国人との交流場面も登場する。
本書ではあまり触れられていないが、その後、山内町長らは、過疎で廃校寸前の高校を全国から志願者が集まる高校へと生まれ変わらせた。

そこに住む人が幸福であること。
それは、働くところがあり、人が集い、行政の政策がしっかりと住民とマッチし、外部との交流も盛んである。これが枝廣さんの言われた好循環なまちづくりなのだと感じた。

私は、海士町の山内道雄氏を富士フィルムの古森重隆氏と重ねた。
二人とも、危機感を抱き、自組織や地域の強みを活かしながら、強力なマネジメントとイノベーションを推し進めた。
そして、両者とも見事な復活劇を遂げたのは、言うまでもない。

山内道雄氏は、次の言葉を大切にする。
先憂後楽
行政というのは、「憂い」があれば住民より前に気づいて対処し、それがうまくいって「楽しみ」ができても、それを享受するのは住民より後でいい(本書、71)という意味だ。

行政に関わる人たちにとっては、貴重な言葉だ。いま、どの自治体も新型コロナウイルスのワクチン接種や感染拡大防止で忙殺されている。やりきれない行政マンも多い中、今一度、原点に立ち返って、「先憂後楽」という言葉を噛み締めたい。

まず、住民の幸せを第一に考える。
そんな、まちづくりをしている海士町の取り組みから、いろいろなことを教わる一冊であった。

2021年5月15日土曜日

取材・執筆・推敲 書く人の教科書

われわれは、書く人(ライター)である以前に、つくる人(クリエイター)なのだ。
(引用)取材・執筆・推敲ー書く人の教科書、著者:古賀史健、発行所:ダイヤモンド社、2021年、7

この本は、「書く人(ライター)」のための「教科書」である。
であれば、多くのビジネスマンは、「自分には関係ない」、と思ってしまうのではないだろうか。
しかし、この「教科書」は、普通に、書店のビジネスコーナで販売されている。しかも発行は、ダイヤモンド社だ。ライター専門の発行所でもない。
では、ライター以外のビジネスマンは、この「教科書」を必要とするのだろうか。
私の答えは、「イエス」である。

本書を読んで、「イエス」の理由を3つ、挙げることができる。
1点目は、多くのビジネスシーンで「書くこと」が求められるからだ。
書店では、”文章術”なる書籍がひっきりなしに出版されている。そして、私もその一人だが、実際に文章を書くことに悩むビジネスマンは多い。本書では、論文と小説との違い、論文的文章の基本構造、さらには文書技術(比喩の用い方)に至るまで、文章術の細かな部分まで紹介されている。本書を読みすすめると、時間が経つのを忘れ、中学校で古賀先生から国語の授業を受けているような感覚に陥る。古賀氏は、リズムの良い語り口で、生徒の私たちに分かりやすく文章術を教えてくれる。

また、古賀氏によれば、「ライターは、『空っぽの存在』で、取材を通じて『書くべきこと』を手に入れる。そして、取材を助け、取材に協力してくれたすべての人や物事に対する『返事』なのだ(本書、467)」と言われる。つまり、ライターは、「自分は、このように理解し、相手(取材を助け、協力してくれたかたたち)の思いをこのように伝えます」という役割を果たすということだ。
数多くのビジネスシーンでは、相手の立場に立って、「伝える」ことが多い。「伝える」ということは、プレゼンを真っ先に思い浮かべる。本書では、昔話「ももたろう」を用いて、構成力の鍛え方も紹介されている。場面ごとに用意された絵をピックアップし、どうつなげて話を読者に伝えていくかということは、ユニークな勉強法であると思うと同時に、プレゼン力を高めることにも繋がると感じた。

2点目は、読書の技術なども紹介されているからだ。
ライターには、「読む」技術も求められる。
古賀氏によれば、「取材者は、一冊の本を読むように『人』を読み、そのことばを読まなければならない(本書、50)」と言われる。
ライター的な視点で読書をすれば、一冊の本に書かれた著者の思いに迫ることができる。書いてあること、そして書かなかったことまでを「対話」しながら活字を読む。本書に紹介されている読書技法は、海で例えて言うなら、深海にまでたどり着けることを意味する。本当は、読み方次第で、著者の深層にまでたどり着くことができたはずなのに、少し海に潜った程度の理解で、息切れをして、読書を終えてしまっている。そんな、今までの自分の読書術を振り返り、猛省した。

3点目は、コミュニケーション術が学べることだ。
取材を通じて、古賀氏は、「聴く」こと、「訊く」ことについて触れている。
「話の脱線は大いに歓迎」と言われる古賀氏は、取材を通じて、コニュニケーション術をも教えてくれる。相手との会話のキャッチボールからはじまり、何気ない会話から、相手の本心が漏れた瞬間を聞き漏らさないことは、その人の考えを理解するのに役に立つ。まさに、「相手を知る」ためのコミュニケーション術、そのものだと感じた。

しかしながら、冒頭に紹介した、「書く人(ライター)は、つくる人(クリエイター)」という意味は、どう、理解すればよいのだろうか。

私は、写真を撮ることが趣味の一つだ。
本書を読み進めるうち、ライターとは、写真家にも似通っている部分があると感じた。
写真家は、撮影前に被写体を深く知ると同時に、いつ、どこから撮影すれば最高の瞬間が撮影できるのかを考える。つまり、ロケハンのことだ。これは、ライターによる取材の事前準備と似通っている。

また、撮影時には、フレーミングを考え、絞り、シャッタスピード、感度、レンズなどの組み合わせを考え、最高の瞬間にシャッターを切る。これは、ライターによる構成、書くときの技法(比喩を用いるなど)と似通っている。

さらに撮影後、作品を通して、本当に被写体の良さが伝わるものになっているかを見直す。これは、ライターによる推敲と似通っている。

言ってみれば、写真撮影もクリエイト的な仕事である。「自分は、こう被写体の魅力を最大限に引き出しました」と言って、被写体へ「返事」をする行為だ。

古賀氏によれば、
取材とは、一冊の本のように「世界を読む」ところからすべて始まる。
執筆とは、「書くこと」である以上に「考えること」。
推敲とは、原稿と二段も三段も高いところまでお仕上げていく行為であり、己の限界との勝負である。
と言われる。
まさに、ライターとは、写真撮影とも同じ、クリエイト的な仕事である。

もう一つ、本書がビジネスシーンに役立つことを加えるならば、古賀氏の仕事に対する「真摯な態度」だ。

このたびの古賀氏の書籍に対する、私の「返事」は、このようになる。
「書くことは、すべてのビジネススキルが凝縮されている。」

本書を読み終えたあと、自分の仕事のスキルが格段に向上したと感じた。これは、100冊の読書をして、1冊、出会えるかどうかの貴重な感覚だ。それは、本書が、とても実用的なものであることも意味する。

この本に「取材・執筆・推敲」の原理原則をすべて出し尽くしたという、古賀氏に感謝申し上げます。

2021年5月5日水曜日

好循環のまちづくり

 特に目的がなくても、人々が集まったり、ただたむろしたりできる場所を作ること。そして、いろいろな人たちが「自分にも出番がある」と感じられるような場づくりをすること。これらはこれからのまちづくりにとって大きなポイントになると思っています。
(引用)好循環のまちづくり!(岩波新書)、著者:枝廣淳子、発行所:株式会社 岩波書店、2021年、95

枝廣さんによる最新刊は、「好循環のまちづくり!(岩波新書)」だ。枝廣さんは、島根県海士(あま)町をはじめ、北海道下川町、熊本県南小国(みなみおぐに)町、徳島県上勝(かみかつ)町などのまちづくりに関わり、地域を活性化させてきた。その一つ、海士町は島根県の北に浮かぶ隠岐諸島の一つである中ノ島にある。例に漏れず、海士町も人口が激減し、財政破綻寸前まで陥った。そこから「島まるごとブランド化」「高校魅力化」などの取り組みを展開し、いまでは”地方創生のモデル”として全国に名を轟かす。広く知られる「海士町」というブランド化、地域の魅力づくりはもとより、なぜ海士町民が幸せに暮らし、島外からも人を呼び込むことができるのか。まさに本書のタイトルである”好循環”を生み出す秘訣を探るべく、枝廣さんの本を読み進めた。

枝廣さんによれば、まちづくりは、3ステップ(ホップ、ステップ、ジャンプ)であると言われる。この3ステップは、まちづくりのビジョンを定め、現状の構造を理解し、好循環を強めるプロジェクトを立案・実行する。具体的には、まず町全体で危機感を共有し、財政破綻を回避するべく、まちのあるべき姿(ビジョン)を策定する。次に、好循環を強めるプロジェクトを展開し、それが牽いては、そこに住む人の幸福度が増加する。結果的には、定住や関係人口の増加をもたらし、まち全体がブランド化し、活性されていく。何よりも枝廣さんの見事なまちづくりのステップに共感するとともに、行政の独りよがりなまちづくりにならないことに、成功の秘訣が隠されているのだと感じた。

枝廣さんによる一連のまちづくりのプロセスの中で、大きな役割を果たすのが、ステップに登場するループ図の作成ではなかろうか。例えば、人口が増加し、消費力が増える。そして地域経済の規模が拡大し、雇用が生まれる。そして、さらなる人口増加に繋がる。この相関関係を矢印で示し、ループ状に図式化する。ループ図を作成することは、正のスパイラルはもちろん、そのまま放置しておけば負のスパイラルに陥るところも見える化できるところにメリットがある。このループ図を住民とともに仕上げ、まちの課題を共有する。そして、正のスパイラルを生み出すべく、官民一体となって、ビジョンを現実のものにすべく政策を講じる。一般的に行政規模が大きくなればなるほど、地元の意見を踏まえたビジョンが政策に反映されづらいという課題があるといわれている。枝廣さんによるまちづくりの手法は、理想と現実とのギャップを埋めるべく、そこに住む人達と行政が一丸となって取り組み、きちんと政策に反映されていることに強さを感じた。

本書では、まちづくりに役立つ5つの基本形も掲載されている。その2つ目の基本形に「居場所と出番」がある。これは、冒頭に紹介したものである。私も地元のまつりや小中学校のPTAなどに積極的に参加している。これは、私も地元に愛着を持っているからであろう。地元に愛着を持つと、それが外に伝わる。そして交流が生まれ、その地域が活性化する。そのことを枝廣さんは、様々なまちづくりをお手伝いされ、目の当たりにしてきたのではないだろうか。私の住む街は、八幡宮を中心にまつりが盛んである。また、小売店や金融・医療機関などが存在し、とても住みやすいところである。そこに人と人との縁が生まれれば、他の人も自分のまちに住みたいと思うようになってくれる。事実、私も数人の友達から、そのような相談を受けたことがある。枝廣さんの本を拝読し、「そのとおりだ」と納得すると同時に、自分たちのまちについて、さらなる正のスパイラルを考えていきたいと思うに至った。

急速に進む少子高齢化は、どの地域にとっても喫緊の大きな課題である。その課題に真っ向から枝廣さんとともに挑んできたまちは、見事に持続可能な社会モデルを作り上げてきた。ただ、「人口を増やそう」というだけでは、政策とは言い難い。枝廣さんによる「好循環のまちづくり」は、いま多くの地域が求めている一つの解であると感じた。


2021年5月1日土曜日

2040年の未来予測

生き残るためには、幸せになるためには環境に適応しなければならい。生き残るのは優秀な人ではなく、環境に適応した人であることは歴史が証明している。

(引用)2040年の未来予測、著者:成毛眞、発行:日経BP、発売:日経BPマーケティング、2021年、270

確か、レオス・キャピタルワークス社長の藤野氏が「『2040年の未来予測(著者:成毛眞、日経BP、2021)』を読めば、今後の投資のヒントになる。」みたいなことを仰っていた。

なるほど。

当たり前の話だが、未来を予測することは、成長する産業分野などを知ることにも繋がる。日本マイクロソフト社長まで上り詰めた成毛氏が描く未来予想図は、投資のカリスマ藤野氏にどう映ったのか。それが知りたくて、私も本書を手に取ってみた。

以前、私はイーロン・マスクの盟友であるピーター・ディアマンディス&スティーブン・コトラーによる「2030年 すべてが『加速』する世界に備えよ(株式会社ニューズピックス、2020年)」を読んだ。この本のお陰で、これから10年先、20年先に私達の暮らしが激変することに対して免疫がついたのか、成毛氏による未来予測もすんなりと受け入れることができた。子供の頃憧れていた「ドラえもんの世界」が、近い将来、現実のものとなる。本書に登場した自動運転技術を始め、空を飛ぶ自動車、ドローンによる物流革命などが、今後5G、いや6G時代の到来にあわせ、私達の暮らしを根底から変えてしまう。それは、私達の暮らしに単なる”豊かさ”をもたらすだけでない。

ピーター・ディアマンディスと成毛氏による書籍は同じ類だが、決定的に違う点もある。それは、成毛氏が日本人であるということだ。我が国は、他国より少子高齢化が進展し、国の債務残高もワースト1になり、災害大国でもある。事実、成毛氏による本書でも、我が国の状態を悲観している記述が並ぶ。しかし、成毛氏は、その解決策の一つとして、テクノロジーの進化を掲げる。医療や介護には、ロボットやAIによる画像診断、また無人店舗ではアマゾン・ゴーの事例なども紹介しながら、成毛氏は生産年齢人口が減少する中、多くのものをインターネットで繋ぎ、テクノロジーを駆使することが必要であると説く。

我が国は、65歳以上を支える現役世代は1950年には12.1人に対し、2040年には1.5人になるという(本書、127)。この人口減少を打破すべく、移民政策を訴える論者もいるが、我が国では、なかなか進展が見られない。であれば、これからの社会は、成毛氏が言われるとおり、よりテクノロジーと共存することで、私達の暮らしを持続可能なものにしていく必要があると感じた。

やはり、私が一番気になるテーマは、脱炭素化と電力の安定供給の両立である。2021年4月28日、福井県の杉本達治知事は、運転開始から40年を超す県内の原子力発電所3基を巡り、再稼働への同意を表明した。それに先行する形で同月、国は、温暖化ガスの削減目標を2013年度比26%減から46%減へと引き上げた。しかし、原子力発電所を巡っては、日本人なら忘れてはならない出来事がある。2011年3月11日発生した東日本大震災だ。それから6年後の2017年3月、福島県浪江町では、一部地域の避難指示が解除され、一部地域での居住ができるようになった。しかしながら、現在も多くの町民が福島県内外での避難生活を余儀なくされているという(浪江町ホームページより)。

数年前、私も浪江町を訪れた。放射線量を測定しながら、浪江町の中心街をバスで走る。その車窓からは、自分の家だというのに立ち入れないよう、どこの家も頑丈な柵で塞がれていた。そのとき、私は改めて原発事故の恐ろしさ知るとともに、やるせない気持ちになった。いま、我が国では、脱炭素、電力の安定供給、そして原子力発電との向き合い方が問われている。このような状況において、成毛氏は、ネクストエネルギーとして核融合に着目する。具体的な説明は本書に譲るとして、核融合は、燃料が枯渇する恐れはほとんどないし二酸化炭素も排出しない。また、原発で懸念される高レベル放射性廃棄物も発生しないし、発電量も天候に左右されないとしている(本書、107)。持続可能な社会づくりは、地球環境に優しいだけでは成り立たない。やはり、自動運転技術などにも言えることだが、安全・安心ということが第一義的に存在しないといけないのではと感じている。成毛氏による核融合は、まだ実現するには時間を要すると思う。しかし、未来に向けて一筋の光を見た気がした。

冒頭の引用文は、成毛氏による言葉だが、進化論を唱えたダーウィンの言葉だと思われる。環境に適応するためには、いち早く未来を知らなければならない。そこにビジネスチャンス、持続可能な社会づくり、そして次代を担う子どもたちがどのように未来を創造していくかというヒントが埋もれているからだ。

もう10年前に米デューク大学のキャシー・デビッドソン氏は、このように語ったと言われる。
「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」。

「いま」を起点として今後10年は、過去の10年よりテクノロジーが飛躍的に進展する。このたび、ビジネス界で第一線を走ってきた成毛氏だからこそ描けた近未来の姿を知ることは、いち早く、新たな環境に適応することが可能となる。そして、子どもたちは、「いま」の暮らしに存在しない、未知のテクノロジー領域に興味を持ち始める。

いつの日か、私達は現役を退き、子どもたちにバトンを渡す日がやってくる。本書を読み、未来を生きる子どもたちには、少子高齢化などの社会的課題に立ち向かいながらも、新たな環境に適応してほしい。そして、希望を持ち続けながら、持続可能な社会を築き上げてほしいと思うに至った。