2021年8月29日日曜日

部活動の社会学

 「生徒が楽しんでいれば、大会・コンクール等の成績にこだわる必要はない」と認識している教員は60%程度存在している。その一方で、およそ75%の教員が「顧問をしている部の競技成績・活動成績を向上させたい」と認識している。
(引用)部活動の社会学―学校の文化・教師の働き方、編者:内田良、発行所:株式会社岩波書店、2021年、143

「部活動の社会学―学校の文化・教師の働き方」の編者である内田氏が言われるとおり、部活動に関する研究は驚くほど少ない。それは、部活動が「教育課程外」、すなわち「やってもやらなくてもいい活動であるから」である(本書、「はじめに」より)。
その部活動が、いま教育現場で問われている。教師の働き方改革のもと、学校から地域へ、そして縮小へという傾向にある。しかし、教師の中には、「自分は部活動にも関わりたい」と考える人達もいる。いま、教師は、部活動を排除し、働き方改革の流れに満足しているのか、また地域移行する際に課題はないのか。そんな疑問から、「部活動の社会学」を拝読させていただくことにした。

まず、本書の執筆に関わられたかたたちは、2017年11月から、全国22都道府県の計284校の中学校に勤務する全教職員8112名を対象に「部活動」に関しての調査を実施している。私が知る限り、2013年、文部科学省は「運動部活動の在り方に関する調査研究協力者会議」が「運動部活動の在り方に関する調査研究報告書~一人一人の生徒が輝く運動部活動を目指して~」を纏めている。しかし、この調査は、部活動時における教師の体罰を中心としたものである。現在の「教師の働き方改革」に伴う調査は、恐らく、本書の調査が初めてだろうと思われる。やはり、「はじめに」に記されていたとおり、貴重な調査結果と言えるだろう。

本書の調査結果を分析すると、大方、予想どおりであった。それは、まず、比較的若い男性教員が部活動立会時間について長時間化する傾向があげられる。次に、男性・女性の性差による部活動への参加日数・時間の違い、特に女性教員は、結婚の有無・年齢・共働きかどうかが部活動への参加意欲につながっていることなどが調査結果から浮かび上がる。そのほか、「保護者期待」の要因についても、教員を疲弊させている一要因であることがわかる。

その「保護者期待」につながるのであろうか。冒頭に引用した引用文は、教師のジレンマを感じた。つまり、働き方改革の一環で、「生徒が楽しんで部活をすれば良い」と考える教師が多いのではないだろうか。その一方で、保護者は、子供の大会に顔を出し、応援をする。その期待に応えるべく、教師は、「競技成績を向上させたい」と考える人が多いのではないだろうか。もちろん、子どもたちに「勝利する喜び」を体験させたい、また進学に有利にさせてあげたいと考える教師も多いことだろう。私の実体験からも「保護者期待」というプレッシャーは、教師を襲っているではないかと感じた。

中学生のころ、私の時代では、朝練習、土日の練習が当たり前であった。それが至極当然であったし、少しでも強くなりたいと思って中学時代を過ごした。おかげで、今でもテニスを楽しむことができる。いま、中学生になる自分の子供たちのテニスの試合を見ると、明らかに「打ち慣れていない」ことがわかる。一方、テニスの強い子達の保護者と話をしてみると、学校以外のクラブチームに属しているとのことだった。いまの学校の部活動時間だけでは足りない。本書の最後では、地域移行に関して、教師、生徒、安全性の観点から課題を投げかけている。いま、教師の長時間労働などのイメージから、教師のなり手が不足している。教師の働き方改革を進めることは、教員確保につながる。ただ、部活動の本質ともいうべき、生徒の健全な発育、チームプレーを通じた友情を育む大切さを忘れてはならない。本書の結果をもとに、各市町村の教育委員会では、最適で持続可能な部活動のあり方を模索していくことになる。