2023年4月22日土曜日

誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命

 鬼のようなリーダーシップを発揮するには、”覚悟“と”能力“の両面において、周囲よりも突出した強さを持つことが前提になります。
(引用)誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命 著者:森岡毅、日経BP、2020年、182

森岡毅氏といえば、USJの再建で有名だ。その手法は、コストを掛けずに、ジェットコースターを後ろ向きに走らせるなど、アイデアを連発したものであった。また、森岡氏は、グリーンピア三木と呼ばれた年金福祉事業団施設(現在はネスタリゾート神戸)を再建したことでも有名だ。その森岡氏によるリーダーシップの書籍を偶然、書店で見つけた。タイトルは、「誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命(2020年、日経BP)」である。

リーダーシップに関する書籍は、ハーバード・ビジネス・レビューを始め、数多く存在する。しかし、森岡氏自身が「実務者が、本当に本人の言葉で書き綴った書籍は極めて稀(まれ)」と言われるように、数々の難題を解決してきた森岡氏ならではのリーダーシップとは、どんなものであるのか。私は、森岡氏のリーダーシップの真髄に迫るべく、本書「誰もが人を動かせる!」を拝読させていただくことにした。

まず、森岡氏によるリーダーシップを身につけることによって得られる絶大な3つのメリットが面白い。当然、森岡氏が言われるとおり、リーダーシップを身につけることは、「一人ではできないことでも実現できるようになる」こと、「劇的に経済的に豊かになっていく」ことは理解できる。3つめは、「自分の人生を生きる幸福感を激増させる」ことが可能になるという。さらに森岡氏は、「この宇宙は、本当に自分を中心に回っていたんだ」と思えるようになると言われる。本文中、この表現に出会い、私は正直、虚を衝かれた。故稲盛和夫氏は、「謙虚」、「利他の心」を重んじる。それは、天の代わりに、地上にいる私たちが選ばれ、リーダーシップを発揮するという中国の経書にもつながる考え方だと思う。しかし、森岡氏は、自分を中心として天が回っているといった考え方は、例えばイーロン・マスク氏のような西洋的なリーダーシップの考え方に近い気がしたと同時に、新しいリーダーシップの考え方だと感じたからである。

森岡氏のなかで共感したことは、3WANTSモデルである。これは、リーダーシップを発揮したいとき、「どうしても実現したいと本気で思える目的が明確であること」が大切であると森岡氏は説く。そして、これこそが「人を動かす根源」でもあると言い切っている。そのためには、3つの条件を同時に満たすことが必要で、3WANTSモデルの登場となる。この3条件とは、「巻き込みたい人々にとっても魅力的である」こと、「集団としての能力を必要としている」こと、そして「あなた自身が本気になれる」こととしている。この3WANTSモデルを聞いて、なるほどと感じた。仕事柄、私は、大学やコンサルトが連携する仕事も多い。しかし、私たちは、自分たちが困っていることの課題解決を提案しても採用されるケースが少ないことも実践知で知っている。それは至極当然で、相手方にとっても魅力的であると同時に、集団で能力を必要としているかどうかを満たしていなければ、相手は動かない。

森岡氏による書籍においては、「リーダーはやみくもに褒めることを主眼に置くべきではない」という視点も興味深い。本書でも触れられているが、「デール・カーネギー」による「人を動かす」では、「人を褒めること」が最も大切であると説いている。私は、自分の子供達も甘く育てている。つまり、「褒めて育てる」である。昨今、部下に対して叱ることも少なくなってきた。これは、叱るとパワハラと呼ばれ、叱られた部下も精神的に弱いのではと感じてしまうからである。それは、学校教育現場も同じで、部活動においても先生から叱られることはない。では、「褒める」ことにより、人は動き、伸びるのだろうか。

出口治明氏は、「座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」 (角川新書) 新書 (2019年)」の中で、心理学者マーシャル・ロサダによる「ロサダの法則(3:1の法則)を用い、「1回叱ったら3回以上褒めることが必要で、それ以上叱ってしまうと、人は自信を失ってしまう(108)」と言われる。いずれにせよ、「褒めるだけ」、「叱るだけ」という育て方は、自分の子供にも、部下にも共通することなのかもしれない。そのロサダ比が適切であるかどうかは、自身の実践知によって導き出すことが必要なのだろう。ただ、偏りはよくないということを森岡氏から学んだ。

森岡氏は、新型コロナウイルスのことも振り返り、危機時のリーダーシップにも触れている。人間は、恐怖によって、支配されてしまう。つまり、森岡氏は、「どこまで世間の非難に耐えられるのか」といった「社会的恐怖」に立ち向かうことの大切さについて解く。このことは、大規模災害時においても言える。近年、地球温暖化の影響等により、全国の風水害被害も甚大化している。その際、基礎自治体である市町村は、災害対策基本法に基づき、避難指示や緊急安全確保などの避難情報を発令する。その際、リーダーである首長は、寄せられた気象情報や被害状況をもとに決断を迫られる。そのとき恐らく首長らが考えることは、避難情報を発令しないことのリスク、つまり住民やマスコミからの非難を避けることを主眼において考えてはならない。あくまでも情報を取捨選択し、現在の状況と今後の見通しを総合的に判断し、本当に必要な発令をしなければ、住民は、乱発される避難情報について、“オオカミ少年”になってしまう。備えと同時に、どこまでのリスクに耐えられるのか。私は、森岡氏が責任回避だけのリーダーシップは必要ないと解いていると理解した。

私は、本ブログの冒頭に、森岡氏によるリーダーシップに必要な要素、つまり”覚悟”と”能力“について引用した。実践知によって得られた森岡氏のリーダーシップ論は、「自分が動くこと」ではなく、「人を動かすこと」についてのノウハウであった。そのために、リーダーは、リーダーシップを発揮し、人に動いてもらい、一人ではなし得なかった域に到達する。森岡氏によるリーダーシップは、数々の事業再生の経験から得られた貴重なものばかりだった。

リーダーは、”覚悟“と”能力“を持つべし。

私も肝に銘じておきたい。


2023年4月8日土曜日

社会の変え方 

 困っている市民に 手を差し伸べるのが 行政の使命・役割
(引用)社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ、著者:泉 房穂、株式会社ライツ社、2023年、268

明石市は、全国の地方公共団体にとって、“未来への希望”なのかもしれない。

2014年、日本創生会議(座長:元総務大臣増田寛也)が提出したいわゆる「増田レポート」は、地方公共団体関係者のみならず、日本全体に大きな衝撃を与えた。この「増田レポート」では、896の市町村が「消滅可能性都市」であるとした。つまり、市町村全体の49.8%,つまり半数近くの市町村が「消滅」と名指しされたことになる。

少子高齢化は、もはや我が国の最重要課題だ。その状況下において、明石市は、10年連続人口増(中核市中人口増加率は全国1位)、市民満足度91.2%と驚異の数字を叩き出している。その結果、明石市では、子ども施策から始めることで若い世代にも安心が得られ、人口が増加し、にぎわいが創出され、結果的に財源が増加(明石市は税収8年連続増、地価7年連続上昇)するという好循環が創出されている。

その好循環を生み出すべく、奮闘されてきたのが明石市長の泉房穂氏だ。「強行」というイメージが強い泉氏でもあるが、なぜ明石市において好循環を生み出すことができたのだろうか。その秘密を探るべく、泉氏による最新刊「社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ(株式会社ライツ社、2023年)」を拝読させていただくことにした。

本書は、序章から惹き込まれていく。泉氏の明石市における政策の根底にあるもの。それは、「一生起立不能」と言われた泉氏の弟さんの存在が大きいことが分かる。つまり、泉氏は、幼少期から弟さんの成長を支えることで経験した、社会に対する様々な”違和感“を排除すべく、明石市において様々な政策打ち出してきた。また、その弟さんの成長を見守ってきた泉氏は、ある日、次のことに気づく。それは、泉氏が「弟のため」と言いながら、弟を支えている自分自身が周りから笑われたくないがために、弟の行動を制限してしまいそうなことがあったことだ。ただ、当の本人は、自分の意志で、健常者と同じように行動したいこともある。そのことに気づいた泉氏は、「本人の幸せを決めるのは、他の誰でもなく、本人」と言われる(本書、29)。そのことを理解することにより、真の「寄り添う」ことができるようになる。市民一人ひとりに「寄り添う」ことを理解して、政策に結びつけることは、当然ながら、市民の満足度向上にもつながる重要な視点だ。では、泉氏は、明石市でどのように、市民に「寄り添う」政策を実行してきたのだろうか。

まず、明石市は、18歳までの医療費無料化を始め、第2子以降の保育料など、5つの無料化を実施してきた。中核市規模の地方公共団体において、ここまで子ども施策に力を入れているケースは、正直、珍しいと思う。しかし、泉氏は、「(これらの施策の実施が)遅すぎてごめんなさい」と言われる。その理由として、ほとんどの日本以外の他の国では、これらの施策が当たり前のように実施されているからだとしている。では、子育て支援は、国の施策であるべきなのだろうか。事実、泉氏も「ベーシックな子育て施策ぐらいは、国が全国一律で実施すべき(本書、66)」と主張されている。

我が国の少子化問題では、20代の人口が2025年ごろから急減すると言われている。政府も異次元の少子化対策を実施すると言われ、児童手当の拡充や学費軽減などが期待される。これは、雇用の不安定化や賃金が伸びないなどの理由があると考えられる。最近では、民間企業においても少子化対策の動きがある。トヨタ自動車は2023年3月15日、2023年度の年春闘で賃上げや一時金の要求に満額回答し、妥結したと発表した。また、伊藤忠は、朝型勤務の導入などにより、「1.97(日本全体では1.30)」という数値を公表(2021年度)した。国のみならず、働き方改革や賃金向上などにより、出生率を上げていこうとする企業が増加してきている。そのとき、国や地方公共団体は、民間の動きとあわせ、一体的な施策も考えていかなければならないと思う。

泉氏は、弁護士のみならず、社会福祉士の資格も取得されている。また、各々の施策も、ただ、無償化すれば良いという考えではない。明石市では、「おむつ定期便」という子育て経験のある配達員が、0歳の子どもがいる家庭を月1回訪問して、おむつ(ミルクや離乳食も選択可能)を届ける行政サービスを実施している。これは、単なるバラマキではない。実は、児童虐待で亡くなる子どもの半数は、0才児であるという。その「おむつ」を配布することは、あくまでも「きっかけ」であって、訪問先で子どもが生まれたばかりの親を「孤立させない」ことが目的であるとする。また、泉氏は、どの無料化施策にも「所得制限なし」にこだわる。国においても2023年3月31日、少子化対策の「たたき台」として、児童手当の所得制限撤廃を公表した。先行していた明石市の政策に、国が追いついてきた形だ。

本ブログの冒頭には、国が新型コロナによる緊急事態宣言発出時(2020年4月16日)に、明石市独自の支援策を発表した際、その報道発表資料の最後に添えられていた泉氏による文章を紹介した。このとき、明石市は、市の独自支援策として、個人商店にすぐに100万円、ひとり親家庭にさらに5万円など、3つの緊急支援策を実施した。まさに、危機対応時においても、泉氏は、市民に寄り添っている。

本書では、泉氏が率いてきた明石市の数々の施策から、その行政の果たすべき使命と役割について、学ぶことができた。特に明石市では、市民に寄り添い、行政と市民の距離を縮め、特に困ってみえる市民に対して、手を差し伸べる姿勢が随所に見受けられた。本書では、まちに好循環を生み出すだすヒントだけではなく、泉氏からは、行政の本質を教わることができた。

地方自治法の第一条の二には、「 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として」とある。私は、少子高齢化の今だからこそ、地方公共団体が地方自治の原点に立ち返るときが到来しているのだと感じた。泉氏による著書には、地方自治の“原点”が詰まっている。本書は、そう思わせる、一冊であった。