鬼のようなリーダーシップを発揮するには、”覚悟“と”能力“の両面において、周囲よりも突出した強さを持つことが前提になります。
(引用)誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命 著者:森岡毅、日経BP、2020年、182
森岡毅氏といえば、USJの再建で有名だ。その手法は、コストを掛けずに、ジェットコースターを後ろ向きに走らせるなど、アイデアを連発したものであった。また、森岡氏は、グリーンピア三木と呼ばれた年金福祉事業団施設(現在はネスタリゾート神戸)を再建したことでも有名だ。その森岡氏によるリーダーシップの書籍を偶然、書店で見つけた。タイトルは、「誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命(2020年、日経BP)」である。
リーダーシップに関する書籍は、ハーバード・ビジネス・レビューを始め、数多く存在する。しかし、森岡氏自身が「実務者が、本当に本人の言葉で書き綴った書籍は極めて稀(まれ)」と言われるように、数々の難題を解決してきた森岡氏ならではのリーダーシップとは、どんなものであるのか。私は、森岡氏のリーダーシップの真髄に迫るべく、本書「誰もが人を動かせる!」を拝読させていただくことにした。
まず、森岡氏によるリーダーシップを身につけることによって得られる絶大な3つのメリットが面白い。当然、森岡氏が言われるとおり、リーダーシップを身につけることは、「一人ではできないことでも実現できるようになる」こと、「劇的に経済的に豊かになっていく」ことは理解できる。3つめは、「自分の人生を生きる幸福感を激増させる」ことが可能になるという。さらに森岡氏は、「この宇宙は、本当に自分を中心に回っていたんだ」と思えるようになると言われる。本文中、この表現に出会い、私は正直、虚を衝かれた。故稲盛和夫氏は、「謙虚」、「利他の心」を重んじる。それは、天の代わりに、地上にいる私たちが選ばれ、リーダーシップを発揮するという中国の経書にもつながる考え方だと思う。しかし、森岡氏は、自分を中心として天が回っているといった考え方は、例えばイーロン・マスク氏のような西洋的なリーダーシップの考え方に近い気がしたと同時に、新しいリーダーシップの考え方だと感じたからである。
森岡氏のなかで共感したことは、3WANTSモデルである。これは、リーダーシップを発揮したいとき、「どうしても実現したいと本気で思える目的が明確であること」が大切であると森岡氏は説く。そして、これこそが「人を動かす根源」でもあると言い切っている。そのためには、3つの条件を同時に満たすことが必要で、3WANTSモデルの登場となる。この3条件とは、「巻き込みたい人々にとっても魅力的である」こと、「集団としての能力を必要としている」こと、そして「あなた自身が本気になれる」こととしている。この3WANTSモデルを聞いて、なるほどと感じた。仕事柄、私は、大学やコンサルトが連携する仕事も多い。しかし、私たちは、自分たちが困っていることの課題解決を提案しても採用されるケースが少ないことも実践知で知っている。それは至極当然で、相手方にとっても魅力的であると同時に、集団で能力を必要としているかどうかを満たしていなければ、相手は動かない。
森岡氏による書籍においては、「リーダーはやみくもに褒めることを主眼に置くべきではない」という視点も興味深い。本書でも触れられているが、「デール・カーネギー」による「人を動かす」では、「人を褒めること」が最も大切であると説いている。私は、自分の子供達も甘く育てている。つまり、「褒めて育てる」である。昨今、部下に対して叱ることも少なくなってきた。これは、叱るとパワハラと呼ばれ、叱られた部下も精神的に弱いのではと感じてしまうからである。それは、学校教育現場も同じで、部活動においても先生から叱られることはない。では、「褒める」ことにより、人は動き、伸びるのだろうか。
出口治明氏は、「座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」 (角川新書) 新書 (2019年)」の中で、心理学者マーシャル・ロサダによる「ロサダの法則(3:1の法則)を用い、「1回叱ったら3回以上褒めることが必要で、それ以上叱ってしまうと、人は自信を失ってしまう(108)」と言われる。いずれにせよ、「褒めるだけ」、「叱るだけ」という育て方は、自分の子供にも、部下にも共通することなのかもしれない。そのロサダ比が適切であるかどうかは、自身の実践知によって導き出すことが必要なのだろう。ただ、偏りはよくないということを森岡氏から学んだ。
森岡氏は、新型コロナウイルスのことも振り返り、危機時のリーダーシップにも触れている。人間は、恐怖によって、支配されてしまう。つまり、森岡氏は、「どこまで世間の非難に耐えられるのか」といった「社会的恐怖」に立ち向かうことの大切さについて解く。このことは、大規模災害時においても言える。近年、地球温暖化の影響等により、全国の風水害被害も甚大化している。その際、基礎自治体である市町村は、災害対策基本法に基づき、避難指示や緊急安全確保などの避難情報を発令する。その際、リーダーである首長は、寄せられた気象情報や被害状況をもとに決断を迫られる。そのとき恐らく首長らが考えることは、避難情報を発令しないことのリスク、つまり住民やマスコミからの非難を避けることを主眼において考えてはならない。あくまでも情報を取捨選択し、現在の状況と今後の見通しを総合的に判断し、本当に必要な発令をしなければ、住民は、乱発される避難情報について、“オオカミ少年”になってしまう。備えと同時に、どこまでのリスクに耐えられるのか。私は、森岡氏が責任回避だけのリーダーシップは必要ないと解いていると理解した。
私は、本ブログの冒頭に、森岡氏によるリーダーシップに必要な要素、つまり”覚悟”と”能力“について引用した。実践知によって得られた森岡氏のリーダーシップ論は、「自分が動くこと」ではなく、「人を動かすこと」についてのノウハウであった。そのために、リーダーは、リーダーシップを発揮し、人に動いてもらい、一人ではなし得なかった域に到達する。森岡氏によるリーダーシップは、数々の事業再生の経験から得られた貴重なものばかりだった。
リーダーは、”覚悟“と”能力“を持つべし。
私も肝に銘じておきたい。