(引用)GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代、著者:アダム・グラント、監訳者:楠木健、発行所:株式会社三笠書房、2014年、136
本書を読む前に、私はタイトルを見て、聖書の一節を思った。
「与えなさい。そうすれば、自分も与えられます(ルカの福音書6章、38節)。」
そして本書を読んで、こう思った。
本書のサブタイトルどおり「与える人」こそ成功する時代であると。
本書では、人間を
ギバー(人に惜しみなく与える人)
テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)
マッチャー(損得のバランスを考える人)
と3つのタイプに分ける。
本書では、人間の特性について豊富なデータや事例を通して、ギバーの成功の秘訣を探っていく。私は、自分自身、これほどGIVE&TAKEについて考えたことがなかったので、興味深く読まさせていただいた。
読み進めていくうちに、私は、身近なあの人はテイカー、あの人はギバーと思い浮かべる。ギバーは、テイカーに比べて収入が平均14%低く、犯罪の被害になるリスクは2倍、人への影響力も22%低い(同書、31)とある。やはり、与えるだけでは損するのみかと思いがちだが、アダム・グラント氏は、成功を収めるのもギバーであると証明しているところが面白い。
ギバーには、いくつもの有益なことが起こる。
冒頭に記したとおり、ギバーは、ちょっとした大胆で挑戦的なアイデアを出しても、周りに特別に認められるという。私は、仕事場とは、自己実現の場であると思う。そのとき、今、与えられた職場環境からアイデアを導き出し、予算を獲得し、大きな成果を得る。そのためには、自分自身がギバーとなり、周りの人に認めてもらわなければ成し得ることが出来ないということも多々経験してきた。これは、フランクリン・コヴィーの名著「7つの習慣」の考えにも通じると思った。「7つの習慣」では、「信頼残高」という言葉を用いている。コヴィー博士は、信頼残高があれば多少の失敗なら簡単にみんなが許してくれるという。この信頼残高を高める人のこともギバーということだろう。
そのほか、ギバーは、自己成就予言(他人から期待されると、それに沿った行動をとって、期待通りの結果を実現すること)が働く(同書、166)としているところも面白い。これは、家庭でも十分に使えるものだと感じた。普段、親は、勉強をしない子どもたちに「勉強しろ」と言いがちである。しかし、子どもたちに「期待しているよ」と一言言えば、自主的に勉強するようになる。最近、私は、自分の子供に対しても勉強のことをうるさく言わなくなった。子どもの居やすい環境づくりが親の務めということだろうか。
また、ボランティアの「100時間ルール」なるものも登場する。かつて、私も地域ボランティアに多くの時間を割いたときがあった。しかし、「100時間ルール」を意識すれば、週わずか2時間与える計算になる。これからも気負うことなく、地域の社会活動にも参加できると感じた。これからも自分のライフスタイルに合わせ、地域の発展にも与えることを意識しようと感じた。
冒頭にも記したとおり、ギバーは、成功から程遠い存在だと信じられている。しかし、他者利益への関心が高いと同時に、自己利益への関心も高い人は、「他者志向の成功するギバー」となる。監訳者の楠木健氏は、「自分にとって意義のあることをする」「自分が楽しめることをする」。この条件が満たされれば、ギバーは他人だけではなく、自分にも「与える」ことができる(同書、10)と言われる。
このブログを書いているとき、台湾の元総統である李登輝氏の訃報にふれた。李登輝氏は、台湾大地震の際、「他人を助ければ、支援が必要なときに助けられる」と言われていた。台湾の民主化と経済発展に尽力され、日本の政財界とも親交の深かった李登輝氏こそ、真のギバーであったのではないかと思った。
アダム・グラントの「GIVE&TAKE」は、与えることの大切さを改めて感じさせてくれる一冊となった。