2020年9月21日月曜日

自分のことより大きな大義のために尽くす

 自分のことより大きな大義のために力を尽くすこと。これに勝るものはありません。
                    元米国上院議員 ジョージ・ミッチェル
(引用)DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2020年9月号、株式会社ダイヤモンド社

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューの2020年9月号の特集は、「戦略的に未来をマネジメントする方法」だった。コロナ禍において、不確実性が高まる昨今、様々な未来のシナリオを想像し、マネジメントする手法が書かれている。私は、この「戦略的に」というところが気に入った。これからの時代を担うリーダー、そして企業は、多層化する危機の訪れに対処しなければ生き残れない。たとえ想像を超える危機が訪れたとしても、リーダーは悲観的になることなく、「戦略的に」ピンチをチャンスに変えていく必要がある。

今回の特集の中でも、ローランド・ベルガー シニアパートナーの長島聡氏による「技術と人材の潜在力を引き出す 未来を創造する経営の実践」の論文が際立った。新型コロナウイルス感染症の影響により、企業は中長期戦略の見直しに迫られている。長島氏は、超長期戦略の代表格とも言うべきシナリオ・プランニングを発展させ、「先読み、引き寄せ、構え」の3ステップを提唱する。そして、その根底にあるのは、企業が社会に存在する意義を説いた「パーパス」と、それを「構想」する力であると言われる。私は、経営者ではないが(いや、立場上、経営意識を持たないといけない一人かもしれないが)、このパーパスツリーを自身の事業に合わせ、作成していみたいと思った。下段に位置する「価値要素」の構成から最上段に位置するパーパス、つまり「社会に届けたい価値」に達しているのかを再確認することで、自身の事業を振り返るのに有効であると感じた。

これは、何も新型コロナウイルスの影響によるものだけの手法ではない。例えば、いわゆる老舗企業も保守的であれば、現代の消費者のニーズに合致してこない。老舗企業が今後も永続的に経営していくためには、今まで培ってきた専門的な知見や技術を生かし、新たなトレンドを構築していくことが必要であろうと感じた。その意味で、長島氏が提唱する「不確実性を見通す」シナリオ・プランニングの手法は、多くの人に知ってもらいたいと思った。

あと、9月号でオススメなのが、最後の2ページを割いて(本当はもっと紙面を割いてほしかったが)紹介している「Life’s Work」のコーナだ。今回は、元米国上院議員のジョージ・ミッチェル氏が登場する。米上院多数党院内総務を務めたのち、北アイルランド特使としてベルファスト合意に主導的な役割を果たした。このたびの9月号では、ミッチェル氏が紛争解決の方法について5つの方法を仰っている。そのうちの一つとして、「交渉が頓挫するのは日常茶飯事ですから、一度や二度、あるいは10回『ノー』と言われたぐらいで、それが最終回答だと思わないこと」と言われる(140)。私も仕事柄、多くの交渉を行ってきた。いや、実は、今でも仕事上の交渉で悩んでいることがある。当然のことだが、交渉には、粘り強さと努力が必要だ。困難とされた和平交渉をまとめたミッチェル氏の言葉は、今後、私の仕事を遂行していく上で、とても心に響いた。そしてこの言葉は、難航している交渉事で諦めそうになった私の心に、再び明かりを灯した。

冒頭にも引用したが、ミッチェル氏は、「自分のことより大きな大義のために力を尽くすこと」と言われる。このことは、「企業は社会の公器」と言われたパナソニックの創始者である松下幸之助氏の考えにも通じるものがある。企業は社会が求める仕事を担い、次の時代に相応しい社会そのものをつくっていく。そして、社会の構成員である市民一人ひとりが、今後の社会をつくっていくという自覚を持ち、何が社会に恩返しできるのかを考えなければならないと感じた。

そのことを私は、80歳半ばを過ぎたジョージ・ミッチェル氏に、優しくも力強い言葉で教えていただいた気がした。

2020年9月19日土曜日

台湾のコロナ戦

私はこの数カ月の間、皆さんが心を一つにして、お互いを思いやり困難に打ち勝ってきた感動を忘れないよう心から願っています。中華民国は団結力があり、台湾はとても安全であり、台湾人であることに誇りを持って、胸を張って頭を高く掲げて歩んでいきましょう。
               蔡英文  2020年5月20日 第15代台湾総統就任式にて
(引用)国会議員に読ませたい台湾のコロナ戦、著者及び引用文翻訳:藤重太、発行者:皆川豪志、発行所:株式会社産経新聞出版、2020年、247

 2020年3月ごろから、我が国では、薬局やドラッグストアの開店にあわせて、人々が長蛇の列をつくり、品薄となったマスクを買い求めていた。一方、台湾の人たちは、インターネットで、自宅に居ながら各薬局のマスク在庫を知ることができたという。その後、私は「全民健康保険カード」によるマスクの「実名制」販売制度と「マスクマップ」の存在を知ったとき、正直、台湾の取り組みが羨ましく思えた。そして、「マスクマップ」のシステム構築では、台湾の唐鳳(オードリー・タン)という政務委員(デジタル担当大臣)が我が国でも注目された。唐鳳氏は、15歳で起業し、33歳でビジネスからの引退を宣言。35歳には、台湾で最年少かつトランスジェンダーでデジタル担当大臣に就任した。IQ180以上とも言われる彼女が政務委員として担う課題は、「社会革新、青年の政治参加、オープン政治」(同書、92)である。この唐鳳政務委員は、多くのIT企業が「マスクマップ」を開発できる環境を整えた。しかし、新型コロナに対する台湾の施策は、これだけではない。世界的に見ても速い段階で新型コロナを封じ込めた台湾は、なぜスゴイのか。その解を求めるべく、藤重太氏の本を読み進めることとした。

歴史的背景から、世界保健機関(WHO)に加盟できない台湾は2003年に襲ったSARS(重症急性呼吸器症候群)で苦い経験をしている。このときの悲劇とも言うべき経験から、台湾は、2011年に「インフルエンザパンデミック対応の行政部のための戦略計画」を纏めている。詳しくは本書に譲るが、この戦略計画は、このたびの新型コロナの初動期から大いに生かされた。特に、海外からの流入について、台湾は、非常に敏感になっていたことがわかる。「初動をいかに抑えるべきか」ということと「感染経路不明をいかに少なくするかということ」は、感染症対策の基本であろう。また、本書には、2月25日から台湾の小・中・高が一斉に開校した際の取り組みについても書かれている。例年、通常のインフルエンザ対策でも分かるように、学校における集団感染は、最も憂慮すべき課題であろう。事実、我が国においても、大学の学生寮などで感染が広がった。さらに台湾は、国民に負担を強いる代わりに経済的な補償もしっかりと行ってきた。理にかなった経済政策とセットとした台湾の新型コロナ対策は、各国の参考になるものだと感じた。

また、台湾政府は、インフォデミックにも細心の注意を払っていることが理解できた。インフォでミックとは、ネットで噂やデマを含めて大量の情報が氾濫し、現実社会に影響を及ぼす現象のことである。1)
我が国でも、2020年3月ごろは、ネットでデマが広がり、トイレットペーパーが小売店の棚から消えた。災害等の情報伝達手段として、個々が発信するSNSが注目されているが、インフォデミック対策も同時に行うことが急務だ。そのため、私は、政府や自治体が国民などに対し、どの情報を信頼すべきなのかということを正確かつ迅速に伝えなければならないと感じた。

本書には、台湾が新型コロナを封じ込めた要因を様々な観点から紹介しているが、私は、蔡英文総統のリーダーシップもかなり優れていたと感じた。冒頭にも総統就任式の演説を紹介したが、至るところに「国民への感謝」という言葉が盛り込まれている。演説には、「台湾の物語はちょうど新たな1ページが始まったばかりです。(同書、247)」という蔡英文総統の言葉も聞かれた。そこには、歴史的な背景にも負けず、国民と一体になって、新型コロナを制圧するに留まらず、台湾の宿命にも立ち向かうリーダーの姿がある。

これからの秋冬に向けて、我が国は、第二波、第三波と言われる新型コロナと戦い続けなければならない。台湾では、感染症との戦いを「防疫戦争」とみなし、施策を「作戦」と位置づけた。本書は、高校卒業後に単身で海外台湾に渡り、それ以降、日台交流のサポートを行っている藤重太氏だからこそ描けた台湾の真の姿がある。本書では、台湾の歴史的背景から政治的な仕組み、そして蔡英文総統を始めとする政治体制や新型コロナ対策を学ぶことができる。それらを理解することによって、私は「なぜ台湾が新型コロナを封じ込めることができたのか」という解を得ることができた。

先ほど、台湾は、SARSのときの苦い経験を新型コロナウイルス対策に生かしていると記載した。しかし、我が国においても、100年ほど前、”スペイン風邪”とも呼ばれた新型インフルエンザによる感染症パンデミックを経験している。その際、”スペイン風邪”を主題にした国内唯一の書籍によれば、東京では「各病院は満杯となり、新たな『入院は皆お断り』の始末であった」と書かれている。この”スペイン風邪”では、「後流行」も襲い、村が全滅したところもあったという。2)

パンデミックとは違うが、東日本大震災のときにも、以前の津波のことは忘れ去られていた。寺田寅彦の警句とされる「天災は忘れたころにやってくる」。それは、新型の感染症に対しても言えることだろう。
まだ収束が見えない”小さな難敵”に対して、過去の反省や台湾の事例も参考にしながら、私達は戦い続けなければならないと強く感じた。

1)2020年4月6日 7:00配信 日本経済新聞 「コロナで注意 『インフォデミック』とは」
2)2020年4月16日付 日本経済新聞 「忘れられたパンデミック ”スペイン”インフルエンザ 中」

2020年9月12日土曜日

地域の危機 釜石の対応

 やるべきことができなければ、別の日付の下に新たな希望を書き入れていく。4月のカレンダーにはまだ希望という言葉が見られなかったとしても、希望をかたちづくる「気持ち」「(大切な)何か」「実現」「行動」が刻まれていったのだ。余白一杯に書き込まれたカレンダーは、まぎれもなく震災1か月後の希望のカレンダーだった。

(引用)危機対応学 地域の危機・釜石の対応 多層化する構造、編者:東大社研・中村尚史・玄田有史、発行所:一般財団法人 東京大学出版会、2020年、390

「危機」、「釜石」という単語が並ぶと、私は、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下、「東日本大震災」という。)のときの、あるエピソードを思い出す。それは、本書にも少し紹介されているが、片田敏孝氏(震災当時:群馬大学教授)が震災前から釜石市で防災教育に取り組まれ、「湾口防波堤」というハードで命を守ろうとしないことを子どもたちに教え込んだ。その結果、東日本大震災時、学校管理下にあった市内の小中学生が自主的に避難し、津波の脅威が尋常でないことを察知し、さらなる高台へと避難して難を逃れたという、いわゆる「釜石の奇跡」をおこした。その「釜石の奇跡」では、「率先避難者」という言葉が生まれた。この「率先避難者」とは、身近に危険の兆しが迫っているときなどに、自ら率先して危険を避ける行動を起こす人(例:海溝型地震が発生したらすぐに高台に避難するなど)のことをいう。そして、率先して避難した人に連れられ、周囲の人達も同様の行動をするようになり、危険回避行動を起こせる人のことを言う。まさに、現代は、各地で豪雨被害も多発する。特に今年の梅雨は、尋常ではなかった。また、大型台風の襲来時には、気象庁も早めの注意喚起をするようになった。以前と比較し、私達は避難する時間も多く与えられつつある。今一度、私達は、自然災害を対岸の火事と思わず、危機の兆しが迫ったとき、「率先避難者」になるという意識を忘れてはならない。

しかし、本書では、この「釜石の奇跡」について、あまり紙面が割かれていない。では、なぜ、東大社研は、「地域の危機」で釜石市を選んだのだろうか。釜石は、「鉄と魚とラグビーのまち。」だ。この3つの要素に共通して言えることは、釜石市にとって1970年~80年代が全盛期であったということだ。鉄は釜石製鉄所、魚は遠洋漁業を中心とした水産業、そしてラグビーは、「北の鉄人」と言われた新日鐵釜石ラグビーの活躍に起因している(同書、8)。今回の本書のテーマは、「多層化する構造」と副題がついている。私達は、危機といえば、まず自然災害を思い浮かべる。しかし、危機は、人口減少、環境問題から健康、家族地域、教育に至るまで、様々な事態が含まれ、多層化する。事実、東大社研と岩手県釜石市との関係は、2005年度から2008年度から始まる。つまり、2011年の東日本大震災の発生前からのお付き合いということだ。東大社研は、釜石市を日本の縮図として捉えたのではないだろうか。かつて、全盛を迎えた商工業や人口減少は、どの地方都市にとっても共通の課題だ。そこに、東日本大震災が襲い、さらなる危機が多層化した。

本書では、野田武則市長のインタビューを始め、市関係者などに膨大な聞き取り調査をしている。また、本書の研究テーマは、東日本大震災からはじまり、地方企業のフューチャー・デザイン、三陸鉄道をめぐる危機と希望、高校生人口の減少と高校生活、そして「まつり」を復興させる意味までと幅が広い。その中でも東日本大震災のときに陣頭指揮を執った野田市長の言葉が参考になる。自治体の責任者としての責務は、①国や自衛隊との連携、②超法規的措置をめぐる責任、そして災害時に首長は傷ついた人々に対して「自分たちは見捨てられていない」という安心感を与え、行政として責任ある対応を行っているという信頼感を創り出すことが求められる(同書、43-44)。いくつかの避難所を回って被災者に接し、防災行政無線で市民に語りかけた野田市長。常に市民に寄り添いながら、震災直後から復興という釜石の未来図を描くまで、野田氏の発言は、他自治体も参考にすべき点が多い。

本書には、2019年3月23日、東日本大震災の津波によって長期運休が続いてた岩手県三陸沿岸の鉄路が、再びつながった(同書、173)ことも書かれている。数年前、私は、東日本大震災発生直後に訪れた三陸の地を再び訪ねた。そのとき、遠く釜石まで足を伸ばすことは叶わなかったが、南三陸や気仙沼のあたりを周った。東日本大震災で気仙沼線、大船渡線も甚大な被害を受けた。そこで、私は、バス高速輸送システム(BRT)に乗って、気仙沼を目指した。途中、帰宅する高校生が大量にBRTに遭遇した。それまで、私は、BRTの車窓から、途中で断たれた線路を見ながら、復興の遅さに暗い気持ちになっていたが、車内は高校生たちの登場によって、活気づいた。

このたびの東大社研による釜石市における膨大な「地域の危機」に関する調査結果と検証は、同様の課題を有する他自治体にとっても、大いに参考となる。私は、その参考になる点を一言で言えば、「レジリエンス」ということだと思う。挫折や困難を味わい、絶望の中から這い上がる人達がいる。その数々の証言から、希望を見出すことができた。冒頭にも記したが、本書の執筆者の一人が東日本大震災1か月後に現地を訪れたとき、持参した品々のうち、避難所の人々に喜ばれたのは、大量の小さなカレンダーだったという(同書、390)。そこに、被災者は、絶望ではなく、未来の希望を書き込んだ。まさに、釜石は、そして三陸は、そこに住む人達によって危機に対応し、着実に、そして逞しく未来へと歩んでいることを証明してくれた。

2020年9月5日土曜日

ディズニーCEOが実践する10の原則

 スティーブはメリットとデメリットのすべての重要性を推しはかり、デメリットの多さに騙されてメリットの重みを、特に彼が成し遂げたいことを、見失わなかった。そこがスティーブのスティーブたる所以(ゆえん)だった。

(引用)ディズニーCEOが実践する10の原則、著者:ロバート・アイガー、訳者:関美和、発行者:早川浩、発行所:株式会社 早川書房、2020年、214

マイクロソフトの共同創業者の一人、ビル・ゲイツ氏は、毎年夏に5冊の本を推薦している。その推薦された中に、ウォルト・ディズニー・カンパニー前CEOのロバート・アイガー氏による「ディズニーCEOが実践する10の原則」が含まれていた。ロバート・アイガー氏といえば、2005年、アップル本社で新しいビデオIPodによるABCの番組を配信することを発表したり、ピクサーの買収を成功させたりして、あのアップル共同設立者の一人、スティーブ・ジョブズ氏との縁が深い。スティーブ・ジョブズ氏とビル・ゲイツ氏は、テック業界でここ40年続く、アップル対マイクロソフトというライバル関係を体現している。しかし、ビル・ゲイツ氏は、人前で話すときはジョブズのように「魔法を使えたらいいのに」と語っており、ジョブズ氏を認める発言もしている。1)そのビル・ゲイツ氏がロバート・アイガー氏によって語られる、今は亡きジョブズ氏のことをどう回想したのかということも思い馳せながら、本書を読み進めた。

タイトルどおり、この本は、ロバート・アイガー氏が今までの経験で得た「リーダーシップに必要な10の原則」が示されている。具体的には、前向きであること、集中すること、公平であること、思慮深いことなど。しかし、私は、アイガー氏が若かりし頃、全米ネットワークテレビ局ABCにおいて上司であったルーン・アーリッジから学んだ「もっといいものを作るために必要なことをしろ」(同書、57)の言葉が心に響く。アイガー氏も、このときの教えを生かし、10の原則の一つに「常に最高を追求すること」を加えている。最高を追求することは、いかに、質を重視して顧客や従業員の満足を得るのかが大切であることを教えてくれる。これは、本書の中に登場する「優先順位」のつけ方にも共通した考え方だ。いかに的を絞り、質を高めることができるか。そして各事項の優先順位をつけて実践していく。その一連の流れが顧客や従業員を満足させることができる。

「事実は小説より奇なり」と言われる。アイガー氏の前任者とスティーブ・ジョブズ氏との確執により、ディズニーとジョブズがCEOを務めるピクサーが絶縁状態になっていた。しかし、アイガー氏がディズニーのCEOに就任するやいなや、ジョブズ氏の懐に飛び込みピクサーの買収を成功させる。そして、ジョブズ氏と仕事を超えて友情を育んでいくシーンは、小説より面白い。特に、アイガー氏がピクサーの買収話をジョブズ氏にする際、「話の切り出し方」がうまいと感じた。時として、人は、大きな案件を前にして、尻込みをしてしまうかもしれない。しかし、勇敢なリーダーは、難解な案件に対峙し、相手方と交渉し、物事を進めていかなければならない。その時、リーダーは、いきなり本題に入るのではなく、切り出し方がある。私も経験があるが、話を切り出し、少し間をおいてから本題に入る。そして、相手の反応を見る。その話の切り出し方は、自分だけのWinだけではなく、相手にとってもWinなものにならなければならない。本書には、あのジョブズ氏の懐にも飛び込める極意が書かれている。

また、時として、リーダーは、悲観的な事実に直面することもある。日々、仕事に追われると、一つの悲観的な事実が心に引っかかり、次に訪れる仕事の決断などに影響を及ぼすことがある。アイガー氏には、晴れやかな舞台の場で、悲観的な事実も同時に訪れるということも経験している。そのとき、アイガー氏は、悲観的な見方を周囲に振りまかないとしている。自分の感情をコントロールし、周りを不安にさせないという「胆力」もリーダーには必要だと感じた。

本書を読み終え、絶対他言しないようにといって、ジョブズ氏がアイガー氏にガンの再発を打ち明けたシーンを思い出した。冒頭に記したとおり、アイガー氏はジョブズ氏の才能を認め、ジョブズ氏は残された時間を使ってアイガー氏のよき相談相手となった。この二人の友情関係を、ビル・ゲイツ氏は羨ましく思ったのではないだろうか。

ABCテレビの雑用係からディズニーのトップに上り詰め、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムなど、総額9兆円に及ぶ買収劇を成し遂げたロバート・アイガー氏。この世界トップクラスのリーダーの経験から得られた「リーダーシップに必要な10の原則」は、全てのリーダーにとって尊い教えとなることだろう。

1) 2019.09.22  08:00配信 Business Insider Japan