2020年9月5日土曜日

ディズニーCEOが実践する10の原則

 スティーブはメリットとデメリットのすべての重要性を推しはかり、デメリットの多さに騙されてメリットの重みを、特に彼が成し遂げたいことを、見失わなかった。そこがスティーブのスティーブたる所以(ゆえん)だった。

(引用)ディズニーCEOが実践する10の原則、著者:ロバート・アイガー、訳者:関美和、発行者:早川浩、発行所:株式会社 早川書房、2020年、214

マイクロソフトの共同創業者の一人、ビル・ゲイツ氏は、毎年夏に5冊の本を推薦している。その推薦された中に、ウォルト・ディズニー・カンパニー前CEOのロバート・アイガー氏による「ディズニーCEOが実践する10の原則」が含まれていた。ロバート・アイガー氏といえば、2005年、アップル本社で新しいビデオIPodによるABCの番組を配信することを発表したり、ピクサーの買収を成功させたりして、あのアップル共同設立者の一人、スティーブ・ジョブズ氏との縁が深い。スティーブ・ジョブズ氏とビル・ゲイツ氏は、テック業界でここ40年続く、アップル対マイクロソフトというライバル関係を体現している。しかし、ビル・ゲイツ氏は、人前で話すときはジョブズのように「魔法を使えたらいいのに」と語っており、ジョブズ氏を認める発言もしている。1)そのビル・ゲイツ氏がロバート・アイガー氏によって語られる、今は亡きジョブズ氏のことをどう回想したのかということも思い馳せながら、本書を読み進めた。

タイトルどおり、この本は、ロバート・アイガー氏が今までの経験で得た「リーダーシップに必要な10の原則」が示されている。具体的には、前向きであること、集中すること、公平であること、思慮深いことなど。しかし、私は、アイガー氏が若かりし頃、全米ネットワークテレビ局ABCにおいて上司であったルーン・アーリッジから学んだ「もっといいものを作るために必要なことをしろ」(同書、57)の言葉が心に響く。アイガー氏も、このときの教えを生かし、10の原則の一つに「常に最高を追求すること」を加えている。最高を追求することは、いかに、質を重視して顧客や従業員の満足を得るのかが大切であることを教えてくれる。これは、本書の中に登場する「優先順位」のつけ方にも共通した考え方だ。いかに的を絞り、質を高めることができるか。そして各事項の優先順位をつけて実践していく。その一連の流れが顧客や従業員を満足させることができる。

「事実は小説より奇なり」と言われる。アイガー氏の前任者とスティーブ・ジョブズ氏との確執により、ディズニーとジョブズがCEOを務めるピクサーが絶縁状態になっていた。しかし、アイガー氏がディズニーのCEOに就任するやいなや、ジョブズ氏の懐に飛び込みピクサーの買収を成功させる。そして、ジョブズ氏と仕事を超えて友情を育んでいくシーンは、小説より面白い。特に、アイガー氏がピクサーの買収話をジョブズ氏にする際、「話の切り出し方」がうまいと感じた。時として、人は、大きな案件を前にして、尻込みをしてしまうかもしれない。しかし、勇敢なリーダーは、難解な案件に対峙し、相手方と交渉し、物事を進めていかなければならない。その時、リーダーは、いきなり本題に入るのではなく、切り出し方がある。私も経験があるが、話を切り出し、少し間をおいてから本題に入る。そして、相手の反応を見る。その話の切り出し方は、自分だけのWinだけではなく、相手にとってもWinなものにならなければならない。本書には、あのジョブズ氏の懐にも飛び込める極意が書かれている。

また、時として、リーダーは、悲観的な事実に直面することもある。日々、仕事に追われると、一つの悲観的な事実が心に引っかかり、次に訪れる仕事の決断などに影響を及ぼすことがある。アイガー氏には、晴れやかな舞台の場で、悲観的な事実も同時に訪れるということも経験している。そのとき、アイガー氏は、悲観的な見方を周囲に振りまかないとしている。自分の感情をコントロールし、周りを不安にさせないという「胆力」もリーダーには必要だと感じた。

本書を読み終え、絶対他言しないようにといって、ジョブズ氏がアイガー氏にガンの再発を打ち明けたシーンを思い出した。冒頭に記したとおり、アイガー氏はジョブズ氏の才能を認め、ジョブズ氏は残された時間を使ってアイガー氏のよき相談相手となった。この二人の友情関係を、ビル・ゲイツ氏は羨ましく思ったのではないだろうか。

ABCテレビの雑用係からディズニーのトップに上り詰め、ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムなど、総額9兆円に及ぶ買収劇を成し遂げたロバート・アイガー氏。この世界トップクラスのリーダーの経験から得られた「リーダーシップに必要な10の原則」は、全てのリーダーにとって尊い教えとなることだろう。

1) 2019.09.22  08:00配信 Business Insider Japan