2021年10月23日土曜日

福岡市長高島宗一郎の日本を最速で変える方法

 これからの時代は、「データ」と「感染症」が大きなキーワードとなります。そして残念ながら、この2つは、現在の日本が最も苦手とする分野であるといえます。
(引用)福岡市長高島宗一郎の日本を最速で変える方法、著者:高島宗一郎、発行:日経BP、発売:日経BPマーケティング、2021年、15

現在、地方公共団体は、少子高齢化や所得格差といった課題を抱え、一様に、福祉対策、教育、防災、スマートシティやコンパクトシティなどの政策に力点を置いていると見受けられる。しかしながら、人口規模が大きくなるにつれて、地方公共団体は、各部局のセクショナリズムが際立つようになってくる。その結果、行政組織特有の縦割り意識がより強固なものとなり、各々が自分の所属する部局の仕事だけに集中するようになる。その結果、地方公共団体の目指すべき姿が見失われ、都市としての魅力が薄れていってしまう。

では、各地方公共団体は、どのようなビジョンを持って、政策を実行していくべきなのか。このたび、福岡市長の高島氏は、「福岡市長高島宗一郎の日本を最速で変える方法」を著された。令和2年に人口160万人を突破した福岡市を率いる高島氏は、どのようなビジョンを持ち、都市戦略に挑んでいるのか。2010年以来、10年以上にわたり福岡市長を務めている高島氏の描く新たな地方公共団体のあり方を学ぶべく、本を拝読させていただくことにした。

高島氏による福岡市のビジョンは、明快であった。冒頭に紹介した「データ」と「感染症」である。このブログでは、「データ」に絞って感想を述べたい。
まず、「データ」といえば、国のデジタル庁創設が思い出される。デジタル庁は、2021年9月に発足。組織の縦割りを排し、国のデジタル化を推進するという。1)
なぜ、「デジタル化」の推進なのか。高島氏の本を拝読して、私は、デジタル化の意義を「スピード化」「エビデンス」「市民サービスの向上」と理解した。

まず、「スピード化」については、新型コロナ感染拡大の際、課題として露呈している。本書でも紹介されているが、新型コロナ感染拡大の際、台湾では、デジタル担当の閣僚オードリー・タン氏が個人番号とひもづいたマスク在庫管理システムを活用して、国民のマスク買い占めを防いだ。一方、我が国では、マスクを購入したい人たちが薬局・薬店の開店前から並び、混乱を招いた。また、我が国による10万円の給付事業においても、デジタル化の遅れにより、各自治体は混乱し、速やかな給付が叶わなかった。

また、「エビデンス」については、データを活用しながら地方公共団体の政策に反映させていくことが可能となる。例えば、保育所は、近年、福祉的な意味合いではなく、共働き世帯が増加しているのであれば、どのような政策が必要だろうかということになる。このようなデータ取得は、どの部局でも共通して取得することが可能である。

最後は、「市民サービスの向上」である。高島氏は、エストニア共和国の例を挙げ、申請主義からプッシュ型の行政を提案する。我が国の行政の手続きは、複雑・多様化しており、例えば「引っ越し」しただけでも、自分の力で、複数の公的機関を回らなければならない。そのほか、電話、ガス、電気などの各事業所にも変更手続きが必要となる。例えば自治体のHPに「引っ越し」というボタンをクリックし、必要事項を入力すれば、一気にすべての手続きが完了したらどうだろうか。当たり前だが、私は、とても便利で、随分楽になると感じた。

高島氏の口癖は、「支点・力点・作用点を見極めるべき」であるという(本書、55)。目的(作用点)を最小限のパワーで動かすために、アプローチするべきポイント(力点)を見定め、力を加える。この「てこの原理」で弱い力でも重いものを動かせるようになる。そのアプローチすべきポイントを見極めるには、データによるエビデンスを重要視することが何より大切であろうと感じた。

では、なぜ政策立案過程において、エビデンスを重要視することが必要なのか。それは、市民や県民ニーズが多様化していて、行政ニーズが把握しづらいこと。行政改革のもと、どの地方公共団体も職員が減少し、コロナ禍における税収減によって、資源が限られていること。さらには、変化が激しい現代社会において、スピードを重視した政策が求められることによるものではないだろうかと感じた。このような背景のもと、客観的事実に基づくデータを駆使することは、大変有用であると感じた。

そのほか、本書では、データ活用以外にも、魅力的な政策が数多く紹介されている。本書を拝読し、私は、高島氏の政策の根底において、市民に対して、「快適さ、便利さ、安全安心、チャンレジ精神」をもたらそうとしているのではないかと感じた。厳しい時代ではあるが、各地方公共団体は、リーダーがビジョンを示し、持続可能な都市戦略が求められている。その戦略に必要なビジョンである「データ」と「感染症」というキーワードは、今後、どの地方公共団体も最重要視していくテーマであると確信した。

1)首相官邸HPより。