2021年10月16日土曜日

モンク思考 自分に集中する技術

 愚かな者は自分の利益のために働き、賢明な者は世界の幸福のために働く。
                 『バガヴァッド·ギーター』第3章25節
モンク思考 自分に集中する技術、著者:ジェイ・シェティ、訳者:浦谷計子、発行所:東洋経済新報社、2021年、467

昨今、「マインドフルネス」という言葉をよく聞く。ウィキペディアによれば、マインドフルネスとは、「現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程であり、瞑想およびその他の訓練を通じて発達させることができる」と書かれている。しかし、ストレスフルな社会において、どのような瞑想が良いのだろうか。そして、瞑想をすれば、本当に心が整っていくのだろうか。

最近、マインドフルネスをいち早く取り入れたGoogleやMicrosoft、さらにはNetflixなどの先進米国企業らが注目するモンク(僧侶)思考なる本が出版されたという。その本のタイトルは、「モンク思考 自分に集中する技術(東洋経済新報社刊)」である。この本は、著者のジェイ・シェティが大学時代に僧侶の話を聞いたことがきっかけで、僧侶への道を目指すようになった経緯とともに、瞑想などの実践的なメソッドが紹介されている。本のカバーには、「迷いや不安、ストレスが消える 正しいキャリアが描ける」とも書かれている。私は、正しい瞑想法なども知りたかったので、この本を読んでみることとした。

この本は、「手放す」、「成長する」、「与える」という3つのパートで構成されているが、その根底には、古代の教えである「バガヴァッド·ギーター」をもとにしている。この古代の貴重な教えがシェティによって分かりやすく解説されていることは、ありがたいと感じた。

まず、「手放す」では、恐怖との向き合い方が役に立った。私自身、最近緊張することも少なくなってきたが、それでも緊張する場面に遭遇することもある。その際、恐怖にも似た感情に襲われる。その恐怖とどう立ち向かい、自分の心を整えていくのか。その実践的なメソッドが紹介されており、私も実生活に取り入れていくこととした。

「成長する」のパートでは、「自分のダルマを生きる」ことに力点が置かれている。「ダルマ」とは、その人にとって大好きであり、得意なこと(ヴァルナ)が世の中のニーズを理解し、無私の心で奉仕する(セーヴァ)と結びついて人生の目的となったとき、自分のダルマを生きていると言えるという(本書、191)。シェティによれば、このダルマを生きることこそ、人生を充実させる確実の道であると言われる。このダルマを目指すべく、シェティは、朝や夜のルーティンについても紹介している。貴重な1日をどのように過ごすのかは、前日の夜から始まり、次の朝につながる。これらのルーティンついても、私の実生活に取り入れていこうと思った。

最後は、「与える」である。このパートでは、感謝や奉仕といった言葉が頻出する。人生の最高の目的は奉仕にいきることだとシェティは言われる(本書、471)。なぜ、人は、奉仕をすれば、人生の最高の目的に至るのか。シェティは、優しい口調で奉仕の大切さ、そしてモンクへの道を教えてくれる。このパートを読み終えるころ、私は、冒頭に紹介した『バガヴァッド·ギーター』の教えが心に染みていた。

「モンク思考 自分に集中する技術」は、500ページ以上の分厚い本である。この500ページにも及ぶモンクの旅を終えると、いよいよ「まとめ」に達する。最終到達点に達すると、読者は、「モンク・メソッド」と言われる瞑想法を授かることができる。モンク・メソッドの詳細は本書に譲るが、基本的には、4カウントで息を吸い、4カウントで息を吐く深呼吸によって、心を整っていく。また、パート3の最後でもマントラが紹介されており、マントラの意味を知るとともに、瞑想にも取り入れることができる。

仏教僧マチウ・リカールの脳をスキャンした研究者たちは、彼を「世界で一番幸せな人」と呼んだという。これは、集中、記憶、学習、幸福感に関連するガンマ波がこれまでに科学的に記録された中で最高の値を示したからだ(本書、19)。

瞑想のもつ魔法の力は、人間の心を整え、超越した存在へと向かわせることができる。モンク・メソッドは、忙しすぎる現代人にとって、必須のアイテムになるのだろうと感じた。情報科学技術が進展する現代社会だからこそ、モンク・メソッドを多くのかたにおすすめしたい。