2019年11月30日土曜日

観光ブランドと尖り


強いブランドには、尖りがある。

京都は、「伝統」で尖っている。北海道は、「おいしい」で尖っている。沖縄は、「海」で尖っている。東京は、「活気」で尖っている。
(中略)
尖。「大」の上に「小」が乗っている。小さな地域が、大きな地域を超えるには、尖りが欠かせないということを、この字が教えてくれている。
(引用) 地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書、岩崎邦彦著、日本経済新聞社、20198285

全世界のGDPの約10%を生み出すと言われている観光産業は、どの国も、また自治体も積極的に取り組みたい施策であろう。
ただ、やみくもに自分たちの住むまちの良いところを写真に撮り、複数の写真を使ってポスターを製作し、その横にはキャッチコピーを並べたとしても、観光客は来てくれるだろうか。
答えは、「NO」である。

この「地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書」は、観光施策の根幹をなす「観光ブランド」に特化した実践本だ。自分の住むまちを観光ブランド化するならどうしたら良いかという視点を持って、読み進めてみた。わがまちには、観光のトップブランドである北海道や京都、東京に勝る観光資源があるのだろうか。そして、どのようにしたら、自分たちの地域を有名観光地に負けない観光ブランド化できるのだろうか。この本には、どこのまちでも“尖った観光ブランド戦略”ができる手法が述べられている。

しかし、ただ、どの自治体も観光ブランド戦略を進め、多くの環境客が訪れれば良いのか。20191027日の日本経済新聞の記事によれば、今、話題になっているオーバーツーリズムの発生メカニズムが掲載されていた。観光客が増えると、公共交通機関が混雑し、観光に対する地域住民の反感や嫌悪感が生まれ、持続可能性が低下するという。
京都市では、京都市観光協会(DMO KYOTO)がオーバーツーリズム対策事業をWebに公開している。その事業ミッションは、「特定の時期や時間帯、一部の観光地に観光客の需要が集中することを和らげ、一年を通して京都市域全域で観光客が楽しめる環境を創り出します。」としている。
「観光ブランドの教科書」でも、独自の分析によって、「観光大国」の幸福度を掲げているが、観光大国と言われるフランス、スペイン、米国などは、外国人旅行者数が多いものの、その地に住む人たちの幸福度は総じて低い。
必ずしも、「観光客が多い=その地域の住民の幸福度」にはつながっていないという実態がある。

岩崎氏は、観光施策の目的について、観光客の数を増やすことではないとし、あくまでも「地域が元気ならないといけない」と主張する。
まさにそのとおりだと思う。これからの時代は、量より質の観光、そして持続可能な観光のスタイルが求められる。
地域住民と観光客がともに満足できる地域づくり。「観光ブランドの教科書」を読み、そのことを理解して、観光ブランド化をすすめる必要があると感じた。

2019年11月17日日曜日

ハートドリブン


ビジネスモデルや事業内容はいつか変わる。なぜならお客様の求めるものも変わってくるからだ。でも変わらないことは、企業っていうのは人が全てだっていうことだ。
いい会社にはその会社の文化がある。哲学や信念がある。それを社員と共有している。そして社員は働くことを楽しんでいる。そこにはいい雰囲気が流れるんだ。会社を測る時は、目に見えやすいビジネスモデルや数字じゃなくて、雰囲気などの目に見えないものが一番大切なんだ。経営者の仕事は、目に見えないものに気づき、それを育める環境を作ることだよ。
 (中略)
人生の目的は、何かを手に入れることじゃない。自分自身の器と可能性を広げていくこと、より大きな自分に出会うことだ。

(引用)ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力、塩田元規著、株式会社幻冬舎、201987-88

この本を読み終え、私は、稲盛和夫氏が再建に携わったJALの企業理念を思い出した。

JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、
一、お客さまに最高のサービスを提供します。
一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。

塩田氏が率いるアカツキと稲盛氏によるJALの再建には共通点がある。
それは、まず、社員のことを第一に考えていることだ。

この本のタイトルは、「ハートドリブン」。
塩田氏によれば、ハートドリブンとは、「人々が自分の内側のハートを原動力に活動していくこと」だそうだ。人間には、感情がある。その一人ひとりの感情を大切にし、分かち合いながら企業を経営していく。冒頭で紹介した文は、塩田氏が千葉にある化粧品会社のおじいちゃん経営者に教えてもらったものだ。まさに、ハートドリブンの本質をあらわしている。

かのピーター・F・ドラッカーは次のように言う。
「あらゆる組織が、『人が宝』という。ところが、それを行動で示している組織はほどんどない」と。
ドラッカーは、自らの著書「プロフェッショナルの条件」の中で、「科学的管理法の父」と称されたフレデリック・テイラーの知らなかったこととして、継続学習の必要性と自らが教えて学ぶ大切さを説いている。
そして、塩田氏の著したこの本は、ドラッカーの考え方に加え、まず、組織を構成している人たちのハートを大切にする必要性を説く。そして、働く人たちの感情を丁寧に扱う具体的な手法を記している。

例えば、塩田氏は、会議をスタートする前に「チェックイン」するという。チェックインとは、コーチングでよく使われる手法で、メンバーが今、気になっていることや感じていることを簡単に分かち合うというものだ。
会議の前、「いま、実は、風邪気味で」とか、「いま、ちょっと仕事でトラブっていて」などをメンバーで共有し合うことは、有効だと思った。塩田氏は、自分のことを分かち合って、理解してもらえるからミーティングに臨みやすいと言うが、それだけではないと思う。きっと、アカツキでは、誰もが発言しやすい環境を創り出すことにより、上から下への一方的な命令で物事が決まっていくということがないだろうと思う。そして、ミーティングでは、それぞれ参加者で、自分の内面の感情を表現し、相互が理解しあい、結びつくことにより、最適解を導いているのではと思った。

この本の最後には、塩田氏の直筆で次のように書かれている。
「これからの世界で、あなたの魂と人生が最高に輝くことを願って」
本書は、少し、スピリチュアル的な部分も含んでいるが、これからは、心の時代である。
この本は、企業経営者のみならず、知的労働者たちにとって、新たな時代の経営指南書としてお勧めしたい。

2019年11月16日土曜日

トラブルへの対処法

事情のいかんを問わず、怒らず、恐れず、悲しまず。
当該感情の奴隷にならない、自分はあくまでも自己の生命の主人公であるということを実行に移したいためであります。

(引用)中村天風 折れないこころをつくる言葉、池田光解説、株式会社イースト・プレス、2018年、38

突然、予期せぬトラブルに見舞われることがある。
実際、今の自分も大きなトラブルを抱えている。
トラブルに見舞われるということは、自分が築き上げたものが、砂の城のように崩れていく感じがする。
そして、容赦なく、不安や怖れが襲ってくる。

いつも、トラブルに見舞われたとき、私は一冊の本を読み返す。
池田光さんが解説している「中村天風 折れないこころをつくる言葉」だ。
中村天風と言えば、大谷翔平から稲盛和夫や松下幸之助に至るまで、今もなお、幅広い年代や職業のかたたちに影響を与えつづけている。
中村天風の言葉に触れると、不思議と、不安に襲われていた心が軽くなる。

冒頭の天風の言葉。「事情のいかんを問わず、怒らず、恐れず、悲しまず。」がいい。
特に、「事情のいかんを問わない」ことは、大切である。
自分のせいではないがトラブルが発生したときも、事情のいかんを問わない。
自分の大切な「心」を悲しいことや、腹の立つことで満たしてはならないと解く。

それでも不安や怖れが襲ってきたら、
私は、「不安お断り! 心配お断り! 恐れお断り! 出ていってください」と、誰も聞かれない場所で大声で叫ぶ。
これは、「言うだけでポジティブになる」(大和書房、2016年、234)の著者、クスドフトシさんの方法だ。
こうすることにより、自分の心を支配していた心配や恐れが小さくなっていく。

特に、リーダーになればなるほど、幅広い仕事を抱えてトラブルに見舞われる可能性が高くなる一方、責任も重くなっていく。
真のリーダーは、苦境に陥ったとき、誰よりも早く立ち上がり、対応していく。
いま、目の前に立ちふさがるトラブルを乗り越えたとき、また自分が一回り大きく成長できていることを信じて、立ち向かっていこう。



2019年11月9日土曜日

5つの指針

①前例にとらわれず、自ら主体的・自律的にスピード重視で取り組む
②地域に飛び出して、多様な人々と積極的に関わり、信頼関係を築く
③多様な地域の人材をコーディネートして、地域の課題を解決する
④日本国内はもとより世界の先進事例にも目を向け学ぶ
⑤客観的データや合理的根拠等のエビデンスに基づいて政策を立案し、効果を検証して仕事をすすめる
                        中野区長  酒井直人

(引用)なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか? 常識・前例・慣習を打破する仕事術、加藤年紀著、学陽書房、2019、174-175

「なぜ、彼らは『お役所仕事』を変えられたのか?』」という本には、組織の壁を超えたフロントランナー10人の姿が描かれている。
かつて、私はこの本の最初に登場する塩尻市公務員の山田崇氏の講演を聞いたことがある。山田氏は、業務時間外に市民活動を始め、シャッター商店街の空き家を活用した「nanoda」というプロジェクトの話をされ、「本当に山田さんは公務員?」と思えるほどの巧みな話術で聴衆者を魅了すると同時に、その山田氏の行動力に圧倒された。その山田氏の行動に感銘を受けた職員が、わが町でも同じような取り組みを展開していた。そして、わがまちの公務員も町に”ダイブ”して、一緒に地域のかたたちと語らいながら、町の未来を創造しはじめている。

また、本書には、「日本一負けず嫌いな公務員」と称される生駒市の大垣弥生氏も登場する。行政の広報という部署は、一眼レフカメラを持って現場に行き、記事におこして、文字数を数え、レイアウトをする。今は、その作業を民間委託している自治体も多いが、かつては、私も同じことをしていたと懐かしく思った。しかし、広報という部署は、取材を通じて市民とふれあい、信頼関係を築く中で、積極的に情報を発信し、声を拾う。仕事を通じて、行政と市民とのパイプ役になる要の部署だと思うことを、改めて大垣氏は教えてくれた。

公務員の世界には、「前例主義」という慣習がある。しかし、時代の変遷とともに市民ニーズは変化し、前例主義では、行政という組織が立ち行かない。
本書の中で、一番心に響いたフレーズが、冒頭の中野区長の酒井直人氏が職員時代から大切にしている5つの指針だ。
公務員は、前例に取らわれず、地域に飛び出して、地域課題を解決していく。まさに、これからの公務員に求められる姿ではないだろうか。さらに、私は、この5つの指針の最後も重要だと考える。「客観的データや合理的根拠等のエビデンス」に基づくことである。その施策の背景に客観的データやエビデンスがあれば、説得力が増す。実は昨日、私もある施策の展開で、エビデンスが欲しかったので、他部署に資料提供を依頼したばかりだ。「ひとりよがり」になりがちな施策立案ではなく、市民のニーズに応えられる真の施策の展開が行政には求められる。

釈迦は、臨終に際し、弟子に次のように語ったという。
「すべてのものは移りゆく。怠らず努めよ」
時代の変化とともに、ライフスタイルも変化し、行政に求めるニーズも多様化している。
市民感覚で行政施策を展開してくために、まず、公務員がどのように変化しなければならないのか。本書は、10人のフロントランナーの姿を通じ、教えてくれている。

2019年11月4日月曜日

コリン・パウエルの教訓

なにごとも思うほどに悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ。

(引用)コリン・パウエル リーダーを目指す人の心得、トニー・コルツ著、井口耕二訳、飛鳥新社、2012年、13

先日、雑誌「PRESIDENT(プレジデント)」を読んでいたら、「『人間の器』を広げる1冊」という特集が組まれており、官房長官の菅義偉氏のバイブルが紹介されていた。
その中で、菅氏は、コリン・パウエルを描いた著書をバイブルとしてあげ、パウエルが考案した13ヵ条のルールの一つである「なにごとも思うほどに悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ。」という言葉に助けられたというエピソードを紹介していた。

実は、私も幾度となく、この言葉に助けられた。コリン・パウエルや菅氏のような国家的な問題ではないが、それなりに大きなトラブルは、私にも容赦なく襲ってくる。詳細を話すことはできないが、最近でも、周りから「できない」と言われ続け、自分を追い込み、背水の陣をしいて挑んだ仕事の案件がある。結果的には、上手くいったが、そのとき、私を支えてくれたのは、何を隠そう、パウエルのこの言葉であった。

なぜ、この言葉が支えになったかと言うと、突如、襲ってくる仕事上のトラブルや問題は、出会った直後、途轍もなく大きく、途方に暮れることがある。そのとき、少し、時間を置くということも大切だ。そうすると、時の流れとともに、徐々に抱えていたトラブルや問題が自身の中で次第に小さくなっていき、僅かながらの希望の光が差してくるといった経験を幾度となくしてきた。また、この言葉は、ストレスフルなワークからも解放され、的確な判断が下せるようになると同時に、自身の健康状態を維持することにも役に立つ。

ほかにも、菅氏は、パウエルの13ヵ条のルールの一つ「小さなことをチェックすべし」も紹介していて、自身のエピソードを語っている。私もおおらかに見えるが、特に上司に報告するときは、小さなことまでチェックする。私は、上司が「私からの情報の何を必要としているのだろう」、「判断する材料として、なにを欲しているのだろう。」ということを意識して報告をあげようと努力している。参謀として、自身が理解し、重要となるポイントを把握していないと、組織全体が誤った方向に進むリスクさえ生じてしまう。

菅氏同様、「コリン・パウエル リーダーを目指す人の心得」は、私にとっても、大切なバイブルである。

(参考文献)
・雑誌「PRESIDENT(プレジデント)」 2019.10.4号、プレジデント社