2019年11月17日日曜日

ハートドリブン


ビジネスモデルや事業内容はいつか変わる。なぜならお客様の求めるものも変わってくるからだ。でも変わらないことは、企業っていうのは人が全てだっていうことだ。
いい会社にはその会社の文化がある。哲学や信念がある。それを社員と共有している。そして社員は働くことを楽しんでいる。そこにはいい雰囲気が流れるんだ。会社を測る時は、目に見えやすいビジネスモデルや数字じゃなくて、雰囲気などの目に見えないものが一番大切なんだ。経営者の仕事は、目に見えないものに気づき、それを育める環境を作ることだよ。
 (中略)
人生の目的は、何かを手に入れることじゃない。自分自身の器と可能性を広げていくこと、より大きな自分に出会うことだ。

(引用)ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力、塩田元規著、株式会社幻冬舎、201987-88

この本を読み終え、私は、稲盛和夫氏が再建に携わったJALの企業理念を思い出した。

JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、
一、お客さまに最高のサービスを提供します。
一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。

塩田氏が率いるアカツキと稲盛氏によるJALの再建には共通点がある。
それは、まず、社員のことを第一に考えていることだ。

この本のタイトルは、「ハートドリブン」。
塩田氏によれば、ハートドリブンとは、「人々が自分の内側のハートを原動力に活動していくこと」だそうだ。人間には、感情がある。その一人ひとりの感情を大切にし、分かち合いながら企業を経営していく。冒頭で紹介した文は、塩田氏が千葉にある化粧品会社のおじいちゃん経営者に教えてもらったものだ。まさに、ハートドリブンの本質をあらわしている。

かのピーター・F・ドラッカーは次のように言う。
「あらゆる組織が、『人が宝』という。ところが、それを行動で示している組織はほどんどない」と。
ドラッカーは、自らの著書「プロフェッショナルの条件」の中で、「科学的管理法の父」と称されたフレデリック・テイラーの知らなかったこととして、継続学習の必要性と自らが教えて学ぶ大切さを説いている。
そして、塩田氏の著したこの本は、ドラッカーの考え方に加え、まず、組織を構成している人たちのハートを大切にする必要性を説く。そして、働く人たちの感情を丁寧に扱う具体的な手法を記している。

例えば、塩田氏は、会議をスタートする前に「チェックイン」するという。チェックインとは、コーチングでよく使われる手法で、メンバーが今、気になっていることや感じていることを簡単に分かち合うというものだ。
会議の前、「いま、実は、風邪気味で」とか、「いま、ちょっと仕事でトラブっていて」などをメンバーで共有し合うことは、有効だと思った。塩田氏は、自分のことを分かち合って、理解してもらえるからミーティングに臨みやすいと言うが、それだけではないと思う。きっと、アカツキでは、誰もが発言しやすい環境を創り出すことにより、上から下への一方的な命令で物事が決まっていくということがないだろうと思う。そして、ミーティングでは、それぞれ参加者で、自分の内面の感情を表現し、相互が理解しあい、結びつくことにより、最適解を導いているのではと思った。

この本の最後には、塩田氏の直筆で次のように書かれている。
「これからの世界で、あなたの魂と人生が最高に輝くことを願って」
本書は、少し、スピリチュアル的な部分も含んでいるが、これからは、心の時代である。
この本は、企業経営者のみならず、知的労働者たちにとって、新たな時代の経営指南書としてお勧めしたい。