2019年11月9日土曜日

5つの指針

①前例にとらわれず、自ら主体的・自律的にスピード重視で取り組む
②地域に飛び出して、多様な人々と積極的に関わり、信頼関係を築く
③多様な地域の人材をコーディネートして、地域の課題を解決する
④日本国内はもとより世界の先進事例にも目を向け学ぶ
⑤客観的データや合理的根拠等のエビデンスに基づいて政策を立案し、効果を検証して仕事をすすめる
                        中野区長  酒井直人

(引用)なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか? 常識・前例・慣習を打破する仕事術、加藤年紀著、学陽書房、2019、174-175

「なぜ、彼らは『お役所仕事』を変えられたのか?』」という本には、組織の壁を超えたフロントランナー10人の姿が描かれている。
かつて、私はこの本の最初に登場する塩尻市公務員の山田崇氏の講演を聞いたことがある。山田氏は、業務時間外に市民活動を始め、シャッター商店街の空き家を活用した「nanoda」というプロジェクトの話をされ、「本当に山田さんは公務員?」と思えるほどの巧みな話術で聴衆者を魅了すると同時に、その山田氏の行動力に圧倒された。その山田氏の行動に感銘を受けた職員が、わが町でも同じような取り組みを展開していた。そして、わがまちの公務員も町に”ダイブ”して、一緒に地域のかたたちと語らいながら、町の未来を創造しはじめている。

また、本書には、「日本一負けず嫌いな公務員」と称される生駒市の大垣弥生氏も登場する。行政の広報という部署は、一眼レフカメラを持って現場に行き、記事におこして、文字数を数え、レイアウトをする。今は、その作業を民間委託している自治体も多いが、かつては、私も同じことをしていたと懐かしく思った。しかし、広報という部署は、取材を通じて市民とふれあい、信頼関係を築く中で、積極的に情報を発信し、声を拾う。仕事を通じて、行政と市民とのパイプ役になる要の部署だと思うことを、改めて大垣氏は教えてくれた。

公務員の世界には、「前例主義」という慣習がある。しかし、時代の変遷とともに市民ニーズは変化し、前例主義では、行政という組織が立ち行かない。
本書の中で、一番心に響いたフレーズが、冒頭の中野区長の酒井直人氏が職員時代から大切にしている5つの指針だ。
公務員は、前例に取らわれず、地域に飛び出して、地域課題を解決していく。まさに、これからの公務員に求められる姿ではないだろうか。さらに、私は、この5つの指針の最後も重要だと考える。「客観的データや合理的根拠等のエビデンス」に基づくことである。その施策の背景に客観的データやエビデンスがあれば、説得力が増す。実は昨日、私もある施策の展開で、エビデンスが欲しかったので、他部署に資料提供を依頼したばかりだ。「ひとりよがり」になりがちな施策立案ではなく、市民のニーズに応えられる真の施策の展開が行政には求められる。

釈迦は、臨終に際し、弟子に次のように語ったという。
「すべてのものは移りゆく。怠らず努めよ」
時代の変化とともに、ライフスタイルも変化し、行政に求めるニーズも多様化している。
市民感覚で行政施策を展開してくために、まず、公務員がどのように変化しなければならないのか。本書は、10人のフロントランナーの姿を通じ、教えてくれている。