「命は贈り物。だから決してあきらめてはいけないよ。」
昔、父にそう言われたとき、私にはその意味が理解できませんでした。(引用)WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGs,編:WORLD DREAM PROJECT、Director:市川太一、Co-Director:平原依文、発行所:いろは出版、2021年、492
地球は、「命の惑星」である。
改めて、そう感じさせられる1冊に出会った。
その本の名前は、「WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGs」である。本書では、人種、言語、文化が異なる世界201カ国、202人の若者たちが夢を語っている。
“WE HAVE A DREAM”と聞いて、私は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの演説を思い出した。1963年8月28日、職と自由を求めた「ワシントン大行進」の一環として25万人近い人々がワシントンDCに集結し、デモ行進をした。この日最後の演説者であったキングの行った「私には夢がある」(I Have a Dream)の演説は、独立宣言にも盛り込まれている「すべての人間は平等に作られている」という理念を網羅するものだった。あらゆる民族、あらゆる出身 のすべての人々に自由と民主主義を求めるキングのメッセージは、米国公民権運動の中で記念碑的な言葉として記憶されることとなった。1)
未だ、人種平等と差別の終焉を訴えたキングの夢は実現していない。それどころか、気候変動により、海水温が上昇し、住むところが海に沈むかもしれないと脅かされている島国。貧困などの原因で、適切な教育の場が子どもたちに与えられていない国々。そして、内戦やデモによって平和が維持できていない国々など、私たちの住む「命の惑星」が危機に瀕している。2015年、国連サミットにおいて、持続可能な開発目標が採択された。この17のゴールを定めたSDGsは、参加国が史上最大の規模となり、全世界共通の目標となった。いま、世界は、SDGsに対して、どのように考え、行動しているのだろうか。
朧気ながら、そう考えていたときに、WE HAVE A DREAMの本を手にとった。この本では、若者たちが、持続可能な世界を構築すべく、将来の国に、そして世界に対して夢を語っている。多くの若者たちが真剣に自分の国や世界を考え、行動している。読み進めていくうちに、胸が熱くなるのを覚えた。
ウルグアイ代表のソル・スカビノ・ソラーリ(29)さんは、「あらゆる命が共感の上に成り立っている世界について学び、その実現を夢見ている」(本書、307)と語っている。私は、さりげない若者の一言であるが、とても意義深い言葉だと思った。彼女は、社会学者として、飢餓撲滅の取り組みなどもしてきた。彼女は、共感することにより、人々とつながり、憎しみと恐れを思いやりに変えるのを助けると考えている。そのことにより、世界は、心身ともに苦しむ人々が減少していくと主張する。まさに、そのとおりだと感じた。私は、経済成長を目指し、人々は競争社会に揉まれながらも、物質的な豊かさを求めるが故に、代償としてかけがえのないものを失ってきた気がしている。彼女の主張を聞いて、いま、人間のエゴを捨て、共感しながら、思いやり、配慮に基づいた行動をするときがきているのだと感じた。
冒頭に記したのは、北朝鮮代表のヨンミ・パク(27)さんの言葉だ。北朝鮮で生まれ育った過酷な環境を赤裸々に述べている。いま、彼女は、母になり、お父さんから言われた「命の大切さ」の意味が理解できるようになったと言う。彼女は、遠く離れた異国の地から、いまでも母国のことを思い、夢を語っている。一人の女性の夢に触れ、ここまで人間は、強くなれるのかと思った。
若者たちの夢を、単なる夢として終わらせてはいけない。キング牧師の演説では"I"であったが、この本は"WE"となった。彼ら、彼女らの夢は、一言で言えば、この地球上が持続可能なものであり、そこに住む人達が共感しあうものにすることではないだろうか。
国境を超えた若者たちの夢が共感しあうことで、再び、『命の惑星』の輝きを取り戻さなければならないと感じた。
1)Website:AMERICAN CENTER JAPAN