2023年9月24日日曜日

修身教授録入門

 すなわち真面目ということの真の意味は、自分の「真の面目」を発揮するということなんです。
(引用)修身教授録入門、著者:森信三、発行所:致知出版社、2023年、138

いま、自分は、国民教育の師父と称された森信三先生に注目している。なぜ、注目しているのかといえば、度々、森先生のことが月刊「致知」に掲載され、その教育から哲学に至るまで、私自身、納得させられることが多かったからだ。

森先生は、大正12年に京都帝国大学(現:京都大学)文学部哲学科に入学し、西田幾太郎氏に教えを受けている。その森氏は、大阪天王寺師範(現:大阪教育大学)専攻科で倫理・哲学を教えていたとき、「修身」という科目を受け持つことになった。その授業では、検定教科書を一切使わず、森先生が自ら選んだテーマで行われたという。以前から、森先生による授業の口述、そして生徒に筆録させられた「修身教授録」が書籍として既刊されているが、このたび、致知出版社から「修身教授録」の入門編なるものが出版された。どうしても敷居が高いと思われがちな森信三先生の入門編として、私も森先生による「修身教授録入門」を拝読させていただくことにした。

「修身教授録入門」は、森信三先生が実際に教室に入られてくるところから描写されており、昭和10年代に大阪天王寺師範で、森先生から実際に授業を受けているかのような錯覚に陥る。まず、録音・録画の技術が発達していない時代に、よくここまで森先生の授業の内容が記録されていたものだと感心させられた。それだけ、森先生による「修身」という授業がいかに生徒に貴重なものであったのかを改めて感じさせられた。

この書籍では、森先生の授業が15講、収められている。第3講では、「読書」がテーマだ。読書を「心の食物」と言われる森先生は、師範学校の生徒に「一日読まざれば一日衰える」と言われる。最近、仕事の忙しさにかまけて、読書の時間が減少している私にとっては、耳の痛い言葉であった。この読書についての講義では、「真の確信なくしては、現実の処断を明確に断行することができない。真に明確な断案というのは、道理に通達することによって初めて得られる」と森先生は、言われる。そのため、森先生は、「偉大な実践家は、大なる読書家である」ということを生徒に訴えかける。

私は、この「現実の処断を明確に断行」するという一文に釘付けになった。私たちは、実社会において、「現実の処断を明確に断行する」場面に多く遭遇する。その際の「処断」するための判断基準は何であろうか。それは、今まで培ってきた私たちの知識によるところが大きい。そこに経験などが積み重なり、知恵となる。この知恵があれば、処断を明確に断行できる。「現実の処断を明確に断行」するために、私たちは、もっと読書をしなければならない。50歳を過ぎた私にも、肝に命じなければならないことだと感じた。

私は、本書の中で、第10講の「最善観」が一番感銘を受けた。最善観を唱えた哲学者ライプニッツによれば、神はその考え得るあらゆる世界のうちで、最上のプランによって作られたのがこの世界とのことであった。そのため、この世では、いろいろとトラブルなども発生するが、これも神の全知の眼から見れば、それぞれ人生に訪れるトラブルなどにも意味があるということになるという。そして、森先生は、この大宇宙をその内容とするその根本的な統一力であり、宇宙に内在している根本的な生命力であるが神であると説く。そして、私は、自分に与えられた全運命を感謝して受け取り、不幸な出来事があっても恨んだり人を咎めたりせず、楽天知命、すなわち天命を信ずるが故に、天命を楽しむという境涯に達しなければならないということが理解できた。

このように森先生の「修身」の授業は、若者に勉強の大切さを伝えるに留まらず、壮大な宇宙観に至るまで講義が及ぶ。それは、人がなぜこの世で人身を与えられたのか。その人身を与えられたことに感謝し、人生に起こる様々な出来事に意味があると理解し、この世における天命を楽しむ。これからは、我が人生に何が訪れようとも、動じない。そう、思うだけで、私は、これからの人生を強く歩んでいく決意が生まれた。

冒頭、「真面目」について触れた。これは、本書の第12講に登場している。森先生によれば、「常に自己の力のありったけを出して、もうひと伸(の)しと努力を積み上げていく。その努力において、真面目とは、常に「120点主義」に立つということである。そして、その態度を確立したならば、人生の面目はすっかり変わってくる」と言われる。「真面目」という言葉の真髄に触れ、私は、なんて奥深く、力強い言葉なんだろうと感じた。「人生に二度なし」、「それぞれ人生の使命を果たせ」。そのためには、力の全充実によって、真面目に生きることが求められるのだと、改めて思い知らされた。

この終身教授録は、当時の若者に行った授業の内容であるが、老若男女問わず、自分の人生をいかに生きるべきかを教えていただくものであった。

この本を開くたび、森先生は、今を生きる私たちに「修身」の授業をしてくださる。この授業の内容は、実際に森先生が授業されてから90年経とうとしているが、現代においても全く色褪せることのない、そして尊いものであった。

Society5.0に突入したと言われる現代であるが、いくらテクノロジーが進化しても、人間として変わることのない。そして、人間として求められる数々の教えが「修身教授録」に記されていた。

2023年8月20日日曜日

時代を拓(ひら)くリーダーの条件 月刊「致知」より

 私が月刊「致知」を愛読して、もう何年になるだろう。この「致知」では、私自身、学ぶことが多い。

今月の「致知」(2023年9月号)の特集は、「時代を拓(ひら)く」であった。その「致知」45年の歴史を踏まえると、次代を拓くリーダーの条件は、次の6点のことが言えるのではないかと紹介されていた。このリーダーシップの条件は、Society5.0の時代を迎えた現代においても通用するものばかりだと思う。以下、私見を交えて紹介したい。


1 時代の流れを読み、方向を示すこと。

    確かに時代の流れを読み、方向を示すことは、リーダーシップの中でも重要なスキルの一つである。これは、変化する世界や社会の状況を的確に理解し、未来の方向性を予測する能力のことを指す。

 そして、私は、時代の流れを読み、方向を示すことは、絶えず変化する環境において組織やチームをリードする上で欠かせないスキルであると感じている。的確な予測とビジョンを持ち、柔軟に適応しながら、未来を導く道を示すことこそが、リーダーシップの一環として求められる能力と言えると感じた。

2 必死で働く。会社、仕事、社員に対する愛情と熱意は誰にも負けない。

  このリーダーシップの条件に触れたとき、私は、度々「致知」にも登場した稲盛和夫氏を思い浮かべた。仕事に対して、“ほとばしるほど”の情熱注ぎ込む。稲盛氏ほど、この表現が似合う経営者を、私は知らない。

 では、情熱となんであろうか。私は、情熱とは、仕事に対する真摯な熱意と責任感を意味すると考える。稲盛和夫氏のような成功者は、ただ単に仕事をこなすだけでなく、その仕事に対して心からの情熱を注ぎ込むことで、業績を上げ、周囲を魅了した。例えば、彼が創業した京セラでは、技術と製品への深い情熱が企業の成功の基盤となった。 

 そして、稲盛和夫氏は、日々の努力を惜しまない姿勢を持ち、自身の会社や社会に対する責任感を胸に刻んでいた。この情熱によって、彼は逆境を乗り越え、ビジョンを達成するために全力を尽くした。

 さらに、この情熱は、周囲にも感染し、共感を呼び起こす。稲盛氏の情熱が共感を持つメンバーや協力者を惹きつけ、組織全体が一丸となって目標に向かって努力するエネルギーを生み出したことは、稲盛氏によるJALの経営再生でも語り継がれている。

3 自分を磨き続ける。

 このリーダーシップの条件に触れたとき、私は、リスキリング(再スキル習得)のことを思い浮かべた。

 まず、急速に変化する現代社会において、リーダーは自己磨きを通じてリスキリングに注力することが求められる。リーダーは、自己磨きを通じて最新のトレンドや技術を把握し、組織やチームを変化に適応させる力を持つ必要があると考えるからである。

  また、 リーダーがリスキリングを重視し、新たな知識やスキルを習得する姿勢を見せることで、メンバーや従業員はリーダーシップに対する信頼を高める傾向がある。 

 さらに、リスキリングは、新たな分野や視点を取り入れる機会でもある。リーダーが異なる分野のスキルを身につけることで、クリエイティブな解決策やアイディアを生み出す能力を向上させることができる。例えば、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズは、精神世界にも傾倒し、日本の「禅」に辿り着いた。彼がこの「禅」を学んでいなければ、いまのアップルの誕生はなく、スマホもこの世に存在しなかったのではと言われている。経営は、人間を相手にする。そのため、経営とは一見かけ離れたように見える精神世界や文明・文化、歴史といった分野の学びも必要ではないかと感じた。

4 集団を幸福に導く。

 「集団を幸福に導く」という原則は、リーダーシップにおいて重要な価値観であり、組織やチーム全体の幸福を追求する姿勢を示す。私は、これも稲盛和夫氏のフィロソフィーである「全従業員の物心両面の幸福を追求する」を思い浮かべた。

 まずリーダーは、単に業績や利益だけでなく、従業員の物心両面の幸福を重要視する。それは、組織の一員としての幸福感は、従業員のモチベーションやパフォーマンスに直結するからだ。

  また、 リーダーは、従業員とのコミュニケーションを大切にし、彼らの声を聴く姿勢を持つ。この“傾聴”する姿勢があれば、リーダーは、従業員が自分の意見や考えを尊重される環境となり、共感と信頼が築かれ、集団全体の幸福感が向上する。

 さらに、リーダーは、従業員同士の協力や連帯感を促進する役割を果たす。稲盛氏のフィロソフィーでは、全従業員が幸福を追求する姿勢が組織全体のチームワークを向上させたのではないだろうか。

 そのほか、リーダーは、従業員の幸福を追求するだけでなく、社会的責任を果たす姿勢も重要である。稲盛和夫氏のフィロソフィーは、企業の成功が社会全体の幸福につながるとの信念を表している。

 このように、リーダーが従業員の物心両面の幸福を追求する姿勢を示し、信頼と連帯感を築き上げることで、組織はより良い方向へ進むことができるのだと感じた。

5 犠牲的精神。自分の都合より組織のことを優先する。

 「犠牲的精神」は、リーダーシップにおいて大切な価値観の一つであり、個人の利益や快楽を優先するのではなく、組織やチーム、社会全体の利益を優先する姿勢を指す。このリーダーシップの条件に触れたとき、私は、東日本大震災における福島第一原発事故で、当時陣頭指揮を執った吉田所長のことを思い出した。吉田所長は、目に見えない放射能の恐怖に立ち向かいながら、最悪の事態にもなりかねない原発事故に対して、果敢に立ち向かった。時に自分の命を投げ出してでも、組織、そして人々の安全のために戦う。この精神は、リーダーシップの重要な条件の一つであろう。

 また、「致知」にも登場する東洋思想研究家・田口佳史氏の解説を思い出す。それは、「書経」にある「先憂後楽」という言葉だ。この言葉は、リーダーは即時の快楽や個人的な利益をもとめるのではなく、憂うることは人に先だって憂い、楽しむことは人に遅れて楽しむという意味だ。

  まず、リーダーは組織やチームの一員として、他人の利益や幸福を自身の利益よりも優先する姿勢を持つことが重要だ。他人の視点を理解し、共感することで、信頼と結束を築くことができる。

 また、リーダーは、組織やチームの使命を果たすために、自己の快楽や個人的な利益を犠牲にすることを厭わない覚悟を持つ。困難な決断や責任を負うことに尽力し、長期的な成功に貢献する。

  さらに、犠牲的精神を持つリーダーは、即時の利益だけでなく、将来の発展や繁栄を追求する視点を持つ。短期的な困難を乗り越えて、長期的な目標を達成するために努力する。

  このように、リーダーの犠牲的精神は、他のメンバーや従業員に共鳴し、チーム全体の一体感を高める要因となる。この「犠牲的精神」を持つリーダーは、個人の利益を越えて組織やチームの成功を追求し、将来の発展を見据える力を持っている。この価値観は、組織の繁栄と共に、リーダー自身の尊厳と尊敬を築く要素となる。この犠牲的精神を持つ社員が多い組織は、どんな場面が訪れようとも、強い姿勢を保てるのだと感じた。

6 宇宙の大法を信じ、畏敬(いけい)し、その大法に則(のっと)り、行動する。

 偉大な経営者、松下幸之助氏は、人間には、この宇宙の動きに順応しつつ万物を支配する力が、その本性として与えられていると考えていた。

 宇宙の大法という概念は、この松下幸之助氏の哲学や宇宙観を通じて、リーダーシップの崇高な側面を表現している。彼の宇宙観は、個人と宇宙がつながり、共鳴する一部であるという深い信念に基づいている。この宇宙の大法の考え方は、リーダーシップを単なる経済的な成功や権力の行使だけでなく、より広い視野と哲学的な次元を持つものとして理解することを示唆している 

 まず、宇宙の大法に従うと、個人の行動やリーダーシップは単なる自己満足や個人的な成功だけではなく、組織や社会全体への貢献を追求するものとなる。松下幸之助氏は、個人が組織の一部として責任を持つことで、全体の繁栄と共鳴が実現すると信じた。 

  また、宇宙の大法は、宇宙の秩序や法則に敬意を払い、それに従って行動することを意味する。リーダーシップにおいても、組織や社会のバランスや調和を尊重し、持続可能な成功を追求するために宇宙の秩序を考慮する姿勢が求められる。 

 さらに、宇宙の大法は、個人の成長と組織の繁栄が密接に結びついているとの考え方を含む。リーダーシップにおいても、従業員やメンバーの成長を支援し、それが組織全体の成功に貢献することを大切にする。

 そして、 宇宙の大法に基づくリーダーシップは、一時的な成功や欲望に囚われるのではなく、持続可能な価値と調和を重視する。松下幸之助氏は、個人の行動が経済的な成功だけでなく、社会的な価値や調和にも貢献するべきだと説いた。 このように、宇宙の大法の概念は、個人のリーダーシップが単なる物質的な目標だけでなく、より壮大な価値や調和を追求するものとして捉えることを示している。

 まさに、宇宙の構成員として、私たちがいる。松下幸之助氏は、人間は、絶えず生成発展する宇宙に君臨し、宇宙に潜む偉大なる力を開発し、万物に与えられたるそれぞれの本質を見出しながら、これを生かし活用することによって、物心一如の真の繁栄を生み出すことができると考えていた。このことこそが、私たち人間が地球上に存在する目的であろう。

 この宇宙の法則を常に意識しながらリーダーシップを発揮することは、天からの助けが得られ、ひいては自身の成功につながっていくのだと感じた。

 以上、「致知」の次代を拓くリーダーの条件に触れ、私は、このようなことを思ったので、書き綴っておく。



  


2023年8月18日金曜日

THE GOOD LIFE

 健康で幸せな生活を送るには、よい人間関係が必要だ。以上。
(引用)グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない、著者:ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ、訳者:児島修、発行所:辰巳出版株式会社、2023年、18

「グッドライフ」は、読者に84年にわたるハーバード大学の研究成果を短時間で理解できる貴重な一冊であった。その手軽さと専門的な内容が結びついた本書は、健康で幸せな人生を追求する人々にとって興味深いものであった。

 この本は、著者が厳密な研究と集中的な時間をかけて築き上げた人間関係の重要性に焦点を当てている。膨大な研究時間を費やしたハーバード大学の取り組みが、人間関係が幸福と健康に果たす役割を浮き彫りにしている。被験者たちの人生のストーリーが織り交ぜられ、読者は自分自身の人間関係と照らし合わせながら、本書の中心テーマに引き込まれていく。

本書内で紹介されるWISERモデルは、人間関係の改善を目指す際に実用的な手法を提供している。このモデルを通じて、私たちはより深いつながりを築くためのステップを学び、自己成長の道を歩むことができることになると感じた。また、著者の研究結果が示すとおり、人々は共に過ごすことで幸福感を得ることができることを改めて認識した。

「グッド・ライフ」は、84年にわたる研究を通じて明らかになった人間関係の重要性を掘り下げた書籍であった。読者は、自分自身の生活において人間関係をどのように大切にし、豊かな幸福を追求するかについて考えるきっかけを得ることができる。著者の情熱的な研究と深い洞察に触れながら、本書を通じてより意義深い人生を模索する旅にでかけることができる。そんな、一冊であった。





2023年8月6日日曜日

AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方

 テクノロジー全般に対しての無知・無理解という問題は、日本も他人事ではありません。(引用)AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方、著者;伊藤穰一、発行所:SBクリエイティブ株式会社、2023年、271

私自身、ChatGPTとの出会いは、まさに驚きと感動に満ちていた。これまでのWeb検索エンジンとは全く異なり、ChatGPTは、まるで知り合いとの会話のように自然で親しみやすく、欲しい情報を瞬時に提供してくれる。その即座な反応に、私は一瞬でChatGPTの虜になった。

ChatGPTをはじめとしたジェネレーティブAIの活用方法は、実に多様だ。例えば、「自分は〇〇である。自分にふさわしい座右の銘を示せ」と入力するだけで、ChatGPTが私にぴったりの座右の銘を提案してくれる。そして、「故事成語から案を示せ」と続けて入力すると、ChatGPTは新たな案をサクッと示してくれる。私は、これらの対話が、私の日常にさりげなく溶け込んできたことに気づいてきた。それは、今まで自分の知識や知恵のみで勝負してきた実社会から、私たちの目に見えない、膨大な知識の宝庫にアクセスできるようになったことを意味する。私は、新たな喜びに似た感覚さえ覚えた。

このたび、伊藤穰一氏によって著された『AI DRIVEN(SBクリエイティブ株式会社、2023年)』は、AI時代の到来にふさわしく、興味深い書籍であった。特に、ジェネレーティブAIの活用による様々な局面での役立ち方が詳細に述べられているところが役に立つ。

まず、伊藤氏によれば、ジェネレーティブAIの力が我々の生活にどのように寄り添い、想像力を刺激するかに触れられている。伊藤氏によれば、ジェネレーティブAIの真髄が日常的に感じてきた面倒なことを解消し、着想の源を得て、アイディアを磨きあげることを主張する。普段から私もChatGPTを活用しながら、特にアイディアを磨きあげることの凄さを実感している。そのため、私はChatGPTと対話するときに、深い理論を追求する際のプロンプトが重要であることも経験している。私は、伊藤氏と同様、AIを利用する上で、より的確な情報を得るためには、適切なアプローチが重要だと感じているからだ。

一方で、ChatGPTは「嘘」をつくことがあるため、その出力を見極めることが大切である。そのため、ジェネレーティブAIは、信頼性に対する課題もあるため、AIの出力に対しては慎重な判断が求められる。この「嘘」であるが、私は密かに、本書でも触れられているマイクロソフトのBingに一筋の光を見出している。私は、今までChatGPTのアプリを活用していたが、2023年2月、マイクロソフトは検索エンジン「Bing」とウェブブラウザ「Edge」のニューモデルを発表した。そこには、最新版のChatGPT-4が搭載されており、誰でも無料で利用可能だということを本書で知った。早速、今までChatGPT-3.5を利用してきた私は、マイクロソフトのBingを活用してみた。このBingでは、会話スタイルを「独創性」「バランス」そして「厳密」で選べることが可能となっている。私は、より正確な回答がほしいため、「厳密」を選択してみる。そして、私の専門性のある仕事の質問をしてみると、Webで関連情報を検索し、見事、的確な回答を示してくれた。まだ、精度には、若干の不安があるものの、ChatGPT-3.5より精度の向上が見て取れた。そして、Bingでは、引用したWebサイトまでを示してくれた。また、AIがより精度の高い画像生成に取り組むことで、デザインやアートの領域での可能性が無限に広がっていくことも期待できる。これは、素質がなくとも、誰もが芸術家やデザイナーになれる可能性を秘めていることを意味しており、AIの力によって、私たちの創造性が加速されることに期待が膨らんだ。

一方で、本書で指摘されているとおり、AI生成時代の教育やリーダーシップに対する新たな要請が指摘されていることも重要な課題である。AIの普及により、人間とAIの共存をうまく進めるために、教育や指導者に対する適切なサポートが必要とされている。特に教育については、本ブログの冒頭に、伊藤氏による我が国のテクノロジーの進展が遅いことを懸念した文を引用した。かつて、哲学の父とも呼ばれるソクラテスは、自分に知識がないことを自覚するという概念で「無知の知」という考え方を示した。自分がいかに「無知であることを知っていること」つまり、「知らないこと」よりも「知らないことを知らないこと」のほうが罪深いとした。まずは、我が国も「これまで無知であった」ことを自覚し、未知の可能性に向けて好奇心を持ち続けなければならない。だからこそ、次代を担う子どもたちへの教育のあり方についても、AIとともに成長し、共存していく社会に対応していくものでなければならないのだと感じた。

『AI DRIVEN』は、ジェネレーティブAIの活用による未来の展望と課題について専門的な知見を示した、興味深い書籍であった。私は、AIの時代の道標となる本書を拝読し、AIの進化に対して、一層の興味と希望を抱くことができた。そして、今後もAI技術の進化を見守りながら、私たち自身や社会の成長とともに、新たなテクノロジーの進展によって、我が国の未来が輝きを増していくことを願った。


2023年7月9日日曜日

クレッシェンド 7つの習慣という人生

 自分の最も重要な仕事は常にまだ先にある

(引用)7つの習慣という人生 『クレッシェンド』 本当の挑戦はこの先にある、著者:スティーブン・R・コヴィー、シンシア・コヴィー・ハラー、発行所:株式会社FCEパブリッシング、キングベアー出版、2023年、30

『クレッシェンド』は、著者スティーブン R. コヴィーの遺作として、人生の後半における成長と可能性の追求を称える感動的な作品であった。

スティーブン・R・コヴィーは、ビジネス書のベストセラーである『7つの習慣』で知られている。『7つの習慣』は、私自身も何度も読み返したバイブルのような存在である。その中でも、私の心に残るフレーズは「インサイド・アウト」である。この考え方によって、周囲の人間関係が改善され、人生に大きなプラスの影響が生まれるのだと感じた。私は、スティーブン・R・コヴィーの世界に、完全に魅了されてしまった一人である。

そのコヴィー氏による遺作『クレッシェンド』は、コヴィー氏の深い洞察力と啓発的なメッセージによって、読者の心に鮮烈な感銘を与えてくれる。この本の冒頭で、コヴィー氏は「自分の最も重要な仕事は常にまだ先にある」と述べ、後半の人生においても新たな目標や使命を追求することの重要性を示唆している。歳を重ねることによって得られる知見と経験は、さらに「他者に幸福をもたらす」という人間本来の崇高な目的に近づく仕事をすることが可能になっていくことに気づかされる。

『クレッシェンド』に生きることは、貢献し、学び続け、影響力を持つことを通じて自己の可能性を拡大させることを意味する。この本は成功の真の意味についても探求している。それは、本書においてもラルフ・ワルド・エマーソンの言葉が引用され、「成功とは、世界を少しでも良くすること、自分が生きたことによって、ほっと息をつけた人が一人でもいると知ること(本書、103)」と結び付けられている。このエマーソンの言葉は、私たちがどの職業に就いていようと、私たちの使命になるものでないだろうか。この使命を全うすることにより、私たち人間は、真の成功を得たということになる。

『クレッシェンド』では、ビル・ゲイツ財団の取り組みやマララ・ユスフザイの信念の強さなど、実際の事例も取り上げられている。特に印象的だったのは、ビル・ゲイツの元妻メリンダの言葉である。「私たちは、自分のみに起きてほしくない、抱えたくない要素をもった人々を探し出し、彼らに烙印を押して追い出してきたのです(本書126)」という言葉には、深い重みがある。実生活において、私たちは、都合の悪い事実を見過ごす傾向がある。福祉政策においても、真に支援の必要な人々に十分な援助が行き渡っているのか疑問である。特に、母親による一人親世帯など、支援の狭間に埋もれ、苦しむ人々がいるのではないだろうか。SDGsでは、「誰一人取り残さない」という目標を掲げているが、言葉だけでは真の福祉政策は実現できない。メリンダの言葉を胸に刻み、一人ひとりが自らの使命を果たすまで責任を持つ必要があると感じた。

また、ビル・ゲイツやマララ・ユスフザイのエピソードは、リーダーシップの重要性や逆境に立ち向かう力の価値を具体的に示している。まだ15歳であったマララ・ユスフザイは命を狙われ、意識不明の重体になるほどの苦難を乗り越えながらも、「すべての子どもに教育を」という強い信念を今も持ち続けている。2014年、17歳でノーベル平和賞を受賞したマララは、なぜ、そこまで強い信念を持てたのだろうか。当時10代であったマララからは、本書にも登場するマザー・テレサやマハトマ・ガンディーにも類似する「真の貢献」の意味を学んだ。

『クレッシェンド』は後半の人生でも「クレッシェンドに生きる」ことができることを教えてくれる。特に本書に登場するRとI、つまりResourcefulness(知恵)とInitiative(率先力)を発揮することによって、たとえ一人でも大きな変化をもたらすことができる。お金や影響力の有無に関係なく、実現させるために行動することが重要だと感じた。

コヴィーは、この本を通じて、今を生きる私たちに「クレッシェンドな生き方をしなさい」というメッセージを送ってくれた。

本のサブタイトルには、「本当の挑戦はこの先にある」とある。いま、自分が、そして貴方が、何歳であろうと、社会を良くするための本当の挑戦は、これから始まる。

そう、「自分の最も重要な仕事は常にまだ先にある」のだから。

偉大なる、そして私の尊敬するコヴィー博士に改めて感謝を申し上げたい。


2023年6月25日日曜日

災害ケースマネジメント

 「災害ケースマネジメント」は、被災者一人ひとりに必要な支援を行うため、被災者に寄り添い、その個別の被災状況・生活状況などを把握し、それに合わせてさまざまな支援策を組み合わせた計画を立てて、連携して支援する仕組みのことである。
(引用)災害ケースマネジメント◎ガイドブック、著者:津久井進、発行所:合同出版株式会社、2020年、6

いま、自治体の防災分野では、「災害ケースマネジメント」が注目されている。では、なぜ注目されているのか。それは、大規模災害が発生して、概ね1カ月ほど経過すると、行政支援が行き届かない被災者が浮き彫りになる。この要因として、発災直後から、次の復旧・復興へのフェーズに移行した際には、主として行政による施策がハード対策に置かれ、被災者に寄り添った支援が行き届かなくなることが考えられる。それ以外にも、被災者は、各支援制度の狭間に位置して支援が受けられなかったり、「生活再建」という行政から用意された多層的な支援メニューを理解することが被災者にとって困難であったりすることも要因として考えられる。

「災害関連死」という言葉がある。これは、災害の生活上の影響で亡くなる社会死のことである。せっかく震災で助かった尊い命が、その後の災害後の生活によって亡くなっていく。内閣府では、「災害関連死事例集」を公表している。この事例集によれば、災害関連死されたかたの年代別では、東日本大震災で約 87%。熊本地震で約 78%のかたが、70歳以上の高齢者となっている。また、災害関連死の区分別では、「避難生活の肉体的・精神的負担(被災のショック等によるものを含む)」、「電気、ガス、水道等の途絶による肉体的・精神的負担」による死亡が約7割にものぼる。また、2016年に発生した熊本地震では、医療機関の機能停止等による初期治療の遅れも目立った。

本書によれば、復興のプロセスで新たな苦難を背負った人々の二次被害を「復興による災害」という意味で「復興災害」と呼ぶ。いま、行政としては、この「復興災害」対策にも力点を置くことが求められるようになった。

その「復興災害」の解決策として注目されるのが、「災害ケースマネジメント」であろう。この災害ケースマネジメントの発祥は、アメリカである。アメリカの危機管理マネジメントについては、大にして学ぶべき点が多い。例えばFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)による災害対応マネジメント、いわゆるICSは、一元的な指揮統制と目標管理型の導入といった特徴があげられる。特に、目標管理型については、行政の縦割り組織も一因となり、我が国における危機管理対応で最も不得手とするところではないだろうか。このICSでは、標準化された業務に対して、発生した災害を情報分析し、その対応について目標を掲げて対処する。ここでは詳細に触れないが、アメリカの危機管理マネジメントは、今後我が国の災害対策において、大いに参考になるものばかりだ。

その先進的な災害対応をしているアメリカを例とし、我が国においても、災害ケースマネジメントが注目されつつある。この6月(2023年6月)には、国による自治体に向けた災害ケースマネジメントの研修会を開催した。ただ、それより先んじて、鳥取県や仙台市などでは、既に災害ケースマネジメントが取り入れられている。特に、鳥取県は、ホームページ上で災害ケースマネジメントの手引きを公開している。まさに、この手引き書は、鳥取県内の市町村のみならず、これから災害ケースマネジメントに取り組む自治体にも大いに参考になる。特に、手引きの市町村版は、〇〇課と書かれたところを自身の自治体の担当課名に変えていくだけだ。津久井氏による著書とあわせ、鳥取県の手引きを組み合わせると、災害ケースマネジメントをスタートさせるための格好の材料となる。

災害ケースマネジメントが求められる背景として、本書でも指摘しているが、私は次の2点あると思う。1点目は、役所による「申請主義」だ。被災者は、自分の家の片付け等があるにも関わらず、役所に行って罹災証明などの交付を受けるための申請しなければならない。つまり、普段、私たちがよく手にするスマートフォンでは、プッシュ型通知があり、ニュースの速報や届いたばかりのLINEなどがトップに表示される。しかし、役所は、申請主義のため、被災者が自分の該当する手続きを「漏れなく」探し出し、それぞれの窓口に出向いて申請を行わなければならない。高齢化が進む現在、役所の手続きが複雑すぎて鬱陶しがる人たちも多い。一方、役所では、高齢で役所まで行けないという方々の声を聞いても、「申請がなければだめだ」と判断する担当者がいることも事実だ。そのような状況下の中、被災者と行政や支援機関を「繋ぐ」役割を果たすことが、災害ケースマネジメントの求められる要因の一つであろう。

もう一つは、先にも述べたが、被災者に対して、行政支援の行き届かない人が発生するということだ。こちらも本書で指摘されているが、被災者再建支援法では、「半壊」や「一部損壊」の世帯には、支援金が全く支給されない。また、指定避難所が開設されている間しか行政支援が被災者に届かないという声もよく聞く。

大規模震災後における被災者の生活再建は、概ね震災発生から1カ月を超えてからになるケースがほとんどだ。災害関連死を防ぐためにも、中・長期的に多層的な課題を抱えた被災者に寄り添うためには、行政のみならず、福祉関係機関、弁護士、ファイナンシャルプランナー、工務店などが連携して、被災者の生活再建をしていく必要がある。それこそが、本ブログの冒頭に記した、災害ケースマネジメントが求められる所以である。

SDGsの理念である「誰一人取り残さない」というフレーズは、よく見かけるようになった。このフレーズは、災害ケースマネジメントの導入によって、防災分野でも当てはめることができる。行政による防災施策は、ややもするとハード整備などに目が向けられがちだ。しかし、真の防災施策といえば、私は良好な避難所を整備したり、被災者に寄り添った支援をしたりする地道なものだと思う。

災害ケースマネジメントという施策に、派手さはない。しかし、私は、津久井進氏による書籍を拝読し、市民や県民、そして国民が求めている防災施策の今後の大きな柱として、災害ケースマネジメントは、これから我が国の防災施策の根幹を担っていくものだと感じた。



2023年6月3日土曜日

逆境リーダーの挑戦

 自ら返(かえり)みて縮(なお)くんば千万人と雖(いえ)ども吾(われ)往(ゆ)かん

(引用)逆境リーダーの挑戦 最年少市長から最年少知事へ、著者:鈴木直道、発行所:株式会社PHP研究所、2023年、127

著者の鈴木直道氏は、1981年生まれで埼玉県三郷市出身。その彼の経歴は、東京都庁、353億円の赤字を抱えて財政破綻した夕張市長に30歳で就任、そして38歳からは北海道知事に就任している。当時としては、本書のタイトルになっている「最年少市長、最年少知事」であった。現在は、芦屋市の高島崚輔氏が全国歴代最年少26歳で市長就任している。

鈴木氏は、夕張市におけるコンパクトシティなどの手法を用いた再生、そして北海道知事に就任してからは新型コロナウイルス対策で注目を浴びた。

この若きリーダーの施策はもちろんのこと、なぜ、彼はここまでの信念を持ち、北海道のトップとして、道政を担う人物になり得たのか。私は、大変興味をそそられ、鈴木直道氏による「逆境リーダーの挑戦(PHP新書、2023年)」を拝読させていただくことにした。

まず、本書では、新型コロナウイルスを題材として、彼の考える危機管理論に話が及ぶ。鈴木氏が本書で淡々と語られる言葉には、危機管理の要諦が詰まっている。例えば、「前例なき対策を打ち出すときは、誰かが腹をくくらなければならない」、「手さぐりの状態でもやれることはすべてやる」といったリーダー論から、「組織のトップはまさに広報マンとして伝える力が求められている」といったリーダーの役割に至るまで、参考になる言葉が並ぶ。北米大停電の際、当時のニューヨーク市長は、復旧の見通し、安心感をもたらす情報、二次災害への呼びかけなど、戦略的に市民への広報を実施し、高い評価を得た。危機管理時は、このようなトップによる戦略的な広報が重要なアウトプットになる。まさに、北海道から全国にまん延した新型コロナウイルスの対策に迫られた鈴木知事は、マスコミの前においてもわかりやすく道民に状況を伝え、感染拡大防止のお願いをした。まさに、危機管理時における戦略的広報が功を奏した新たな事例になったと思う。

現在、鈴木氏も直面しているのが行政の縦割りではないだろうか。鈴木氏は、夕張市長時代、国・北海道、そして夕張町の三者が年に1~2回、夕張に集い、その実情をその目で見た上で課題を出し合い、方向性を決めていった。鈴木氏は、「異なる環境で起きている問題を、異なる環境にいる人間の感覚で理解するのは難しい(本書、109)」と言われる。まさに、実際に現場を見て、「当事者」として必要な具体策を考え、方向性を共有する仕組みが必要だと鈴木氏は説く。まさに、いま、行政は、多様化する行政ニーズに対応するため、横串の対策に迫られる。その際、大にして、それぞれのセクションがそれぞれの立場で主張して、纏まらないケースが多々ある。それは、夕張であれば市民を見るべきなのに、自分のセクションを守ろうとする意識が強いことも要因の一つとしてある。まさに、鈴木氏が指摘する一つの課題解決のため、複数の関係機関が関係してくる場合、現場を知らないそれぞれの立場からモノを言われても、現場から一番近い立場の意見が伝わりにくい。すべての関係者が「当事者意識を持つ」ということ。その意識がないと、一つの課題でも多様化する現代においては、行政サービスが機能しないのだと感じた。

では、鈴木氏は、どうしてこのようにして一介の都庁職員から北海道知事まで登りつめることができたのだろうか。私は、本書を拝読して、2人の師匠の存在が大きいと感じた。その二人とは、鈴木氏が都庁時代に知事であった石原慎太郎氏と北海道で彼を財政面でも支えたニトリの会長、似鳥昭雄氏の二人の存在であろう。

まず、似鳥氏がよく口にする言葉は、「ロマンとビジョン」だと言われる。「ロマン」とは、世のため、人のために人生を懸けて「志」を持つことが「ロマン」。「ビジョン」とは、ロマンを持って仕事に向き合い、それを実現するために必要な目標や計画を持つことが「ビジョン」だと言われる。私は、「なるほど」と思った。「ロマン」とは、私たちが抱いている甘いムード漂う「ロマン」のイメージとは違う。似鳥氏の言われる「ロマン」とは、まさに男性的な意味合いであり、ビジネスで成功するための秘訣であった。

また、鈴木氏の父親的な存在が石原慎太郎氏であろう。都庁職員であった鈴木氏が「夕張市長に立候補する」と報告した際、石原氏は「裸ひとつで挑戦する若者を、俺は、殺しはしない」と言われたという。地方公務員が市長選に立候補とすることは、地方公務員を離職することを意味する。安定した都庁職員という立場を捨て、背水の陣で夕張市挑戦に挑んだ鈴木氏は、石原氏の応援が何より響いたことだろう。

また、冒頭、石原氏の座右の銘を紹介した。これは、孟子の言葉を引用したとのことだが、「自分自身を省みて、自らの行いが間違っていないと信念が持てるなら、たとえ相手が千万人いようとも敢然と突き進んでいく」という意味だ。ここで「信念」とある。鈴木氏も言われているが、リーダーは、孤独でありながら、決断を迫られることがある。その際、情報を収集し、自分自身の能力を最大限に生かし、その決断が間違いないという「信念」を持つ。そこまで確信をした信念であれば、あとは突き進んでいくだけだ。私は、孟子から石原氏、そして鈴木氏に引き継がれた言葉の重みを知った。

鈴木氏は、「良きリーダーは、人を勇気づけ、行動に駆り立て、周囲をも巻き込んでいく言葉を知っています(本書、127)」と言われます。

まさに、私もそのとおりだと思う。リーダーとは、決して、個人で何かを成し遂げようとしない。先ほどの「ロマン」を語り、周りの部下たちを”資源”と思いながら鼓舞し、「ビジョン」に沿って周囲を巻き込んでいく。そのようなリーダーこそが、これからの時代に必要だと感じた。まさに、財政破綻した夕張を変え、北海道を変えようと奮闘している鈴木直道氏、そのものだ。

裸一つで、誰一人知る者がいない北海道に乗り込んだ若者は、広大な大地に住む道民を巻き込み、リーダーとして率いるまでになった。

その鈴木氏の偉大なる足跡は、リーダーシップが何かを教えてくれる。

鈴木直道氏の書籍は、とても学ぶべきことの多い一冊であった。

ニューリーダーの今後ますますの御活躍を御祈念申し上げたい。


2023年4月22日土曜日

誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命

 鬼のようなリーダーシップを発揮するには、”覚悟“と”能力“の両面において、周囲よりも突出した強さを持つことが前提になります。
(引用)誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命 著者:森岡毅、日経BP、2020年、182

森岡毅氏といえば、USJの再建で有名だ。その手法は、コストを掛けずに、ジェットコースターを後ろ向きに走らせるなど、アイデアを連発したものであった。また、森岡氏は、グリーンピア三木と呼ばれた年金福祉事業団施設(現在はネスタリゾート神戸)を再建したことでも有名だ。その森岡氏によるリーダーシップの書籍を偶然、書店で見つけた。タイトルは、「誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命(2020年、日経BP)」である。

リーダーシップに関する書籍は、ハーバード・ビジネス・レビューを始め、数多く存在する。しかし、森岡氏自身が「実務者が、本当に本人の言葉で書き綴った書籍は極めて稀(まれ)」と言われるように、数々の難題を解決してきた森岡氏ならではのリーダーシップとは、どんなものであるのか。私は、森岡氏のリーダーシップの真髄に迫るべく、本書「誰もが人を動かせる!」を拝読させていただくことにした。

まず、森岡氏によるリーダーシップを身につけることによって得られる絶大な3つのメリットが面白い。当然、森岡氏が言われるとおり、リーダーシップを身につけることは、「一人ではできないことでも実現できるようになる」こと、「劇的に経済的に豊かになっていく」ことは理解できる。3つめは、「自分の人生を生きる幸福感を激増させる」ことが可能になるという。さらに森岡氏は、「この宇宙は、本当に自分を中心に回っていたんだ」と思えるようになると言われる。本文中、この表現に出会い、私は正直、虚を衝かれた。故稲盛和夫氏は、「謙虚」、「利他の心」を重んじる。それは、天の代わりに、地上にいる私たちが選ばれ、リーダーシップを発揮するという中国の経書にもつながる考え方だと思う。しかし、森岡氏は、自分を中心として天が回っているといった考え方は、例えばイーロン・マスク氏のような西洋的なリーダーシップの考え方に近い気がしたと同時に、新しいリーダーシップの考え方だと感じたからである。

森岡氏のなかで共感したことは、3WANTSモデルである。これは、リーダーシップを発揮したいとき、「どうしても実現したいと本気で思える目的が明確であること」が大切であると森岡氏は説く。そして、これこそが「人を動かす根源」でもあると言い切っている。そのためには、3つの条件を同時に満たすことが必要で、3WANTSモデルの登場となる。この3条件とは、「巻き込みたい人々にとっても魅力的である」こと、「集団としての能力を必要としている」こと、そして「あなた自身が本気になれる」こととしている。この3WANTSモデルを聞いて、なるほどと感じた。仕事柄、私は、大学やコンサルトが連携する仕事も多い。しかし、私たちは、自分たちが困っていることの課題解決を提案しても採用されるケースが少ないことも実践知で知っている。それは至極当然で、相手方にとっても魅力的であると同時に、集団で能力を必要としているかどうかを満たしていなければ、相手は動かない。

森岡氏による書籍においては、「リーダーはやみくもに褒めることを主眼に置くべきではない」という視点も興味深い。本書でも触れられているが、「デール・カーネギー」による「人を動かす」では、「人を褒めること」が最も大切であると説いている。私は、自分の子供達も甘く育てている。つまり、「褒めて育てる」である。昨今、部下に対して叱ることも少なくなってきた。これは、叱るとパワハラと呼ばれ、叱られた部下も精神的に弱いのではと感じてしまうからである。それは、学校教育現場も同じで、部活動においても先生から叱られることはない。では、「褒める」ことにより、人は動き、伸びるのだろうか。

出口治明氏は、「座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」 (角川新書) 新書 (2019年)」の中で、心理学者マーシャル・ロサダによる「ロサダの法則(3:1の法則)を用い、「1回叱ったら3回以上褒めることが必要で、それ以上叱ってしまうと、人は自信を失ってしまう(108)」と言われる。いずれにせよ、「褒めるだけ」、「叱るだけ」という育て方は、自分の子供にも、部下にも共通することなのかもしれない。そのロサダ比が適切であるかどうかは、自身の実践知によって導き出すことが必要なのだろう。ただ、偏りはよくないということを森岡氏から学んだ。

森岡氏は、新型コロナウイルスのことも振り返り、危機時のリーダーシップにも触れている。人間は、恐怖によって、支配されてしまう。つまり、森岡氏は、「どこまで世間の非難に耐えられるのか」といった「社会的恐怖」に立ち向かうことの大切さについて解く。このことは、大規模災害時においても言える。近年、地球温暖化の影響等により、全国の風水害被害も甚大化している。その際、基礎自治体である市町村は、災害対策基本法に基づき、避難指示や緊急安全確保などの避難情報を発令する。その際、リーダーである首長は、寄せられた気象情報や被害状況をもとに決断を迫られる。そのとき恐らく首長らが考えることは、避難情報を発令しないことのリスク、つまり住民やマスコミからの非難を避けることを主眼において考えてはならない。あくまでも情報を取捨選択し、現在の状況と今後の見通しを総合的に判断し、本当に必要な発令をしなければ、住民は、乱発される避難情報について、“オオカミ少年”になってしまう。備えと同時に、どこまでのリスクに耐えられるのか。私は、森岡氏が責任回避だけのリーダーシップは必要ないと解いていると理解した。

私は、本ブログの冒頭に、森岡氏によるリーダーシップに必要な要素、つまり”覚悟”と”能力“について引用した。実践知によって得られた森岡氏のリーダーシップ論は、「自分が動くこと」ではなく、「人を動かすこと」についてのノウハウであった。そのために、リーダーは、リーダーシップを発揮し、人に動いてもらい、一人ではなし得なかった域に到達する。森岡氏によるリーダーシップは、数々の事業再生の経験から得られた貴重なものばかりだった。

リーダーは、”覚悟“と”能力“を持つべし。

私も肝に銘じておきたい。


2023年4月8日土曜日

社会の変え方 

 困っている市民に 手を差し伸べるのが 行政の使命・役割
(引用)社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ、著者:泉 房穂、株式会社ライツ社、2023年、268

明石市は、全国の地方公共団体にとって、“未来への希望”なのかもしれない。

2014年、日本創生会議(座長:元総務大臣増田寛也)が提出したいわゆる「増田レポート」は、地方公共団体関係者のみならず、日本全体に大きな衝撃を与えた。この「増田レポート」では、896の市町村が「消滅可能性都市」であるとした。つまり、市町村全体の49.8%,つまり半数近くの市町村が「消滅」と名指しされたことになる。

少子高齢化は、もはや我が国の最重要課題だ。その状況下において、明石市は、10年連続人口増(中核市中人口増加率は全国1位)、市民満足度91.2%と驚異の数字を叩き出している。その結果、明石市では、子ども施策から始めることで若い世代にも安心が得られ、人口が増加し、にぎわいが創出され、結果的に財源が増加(明石市は税収8年連続増、地価7年連続上昇)するという好循環が創出されている。

その好循環を生み出すべく、奮闘されてきたのが明石市長の泉房穂氏だ。「強行」というイメージが強い泉氏でもあるが、なぜ明石市において好循環を生み出すことができたのだろうか。その秘密を探るべく、泉氏による最新刊「社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ(株式会社ライツ社、2023年)」を拝読させていただくことにした。

本書は、序章から惹き込まれていく。泉氏の明石市における政策の根底にあるもの。それは、「一生起立不能」と言われた泉氏の弟さんの存在が大きいことが分かる。つまり、泉氏は、幼少期から弟さんの成長を支えることで経験した、社会に対する様々な”違和感“を排除すべく、明石市において様々な政策打ち出してきた。また、その弟さんの成長を見守ってきた泉氏は、ある日、次のことに気づく。それは、泉氏が「弟のため」と言いながら、弟を支えている自分自身が周りから笑われたくないがために、弟の行動を制限してしまいそうなことがあったことだ。ただ、当の本人は、自分の意志で、健常者と同じように行動したいこともある。そのことに気づいた泉氏は、「本人の幸せを決めるのは、他の誰でもなく、本人」と言われる(本書、29)。そのことを理解することにより、真の「寄り添う」ことができるようになる。市民一人ひとりに「寄り添う」ことを理解して、政策に結びつけることは、当然ながら、市民の満足度向上にもつながる重要な視点だ。では、泉氏は、明石市でどのように、市民に「寄り添う」政策を実行してきたのだろうか。

まず、明石市は、18歳までの医療費無料化を始め、第2子以降の保育料など、5つの無料化を実施してきた。中核市規模の地方公共団体において、ここまで子ども施策に力を入れているケースは、正直、珍しいと思う。しかし、泉氏は、「(これらの施策の実施が)遅すぎてごめんなさい」と言われる。その理由として、ほとんどの日本以外の他の国では、これらの施策が当たり前のように実施されているからだとしている。では、子育て支援は、国の施策であるべきなのだろうか。事実、泉氏も「ベーシックな子育て施策ぐらいは、国が全国一律で実施すべき(本書、66)」と主張されている。

我が国の少子化問題では、20代の人口が2025年ごろから急減すると言われている。政府も異次元の少子化対策を実施すると言われ、児童手当の拡充や学費軽減などが期待される。これは、雇用の不安定化や賃金が伸びないなどの理由があると考えられる。最近では、民間企業においても少子化対策の動きがある。トヨタ自動車は2023年3月15日、2023年度の年春闘で賃上げや一時金の要求に満額回答し、妥結したと発表した。また、伊藤忠は、朝型勤務の導入などにより、「1.97(日本全体では1.30)」という数値を公表(2021年度)した。国のみならず、働き方改革や賃金向上などにより、出生率を上げていこうとする企業が増加してきている。そのとき、国や地方公共団体は、民間の動きとあわせ、一体的な施策も考えていかなければならないと思う。

泉氏は、弁護士のみならず、社会福祉士の資格も取得されている。また、各々の施策も、ただ、無償化すれば良いという考えではない。明石市では、「おむつ定期便」という子育て経験のある配達員が、0歳の子どもがいる家庭を月1回訪問して、おむつ(ミルクや離乳食も選択可能)を届ける行政サービスを実施している。これは、単なるバラマキではない。実は、児童虐待で亡くなる子どもの半数は、0才児であるという。その「おむつ」を配布することは、あくまでも「きっかけ」であって、訪問先で子どもが生まれたばかりの親を「孤立させない」ことが目的であるとする。また、泉氏は、どの無料化施策にも「所得制限なし」にこだわる。国においても2023年3月31日、少子化対策の「たたき台」として、児童手当の所得制限撤廃を公表した。先行していた明石市の政策に、国が追いついてきた形だ。

本ブログの冒頭には、国が新型コロナによる緊急事態宣言発出時(2020年4月16日)に、明石市独自の支援策を発表した際、その報道発表資料の最後に添えられていた泉氏による文章を紹介した。このとき、明石市は、市の独自支援策として、個人商店にすぐに100万円、ひとり親家庭にさらに5万円など、3つの緊急支援策を実施した。まさに、危機対応時においても、泉氏は、市民に寄り添っている。

本書では、泉氏が率いてきた明石市の数々の施策から、その行政の果たすべき使命と役割について、学ぶことができた。特に明石市では、市民に寄り添い、行政と市民の距離を縮め、特に困ってみえる市民に対して、手を差し伸べる姿勢が随所に見受けられた。本書では、まちに好循環を生み出すだすヒントだけではなく、泉氏からは、行政の本質を教わることができた。

地方自治法の第一条の二には、「 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として」とある。私は、少子高齢化の今だからこそ、地方公共団体が地方自治の原点に立ち返るときが到来しているのだと感じた。泉氏による著書には、地方自治の“原点”が詰まっている。本書は、そう思わせる、一冊であった。


2023年3月21日火曜日

シン・危機管理

 自然災害の発生を正確に予測することは難しい。そこを認めた上で、迫りくる災害や刻一刻と変わっていく状況を把握し、短期的なシミュレーションを随時アップデートしていくことで、人々の生命と安全を守る、「リアルタイム防災」という考え方にシフトしていくべきではないでしょうか。
(引用)シン・危機管理 企業が“想定外”の時代を生き抜くには?、著者:根来諭、発行:みらいパブリッシング、2023年、190

近年、リスクに対する考え方は、どの民間事業所、どの行政機関においても高まっている。まず、発生が懸念される南海トラフ地震については、関東から九州にかけての「太平洋ベルト地帯」に位置することから、経済損失額は、被害額が最大で220兆3千億円に上る(2013年内閣府専門家作業部会)とされている。また、風水害についても、地球温暖化の影響からか、毎年のように、各地で深刻な被害が発生している。さらに、新型コロナウイルスの影響により、私たちの暮らしは、3密(密閉、密集、密接)を避けた行動様式が推奨され、働き方も含めて一変した。そのほか、地政学リスクも際立っていることから、私たちは、日々、不安に怯えながらも、暮らしているというのが実情であろう。

一方、これまでの防災対策は、国や行政が主体で動き、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)からは、自助・共助の重要性も叫ばれるようになってきた。ただ、それ以降においても、防災分野に関しては、民間事業者の参入が乏しかったという印象がある。理由として、防災という分野は、“官”の領域が強く、マーケットとして成り立ちにくかったのではないだろうか。しかしながら、近年は、災害時におけるドローンの活用をはじめ、様々な企業が防災分野に参入しつつある。

Specteeという会社もその一つだろう。防災に携わっている方なら分かるが、Specteeといえば、SNSによる情報集約システムが有名だ。端的に説明すれば、住民がSNSに投稿した情報を地図上に表示させるということだろうか。具体的には、SpecteeのCOO根来氏が著された「シン・危機管理(みらいパブリッシング、2023年)」に記載がある。例えば、2021年6月18日に発生した札幌の住宅街でのクマ出没時には、住宅地ということもあり、住民らがスマートフォンでクマを捉えてSNSに投稿する人が多くいた。そこで、Specteeの利用客は、リアルタイムでクマの出没位置を把握することができた(本書、168)という。当然、大雨のときは、どこが冠水し、どこで土砂災害が発生しているかといった情報を、市民がアップしたSNSにより、速やかに自治体の防災担当者やマスコミ、そして住民らは災害情報を得ることが可能となる。根来氏によれば、SNSの情報を危機管理に活かす特性として、次の2点を掲げる。1点目は、「カバーの網羅性」ということだ。スマホが進化した現在、住民らは現場で写真を撮影し、SNSで情報発信している。つまりは、各個人が“監視カメラ”を持ち歩いているような感じだということであろう。2点目は、「事象の網羅性」ということだ。テレビやインターネットでニュースになりにくい事象についても、小規模な事象を捉えることが可能になる。

本書「シン・危機管理」は、危機管理について、分かりやすく解説されている。特に本書の大半は、BCP(業務継続計画)から構成されている。以前、私もBCPを作成した経験があるが、本書では、完全なBCP作成まで到達しないのかもしれない。しかしながら、本書では、BCPの意義から始まり、BCPの策定については、多くの紙面を割いている。そのため、初めてBCPを作成される方でも、BCPのイメージを掴みやすい工夫がなされている印象を受けた。また、以前のBCPの主流は、東日本大震災の影響を受け、主として地震対策に絞って策定されているケースも多かったのではないだろうか。根来氏は、オールハザード型(どのようなリスクにも対応できるもの)のBCP策定を訴えかけており、既にBCPを策定されている事業所においても有用となることが書かれていた。さらに近年、PDCAから、危機に対処するため「OODA(ウーダ)ループ」が注目されつつある。その記載も興味深かった。

本書の後半部分は、これからの防災対策についてである。サイバーフィジカルシステム、デジタルツイン、そしてSociety5.0との言葉が並ぶ。そこには、Specteeが考える新しい防災システムの紹介も掲載されていた。本書でも紹介されているが、私も国土交通省が公開している3D都市モデル「Project PLATEAU」に注目している。3D都市モデルによる浸水シミュレーションについては、私も大いに期待するところだ。ただ、私は、「シン・危機管理」については、3つの観点が必要だと考える。

1つ目は、各自治体の防災担当者が避難指示等を発令する際、「いかに今までの勘に頼らないか」といった点。

2つ目は、防災担当者の災害従事業務が合理化できるかといった点。

3つ目は、国の指摘する「避難しない人をどう避難させるか」という点である。

1点目については、例えば風水害時、一般的に河川が氾濫しそうなところを注視し、上流の今後の雨量を気にしながら避難指示等を発令すると思う。その際、各自治体では、あの場所で時間50㎜の雨量が観測されたから、河川のここの個所が危ないだろうといった「勘」に頼るケースが多いのではないだろうか。この「勘」が雨量計などのデータにより、確実な予測に繋がってくれることが必要だと考える。

2点目については、各自治体において、避難指示を発令するエリアを特定し、その世帯数(人口数)を算出し、記者発表資料を整えると同時に、避難所の開設準備にと多忙を極めると思う。その際、防災DXの推進により、少しでも災害対策本部の業務が合理化され、従事者の負担が減ることを望む。

3点目については、「自分は助かる」と勝手に思ってしまう正常性バイアスによる要因が大きいと考える。そのため、私は、本当に河川上流に位置するここの場所で、これだけの降雨が観測されたから、今自分たちの近くを流れている河川が氾濫するかもしれないといった情報に根拠を持つことが必要だと考える。迫りくる災害を「わが身のこと」として捉えられるようになれば、住民による自発的避難が促進されるのではないだろうか。

つまり、私は、住民、民間事業者、そして行政がともに”Win”の関係にならなければ、防災DXを駆使した「シン・危機管理」は、成り立たたなくなると考える。

冒頭、Specteeの根来氏の言葉、「リアルタイム防災」の個所を引用した。リスクが多様化、複合化、そして激甚化する時代に突入したからこそ、従来のリスクマネジメントでは、通用しない。新たな時代に即したツールを駆使することにより、従来存在しなかった新たな危機管理が誕生する。それにより、例えば、線状降水帯などによる局地的な豪雨については、刻々と状況が変化する。その際においても、自治体職員の負担が軽減されつつ、冷静に避難情報の発令がなされると同時に、住民も災害情報を見ながら自主的に避難行動を開始することが可能となる。そして、シン・危機管理に備えた民間事業者は、業務を継続することにより、被害を最小限に抑えることができる。私は、本書を拝読し、シン・危機管理の意義について、そう考えるに至った。

民間事業者や住民にとっても、国や行政にとっても、有益となる「シン・危機管理」。本書は、その幕開けを宣言するものだと感じた。


2023年3月11日土曜日

未来をつくる パーパス都市経営

 ウェルビーイングが高いまちとは「人々が助け合い、暮らしやすく、社会インフラや経済も維持でき、ずっと幸せが続くための好循環があるまち」です。
(引用)未来をつくるパーパス都市経営 健康、交通、観光、防災…新たなビジネスを生み、ウェルビーイングを高める方法、著者:西岡満代、発行:株式会社日経BP、2023年、74

最近、私は「幸福学」という言葉をよく耳にする。幸福学の第一人者、前野隆司氏(慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)らが昨年、「ウェルビーイング(日経文庫、2022年)」を出版されたのは、存じていた。世界で一番幸せな国・ブータンは、世界で始めて、国の発展を図る指針として、GNP(国民総生産)ではなくGNH(国民総幸福量)を取り入れたことで有名だ。我が国は、人口減少、インフラの老朽化、地域公共交通の撤退や縮小など、人口減少による悪循環に陥ろうとしている。その我が国で、果たして「幸せが続くまち」の実現可能性はあるのだろうか。その解に挑戦すべく、一冊の書籍が発刊された。その書籍のタイトルは、「未来をつくるパーパス都市経営(日経BP、2023年)」である。本書には、前述の前野隆司氏も登場しているという。また、「パーパス」は、直訳すると「目的」だが、最近注目されている「パーパス経営」とは、社会における企業の「存在意義」や「あるべき姿」を活動の指針に据え、この指針に基づいて経営戦略や事業戦略を立て、各種の事業活動を推進するというもの(本書、92)である。
では、「ウェルビーイングが高いまち」を目指すためには、なぜ「パーパス都市経営」を目指すべきなのだろうか。その解を紐解いていくことにした。

この書籍は、主として、著者の国際社会経済研究所の西岡満代氏を始め、前述の幸福学の第一人者の前野隆司氏、そして前富山市長の森雅志氏という三人がタッグを組んで展開されていく。まず、西岡氏が全体を監修し、前野氏とのコラボによってウェルビーイング都市とは、どのようなものかを定義づけていく。そして、パーパス都市経営が目指すウェルビーイング都市とは、少子高齢化を迎えても、「いつもさりげなく心身の健康を見守ってもられるまち」や、「ロボットやドローンが身の回りや社会インフラを支えてくれるまち」、さらには「地域の人たちとつながり、必要なときに助け合えるまち」ということが明らかになっていく。

そこで、前野氏の登場である。前野氏は、端的に幸せの4因子を次のように提唱される。この4因子とは、「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」そして「ありのままに」である。さらに、2020年にデジタル庁らが公表した地域生活のウェルビーイングを探るために開発したLWC指標に話が及んでいく。この指標では、「異地域生活のウェルビーイング指標」における8個の「幸せ要因」と2個の「不幸せ要因」な要因から成り立つ。ブータンのGNHにも似通う新たな指標の誕生によって、成熟した我が国においては、経済成長ではなく、新たな国民生活の質の追求を目論んだ新たな都市基準の指標が誕生したことになる。

そして、本書では、ウェルビーイングの高い都市経営を目指すべく、課題を解決する手段として、スマートシティを提唱する。スマートシティは、デジタル技術を活用した新しい街の姿のことを指す。パーパス都市経営とは、「まちの運営に経営の概念を持ち込み」、「その経営には自治体だけではなく、住民や企業も参画し」、「データを活用して課題の解決を図る」というものだ(本書、80)。

いま、私は、ソーシャル・インパクト・ボンド(以下SIB:Social Impact Bond)という手法に注目している。これは、2010年に初めてイギリスで始まった官民連携による社会課題解決のための投資スキームであり、官民連携のための仕組みの一つである。前述のとおり、各地方公共団体は、少子高齢化やインフラの老朽化と言った課題を抱える一方、税収の増加が望めないという悪循環に陥りつつある。そのため、SIBのようなスキームは、これから主流になっていくのだろうと考える。しかしながら、このスキームには、本書で言うパーパス都市経営にも言えることなのだが、「民間企業にとってもWinが必要」である。行政の資金繰りが苦しいから、民間企業に資金提供を頼るといった「一方的な行政側だけのWin」では、公民連携は、頓挫することになるだろう。いかに、民間資金も活用した「投資」や「回収」といった概念を公共セクターに持ち込むのかが鍵になると感じた。

本書では、西岡氏、前野氏に続き、前富山市長の森氏も登場する。森氏は、富山市において「コンパクトシティ」を掲げ、特徴的なまちづくりを推進したことで知られ、地方自治の世界では著名なかただ。森氏は、「データを活用すればまちを変えられる」としているが、その背景には、データに基づき政策を立案・検証する「EBPM(証拠にもとづく政策立案)」という考えがあると気づかされた。一見重要でないデータも収集し、データをどう使っていくかを考える。そして、そのデータ活用について、できる限り客観的に測定可能なアウトカム指標を設定し、実際の効果を検証することが感じた。私は、森氏の紹介する富山市の事例において、今後の私の仕事の参考になるものがあった。データは、このように使うべきなのだと、改めて感じさせられた場面であった。

私は、縁あって、昨年、宮城県山元町を訪れた。その際、地元のかたから「ミガキイチゴ」の話を伺った。このイチゴは、2012年1月に設立した農業ベンチャーであるGRAによるブランドイチゴだ。山元町のかたのお話だと、「一番高いランク『プラチナ』は高級店で1粒1,000円にもなる」とのことであった。現地でこの話をお伺いし、2011年の東日本大震災の爪痕が残る東北の地で、私は、このまちで一筋の光を見た気がした。本書においても、パーパス都市経営の先端事例として、この「ミガキイチゴ」も紹介されている。そのほか、まちの経営事例としては、せとうちDMOや柏の葉スマートシティコンソーシアム(千葉県柏市)なども紹介されている。さらには、書籍「Smart City 5.0 地方創生を加速する都市 OS(インプレス、2019年)でも詳述されている会津地域スマートシティ推進協議会の事例も紹介されるなど、先進的な事例が数多く紹介されている。

全てが好循環になってウェルビーイングを目指すパーパス都市経営について、私は先進事例なども目の当たりにし、その必要性を認識せざるを得なかった。人口減少や老朽インフラ問題など、地方都市の未来は、よく暗いと言われている。しかし、本書は、このようなネガティブな状況にさらされている地方都市に、新たな”希望”を見出していた。今後、本書は地方における、新たなまちづくりの経営教科書的な役割を果たしていくことになるだろうと感じた。

これからも、我が国に住むすべての人たちが、幸福感を味わいながら暮らしていくために。


2023年2月23日木曜日

マッキンゼーCEOエクセレンス 一流経営者の要件

 スティーブ・バルマーは、マイクロソフトCEOの座をサティア・ナデラへ譲り渡すときに次のように告げた。「大胆かつ正しくあれ、大胆でなければ、ここにいる間ほぼ何もできないだろう。正しくなければ、ここにはいられなくなるだろう」 
(引用)マッキンゼー CEOエクセレンス 一流経営者の要件、著者:キャロリン・デュワー、スコット・ケラー、ヴィクラム・マルホトラ、監訳者:マッキンゼー・アンド・カンパニージャパン、シニアパートナー・CEOエクセレンスグループ、訳者:尼丁千津子、発行所:株式会社 早川書房、2022年、60

書店で一冊の本に出会った。その名は、「CEOエクセレンス(早川書房)」だ。少し立ち読みをすると、本書は、「上場、非上場、非営利に関わらず、どんな組織のリーダーにとっても有用な指南書になる」と書かれている。私は、CEOではないが、かねてからリーダーシップの書籍を探していた。かつて私は、上司から「自分の役職より、1つか2つ上位の立場に立って行動をするといい」と聞かされていた。であれば、会社なり、非営利組織なりのトップは、何を考え、どのように行動すべきなのかということを知ること、また、トップのリーダーシップを身につけることは、管理職である我が身においても、一流の職場スキルを獲得することができる。しかも、世界3大戦略コンサルティングファームの一角と言われる米マッキンゼー・アンド・カンパニーの社員によって著されたものであれば、なおさらだ。本書では、ベストなCEOとして、ネットフリックスのリード・ヘイスティングス、マイクロソフトのサティア・ナデラをはじめ、日本からも資生堂の魚谷雅彦氏やソニーの平井一夫氏らが登場する。マッキンゼー・アンド・カンパニーは、これら超一流のCEOからヒアリングし、どのように果たすべき役割を引き出し、リーダーシップの真髄に迫っているのか。とても興味が湧き、早速拝読させていただくことにした。

本書では、CEOが果たすべき6つの責務について、触れられている。具体的には、①方向を定める、②組織を整合させる、③リーダーを動かす、④取締役会を引き入れる、⑤ステークホルダーと連携する、⑥自身のパフォーマンスを最大化するである。

私は、①の「方向を定める」から、本書の凄さに圧倒されてしまう。方向を定めるためには、3つの要素(ビジョン、戦略、リソース配分)が必要であるが、第1章の「ビジョン構築を昇華させるための行動習慣」から、ベストなCEOによる具体的なアドバイスが満載である。
特に役立ったのは、家電量販店ベスト・バイの前CEOユベール・ジョリーによる、正しい方向の決め方についての4つのアドバイス(本書、39)である。ビジョンの重要性を理解しても、具体的に、どう構築するかに戸惑うケースが多い。ジョリー氏によるアドバイスに基づけば、理想的なビジョン構築をすることが可能となる。

私の尊敬する京セラ創業者であり、JALを再生させた故稲盛和夫氏は、フィロソフィーを大切にし、社員に徹底的に浸透させた。第4章「企業文化を高めるための行動習慣」では、稲盛氏と同様の事例が紹介されている。例えば、KBCのヨハン・タイスは、「PEARL」と呼ばれる企業文化だ。具体的には、実行力(Performance)、権限移譲(Empowerment)、説明責任(Accountability)、対応の速さ(Responsiveness)、地域定着度(Local embeddedness)の頭文字を取ったものだ(本書、110)。私も多くの経営書を拝読してきたが、つまるところ、この「PEARL」に集約されるのではないと感じている。とりわけ、このPEARLのなかでも、地域定着度を見落としまうことが多いのではないだろうか。企業文化には、稲盛氏が大切にしてきた「利他の心」にもつながる、地域に定着し、他人の利益を最優先に考えることが何より大切であると考える。ヨハン・タイスによる「PEARL」は、まさに真珠のごとく、企業文化の輝きを増すものだと感じた。

また、自身がCEOでなくとも、第8章からの「チームワークを高める習慣」からも学ぶことが多い。管理職ともなれば、部下に仕事をお願いする立場になる。その際、GMのメアリー・バーラによる「今、何を変えるのかと、なぜそうする必要があるのか」を(部下に)わかってもらうというアドバイスは、とても重要だ(本書、182)。やはり、いま私たちが「どこ」へ向かい、そのために「なに」をしなければならないのかというのは、CEOなり、組織のリーダーである管理職の責務である。その責務をしっかり把握し、実際に動いてもらう部下に仕事の意義を説明しなければ、部下のモチベーションは上がらないし、成果もでてこない。また、先ほどのヨハン・タイスのPEARLの一構成要素として、「対応の速さ」があった。スピードは何事も大切であり、ICICIのK・V・カマートによる「何かをするのであれば90日以内に行う。そうできないのであれば、やらない」という「90日ルール」も役に立つ。

実際、私にも仕事上での経験がある。経営トップ層から、ある課題解決を言われていた。これは、自身の部署だけでは、解決できないものであった。私は、課題解決のため、他部署との協議を重ねた。しかし、他部署に考えてもらうところの返事が中々こないという事例があった。もちろん、私は、他部署のせいにすることもできたのだが、トップ層から指示を受けたのは、私たちである。結果、私たちは、そのプロジェクトの進行を大幅に遅らせてしまう事案があった。この90日ルールを聞いて、私は、どんな些細な仕事でもToDoリストに書き込み、期限が内容に見えても90日間で結論を出すようにしようと誓った。

本書では、マイクロソフトのサティア・ナデラからも学ぶことが多い。どうして、優秀なCEOは、こんなにも分かりやすく、しかも確固たる信念を持っているのだろう。例えば、ナデラは、「思考、言葉、行動」の一致が信用を得るという。これは、ヒトだけではなく、企業にも当てはまるという。ナデラのアドバイスは、本書に登場するどれも私にとって珠玉の言葉であった。一流のCEOたちは、短い言葉で、人々を導き、習慣や行動までを変えうる力を持っている。そう、思わずにはいられなかった。

本書は500ページ近くある。でも、私は、1週間もあれば、普通の書籍なら読破してしまうだろう。しかし、「マッキンゼー CEOエクセレンス」は違った。ページをめくるごとに、ベストなCEOたちが登場し、世界的なリーダーシップを身につけるべく、様々なアドバイスを惜しげもなく披露してくれている。もう、リーダーシップ関連の書籍は、この一冊で十分ではないかというぐらい、本書は、投資価値のあるものだ。

冒頭、「本書は、上場、非上場、非営利にかかわらず、どんな組織のリーダーにとっても有用な指南書になりうると考えている。」と紹介した。

まさに、そのとおりだと思う。

久しぶりに、何度も読み返したいという書籍に出会えた。

「大胆かつ正しくあれ。」

これからのトップリーダーたちに、ぜひ、本書を強くオススメしたい。

2023年2月12日日曜日

最高経営責任者(CEO)の経営観

 人間は誰もが自分の人生のCEOであり、CEOの経営観は、すべての個人・組織・社会に関係がある。
(引用)最高経営責任者(CEO)の経営観 夢・理想の未来を拓く実践的技術、著者:澤 拓磨、ダイヤモンド社、2022年、6


「最高経営責任者(CEO)の経営観 夢・理想の未来を拓く実践的技術(ダイヤモンド社、2022年)」は、株式会社TS&Co創業者兼代表取締役最高経営責任者(CEO)の澤拓磨氏によって著された。

 なぜ、CEOでもない私が本書に惹かれたのか。理由は、2点ある。

1点目は、私もこの歳(50歳)になってくると、TOPが何を考え、どのように経営しているかということを知っておく必要があるということ。

2点目は、リーダーシップやマネジメントについて、改めて“学びたい”とう思いに駆られたからである。

 著者の澤氏は、異色の経歴の持ち主だ。澤氏は、サッカーJ2の練習生としてプロサッカー界で生きていこうとされていたが、ある日、「大変残念だが選手契約をしない」と言われてしまい、突如、サッカー界を去ることになった。それから、経営への道を決断し、すでに15年の実践を積んできたという。

 本書を拝読し、まず私が驚かされたことは、澤氏による15年の会社経営で、ここまでの幅広い見識が得られるのかということである。澤氏は、グロービス経営大学院大学でMBAを取得されたとのことであるが、本書に書かれていることは、教科書どおりのことではない。

 例えば、澤氏は、2020年代以降の経営として、情報化の進展をあげる。澤氏の言われるとおり、情報化のメリットとしては、インプットの質向上や想像を超えたアウトプットが可能となる。しかし、興味深いことは、デメリットによるブラックスワン(領土紛争、テロ、パンデミックなど)の影響も重大であると指摘していることだ。現在、ロシアによるウクライナ侵攻においても、ニュースなどは、武力攻撃が取り出たされているが、一方では、ハッカーなどの情報戦争とも言われている。まさに、情報に対するリスクマネジメントでは、これからの経営で、より大きな課題となるであろう。

澤氏による経営観は、単に利潤追求にとどまらず、他の偉大な経営者と同様、科学・哲学・神学の礎が重要であると指摘する。さらには、全く経営とは関係ないと思われるリベラルアーツにまで話が及ぶ。リベラルアーツとは、その名のとおり、”自由に生きる技術“であるが、澤氏による経営観は、リベラルアーツが志向する最終地点であり、自然科学→人文科学→人生観→世界観→経営観という思考プロセスを経る(本書、48)としている。それは、澤氏が言われる、CEOの醍醐味として、“未来への自由と責任を享受できること”へつながっているのだと感じた。

そして、澤氏によるリーダーシップとは、この”未来への自由と責任を享受できること“と”約束した結果に引き上げる行動“であるという。具体的にどのように行動すべきかについては、本書に譲るが、このリーダーシップの定義は、単純そうにみえて、非常に重いものだと感じた。

実は、CEOでない私が本書の購入を決めたのは、冒頭に記した2点の理由のほかに、第3章の「CEOが描く2100年までの未来像」に惹かれたかもしれない。第3章では、2100年までの各年代において、CEOが認識しておくべき7つのメガトレンドが掲載されている。

 このうちの一つ、人口動態の変化については、特に私たちが意識しなければならないメガトレンドであろう。あの中国ですら人口減少段階に入り、私たちは、我が国をはじめとした先進諸国による人口減少に目を奪われがちである。しかし、世界の重心は、どのように移動してくのか、また、そのトレンドから考えうる新たな経営機会や公共政策は、何かを考える必要がある。現実を直視すること、そして私たちの力では変えられない流れを汲んで、新たな施策を講じていくこと。当然のことであるが、CEOは、時代の流れに敏感でなければならないということを改めて感じた。

澤氏は、「すべての人間が、自分の人生のCEOである」と言われる。まさに、自分の人生は、私たち一人ひとりの価値観、意義、哲学に基づいて行動している。そして、自分の人生に約束した結果を出し続けていくことが求められると思う。

澤氏による言葉に触れ、私は、自身の人生のCEOであると認識を新たにした。そのため、いま置かれている場で”約束”を果たすことにより、自分の人生を豊かにすると同時に、私たちの住む社会をより良いものにしていかなければならないと強く思わずにいられなかった。

澤氏は、2020年代以降を牽引する、我が国の若き経営リーダーの一人であると感じた。

澤氏の益々のご活躍をお祈り申し上げます。

2023年1月14日土曜日

PURPOSE MODEL(パーパスモデル)

 私はパーパスでつながる人の連帯を「パーパスフッド」と呼んでいる。英語で書くと「PURPOSEHOOD」であり、ここでの「HOOD」はつながりや連帯のことを指す。
(引用)パーパスモデル 人を巻き込む共創のつくりかた、著者:吉備友理恵・近藤哲朗、発行所:株式会社学芸出版社、2022年、202

最近、よく「パーパス」という言葉を耳にする。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューにおいても、「PURPOSEパーパス 会社は何のために存在するのか あなたはなぜそこで働くのか(2021/10/6)」や、「パーパス経営(2022年6月号)」など、「パーパス」という言葉は、マーケティングの世界において、注目を浴びている。

このたび、利益の最大化を求めるビジネスモデルから、経済性と社会性を両立する目的でつながり、新しい価値を「共創」するという、「パーパスモデル(株式会社学芸出版社、2022年)」なる書籍が発刊された。

昨今、私の仕事も、企業や行政、大学などの研究機関や専門家、そして市民らと関わる仕事の度合いが増してきた。このパーパスモデルとは、パーパス(より良い社会を実現するための行動原理)を中心とした共創プロジェクトの設計図であるという。その設計図であるパーパスモデルは、鮮やかな4色から成り立っており、まるで吸い込まれるかのように見入ってしまう魅力もある。

では、なぜ共創プロジェクトの設計図が必要なのであろうか。

その本題に入る前に、パーパスモデルの作り方は、極めてシンプルだ。主として、基本、円形で成り立っており、図の中心にプロジェクトのパーパスである「共通目的」、周囲にその共通目的の下に集う「ステークホルダー」を書く。そのステークホルダーを属性に4色に塗り分けながら、個々のステークホルダーの「役割」と「目的」を描いていく。

次に、本書には、具体的なパーパスモデルも多数紹介されている。個人的には、世界遺産を舞台に海洋保全と発信に取り組む「宗像国際環境会議」の例が参考になった。
この会議は、行政、大学、企業、漁協・観光協会、宗像大社など、17のステークホルダーたちが年に1回集い、海の環境会議を議論する。そして、海の環境を守るため、議論だけでは終わらず、それぞれのステークホルダーたちが共創して海岸清掃や竹漁礁(たけぎょしょう)づくり、さらには世界遺産の観光と環境保護の活用を同時に実践するネットワークまで誕生したという。
その共創の主体であるステークホルダー、そしてそれぞれの役割と目的を明確にし、一つにまとめたのがパーパスモデルであると言えるだろう。そして、パーパスモデルを俯瞰すると、そこから新しい価値を生み出す可能性が無限に広がっているような宇宙的な感覚を覚えた。

しかしながら、本書の真骨頂は、本書の後半ではなかろうか。そこには、より良い共創を実現するためのポイントが列記してある。
いま、私は、ある共創モデルを立ち上げようとしている。そのため、本書の前半部分だけを読んでパーパスモデルを試作してみた。しかし、パーパスモデルの鮮やかなイメージばかりが先行してしまって、どうも違った。そこで、本書の後半部分に触れられているポイントを踏まえ、再度、パーパスモデルを作り直した。やはり、パーパスモデルは、あくまでも共創するための手段であって、目的ではないと思う。パーパスモデルの作成過程において、しっかりと手順を踏み、思考を深めていくこと。そしてなぜ、多様なステークホルダーたちが、一つの大きな目標(社会的課題の解決)に向かって共創し、新たな価値を生み出すことを視野に入れて進めていくことが肝要であると感じた。そこに、パーパスモデルが誕生した存在意義があると思うに至った。

本書を拝読し、今後、新たなパーパスモデルが次々と誕生してくのではないかと感じている。
理由として、私たちが解決しなければならない社会的課題は、今後益々多様化・複雑化していくと考えられるからだ。これからのビジネススキルの一つとして、「パーパスモデル」は有効であると感じている。今後、私の仕事を進めていく上で、欠かせない一冊となった。