2019年8月18日日曜日

災害報道の特徴

「報道機関は、災害報道となると理性を失う傾向がある」ということだ。
災害報道には、
①災害は、大ニュースだ。読者・視聴者の関心も高い。
②情報の整理分析よりも速報性が重視される。
③瞬時に大量の紙面または放映・放送時間が割かれる。
という特性がある。
私はそのことを非難しているのではない。取材される側の行政としては、「災害に際して、異常な状態にあるのは、被災者だけではない」ことを認識して事に当たるべきだと言いたいのだ。
(引用)自治体の政策創造、青山著、三省堂、2007年、218-219

先日、台風10号が西日本を縦断した。その際、JR西日本は2日前から段階的に運休を予告したため、当日、駅などで目立った混乱はなかったという。
お盆休みのUターン時期と重なり、山陽新幹線だけで約20万人が影響を受けたにも関わらずだ。

影響を受けられたかたには反論を言われるかたも見えると思うが、私は、この措置を大いに歓迎したい。
元東京都副知事の青山氏も災害報道になると報道機関は理性を失う傾向があると指摘する。
台風が迫り、刻々と各地の被害状況が伝えられる中、ややもすると、交通機関の運行状況に関する報道は埋もれてしまい、上手く伝えられない可能性がある。
ゲリラ的な豪雨や大規模地震のように、予知が困難な災害は別にして、気象庁の予測精度が上がっている台風の進路は、数日前から予知できる。
今回のJRの対策は、まさに「災害報道の棲み分け」を上手に駆使し、台風による被害が深刻になる前に予告し、利用客の混乱を防いだ。

この措置は、もっと身近にも広げるべきだと思う。
例えば、学区の運動会や町内会の行事ごとなどにおいても、事前に予知できる災害であれば、「翌日の運動会は中止にします」などと予告すべきではないか。
当日朝決定となると、例えば役員のかたは、「お弁当の手配はどうしよう」とか、保護者のかたは、「もし中止になったら翌々日の仕事の調整をどうしよう」ということにもなる。
このように、事前予告というのは、その決定を受け入れ、次のステップをいち早く検討することができることから、それぞれ関係されるかたのストレスを軽減させる意味合いもあると思う。

実際、運休を決めたのち、当日、新幹線が運行可能であった状況もあるかもしれない。
しかし、オーバートリアージともいうべきことが生じたとしても、「災害報道の棲み分けい」をし、人々の生命・安全を守り、混乱を防ぐことが最優先ではなかろうか。

まだこの措置も改善の余地があると思う。
また、お盆の時期だったから、今回だけ2日前に予告したということかもしれない。
ただ、災害時に影響が大きいと予測される事案については、速やかな決定、速やかな周知が望まれると考える。

(引用)日本経済新聞、2019年8月17日付、朝刊記事





2019年8月17日土曜日

着眼大局 着手小局

子育てにやさしいまちは、その都市の人口減少を食い止める。

兵庫県明石市は、保護者に対する保育料や医療費などの経済的な負担の軽減をはじめ、子育て環境の整備に力を注いでいることで知られる。その結果、関西圏が人口減少に陥る中、明石市は、人口が回復し、全国から注目されている。

そんな中、同じ関西圏で若い市長、副市長が人口減少を食い止めることで頑張っていることを知った。人口規模5万強の大阪府四條畷(しじょうなわて)市だ。
その四條畷市の副市長は、民間から初となった林有理氏だ。

林氏は、職員とともに子育てマップ作成でおむつ交換ができる店などをまとめたり、窓口でのQRコード支払いを全国で初めて導入したりした。
林氏自身も母親ということで、その視点を行政に反映させたそうだ。

何が子育て支援策で必要なのか。
例えば、公園の使い勝手はどうか、保育園の入園手続きは保護者にとって優しいものになっているのだろうかなどと考えていくと、どうしても行政の縦割りの弊害が生じる。
そこで、林氏は、各部局の部長クラスを中心に経営会議を発足させ、縦割りの組織に横串を通し、子育てにやさしいまちを着実に実現し、その街の人口減少を食い止めている。

林氏の座右の銘は「着眼大局 着手小局」。これは、孔子の弟子の荀子の言葉で、全体を俯瞰的に対局に見ながら、目の前のことを細心の注意を払って実践することだ。
壮大な、しかもそこに住む人達にとって利益をもたらす政策は構想できた。しかし、どこから手をつければよいのか、わからない時がある。そんなときは、この言葉を思い出し、まず、目の前のことから変えていくことが必要だと感じた。

もう一つ、林氏は、「一切唯心造(いっさいゆいしんぞう)」という言葉も大切にしている。これは、「すべての事象は、あなたの心が創り出している」という禅語だ。すなわち、あらゆる存在は心より現出したものにほかならず、心のほかに何も存在しないことを意味する。
あのスティーブ・ジョブズも座禅によって自分の深いところに下りていき、自分の実現したいものを世に送り出し、数々のくらしを変えていった。

政策とは、子育てにやさしいまち、そして自分たちで楽しい街を創ろうとする、その「想い」から出発する。

引き続き、四條畷の取り組みを注視していきたい。

(引用) ハフィントンポスト
https://www.huffingtonpost.jp/entry/shijonawate_jp_5ce4e037e4b0547bd12eebc5












生産年齢人口の2割超

一昨日は、終戦記念日であった。
今年のお盆、家族で先祖のお墓参りしたとき、無念にも戦場に散った身内の名前が墓に刻まれていた。私の子供がそれを見て、「誰?」と私に聞いた。幼いときから、私は、自分の家のお墓に戦死した身内の名前が刻まれていることを知っていた。しかし、改めて聞かれると、私は、その身内の顔も、生き様も知らないことに気づかされた。
彼らは、将来の夢を描きながら過ごすであろう青春時代を、どんな気持ちで戦地に赴いたのだろうか。終戦記念日の正午の黙祷時に、そのことを思った。

政府は、バブル崩壊後に高校や大学を卒業した「就職氷河期」世代の就職支援を本格させるという。この世代は、2018年時点で35~44歳の人で、人口規模は1689万人、生産年齢人口(15歳~64歳)にしめる割合は22.4%にのぼる。つまり、現在の生産年齢人口の2割超が就職氷河期世代ということになる。

せっかく高等教育を学びながら、景気の影響で就職難だった。そんな就職氷河期のかたたちを支援する目的として、政府は、正規雇用で半年定着したら研修業者に成功報酬型の助成金を出すという。

昨年、33~45歳で無職やフリーターの人は、2003年の57万と比較し、92万人に増加した。明らかに、就職氷河期の影響が出ていると言わざるを得ない。

戦時中に、そして就職氷河期に地球に舞い降りて、この世に生を受けることは、その本人のせいではない。
また、当時の社会情勢のせいにしても始まらない。
いま、社会全体で希望が持てるような策を講じていくことは、私も大いに賛成するところである。ぜひ、有効な就職支援を行ってほしいと思う。

(引用)日本経済新聞 8月15日 朝刊記事










2019年8月7日水曜日

脱皮

昨年末、雑誌の対談で作家の塩野七生から面と向かって諭された。
「これからあなたは、『脱皮』をしなければいけません。」
(「文藝春秋」2018年2月号)

これは、塩野さんのファンだった小泉進次郎氏が言われた言葉だ。
塩野氏との別れ際、小泉氏は、「それは僕自身が感じていたことでもあります。何とか脱皮して凄みを身につけられるように努力したいと思います。」と語った。(同前)

本日、小泉進次郎氏と滝川クリステルさんが結婚を発表した。
私は、このニュースを聞いたとき、小泉氏はまた「脱皮」したと思った。

人間が大きく成長するためには、脱皮が必要だ。
それは、肉体的にではなく、成熟した大人が精神的に脱皮することも含まれる。

人は、脱皮を繰り返し、付き合う人を変え、お金の使い方を変え、考え方を変え、自分の行動を変え、社会を変える。
人が脱皮するということは、自分自身があたらしいステージに上がり、社会に変革をもたらすということではないだろうか。

いま、若い世代の方の活躍が目覚ましい。
先日のゴルフのAIG全英女子オープンで優勝した渋野日向子選手もその一人だ。
大会中は、ギャラリーとハイタッチしたり、握手を交わしたりしながら笑顔で、果敢かつ大胆に攻める姿に感動した。
これにより、渋野選手の世界ランキングは46位から、一気に14位となった。今回の優勝は、彼女にとっても『脱皮」であり、夢である東京五輪も近づいた。また、彼女の活躍は、自分自身の成長のみならず、豪雨で被災した地元にも大きな勇気と希望を与えた。まさに彼女も社会に変革をもたらした一人だ。

脱皮した若い世代の活躍を、これからも応援したいと思うと同時に、自分自身ももっと脱皮を重ねなければと思った。

とにかく、小泉進次郎氏と滝川クリステルさんのご結婚、そして渋野さん、本当におめでとう。

(引用)NEWS PICKS Magazine 2018年夏号、株式会社ニューズピックス、株式会社幻冬舎、2018年、025






2019年8月5日月曜日

3000万人の壁を突破したインバウンド

訪日客が急激に増加している今は、日本らしさ、その地域らしさといったものを見直すよいチャンスです。
私たち日本人が何千年も昔から文化を育んできたこの土地を、「歩いて」「遊んで」「食べて」「買い物をして」「触れ合って」「泊まって」体感してもらうことが、「旅游(りょゆう)」のあり方だと思います。

(引用)これからの都市ソフト戦略、藤後幸生著、角川書店、2019年、195

令和元年8月4日付けの日本経済新聞朝刊によると、「インバウンド」と呼ばれる訪日外国人旅行者は、昨年(2018)3,119万人で、3000万人の大台を初めて突破したという。

藤後さんは、著書の中で、普段私達がよく使う「観光」ではなく、「旅游(りょゆう)」という言葉を使っている。「観光」という言葉は、「視察」という意味を持っていたため、「存分に旅を楽しむ」といった、同じ中国由来の「旅游」という言葉のほうがしっくりくると藤後さんは提案される。

訪日客数でダントツなのは、大阪市中央区。実に訪日外国人旅行客の3人に1人が訪れた計算だ。先日、大阪サミット2019も開催されるなど、大阪は、無線Wi-Fiや多言語表示促進など、訪日外国人旅行者を受け入れる体制を着実に整えてきた。

また、大阪の魅力といえば、なんといっても「食」が充実していることであろう。食い倒れの街、大阪を代表する「道頓堀商店街」界隈は、魅惑的な大阪グルメの店で埋め尽くされ、賑わいを見せている。
また、私は、大阪の黒門市場を訪れるたび、訪日外国人旅行者が増えて来ていることを実感する。なお、余談になるが、黒門市場では、なんといっても生牡蠣がおすすめ。その場で買って、捌いてくれたものを、その魚屋さん特製のポン酢で食す。大きな生牡蠣を頬張るとこの上ない幸せな気分になる。

そのほか、同日付の日本経済新聞の記事によると、大阪の訪日客の増加を支えるのは、「日雇い労働者の街」として知られたあいりん地区周辺が、外国人バックパッカー向けのゲストハウスや民泊施設で目立つという。
このことから、訪日外国人旅行者は、安い民泊組と高級ホテル組の「二極化」されてきたと考えられるのではないだろうか。

訪日外国人旅行者の消費単価で3位に躍り出たのは、北海道占冠(しむかっぷ)村だ。恥ずかしながら、私は、日経新聞の記事でランキングされている占冠村というところを知らなかった。一般的に北海道旅行といえば、札幌、函館などの名前を思い出す。
しかし、占冠村を調べていくと、その村には、あの「星野リゾート トマム」がある。
夏は雲海が見られるテラスへ、冬はスキーへと楽しめることから、泊まりながら大自然を体感できることで人気があるのだろう。まさに、高級ホテル組ということができる。

占冠村では、星野リゾートという資源のみならず、近隣の美瑛や富良野などの有名観光地と組み、サイクルツーリズムを進めているなど、点(星野リゾート トマム)から面(広域観光推進)への展開を試みる。また、星野リゾートは、外国籍の従業員も多いことから、占冠村では、多文化共生の取り組みなども求められているという。

それぞれの地区で、それぞれのインバウンド戦略、そして課題がある。課題として、先ほどの占冠村では、星野リゾート以外を周遊してもらい、いかにお金を落としてもらうかということであろう。また、SNSの発達で、いきなり「人気スポット」になってしまい、受け入れ体制が整わないなどの課題、いわゆる「オーバーツーリズム」に対する解決策も求められる。

だが、人口減少などで国内の個人消費が見込めない我が国では、インバウンドブームを好機と捉え、経済の活性化につなげていくことが求められる。

今後、私も各地域のインバウンド戦略を注視していきたい。
それは、インバウンドを一過性のブームで終わらせず、永続的なものとして、まず、私の住む地域に定着させたいと思うからだ。













2019年8月3日土曜日

これからの都市ソフト戦略

これからの日本の街に必要なことは、みんなで便利に暮らすためのコンパクトシティの実現です。
もともと城中心の街だったところに駅ができ、郊外に宅地造成されたことで人々は分散して住むようになり、街は中心地を失っていまいました。
それをもう一度取り戻し「職・食・遊・学・住・医」のある、歩ける範囲のコンパクトシティを築くことは、将来的な街づくりの必須条件となると考えます。
(引用)これからの都市ソフト戦略、藤後幸生著、角川書店、2019年、130-131

今までの私達の住む街の成り立ちを知り、我が国の抱える課題、そして、なぜこのような都市ソフト戦略が必要かという豊富なエビデンスによって、読者は納得させられる。
なぜ、著者は、これからの街づくりに「都市不拡散」と「商縮」を提言するのか。
本書を読み、コンパクトシティの必要性や商業施設のみならず、そこに学び、医療など様々な機関が構成された有機的、かつ人の心に届くソフト的な都市戦略が必要あると感じた。
それは、今までの様々な施策の反省から成り立つことも多い。過去から学び、時代の潮流に合わせ、未来のビジョンを見据えた街づくりがいま、求められている。
特に、ストロー現象の話は、中部圏に住む私の心に響いた。それは、リニアが開通し、東京・名古屋が40分で結ばれるようになれば、名古屋が東京経済圏に統合されることになるかもしれない。つまり、「中部圏」という言葉がなくなってしまう可能性もある。しかし、著者によれば、アイディア次第では、中部圏はチャンスにもなり得ると言う。つまり、「逆ストロー現象」を起こす必要があるのだ。
この一節を読み、私は、今後ますます高齢化・人口減少が進展し、交通インフラが整備されて人々の移動のスピードが速まることにに危機感を抱くと同時に、さらなる自分たちの住む街の都市のソフト戦略が必要であると感じた。
すでに我が国は、超高齢社会を迎えている。これから求められる本当に住みやすい街、若者と高齢者が共存できる街、そして、いつまでも持続する街づくり。
その都市戦略の具体的な手法を、森ビル株式会社顧問の藤後氏は、わかりやすく教えてくれた。


2019年8月2日金曜日

過去最多の衝撃

(児童福祉司の確保には限界があるため)親への育児指導を外部委託するなど、業務の効率化も進めていく。
厚生労働者の担当者 
(引用)2019年8月1日付 日本経済新聞社夕刊記事

昨年度、全国の児童相談所で対応した児童虐待件数は、前年度比19.5%増で過去最多の15万9,850件であったという。
このような数字を見るとき、私は、「ハインリッヒの法則」が当てはまるのではと考える。この法則は、主として病院などのアクシデントの発生についての経験則によるものだ。1件の重大事故の背後には、重大事故に至らなかった29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背後には事故寸前だった300件の異常、いわゆるヒヤリハット(ヒヤリとしたりハッとしたりする危険な状態)が隠れているというものである。
このハインリッヒの法則を当てはめてみると、顕在化した約16万件の児童虐待件数に対して、464万件の軽微な虐待の事例が隠れており、さらにはその背後には虐待に至る寸前だった4,800万件の異常が隠れている可能性がある。
もちろん、約16万件の件数には軽微なものも含まれているだろうし、一概に児童虐待件数にハインリッヒの法則を当てはめるのも無謀であると承知している。
しかし、私は、2019年4月1日現在の我が国の子供の数(14歳以下)は1,533万人ということから考えると、約16万件の児童虐待件数は異常に高いものと考える。また、その背後に隠れた、顕在化していない児童虐待数は、計り知れないものがある。

その虐待の対応に追われる児童相談所の体制が整わない。先ほどの記事によると、この18年間で児童の虐待件数は9倍も増加しているのに対し、児童相談所で対応する児童福祉司は2.6倍の増加にとどまっているという。
さらに、いまの児童相談所は保護者や子どもへの対応、関係機関との連携を一手に担わされていている感がある。

一般的に、子どもへの虐待が起こる要因としては、次の3つに分類されるといわれている。まず、1つ目は育児不安を抱えるなどによる「親の要因」、2つ目は経済的不安や核家族化の進展に伴う「家族の要因」、そして3つ目はお子さんが障害などを抱えてみえるなどの理由による「子どもの要因」である。
また、児童虐待のケースはこれらの要因が複雑に絡むことも多い。

児童相談所は全国で215箇所(4月1日現在)であるという。
そこで働かれているかたの負担を軽減するためにできることはなにか。

虐待防止は、行政や学校、そして児童相談所だけの責任ではない。
個人、家庭、地域社会、さらには子ども虐待防止を目的とするオレンジリボンのような非営利活動法人が一丸となって、まず、身近にいる子育て中の親や子どもたちを守り支えていくという「意識」を持つことから始めることが重要であると思う。
そこに住む人達が、次の地域を創る子供達を育てていくという当事者意識を持つことを。