2019年10月22日火曜日

読みたいことを、書けばいい。


「感動が中心になければ書く意味がない」

(引用) 「読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術」、田中泰延著、ダイヤモンド社、2019年、180

私には、好きな曲がある。手嶌葵さんが歌う「明日への手紙」だ。少し前のことになるが、偶然、「音楽チャンプ」というテレビ番組を見ていたら、高校生シンガーの琴音さんが「明日への手紙」をカバーしていた。今まで幾度となく聴いてきた名曲だが、琴音さんが歌いだすと、会場の空気がガラッと変わり、シンガーの創り出す世界に引き込まれ、私も強く胸を打たれた。
歌い終わったあと、審査員の菅井秀憲氏は、琴音さんに次のように伝えた。「人のためによく歌えって言われるんだけど、それはコントロールであって、自分のために歌っていくべきなんです。あなたが自分のために歌うことによって、ここまで周りの人に響かせられるのは奇跡です」と。

この度、田中さんの書かれた本を読み、文章を書くこと、そして歌うことには、共通点があると思った。その共通点とは、どちらも、「感動」が中心になければならないのだ。
田中氏によれば、文章を書く際に収集する一次資料には、「愛するチャンス」が隠されていると言う。そして、文章を書くには、自分が一次資料から発掘し、愛した部分を全力で伝えるという作業が必要だと言う。
それは、シンガーにとっても同じであろう。曲にはストーリーがある。そのストーリーとなる歌詞をシンガーは理解し、あるいは自分でストーリーを歌詞として創作し、その歌詞にメロディーを付した曲を歌うことで伝えていく。その歌詞の中には、歌い手の愛すべき箇所があるはずである。その愛すべき箇所に特に思いを込めて歌い、感動が生まれ、人々の心に伝わっていく。

また、文章は、誰に向けて書くのか。
田中氏によれば、「自分のために書きなさい」と言う。
これも、先ほどの琴音さんを審査した菅井氏の言葉と共通する。
「歌は、自分のために歌っていくんだ」という言葉と。
自分のために文章を書く。また、歌うことによって、自分が満たされ、その姿を見た人たちが感動していく。

SNSなどの普及によって、誰もが文章を書き、容易に情報発信できる時代を迎えた。
現に私も、こうして本の感想をブロクに書いて、情報発信している。
しかし、情報技術が進歩しても、伝わる文章を書くのは、人間だ。
その文章を書くという術(すべ)は、何も今、はじまったことではない。
古(いにしえ)より、文章を書くことは、人間しかできない作業であり、その術は、不変的なものだ。
情報が氾濫している現代だからこそ、今一度立ち止まって、私たちは、真の文章を書くべく、術を確認する必要がある。その一冊として、本書は、大変有効であると感じた。