「(台風の中)営業を続けて事故を起こすほうが、企業の安全管理に対する信頼を損ない、ダメージは大きい。こうした対応が定着していくだろう」
第一生命経済研究所 永浜利広主席エコノミスト
(引用)2019年10月12日付 日本経済新聞 朝刊
私は、夏から秋にかけての旅行や出張があると、計画する段階から不安に襲われる。それは以前、高知に出張に行った際、台風に追われ、ギリギリ封鎖寸前の瀬戸大橋を渡り、帰宅することができた苦い経験をしているからだ。しかし、いくら悩んでも2週間以上前に計画する出張や旅行では、当日に台風が接近するかなどの予測は、残念ながら誰もできない。
今年の台風19号は、大型で非常に強い勢力を保ったまま、体育の日を含む3連休の初日(つまり本日)から日本列島を襲っている。
この台風の接近に合わせ、交通機関や工場、店舗などの「計画運休」が定着し、最大規模となった。新幹線は、東海道新幹線が名古屋・東京間で終日運休、首都圏の在来線の一部も終日もしくは一部運休となった。
この3連休、首都圏を中心とした公共交通機関が運休となったことで、影響を受けられたかたは、おそらく何万人にものぼるだろう。
それでも私は、この「計画運休」に反対の立場ではない。事前に利用者に情報が伝われば、当日、駅などにおける大きな混乱を防ぎ、無理な運行を続けたが故に発生する帰宅困難者対策にもつながっていく。また、市民の集う大型イベントなども事前に休止などの告知をすれば、来訪者や関係者の負担も軽減させることができる。
いまや、台風は、技術の進展とともに、気象庁や民間予報会社の精度が上がり、きめ細やかな予測が可能となった。そのため、「計画運休」も利用者の理解とともに、実行しやすくなったのだろう。
災害は、早めの判断、早めの行動が何より重要である。
「計画運休」は、企業のリスク回避だけではない。台風の最中(さなか)に人々の動きを抑える効果もあり、結果的に多くのリスク回避効果をもたらす。現在、「計画運休」は、最善の台風対策であると言えるのではないだろうか。しかしながら反面、人々の動きが限定的になることから、経済停滞を招くことにもつながるといったことなどの課題もある。
これからも、我が国では、試行錯誤を繰り返しながら、すべての人々にとって最善となる台風対策の模索が続いていく。