成名毎在窮苦日 (名を成すはつねに窮苦の日にある)
敗事多因得意時 (敗れること多くは得意のときに因る)
渋沢栄一
10月24日(2019)のTV東京系「カンブリア宮殿」では、キッコーマンの茂木友三郎名誉会長が出演された。
キッコーマンは、我が家の食卓にも欠かせないものを多く世に送り出している。特に、新型ボトルでヒットさせた醤油、「いつまでも新鮮」シリーズは、マーケティングで言うパッケージングで醤油が酸化するという課題を見事に克服している。そのおかげで、各家庭では、いつまでも醤油本来の美味しさを味わうことが可能となった。
キッコーマンの茂木友三郎氏は、「需要創造」という言葉を多用する。この言葉を聞いた時、私は、「あー、茂木さんも『ドラッカリアン』」なのだと思った。ドラッカリアンとは、現代経営哲学の父であるピータ・F・ドラッカー氏を崇拝している方たちのことを言う。後ほど調べてわかったが、やはり、茂木氏もアメリカの大学で学ばれるなど、立派なドラッカリアンであった。
ドラッカーは、自身の著書「チェンジ・リーダーの条件」の中で次のように言う。
「企業はまず、顧客を創造しなければならない。」と。
茂木氏によれば、経営者の思いつきのアイデアだけで商品を出してもヒットしないという。
ヒットの秘訣は、「潜在需要を有効需要に」まで高めていくこと。
そのためには、経営者のフラッシュアイデアで商品を市場に送り出してはいけない。
まず、試作品をテスト販売するなどして、この新商品は、「本当に市場に受け入れられるのか」、「新たな顧客を創造できるのか」を探る。
そして、満を持しして新商品を市場に投入したら、「絶対にナンバーワンになる」という自信が必要だとも言われる。
そのことは、何も民間事業者に言えることではない。市民や国民のニーズに政策で応えるといった公共などの分野にも言える。
茂木友三郎氏の座右の銘は、冒頭に記した渋沢栄一氏の言葉だ。
要約すれば、苦しいときを乗り越えたとき、名を成すことができる。
得意のときには敗れることが多い。
かつて、ピーター・F・ドラッカーは日本に興味を持ち、日本を訪れ、偉大な経営者の研究をしている。そして、自身の著書においても、「企業の社会的責任」の先駆者として紹介している。
その人物こそ、渋沢栄一氏だ。
ピータ・F・ドラッカーは言う。
「日本が50年代、60年代に発展させたシステムは、他のいかなる国のものよりも大きな成果をあげた。(中略)私は、21世紀の日本が、私と本書に多くのものを教えてくれた40年前、50年前の、あの革新的で創造的な勇気あるリーダーたちに匹敵する人たちを再び輩出していくことを祈ってやまない」
我が国の食卓から醤油離れが著しい。ただ、茂木氏の率いるキッコーマンは、毎年着実に利益を伸ばし、地元千葉県野田市に市民会館を寄付したり、キッコーマン総合病院を開院させるなど、大きな社会貢献も果たしている。
これは、窮苦のときこそ頑張る。それを乗り越えたとき、私たちの活動を通じて、社会をより良くすることができるという精神を貫いてきたからこそだと思う。
渋沢栄一とドラッカー、そして茂木氏の意思は、これからを生きる私達が引き継いでいかなければならない。これからも、幾多の窮苦を乗り越え、あの革新的で、創造的な勇気あるリーダーが一人でも多く、我が国から輩出されていくために。
(引用)
・2019.10.24、TV東京系、「カンブリア宮殿」
・チェンジリーダーの条件、ピーター・F・ドラッカー著、ダイヤモンド社、2000年、39
・(エッセンシャル版)マネジメント 基本と原則、ピーター・F・ドラッカー著、2001年、Ⅳ