しゃべれなければ、聞けばいいーそれだけで、本当にあらゆることが好転するのです。
中村淳彦
(引用)悪魔の傾聴 会話も人間関係も思いのままに操る、著者:中村淳彦、発行所:株式会社飛島新社、2022年、260
よく、一流の人は、「話す」より「聴く」ことが大切だと言われる。確かに、私も実生活や職場においての経験からも「傾聴」することの重要性は、理解できる。
しかし、それでも「傾聴」を実践することは難しい。妻からも、「よく、相手が話していても、自分の話題にすり替えているよね」と注意されてしまう。自分では無意識?、もしくは自分のことを話して会話を盛り上げていこうという意識?が働くのか、妻からは傾聴することに対して(他の部分もあると思うが)、及第点をいただけていない。しかし、傾聴することは、家庭生活を送るにしても、ビジネスの世界でも有効であることは間違いなさそうだ。
では、傾聴することは、単なる人の話を真剣に聴くだけで達成できるのか?それとも、傾聴することに関してのスキルが存在するのか?そんなことを思いながら書店に立ち寄ったら、一冊の書籍に出会えた。タイトルは、「悪魔の傾聴」とある。しかも、サブタイトルでは、「会話も人間関係も思いのままに操る」とある。これは、もう読むしかないと思った。
「悪魔の傾聴」を読み、最初から私は、打ちのめされてしまう。本書で言う、「HHJ」の三大悪、つまり「否定する」、「比較をする」、「自分の話をする」の頭文字を取った「HHJ」は、傾聴の三大悪であるという。この三大悪を無意識のうちに実践してきた私は、奇跡的に家庭や職場生活が送れていることに感謝した。
いままで私は、傾聴することについて、相手の話を聞きながら、自分のありのままの姿を見せていくことだと信じ切っていた。しかし、真っ向から否定されたことに、本書の著者である中村氏から、さらに傾聴のスキルを学ばなければならないと感じた。
本書の著者である中村淳彦氏は、「職業としてのAV女優(幻冬舎新書)」や「新型コロナと貧困女子(宝島社新書)」など、現代社会が抱えているであろう課題に対して、果敢に取材されているイメージがある。本書でも、実際に取材されたときの実例も紹介されている。中には、自殺未遂をされた女性に対して、どう自殺を思い留まらせたかという、まさに傾聴の上級テクニックまで披露されている。その中で、自分から相手に初めて話しかける行為(ナンパも然りか)については、特にビジネスの世界でも参考になる。初対面の方に話しかけるとき、中村氏は、「こちらから相手を選べるメリットがあるので、こちらに主導権がある」とする。そして、どのように自分の好印象を与え、一言、二言会話を交わしただけで、話が続いていくのかというテクニックは、とても役に立った。
また、中村氏の仕事もそうだが、ビジネスの世界でも、相手の本音を聞きづらい場面に遭遇する。中には、相手が沈黙さえしてしまうこともある。そのような場合でも、どのように対処し、傾聴を続けていくかということは、とても参考になった。
本書を読み、ヒト(人)は、誰しも欲望があることを再認識させられた。それは、聴き手である私たちにとっては、邪悪なものになるという。いくら、自分の心がフラットな状態で傾聴をしているつもりでも、「相手に信頼されたい」という欲望が潜んでいるという。この欲望を完全に捨てなければ、ビジネスでも家庭でも、傾聴を実践することは不可能だということに気づかされた。改めて、私は、傾聴の奥深さを知ることになった。
本書を最後まで拝読し、傾聴とは、単なる人の話を聴くだけではないということを思い知らされた。そして、今までの自分の傾聴のスキルが全然違っていたことも認識した。傾聴を実践することは、相手との関係が深まり、本音を引き出せ、信頼関係が生まれる。まさに、サブタイトルの「会話も人間関係も思いのままに操る」レベルに達するものだと感じた。
本書を読んで、早速自分も中村氏から教えていただいた傾聴のスキルを実生活で実践しはじめた。その結果、この傾聴のスキルという武器を手にした私は、自分の周りの人たちも変わりはじめたような気がしてきた。